FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 531話


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第531話:痛みが教えてくれること


「やあ」
声をかけてきたのは、笑顔だったか無表情だったか。
答えは梢の傘の下に広がる闇の中で、それは永遠に分からないだろう。
「会えてよかった」
なんでこんな場所でサックスに出くわすのだろうか。
戸惑いと疑問に対する論理的な思考をすっ飛ばして、直感的にルカは銃を構えた。
そうしないと、サックスが近づいてくるから。
近づいてきて、きっと――
だから闇に紛れて立っているサックスが動いたような気がしたとき、ルカは跳べっ、と身体に命令を下した。
判断を下したのは自分は直接戦わないとはいえ長く戦闘に関わってきた者のカンだ。
茂みへと身体を躍らせたルカは、さっきまで立っていた所をすごい速さで突き抜けていく槍、そしてサックスを見た。

頭の中でちょっと前の爆発と、サックスが結びつく。
「ハッさん……!」
押し込めていた嫌な予感が、抑えられないほどに膨れ上がっていく。
何故、一緒にいなかったのか。
改めての後悔、けれどそれよりもルカの内には自分が戻らなければ、という強い決意が生じていた。
ハッサンを助けるため、そして謝るために。
それは最悪の予想から目をそらす逃避であり、ルカ自身を行動させるための自責の強迫でもある。
しかし、少年はもう一つ、考えなければならないことに直面している。
さし当たってはっきり殺す気で突いてきた男、サックスをなんとかしなければならない。
気配なんて読めなくても、サックスが間違いなく体勢を立て直してまた攻撃してくるのは子供でもわかる。
だから、駆け出す――ふりをしていきなり反転し、狙いも付けずにウインチェスターの引き金を引いた。
響く発砲音。再反転するときに耳にした不自然な葉擦れの音では多分サックスの回避行動のものだろう。
結果は関係ない。追ってくれば反撃の痛い牙があるぞと、わからせればそれでいい。
あとはもう構うものかと後ろを振り返ることなく、ルカは木々の間を走り抜けていった。

カッと、黒い炎が燃え上がるのを感じた。
火種となったのは鋭い発砲音。
遮蔽物を求めて木の陰へと身体をすべりこませながら、理不尽だと、サックスは怒った。
一突き、復讐して心を晴らす。心に受けた傷を、返す。
それだけだったのに、なぜ自分のほうがこうして身を隠さねばならない?
ともかく、ひとまず炎が揺らめく心を落ち着かせ、あの少年が使っていた武器のことを思い出す。
遠く離れた距離から相手を射抜く、機械。
射程は驚異的だが単発、さらに弓同様キッチリ命中させられるように使いこなすのは難しそうだ。
障害物の多い森、狙いを隠す闇。分析すれば恐れるような条件にはない。
少年ルカはそれを承知で森での遊撃戦にサックスを引き込む気か?
それはない、とサックスは即断する。
姿を消したルカがどこに向かうか察しはついた。
再び、衝動がサックスを駆け巡る。
突き動かされるように闇の中、少年の目的地へ向かって走り出す。
森の中、進んできた路を戻るだけだ。
ルカより先にたどり着くことさえできるような気で、サックスは少年を追った。




ハッサンを置きざりにして歩いた距離だけルカは懸命に走った。
バカだ、おれは。
その間中、ずっとそう繰り返す。
あたりの木の感じに見覚えがある気がする。ちょっと前、逆方向に通った気がする。
突然、懸命に動かしてきた足をピタリと止めた。
崩れそうになる膝を懸命に支えながら、呆然と立ち尽くす。
――本当に、おれは、バカだ。
自らの愚かさを愕然と呪いながら、ルカはその焼け焦げた塊をじっと見つめていた。

