第123話:一人と一匹と五人組
話し声の主は、割とすぐに見つかった。
楽しげに談笑する、五人組の少年少女たち。
まだこちらには気付いた様子もなく、塔の中を歩いている。
けれどもイザが声をかけようとしたとき、ドルバが服の裾を噛んで引き止めた。
「……イザよ。すまぬが、あやつらと手を組む気にはなれぬ」
「どうして?」
返事はない。変わりにドルバはイザを引っ張り、遠く離れた壁の影へと連れ込もうとする。
そうこうしているうちに、彼らは階段を降りていってしまった。
「ねぇ、どうしたんだ?」
問いただすイザにドルバはそれでも黙っていたが、五人の声が聞こえなくなった頃、ようやく口を開いた。
「我は竜王様に仕えし竜だと言ったはずだ。主亡き今でも、忠誠を変える気はない。
ニンゲンに協力する程度ならまだしも……竜王様の仇と共に歩くなど、できぬ相談だ」
その言葉に、イザは驚愕を隠せなかった。今の五人組は、無闇に相手を殺すような人物とは思えなかったからだ。
「仇って……あの人たちが? そんな悪い人達には……」
イザの台詞に、ドルバは諦めたように答えた。
「仕方のないことだ。
本来、我らとニンゲンは交われぬモノ。特にロトの血脈を受け継ぐ者達と魔物の王たる竜王様は、な。
奴らも竜王様もその摂理に従ったに過ぎぬ。そして強き者が力の劣る者を屠るのもまた、摂理の一つ。
恨みはしない。……仕方のないことなのだからな」
そう言って、ドルバは一瞬だけ塔の外へ目を向ける。
その眼差しは、痛切な哀しみに満ちていた――『仕方ない』で片付けてしまうには、あまりにも大きな。
けれども、ドルバはすぐにぐるりと向きを変え、棒立ちになったままのイザを見上げた。
「ここにはまだニンゲンがいるようだ。そやつらと交渉してみたらどうだ?
あやつらほどの力を持っているかどうかはわからぬが、役に立つ者もいるかも知れぬぞ」
「あ、うん……そうだね、そうしようか」
一方くだんの五人組は、竜王戦で負った傷の治療もあらかた済ませ、地下通路を通ってアリアハン城に向かおうとしていた。
先導者はもちろんアリアハン出身のフルートだ。それにサックスが、方位磁針を片手に隣を歩いて補佐している。
……磁針の北と南を取り違えていることに気付いていないのは、どうかと思うが。
そして天然モードのフルートの先導も信頼できるものではない、ということを付け加えておく。
「多分こっちですよ~。遅れないで下さい~」
「はーい」
フルートの言葉に、元気に返事をするリルム。
ロランはそんな二人に、いつも先に立って歩いていた少女と、彼女の後を追う少年の姿を重ねていた。
そして、先ほどの放送を思い出し、無意識に唇を噛みしめる。
少女は――もういない。その事実は認めがたいことであったけれど、赤線の引かれたリストを見た時、受け入れるしかないのだと悟った。
悲しみは、自然と足を遅らせる。彼の隣を歩く者の足も。
前を行く三人と、後ろを歩く二人の間が開きつつあることに気付いて、リルムが叫んだ。
「おい、イケメン兄ちゃんにトサカ頭! チンタラしてると置いてくぞー!」
「……イケメン……」
「ちょっと待て。なんでこいつがイケメンで俺がトサカなんだよ? 納得いかねぇぜ!」
「じゃあ、ニワトリ頭ね」
「その呼び方はもっと止めろっ、イヤなこと思い出すじゃねーか!」
「え~と、ゼルさんがニワトリ頭だと、私のあだ名は何になるんでしょう~?」
「えっ。フルートさんはフルートさんのままでいいんじゃないかなぁ。
あと、できれば僕もサックスのままがいいんですけど」
「サックスさんも元のままですか~。お揃いですね~」
「お揃い……お揃いかぁ」
フルートの言葉に何故かデレデレするサックス、そんな彼を見てゼルが肩をすくめる。
「なんだありゃ。バカップルは、どっかの誰かだけで腹いっぱいだっての」
その台詞に、ロランは思わず苦笑する。
『どっかの誰か』が誰なのかはわからなかったが、なんとなくその人たちの姿が想像できるような気がした。
賑やかな会話は続く。大切な人を失った悲しみも、一時の間忘れさせて。
【イザ 所持品:きんきらの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
【ドルバ 所持品:不明
第一行動方針:協力してくれそうな人を探す 最終行動方針:同志を集め、ゲームを脱出する】
【現在位置:ナジミの塔一階】
【サックス(軽傷) 所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り
【フルート(MP減少) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣
【リルム 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪
【ロラン(軽傷) 所持品:ガイアの剣 ミンクのコート
【ゼル(軽傷) 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト
第一行動方針:なるべく仲間を集める 最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】
【現在位置:ナジミの塔→地下通路(洞窟内部)を移動中】
最終更新:2008年01月31日 23:46