271話

第271話:あの蒼い天空の様な


誘いの祠の前にある地下室。
そこから少し東に行った所に、セージ達はいた。

「でね、お母さん!私今お兄さんに回復呪文を教えて貰ってるの。
 もし習得できたらお父さんみたいにお母さんをうんと癒してあげるね!」
「それは楽しみね。そうなったら、タバサに頼っちゃおうかな~」
「ビアンカさん、この子結構やる気あるから本当に習得するかもしれないよ?」

放送から少し時間が経ち、彼等はあれから歩いていた。
悲しみを振り払うかのように楽しそうに笑いながら話をするタバサを見て、ビアンカは微笑む。
そうしなければタバサや皆の歩みを止めそうな気がして。
そしてセージも後ろ向きだった心を振り払うように、いつもの調子でタバサの話を聞いたりしている。

そしてギルダーは黙っていた。
黙って考え事をしていた。


小鳥が鳴いている。
青空を泳ぐように飛ぶその姿を見ると、平和そのものなのだが。
生憎素直にそう受け止めることができそうに無いな、とセージは苦笑する。

「あ、ちょっと皆ストップ」

そのまま、セージは何かに気づいて言った。

「何なんだ急に……」
「いや、結構致命的な事かと思ってね」
「なら早く言った方が良い、勿体ぶらないでくれ」

今まで黙っていたギルダーが抗議をした。
タバサとビアンカも不安そうにセージを見ている。
そして、その"致命的なこと"に気づいた張本人は喉をごくりと鳴らして言った。

「誘いの洞窟ってさ……地味に階層がある訳だよ」
「まぁ洞窟だろうしな…………ん?まさか…」
「そのまさか。もしかしたらその洞窟の最深部に扉が出来てたりなんて事が起きるかもしれない」

それを聞いて、ギルダー達は冷や汗を流す。
そうだ。もしも深い場所にあったら扉を探すのが大変だし、時間オーバーにも繋がりかねない。
あの魔女はただ「誘いの洞窟」と言っただけで、詳細は何も話していない。

「大丈夫よ、お兄さん」
「………何がさ」

しかし、タバサは何も動じずにごく普通の調子で言った。
現状がわかっていない訳じゃないだろうとも思うが、この調子は何なのか。

「この小鳥さんがね、旅の扉が近くにあるよ、って言ってるの」
「………小鳥さんが…」
「うん」

ギルダーが頭を抱えて苦笑する。
乾いた笑いまで聞こえてくる、正直怖い。
そんな調子のギルダーを諭すようにビアンカは話しかけた。

「でもギルダーさん」
「ん……貴女は年上だろう、呼び捨てでいい。慣れないんだ」
「おや、そんな事言っちゃって…本当はそうやって呼ばれたかったんじゃないの?愛を込めてさ」
「ちょっと待てセージ!それでは俺がそういう趣味だと思われるだろうが!!」
「あら、そういう事だったのね。でもまぁ、可愛いあなたの為なら呼んであげようかしら、ギルダー♪」
「ほら誤解された!誤解されただろう!」
「いいじゃないか、終わりよければ全てよし、結果オーライだしねぇ」
「というか茶々を入れるな!話が反れる!!」
「君が関係ないこと言い始めたんじゃないか」

そして延々と言い争いをする2人。
ビアンカが大きく咳払いをすると、すぐにそれは止まったが。

「まぁとにかく…あなた達の疑問は確かだと思うわ」
「当たり前だ。鳥と会話などと……」
「でもこの子不思議な力があって、動物や魔物とも話が出来るそうよ」
「そりゃ凄いねぇ。僕の世界では魔物はただの畏怖の対象だし」
「"犬さんは嘘つかないから好き"とまで言ったわ」
「うわ、悟ってるなぁ……人生」
「何かトラウマでもあったんじゃないのか?それは」

そして3人が一度にタバサの方を見るが、タバサは気づいていないようだ。
また小鳥の話を聞いているようだ。最初は胡散臭いと思ったが、何か自然な風景に感じてしまう。
しばらくすると小鳥は空を飛んで行き、タバサは視線にようやく気が付いた。
そしてさっきの会話の内容(と思われる)事を話し始めた。

「誘いの洞窟の入り口と泉が旅の扉になっちゃったんだって」
「ふーん……まぁ有り得ない話じゃないしね…行ってみようか」

そこまで真剣に言うなら間違いないだろうと、3人は納得した。
いや、このまま足を止めても仕方ないが故に納得せざるを得ない状況になったというかなんというか。

「お兄さんが元の世界に戻ったら、さっきの小鳥さんにお礼言わなきゃ駄目よ?」
「あはは、同じ種類の鳥は見分けつかないからなぁ」
「えー?そんな事ないよ。小鳥さんだってスライムさんだって一人一人顔違うし」
「そ………そうなの?」