「あまり走らせないで欲しいな」
サックスの声。それが背後ではない別の方向であることを察し、ルカははっと顔を上げる。
姿は完全に闇の向こうに隠れているが、確かにそこに憎むべき相手が潜んでいることがわかる。
大きな暗闇そのものを睨みつけ、ウインチェスターを構えた。
「爆発したんだ。……だから」
誰のこと、何のことを言っているのか、ルカにはすぐに理解できた。
目を滑らすとさほど離れていない距離、動かないハッサンの巨体がそこにうつぶせで横たわっている。
傷だらけで瀕死でも不思議と死ぬ感じじゃあなかったハッサンが、今は見る影も無い。
「嘘だっ!」
叫び声とともに再び激情込みの鋭い視線をぶつけ直す。
声から一歩遅れて、子供にはやや手に余る大きさのウインチェスターから再び音が響く。
今度は、闇の向こうからは何の反応も無い。
「ハッさんは動けなかったんだ! 動かなきゃ爆発なんかしない!」
「そうだったんですか」
ひどく冷静で、無感情な声だと感じられた。
構えたままの銃口の延長線上に槍を構えたサックスの像が見える気がする。
夜の森のひやりとした空気がゆっくりと張り詰めていく。
「なら、無理にでも動いたんですよ」
「違う! お前だ! お前がその槍でやったんだろ!」
あたりが急に沈黙する。刹那、すべてが緊張に張り詰めていく。
じっとりと汗ばみ始めた両手で銃に力をかける。息が少しずつ荒くなる。
命を賭けた立ち合い。
膨らんでいく重圧に蝕まれまいと耐えながら、闇の中のサックスを見極めようとする。
その時だった。
――サックスは左肩にダメージ。軽度の毒――
不思議な感覚が、闇の一角にサックスの像を結ぶ。同時に情報が流れ込む。
ルカにとっては何故かわかってしまった、としか言いようがない。
それは、見極めようとした気持ちが引き出したマテリアの能力。けれどルカには知る由もない。
不思議としか言えない感覚、あるいはハッサンが助けてくれているのかとさえ思えた。
ともかく、この情報がルカの敗北の未来を救うこととなる。
見破ったサックスの姿は銃口の延長線より外れた――ルカにとって予想外の――位置にある。
槍先はしっかりとルカの居場所を指してその命に狙いを付けているようだ。

自分とサックスの差というものを実感し、ルカは攻撃より回避を即断していた。
間髪おかず、またもサックスの半歩先を制して右へ身体を投げ出す。
その傍らを、闇から現れた恐ろしく速い突進が突き抜けていった。

体勢を立て直しながら、闇から薄明かりのある場所へ現れたサックスを見る。
見た目にはわからないものの、
あんなに速い突きを繰り出せる人とは別人のようにぎこちなく(それでも、遅くはないが)
片腕で槍を旋回させるサックスの動きが、不思議な情報の正しさを証明するようだった。
「戦いの緊張感に負けていない。そして二度までも僕の攻撃をかわしてみせた。
 君もただの子供じゃない、ってわけか」

長台詞を聞きながら、ルカは反撃のタイミングだと、思った。
攻める側ならここは相手を休ませず攻撃し続けて押すポイントで、
あんな科白を吐きながらルカに思考と行動の時間を与えているサックスは、
それだけまだ自分を子供だと甘く見てくれているのだろう。
構え、狙い、引き金を引く。身体に与えようとした命令は放り捨てられていく槍を見て中断した。
肩を怪我しているといってもあれだけ強烈な攻撃ができる武器なのに?
理由を見つけられなくて、この意外な行動に驚いたルカは一連の戦いで初めて後手を踏んだ。
気付けばサックスは再び闇に身を沈めていた。
息を呑みながら闇に警戒を向けるルカの脳裏に、イメージが閃く。
――サックスは左斜め前方。毒により緩やかに体力減少中――
先ぶくれの変わった棒を持ったサックスの姿を察知して、ルカはそちらへ顔を向けた。
その顔面を、岩や肌の硬さとは異なる不思議な硬さの衝撃がかすめていった。
押されてのけぞり、視界がぶれる。
何をされたのか分からない。
分からないまま、同じ衝撃が今度はしっかりとルカを捉えた。
重心が崩され、両足は体重と衝撃の合成力を支えられない。
口の中に血の味が広がるのを感じながら、銃だけは決して離すもんかと指に力を込めた。

