532話

第532話:ケフカ=パラッツォの実験


被験者・ライアンの場合

どこを走っていたのかさえ分からなかった。
何を疑っているのか? 何に臆病なのか?
「拙者は臆病者ではござらぬ!」
迷い歩く精神と肉体を立ち直らせるべく繰り返し繰り返し呟く。
そして、私は信じられぬ相手を見たのだ。
月の光があるとはいえ夜、だというのにはっきりと細部が認識できる。
魔族の甲鱗、爪、牙、鋭い眼光。醜く変貌した五体を持つその者の名は、デスピサロ。
戦慄する。
引き連れているのは魔族の従者であろうか。
何ということか、彼とこのような形で再会することになろうとは!
だが、私とて勇者殿の仲間。この場面、この出会い、怯み、逃げるときではない。
「おおおおおっ!!」
鼓舞する如く、気合の咆哮をあげる。剣を振りかざし、倒すべき敵へと突進する!

いつかと同じように、手にした刃を舞わせて私とデスピサロは打ち合う。
小癪なことに従者に手出しをさせぬのは、1人とたかをくくっているからか。
負けられぬ。
邪悪を打ち倒し、必ずや世界に平穏を取り戻さねばならん!
「拙者は勝たねばならぬのだ!」
腕を、足を切り飛ばし、その腹を貫く。頭を叩き潰し、その目を穿つ。
デスピサロとの死闘を断片的に思い出しつつ丹田に力を集め、両足で大地に踏ん張る。
切り返し、自分に向かって来る剣を受けようとした腕の感触が、不意に消えた。
眼前の、デスピサロの顔が歪んでいく。笑っているのだろうか。
いや、変わってゆく?

痺れたような頭が徐々に正気を取り戻し、痛みが強くなる。その場に立ち竦む。
だが、その大地が、消えた。
「なんとっ!?」
沈む、沈んでいく。
地の底へ引き込まれるように私の体が闇へ沈んでいく。
理解不能の出来事への混乱と恐怖が私を蝕み、闇はただ見る間に私を飲み込み続ける。
「ピサロ殿っ、拙者は……無念!」
たちまちのうちに、私の全身が穴へと呑まれていた。続いて私の五感も、闇に塗りつぶされた。



実験協力者・ピサロの場合

すべてが唐突であったとしか、言い様がない。
大地が描くゆるやかな起伏の一つを越えた先に、その男・ライアンはいた。
まずは、どう応対するかを考えた。
考えを難しくしているのは自分の背後にいる、長身の魔王と二人連れでいる道化・ケフカの存在だ。
ライアンは剛毅かつ朴訥な戦士であり、常識的に魔女に煽動されようもない男である。
しかし単純ゆえにケフカのような策士・道化に簡単に騙されてしまいそうなタイプでもあろう。
またロザリーのことを知ればさらに関係をややこしくしかねない。
どうすべきか。

結局考えはまとまるより先に私は天の村雲を抜き放つほか無かった。
絶叫と共に、猛り狂ったライアンが猛襲してきたからだ。
「知り合いだ。手を出すな、貴様ら!」
事態をややこしくしないように、まずは後ろの連中の介入を制する。
しかしライアンの太刀筋は実に速く、鋭く、強く確実に私の命を絶つことを目的に襲い来た。
幾つか斬撃を捌き――切り結ぶ拮抗の中、ようやくのことで私はライアンの異常の原因に気がついた。
目の奥にある妖しい輝き。
俗に言う「混乱状態」。ライアンは今、歪んだ世界を見、歪んだ頭で考えている。
わかれば対応策はある。痛覚で覚醒を促す…要は一撃、適度にダメージを与えてやればいい。
その程度ならば、後ろの連中の手を借りずともできる。
というより他の三人にそういった手心を加えるという気遣いは期待できない。
自分でやるほかないだろう。
考えつつ、気合の絶叫とともに盲目的に切り込んでくるライアンをあしらう。
刃同士をぶつけ合い、隙を窺う。チャンスまで、手加減できそうもない。
突然ライアンの動きが鈍ったのは、その数度の打ち合いの最中。混乱の影響か。
すでに、手加減なく放たれた天の村雲を止めることは叶わなかった。
刃が露出した肉に食い込み、手に固く握った剣ごとライアンの腕が身体を離れ飛んでいく。
それでも幸いといえるだろうか、痛みによって自分へ向いた攻撃の手が止まった。
やや間合いを離し、私も構えを解く。