セージは初めて、今まで倒した多数のスライムの顔を必死に思い出し始めた。
二度とこんな事はしないんだろうな~と苦笑しながら、忘れず東へ歩いていた。



―――そしてしばらくして、誘いの洞窟。

「……言った通りだし」
「だから言ったでしょ?小鳥さんが話してくれたって」
「ここまで的確に当たっていれば……疑う余地はないな」

目の前の2つの旅の扉を見ながら、セージとギルダーはため息をついた。

「で、各自もう既に荷物の配布は済んでいる……出発は今すぐにでも出来るようだな」
「そうだねぇ」
「だが、ここで俺の我侭を聞いてくれるか?」
「…我侭?」

ギルダーがまた大きくため息をつく。
そして少しだけ間をおいて、口を開いた。

「一旦俺は一人で行動したい」
「理由は何?」

すかさずビアンカが問う。
それを待っていたとばかりにギルダーは続ける。

「探したい人間がいるからだ。それに、俺は既に人を殺している……。
 下手に行動を共にしていると、俺を狙う人間がお前たちも巻き添えにするかもな」
「その探したい人って言うのは?」
「まず一番に探したい人間はサックスという男だ……騎士の姿をしている。
 そしてエリア……こちらはおしとやかな女性、と言ったところか」

ビアンカが名簿に印をつけていく。
セージとタバサはそれを静かに見ていた。

「…………………とまぁ、最終的にはこれくらいの人間と知り合っている訳だが…」
「この人たちに全員に会うの?」
「いや、そういうわけじゃない。最初にいったサックスとエリアに会えれば十分だ」
「そう……会った後は?」
「貴女と再会する事を前提にはしておこうと思う……俺が生きていればの話だがな」

そこまで聞き、ビアンカは傍観している2人の方を向いて同意を求めた。
セージはタバサと顔を見合わせ、そして言った。

「異論無し」
「私も文句ないわ」

ギルダーはそれを聞いて、礼をいった。
そしてビアンカにあるものを渡す。

「これを持って行くといい。俺よりも貴女の方が有効に使えそうだ」
「これは?」
「雷の指輪といって、サンダーが…簡単に言えば雷を出す能力があるらしい」
「これを私に?なんだか悪い気が…」
「気にするな、俺は既にサンダーは使える。俺には無用なものだ」
「そう、じゃあ有難く貰っておくわ。有難う、ギルダー」

そしてギルダーは、元は泉だったであろう扉を見た。
蒼い光が幻想的だ。あれに入れと言うのだろう。

「また会おう」
「ああ、気をつけてね」
「ギルダーさん…死なないでね」
「お前たちの方こそな」

そして光の中心へと入る刹那、最後にビアンカを見た。
彼女は静かに微笑んでいた。やはり笑顔が似合うな、と素直に思う。

「また会いましょ、ギルダー」
「………ああ」

そうだ、この笑顔に俺は救われたのかもしれない。
手を伸ばしたのはセージだが、奴などとは天の地の差だ。無論、セージが地。
この何かわからない高貴な、神秘的なオーラに魅せられたのかもしれない。
あの全てを包み込む様な……例えるなら…あの蒼い天空の様な………。



「お母さん、ギルダーさん行っちゃったね…」
「そうね」
「相手にするならああいう徹し切れてない人間が嬉しいんだけどねぇ」
「そうも行かないわ。私たちもいつか危険な場所に踏み込むかもしれない」

しばらく旅の扉を見つめた後、ビアンカが一歩前に出る。

「行きましょう、これ以上いても仕方ないわ」

ビアンカの言葉に2人は頷いた。
そして、3人で同時に扉へと入っていった。


そして光に包まれ、先程の赤魔道師の様に次の世界へと誘われていった。

【ギルダー 所持品:ライトブリンガー 手榴弾×2 ミスリルボウ
 第一行動方針:サックスとエリアを探し、ビアンカ達と再会
 基本行動方針:自分が殺した人の仲間が敵討ちに来たら、殺される】
【現在位置:新フィールドへ】

【セージ 所持品:ハリセン
 第1行動方針:タバサ達と共に行動する 基本行動方針:タバサの家族を探す】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書 
 第1行動方針:セージ達と共に行動する 基本行動方針:同上】
【ビアンカ 所持品:ファイアビュート 雷の指輪
 第1行動方針:2人と共に行動する 基本行動方針:同上】
【現在位置:新フィールドへ】

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最終更新:2008年02月05日 05:07
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