音を立てて地面を滑り、摩擦の痛みが肌を刺す。
必死に立ち上がりながら、ルカは危険を感じながらサックスを探した。
このままじゃ危ない。あいつはどこだ?
――サックスは左。冷気属性は吸収――
答えるように不思議なイメージが湧く。
今度は、迷いない動きのつもりで把握した位置へ向け銃を持ち上げ、一気に引き金を引く。
いや、引こうとしたその動きは中断を余儀なくされた。
形としてはウインチェスターの銃身で衝撃を受けた格好になり、
腕、肩と伝わるブレが容赦なくルカのバランスを崩していく。
そこへさらにあの妙な硬さの衝撃――いや、風?が殴りつけた。
さらに崩れ落ちるのを許さず、立て続けに同じ攻撃がルカの身体を叩いていく。
痛みと混乱の中、それでもルカはサックスの位置を問う。
――サックスは正面。炎属性は半減――
見開いたルカの両目が、確かに闇の向こうから手にした棒を振るうサックスを見つけた。
その身体を、真正面から風の塊がえぐる。
そんな攻撃、アリか? なんだよ、それは?
ちょっと待てよ。待てって。
「待てって……いってる、だろ!」
じっとサックスを睨みつけたまま腹の底から声を出して、無理矢理に怒鳴った。
何故だか、不意に攻撃が止まった。



風の乱打を浴びている少年の眼光と視線が合い、その少年ルカが叫んだ、それだけのはずだった。
その一瞬、右腕ひとつで猫の手ラケットを振るっていたサックスの身体が、
喝を浴びたように、視線で射すくめられたように固まる。
サックスの攻勢がそれで中断し、森の中には一時静寂が戻る。
予想外の事態にわずかに狼狽しつつサックスは固まったまま数度呼吸を繰り返す。
始まり同様、唐突にその拘束は解けた。
「本当に……君は何だ」
運動能力、反射神経、戦士としての身体の完成度には大きな差がある。
それなのに、大きく隙があるとも思えない槍での一撃を二度、ルカはかわして見せた。
ならばと威力こそ劣るものの取り回しと連打の速さに勝る猫の手ラケットでの攻撃に切り替える。
実力差の通りルカはこれを避ける事はできなかったが、
しかし今度は何らかの力でサックス自身を止めて見せた。
「無駄な抵抗を。…………槍だったら一度で済んだのに」
冷たい心に、ふつふつと黒い炎が浸食する。
目の前の少年は、正当に自分に復讐を遂げられるべきなのだ。
なのに無駄な抵抗をするから、こんなにも気分が悪いじゃないか。
サックスはラケットに両手を沿え、大きく振りかぶる。
「どうして僕が、こんなに嫌な思いをしなくちゃならない?
 どうしてみんな、僕の望まないほうへ変わっていく?」
それから感情をぶち当てるようにルカへ向けて一息に振り切った。
片手で使っていたときより大きな風塊が放たれ、ルカの身体を吹き飛ばした。


勢いで二度バウンドして、ルカの身体は焼け焦げたハッサンであった塊にぶつかり止まる。
倒れている二人の姿をひとつの視界に認め、サックスの気分は晴れていく。
燃え上がった炎は影に戻り、元通りのさっぱりした気分を取り戻しつつあった。
あと、一刺し。
ハッサンの腕に乗り上げるようにうつぶせているルカが立ち上がれないことを確認し、
放られていたビーナスゴスペルを拾い上げる。
「会えてよかった」
右腕に槍を抱え、にじりよりながらサックスはかすかな笑顔を見せた。
どこかでその瞬間を待ち望んでいた自分が、姿を見せている。
心に導かれるように、槍の刃を少年へと運んでいく。
ルカを見下ろすように立ったとき、サックスには得もいえぬ優越感が到来していた。
――実力に差があるゆえの、油断。
バネ仕掛けのように顔を向けたルカの強い視線がサックスを射る。
その傷だらけの顔は、笑っていた。
差し上げるように伸ばされたルカの手、その指に鈍い輝きがある。
後悔するより早く、今度は不思議な力に囚われることなくサックスは身を翻した。
その背後から、爆風がサックスを突き飛ばした。



