FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 408話


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第408話:Sink


異形なるモンスターが我々の言葉を話せるとするならそれは良いことであろうか。
否、話せば分かるなど所詮幻想に過ぎない。
少なくとも今回、ブオーンの会話経験は全員にマイナスに働いた。

それは、記憶の底、心の底に。
つぼに封じられる前、気ままに生きるブオーンの元へ
討伐の目的でやってきた人間達は、皆自分の力で返り討ちにしてやった。
降りかかる火の粉を払っただけだし、相手だって力及ばなかったのだから文句は無いだろう。
しかし、あの妙に饒舌な男、ルドルフ。自分を言葉巧みに誘い出して罠に掛け、封印した男。
あの卑怯者だけは到底許せることはできない。
その経験はブオーンの心のうちに力ではなく、言葉で挑んでくる人間への不信を植え付けていた。


沈黙、静寂、緊張、過ぎ行く時間…
よりこちらに注視している赤いローブの老人をそれとなく覗き見る。
そういえばこいつは普通の人間と違う感じがするな。
あ、でも俺様を倒したあいつらもなんか変な感じだったっけか。
きっとそういう変な種類の人間もいるんだろう。

そんなことを考えていたブオーンの耳に突如声が届く。
その老人、ドーガが沈黙を破って投げかけた言葉。

「巨大なるモンスターよ、わたしの話を解することはできるだろうか」

ぴくり。
不意に話しかけられ、ブオーンは思わず身体を動かして反応してしまった。

それを肯定の意思表示と取った老人は話を続ける。

「ふむ、おぬしも参加者…なのであろう。こちらには理由無く敵対する意思は無い」

今度はブオーンは不動のまま。

「知恵ある巨大なモンスターよ、我らには争う理由はない。
 そしておぬしも争う気がないのであれば、仲間は多いほうが良い、共に行動せぬか?
 できるならば共に来てくれはしまいか?」

ブオーンの本音は、誰かと協力するつもりなど無いし、積極的に動くつもりも無い。
自分の力の無さ故に敗れ去るのは構わないがともかく積極的に動くつもりは無いのだ。
だが、その短い呼びかけはブオーンの心の奥、嫌な思い出を呼び返す。
ドーガは純粋に協力と同行を仰ぐつもりの会話だったが、
同じような形で手ひどい裏切りを受けた者はそれを真っ直ぐ受け取ることはできなかった。
疑念が浮かぶ。こいつらは俺様を罠にかけようとしているのでは?
俺様は大人しくしていたのだから敵でないなら通り過ぎてしまえばいいじゃないか。
そうだ。こいつら、俺様に恐れをなしてルドルフと同じことを。
遭遇が偶然だったのだからそんなことはありえないというのは簡単に分かるはずだが、
そんな余裕さえも今は無かった。心を満たすむかつきは抑えようもなかった。

「そうやってまた俺様を騙すつもりだな!何度も引っかかるか!
 ええいっ、俺様を倒したければ実力で来いっ。小細工するな、人間め!」

突然に力強い低い声が辺りに響き渡り、
同時に突如湖面から巨大な塊が跳ね上って、大きな日陰を形作る。
それが何か、フィンとドーガが理解したときには空中で方向を変えたそれは
猛烈な勢いと共にこちらへ向け振り下ろされていた。
そして、水面の爆ぜる音と共に氷のテーブルが砕け飛ぶ。

同行者を気遣う猶予すらなくドーガはただ間一髪で直撃を避け、水中へと逃れていた。
一分ほどの間を置いて浮上した水面には
何事も無かったかのように静かにたたずむ巨体、幾つもの浮氷塊。
そしてそのどこにもフィンの姿を見つけることはできなかった。
今の一撃から逃れることができず直撃して湖へ沈んでしまったのか。
人間ではない自分ならともかく、いかに水に慣れていようと人間は水中では5分程度が限界だ。
今最も優先すべきは救助であろう。
だが、その行動は再び振り下ろされる大鎚のような腕により妨げられる。

知恵ある存在と見たが自分の判断ミスだったのか?そんな後悔もそこそこに、
着地すると半分以上水に沈みこんでしまう頼りない氷の塊を足場にして、
巨獣の一撃を今回もなんとか回避する。
向こうはどうしてもやるつもりらしく、簡単に逃してくれそうにはない。
ともかく水中への脱出の隙を作るべく魔力を集中、
火炎の魔法、ファイガを巨体へ向けて放ち、水面へ飛び出していく。
だが、かち合うように放たれたブオーンの今までと全く異なる攻撃‐いなずまが、
まさに水面へたどり着いたドーガを捉えた。

轟音を上げ空中から水面へ向かう光条は自身を導く獲物を求めてドーガへと向かう。
予想外の雷撃のショックが身体の自由を奪い、それ以上の行動を暫く阻害する。
受けた炎の痛みでさらに冷静さを失ったブオーンの一撃を浴びるには十分な隙。
ドーガの身体は腕の振り上げと共にきらめく氷片を伴って宙へと舞い上げられる。