その時だった。
突然ライアンが膝から崩れていくように見えた。
すぐに、そうではなくライアン自身が地面へ、
いや地面に開いた夜の闇より暗い黒の大穴へ引き込まれているのだと気付いた。
為す術なく異変を見守るほか無い。
すべてはごく短い時間の出来事。
私がすべてを悟ったのは、あっけなく時が過ぎ去った後のこと。
無念の一言を残したライアンも、地面に開いた闇の穴も、すでに完全にどこかへ消えていた。



傍聴者・ロザリーの場合

ここはポケットの中――風も吹かない布の牢獄です。
ほこりっぽい狭い空間で、柔らかい壁にもたれながら小さなわたしは物思いにふけります。
一時の混乱からようやく落ち着きはしましたが、気がかりは晴れません。
距離はとっても近いのに、心は逆に離れてしまった気がします。
どうして、ピサロさまがイザさんを殺さなければいけなかったのでしょう。
そばにいたい気持ちに嘘偽りはありません。
でも、わたしがいることで逆にピサロさまが殺気立っているのも真実でしょう。
どうすればいいのか。答えなんて簡単には出ません。

身体に感じることのできた振動が止まりました。
その原因を思い当てるよりも先に耳に飛び込んでくるものがありました。
『おおおおおっ!!』
ポケットの中まで聞こえてきたのは勇ましく、そして恐ろしい雄叫び。
背中がぞくり、と寒くなります。
さらに、ピサロさまが他の方々を制する声が続きました。
ぶつかる音、動く音。
ピサロさまが戦っているのです。また、誰かを傷つけてしまうのでしょうか?

急に予想していなかった近い場所からの声がありました。
『…あれは不要でしょう?』
どういう意味か、わかりませんでした。とにかく冷たい囁くような声です。
ケフカさんがそう言ったのだと気付くまで、時間がかかったほどです。
それきり近い距離からの声はありませんでした。
いや、なにかあったのかもしれません。けれど、それどころではなくなったのです。
『拙者は勝たねばならぬのだ!』
かなり興奮が混じっていますが、雄叫びと同じ声。
悲しいことにわたしにも声の主が判別できたのです――ライアンさんのものでした。
それでは、外ではピサロさまとライアンさんが戦っているのでしょうか?
なぜそんなコトになってしまっているのでしょう?

やがて、剣がぶつかる音が止み、それからあたりはまったく静かになりました。
ライアンさんの――おそらく末期の――声が耳の奥に貼り付いて離れてくれませんでした。



実験施行者・ケフカの場合

いやいや、オマエは不思議だとは思いませんか?
何がだと? 凡人はボクちんの素晴らしい話を黙って聞け。
で……そうだ、首輪の性能の話ですよ。
こいつはボクちんの首にもついていることを除けばホントに面白いアイデアですねえ。
どうやら機械と魔法の技術融合の産物のようですが、
実際どれくらいの性能なのか調べてみたいなんて思いませんか?
そこらに気絶したロックや筋肉ダルマなんかが落ちてると丁度いいんだがなあ!
まあ、賢いボクちんはチャンスなんて滅多に見つからないのはわかっていますがね。

ところが、やっぱりボクちんは選ばれた人間だ。
こんな危なそうな連中に斬りかかってくるとち狂った男が現れるんだから。
ピサロのヤツが何か言っているようですが、何だ、あの体たらくは?
優しいボクちんは考えるのです、手伝ってあげましょうねぇ……っと。

「…あれは不要でしょう?」
ザンデのヤツに聞いてみました。言い訳……おっと、理由ってのは大事なものだからな。
無言というのがシャクだがまあ黙認するというのだろう。
まったく、笑みを押し殺すのがタイヘンだったよ!
いや、楽しい!
なんせ堂々と実験ができる機会なんてそんなにあるものじゃないからな。
さあ、何がいいかな?
衝撃を与えてフッ飛ばしてみようか?
解呪実験でも試してみようか?
いや、そうです。ピサロの知り合いらしいから今回は探知機能を探ってみよう。
五体無事のまま次元の狭間送りでも『死んだ』ことになるのかな?
魔女の発表が楽しみになりますねえ。
ヒャヒャッ、じゃあ、「デジョン」だ!



