403話

第403話:四つの署名


ピエールは走りながら必死に次の一手を考えていた。
カナーンからの脱出は成功したものの、黒髪の少年が自分を追っている。
自分は今傷を負った状態だが、一方の相手はどうやら身体への異常はない。
このままではまずいと思い今も逃げているが、やはりこの様な状況では不利だ。
後ろを見ると、黒髪の男との距離は近くなっていた。

決めた。こうなればもう仕方が無い。使用回数がどうのと言っていられる状況ではない。
ピエールは妖術師の杖を構え、一直線に自分へと向かう黒髪の少年に光弾を発射した。
それは見事に当たり、相手の動きは鈍くなった。
だがそれでも少年はこちらになおも向かう。恐ろしい執念だ……やられる!
急いでもう一度、妖術師の杖を振った。使い切る事も惜しまずに。
そしてその賭けは……勝ち、らしい。


サイファーはアルスを追って走っていた。
アルスの姿は捉えているが、如何せん足が速い。
今は遠めに姿を確認できる程度だ。サイファーは仕方なく彼に止まるよう叫ぼうとしたが、

彼は見た。彼に光が襲い掛かるのを。
そしてもう一つの不思議な光がアルスを包み込むのを。
そしてアルスがどこかへ消えてしまったのも見た。

「な……何をしやがった!?」
虚空に問うものも、現状は変わらない。
ピエールの姿はもう無く、アルスの姿ももう無く、自分一人が取り残されていた。
しばし呆然としてしまう。だがふと、イザとロザリーの姿が彼の頭を掠める。

サイファーは急いでカナーンへと走った。
アルスが行方不明になってしまったのは仕方が無い。
見たところあれは恐らくワープの類。命をとられたわけではないだろう。
まずは自分は身近にいるあの仲間たちの元へ急がねば。



レオンハルトは森の中にある城を見据え、ゆっくりとそこへ向かっていた。
自分があの狂気に満ちた男に追いかけられ城を脱出してからかなりの時間が経った。
今はもう夕方と呼ばれる時間だと言われても違和感はないだろう。
そして城では何も騒動は起こっていないようだ。城が燃えているわけでも無し、窓が破壊されているわけでも無し。
うんと静かだ。誰もいないかのように、その城は静かにその姿を誇示している。

自分は傷を負っている。回復魔法を幾度か唱えてみたが、それでもまだ足りない。
しかも魔力をただ使い切る結果になってしまいそうになるのを考えると、かなりきついものがある。
ならば城で潜伏したほうが良いだろう。それから自分はフリオニールを追えば良い。

そして城の入り口が森の向こうに見えた時、突然音がした。
人が草の上に落ちてきたような、そんな音。恐る恐るその音がした方向を見ると、そこには黒髪の少年がいた。

おまけに、眠っていた。


「逃がすか!!」

アルスはカナーンの街からピエールを追っていた。
後ろからサイファーが自分を追っている事は知っているが、それでも止まらない。
止まるわけには行かなかった。自分の追っているあの魔物は確実に何かを知っている。

だが、魔物はこちらを向いたと思うと突然杖を振った。
杖からは光の弾が発射された。駄目だ、視覚はそれを感知した。だが体が完全に反応できない。喰らった。
意識が遠のいていく。死ぬのではないというのは本能で察した。眠くなっただけだ。だがそれでも追う。
しかし鈍った体にまたも光弾が襲いかかった。そして今度は自分の体が浮いたかのような……旅の扉にも似た感覚が襲う。
成程、これらがあの杖の効果か。ドジを踏んだ。2度もあんなものを喰らってしまうとは迂闊過ぎた。

駄目だ、意識を保てない。終わりなのか、こんな所で僕はまた逃がしてし



レオンハルトは、アルスの体を草むらから普通の地面へと移動させた。
そして顔を軽く叩き、起こそうとする。
反応は無い。もう一度起こそうとする。口が開いた……起きたか?