長く感じられる滞空時間。
スローモーションでいまやその凶暴性をドーガへと向けた怪物の腕が迫ってくる。
バレーのスパイクのような一撃を受けるまでの刹那、僅かな間でそれでもドーガは
自身にとって最後となるかもしれない反撃の機を狙っていた。
ただ一点、この怪物の目へと狙いをつけた氷の刃。



飛び込むまではできたフィンの身体に、しかし砕け散った氷塊が襲い掛かる。
そこで意識は途絶え、ぶつかった氷塊に押されるように身体は水中へと沈んでいく。





再び現実を映すことのできた目に遠い光の揺らめきが飛び込む。
どうやら意識を失っていたのはほんの短い間だったらしい。
手、足…は動く。どこか背中の方が痛いがたいしたことはない。
幼いころから水に慣れ親しんできたフィンにとって一度自由を取り戻してしまえば
水中は怖いものではなかった。水面へ向かい上昇を始める。

空気との境界までもう少し、というところで水面全体が輝く。
それはブオーンが呼んだいなずまの光。次いで水が鈍い衝撃を伝える。
急ぎ水面を飛び出し浮上したフィンが見たものは、
立ち上がったモンスターの巨躯が繰り出す一撃と、見覚えある氷の魔法の交差。
赤いローブが不自然に空中にあった気がした。
そしてやや離れた位置で起こる隕石の着水のごとき水面の爆発。

―え、ドーガ…さん?

起こったことをただ眺めているしかできなかった。
心の奥底では目前でドーガがやられたという事実を理解しているが、
それは思考へフィードバックされない。
だが、初撃で氷塊と共に吹き飛んだのであろう、浮いているドーガのものであった
ザックを見つけた時に、堰を切ったように悲痛が心を染めた。

主を失ったザックを回収してただ悲嘆に沈むフィンを、
小さな、しかし荒々しい咆哮が現実へ呼び戻す。
水上に残されているのは左目を押さえ身体を震わせている巨大なモンスター。
そして、その痛み、苛立ちが水面へとぶつけられ、
細かい水しぶきがフィンにまで跳ねかかる。
見上げたモンスターの表情は、まさに凶暴な野獣としてのそれだった。
自分の周りにはもう誰もいない。恐怖が、思考を支配してゆく。
何も考えられなかった。
息を吸い込み、身体を水面下へと沈めて背後、ずっと遠くにある岸までフィンは逃げた。


必死に手足を動かし、どれくらいの時間泳いでいただろうか。
湖の南側の岸にたどり着く。
水際から森まで一目散に駆け、それから、呼吸を整えて恐る恐る湖の方を振り返った。
何かあったのか?と言わんばかりに穏やかさを取り戻し美しくきらめく水面、
そして初めて見たときと同じように湖上にまるで島のようにたたずむモンスター。

何もできなかった。
それが目の前で起こっても、自分は何もできなかったのだ。

樹に背中を預けてもたれかかり、呆然とただ湖に目を向ける。
全てを無力感が包んでいた。


左目が熱く焼け付いたように痛い。
赤いローブの人間が最後に放った氷がブオーンの目を傷つけていた。
苛立ちと不信の結果ぶつかった相手の実力は予想以上に手ごわいもの。
何とか勝ったとはいえ残されたものは火傷と光の戻らない左目。

短絡思考で暴れてしまったが、それは正しいことだったのだろうか。
力でぶつかった結果の傷は肯定するしかないものだが、どこか後悔が後から後から湧きあがっていた。
今はただ、自分を落ち着かせるように湖上に再びうずくまる。

―だから誰かと関わるなんてゴメンだったんだ。今度はばれないようにしないと…


暗い水底にあっても異形の身体はいまだ生命を失わない。
強烈な打撃に生命力のほとんどを奪われてはいたがそれは少しずつ水中を移動していた。

それからしばらくの後、湖の北岸に暗赤色のローブを着た人影が姿を表す。
それはよろよろと湖岸を数歩歩き、力尽きたようにその場に倒れる。
激しく咳き込んだ老人の口から人ならぬ紫色の血が零れ落ちる。
どれほどの間水の中にいたのだろう。
すでに自分にはほとんど生命力が残されていないことが身をもって理解できる。
ギルダーを止める、という意思は今も揺るぐことは無い。
だが、加えて再び目前の湖上で島を装っているあの巨獣も退けねばならぬだろう。
生命は消えかけだが未だ残る大きな魔力、この力を以って。
水底へと消えたフィンのためにも。

再び戦うために身体の回復を望み、静かにドーガは瞑想に入る。

【フィン 所持品:陸奥守 魔石ミドガルズオルム(召還不可)、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:今はただ呆然とするのみ
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:湖南岸】

【ドーガ(瀕死) 所持品:なし
 第一行動方針:ブオーンを倒す為、回復を図る 第二行動方針:ギルダーを止める】
【現在位置:湖北岸】

【ブオーン(左目失明、一部火傷) 所持品:くじけぬこころ、魔法のじゅうたん
 第一行動方針:後悔&反省 第二行動方針:頑張って生き延びる】
【現在位置:封印の洞窟南の湖の真ん中】