実験・アフター

デジョン。空間転移の魔法。移動先を定めず無作為に放てばその相手を次元の狭間に落とす。
結果として、ライアンは剣を握る右腕を残しこの場から消え去った。
当然、ピサロは余計な手出しをしたケフカに詰め寄った。
「敵に回る知り合いなら手早く片付けて欲しかったですねえ。
 ボクちんは時間をとられるのは良くないと思って手を貸したんですが。ねえザンデ?」
もちろん、ケフカは自ら張った予防線どおりザンデの賛同を確認する。
話をふられ視線が集まる中、長身の魔王は二人を無言のまま見下ろした。
そうなった時点で、ピサロは引き下がらざるを得ない。
人質同然のロザリーのことを考えずにはいられなかったし、
ザンデは理由はどうあれ自分(の目的)に手向かってくる相手を許すようなタイプではないのも理解できる。
それは立場・状況が変わればピサロ自身にも備わっている、百歩譲っても備わっていた冷酷さだ。
その上残った結果は「狂った男が急襲し、敗北した」それだけで。
この一団では中立に近いマティウスでさえこの事実認識は大きく外れまい。
弁護すべき相手がもう消えてしまった以上、事を荒立てる利は皆無だった。

「カナーンへ、急ぐぞ」
何事もなかったかのように、ザンデが再出発を指示する。
もやついた気持ちを抱えたままのピサロに、マティウスが声を掛けてきた。
同時に、『右腕』が差し出される。
「遺品だ。……詮索はしない。お前が好きにすればいい」
ライアンが遺したもの。一振りの剣と、指にはまっていたリングが1つ。
受け取った腕からはまだ、ぬくもりのある血液が雫となって地面に吸い込まれていく。
ピサロは遺品を収め、自らの呪文によって腕を氷漬けにする。
それからできあがった氷塊ごと、地面に突き立てた。
永久に、とは望むべくも無いが、立派な氷の墓標ができあがる。
「礼を言う」
見届けて駆け出すマティウスの背中にそう一声かけ、ピサロは三人を追った。

【ピサロ(MP1/3程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 黒のローブ 命のリング エクスカリパー
 第一行動方針:ロザリーの扱いに目を配る
 第二行動方針:カナーンでアリーナを探す。ザンデ・ケフカを強く警戒しつつ同行】
【マティウス(MP 1/3程度)
 所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服) ソードブレイカー 鋼の剣 ビームウィップ
 第一行動方針:カナーンに向かい、ゴゴの仇(アリーナ2)を討つ
 基本行動方針:アルティミシアを止める
 最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる
 備考:非好戦的だが都合の悪い相手は殺す】
【ザンデ(HP 4/5程度)
 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー、ルビスの剣、
 再研究メモ、研究メモ2(盗聴注意+アリーナ2の首輪について)
 第一行動方針:マティウスの協力を取り付ける
 第二行動方針:ケフカとピサロの衝突を抑える
 第二行動方針:カナーンへ向かいアリーナを探す。可能ならば首輪を奪う。
 基本行動方針:ウネや他の協力者を探し、ゲームを脱出する】
【ケフカ(MP2/5程度)
 所持品:ソウルオブサマサ 魔晄銃 ブリッツボール 魔法の法衣  アリーナ2の首輪
 第一行動方針:「こいつらをできるだけ上手く利用する方法」を考える
 第二行動方針:「こいつらをできるだけ楽に殺す方法」を考える
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【ロザリー(小人、悲しい) 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ
 第一行動方針:?
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在位置:カナーン北の平原】

【ライアン 行方不明】
【残り 44人】

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最終更新:2008年01月31日 18:05
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