「むね…やわらか……むにゃ……あ、いい……」

寝言か。しかし「胸、柔らかい」とは何だ。
まさか不埒な夢を見ているんじゃないだろうな?
仕方が無いので体を大きく揺すると、やっとアルスは眼を覚ました。
「柔らかい胸は堪能できたか?」
「は?……お前が助けてくれたのか?」
「そうだ。俺はレオンハルト」
「そうか。僕はアルスだ」
レオンハルトが話しかけると、アルスはきちんと返事を返す。
そして少し寝ぼけていたのだろう。アルスは今更ながら現状に気づいた。

アルスは急いで自分の今までの行動を説明し、今の状況を尋ねた。
だがレオンハルトは、当然アルスの事は先程の姿からしか知らない。
自分が急に現れ、眠っていたということを伝えると、アルスはやっと現状を理解した。
「成程……あの杖の力か」
「まぁとにかく無事ならよかった」
レオンハルトは立ち上がると、また城を見据える。
その姿を見て、アルスはある事に気がついた。
「肩……怪我をしているのか?」

アルスのその言葉を聞き、レオンハルトは思い出したように肩を動かす。
「大丈夫だ、気にするほどではない。それに、俺にはこんなことで魔力を消費する余裕が無いからな」
実際は意外と痛むが、だがここで回復する余裕もない。アルスにはこう言って納得してもらおうとした。
だがアルスは、肩の負傷によって死を招いてしまった仲間を知っていた。

「肩の怪我は一生ものだ……きちんと治した方が良い」

アルスはそう言って、回復呪文を唱えようとした。
だがレオンハルトは「こんな場所で魔力を消費するのは愚行だ」と言ってそれを止めた。
ならば、とアルスは城を指差してある提案をした。
「ならばあそこの城に潜伏して僕がお前を回復させる……それなら大丈夫だろう?」
「成程……丁度俺もそうしようと思っていたところだ。だがアルス、お前は良いのか?」
「正直あの村が心配だが……随分と遠いところに来てしまった。諦めよう」

そう言うと、2人は城へと歩き出した。
太陽はまた少し傾いている。意外に時間を食ってしまったのだろう。

「ところでアルス。フリオニールという男を知らないか?
 銀の髪にバンダナと装飾品をつけ、闘いで剣を使う気持ち褐色の男なんだが……」

アルスは、その言葉を聞いてピタリと足を止めた。
そして怒りを溜めたような、恐ろしい気迫でレオンハルトに尋ねた。

「その男……強力な剣を”右手で持っていた”か……!?」

アルスには自信があった。
確実にその特徴の男と、自分は戦っている。

「知っているのか……?どこで見た!?どこへ行った!?」
「知っているも何も……僕の仲間はそいつに殺された!……そのまま奴は、カズスとやらへと向かった」
「間違いは無いか?」
「間違いは無い」

2人はそのまま、静かに睨み合っていた。

しばらくそれが続いた後。

「そうか、わかった。感謝する……ありがとう」
レオンハルトはそう言って、また城へと歩き出した。
アルスは急いで早足で追いつくと、レオンハルトに言う。
「僕もあの男が気になっていたところだ……丁度いい、手を組む理由が深まった様だな」
レオンハルトは城の扉を目前とし、アルスに言う。
「そうだな……城で何事もなければ、夜にでもカズスに向かおう。だが……」
レオンハルトは足を止めた。そしてアルスへと向き直る。

「お互いが何を目的をし、行動しているかをまだ言っていない」

その言葉に、アルスは「そうだったな」と苦笑する。
レオンハルトも同時に苦笑した。
「僕はこの先、ゲームに乗った人間を殺してでも止める。当然、フリオニールもだ」
「俺もフリオニールを、殺してでも止める。そしてこのゲームを破壊する」
「成程、お互い似ているんだな……面白い。ならば改めて……協力しよう、レオンハルト」
「ああそうだな。こちらこそ宜しく頼む、アルス」


そしてレオンハルトとアルスは扉の向こうへと進んでいった。

その城にはレオンハルトと最早因縁とも呼べるような人間がいるということを、彼らは知らない。
その城にはアルスの探していた仲間と彼が殺すべきだと考えていたある人間の遺体があるという事を、彼らは知らない。

運命は、味方したのか敵対したのか。
それは当然の様に、誰にもわからない。

【ピエール(HP1/5程度) (MP一桁) (感情封印)
(弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)
 所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
     毛布 王者のマント 聖なるナイフ ひきよせの杖[3]、とびつきの杖[2]、ようじゅつしの杖[0]
 第一行動方針:この場から逃亡し、休息
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す

【サイファー(右足軽傷)
 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ
 第一行動方針:カナーンへと戻る
 基本行動方針:ロザリーの手助け
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【現在位置:カナーンの村から北方面】

【レオンハルト(右肩負傷)
 所持品:消え去り草 ロングソード
 第一行動方針:サスーン城で潜伏
 第ニ行動方針:フリオニールを止める 
 最終行動方針:ゲームの消滅】
【アルス(MP4/5程度・疲労)
 所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊
 第一行動方針:サスーン城で潜伏し、後にフリオニールを追う
 第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす
 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:サスーン城内部入り口】

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最終更新:2008年01月30日 14:08
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