手も足も、自分の身体じゃないみたいにひどく自由が利かない状態。
その時、人の肉が焦げた嫌な臭いと指先に触れた希望、いや覚悟の感覚が、ルカの意識をつなぎとめていた。
サックスが、倒れて動けなくなった自分にとどめを刺しに来るだろうと予想はできた。
慎重に、残る全力を込めて指輪を引き抜き、自分の指に移し変える。
その間、今になって動けないハッサンの気分が身をもってはっきり理解できた。
とにかく悔しくて、無念――そして、あとからあとから死ぬことへの恐怖が湧いてくる。
このまま怖いとか絶望とかに飲み込まれてしまえばイルの気分も体験できるのかもしれない。
だが、諦めない。
この男、サックスなんかには負けたくない。その気持ちがルカを焚きつける。
嫌な思い? 思い通りにならない?
おれだって――誰だってみんな、同じだよ。一人で不幸ぶるな!

ちゃんと答えてくれる不思議なイメージが、サックスの位置を教えてくれる。
距離が離れるとダメだから、チャンスは1回きり。
タイミングを計って振り返った視線の先、能面みたいな表情が歪むのが見えた。
しかし、ルカにはサックスの表情など気にする余裕なんか無い。
ただ、感づいたのか身を翻していく、それはわかった。
構うもんか、狙う必要なんかないんだ。このまま、指輪をした手を、叩きつける!

…………
……数分後。
ルカは、全身激痛の中にあった。
ぬるいダメージではない。今度は本当に、動く気にもなれないくらいに痛い。
どうやら、サックスを倒すことはできなかった。
不思議なイメージが教えてくれることには無傷で逃れることもできなかったようだが。
そして今、愉快な戦闘結果が告げられる。
――サックスは『逃げだした』。近くには存在しません――
ルカは笑ってやろうと思ったが、それさえも痛くてままならない。
けれど一人で不幸ぶって他人を傷つける奴に負けなかったことは嬉しくもあり、誇らしくもあった。
ただ、悲しいこともある。
呪いの爆発は、ハッサンの身体も吹き飛ばしてしまったのだ。
……ハッサン。
体験してみて、ハッサンがどれだけ恐ろしい呪いに耐えていたのか知ることができた。
同時に瀕死でも死ぬ感じがしなかったわけもわかった。
こんな爆発を何度も体験して、それでもまだ誰かのために駆けつけようとしたハッサンは本当に馬鹿だと思う。
「ごめん、よ……ハッさん」
言えなかった言葉を、虚空に向けて何とか搾り出した。
しかし、その相手はもう身体すらこの世に残っていないのだ。
自然に涙が溢れ、頬を伝って地面へ流れ落ちていく。
ルカは、今はそれを拭うこともできない。
けれど―――
生き延びてやる。そして、ハッサンの仇を取る。
木々の間から星を見上げるその眼には確かに、強靭な意思が受け継がれていた。



サックスは、苛立っていた。
動くには支障は無いものの、身体にはいくつもの傷が増えている。
相討ち狙いの行動に気付かなかった自分も腹立たしいが、
何よりも一度見下した相手に思わぬ反撃を受けたことが気分を晴れなくしていた。
ずっと、そうだ。
リルムのときも。
レオンハルトのときも。
あの2人に見捨てられたときも。
…フルートのときも。
すべては常に望まない方向に進み、自分は常に失い続けてきた。
この身体の痛み、そして心の痛みが精神の奥で暗い炎を灯し続けている。
そして、進み行く時間に望まれぬ故に過去を取り戻せ、と教えてくれている。
復讐を果たしたというのに晴れない心を引きずり、
暗い炎に魂を浸食されながら、サックスは故郷へとゆっくり、ゆっくりと歩いていた。

【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)
 ねこの手ラケット チョコボの怒り 拡声器
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】
【現在地:ウル南部の森→ウルへ】

【ルカ (瀕死)
 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) シルバートレイ
 満月草 山彦草 雑草 スタミナの種 説明書(草類はあるとしてもあと三種類)
 E:爆発の指輪(呪)
 第一行動方針:ウルの村へ行く
 第二行動方針:仲間を探す/呪いを解く
 最終行動方針:仲間と合流】
【現在地:ウル南部の森】