FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 154話


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第154話:殺人者でも、狂人ですらなく


苦渋の末の決断だった。
確実に待ち受ける死と、可能性として存在する死。
葛藤の果てに、エッジは『確実な死』を防ぐことを選んだ。
「マリアさん、すまねぇ……すぐ戻るから、それまで無事でいてくれ!」
エッジは唇を噛みしめながら波動の杖を受け取り、走り出す。
彼の後姿を、マリアはどこか安心したような表情で見送った。

――実のところ、マリアの運命はこの時点で決まっていたのだが、二人には知る由もない。

エッジがそうしたことで、カインの判断も決まった。
確かな実力を持つ旧友と、疲弊しきった女。
ターゲットは二つだが、リスクは少ない方がいいに決まっている。
自分の目的は生き残ることだ。殺人は手段の一つに過ぎない。
(回復魔法もアイテムもない以上、下手に手傷を負うのはまずい……慎重にならねばな)
いくら騙し打ちや奇襲をかけたところで、エッジほどの実力者相手に無傷というのは難しい。
だが、見るからに非力そうな、あの女性なら。
自分でも卑劣な考えだとは思うが、場合が場合だ。そんなことを言う余裕は無い。
(ここは見晴らしもいい……気付かれて邪魔に入られても困る……エッジが去るまで、もう少し待つか)
カインは槍を携え、静かに機を窺う。

――けれども、カインがマリアに槍を突き立てることは、ついになかった。



どれほどの時が過ぎただろう。
十分? 十五分? それとも三十分? あるいは五分か?
ともかく、エッジが過ぎ去った後しばらくしてからだ。
樹上のカインは、一人の若者が森の中を歩いて来るのに気がついた。
華奢な身体に貴族風の服を纏った、高い教養と知性は窺われるけれど、戦いの才能はなさそうな……
数度だけ会ったダムシアンの王子を思い起こさせる、いかにも大人しくて無害そうな若者だった。
それでもカインが襲撃に移らなかったのは、若者の持つ奇妙な武器と、背筋を走り抜けた予感のせいだ。
出て行ってはならないという、確信に近い直感。何故かはわからない。
だが、カインは自分の勘を信じることにした。

草原にしゃがみ込んだままの女性の姿に気付いたのだろうか。
若者は足を速め、森から平野に出た途端、一気に走り出す。
若者が叫んだ。「マリアねえさん!」、カインにはそう聞こえた。
女性は面を上げ、若者に手を伸ばす。二人はお互いの身体をしっかりと抱きしめあう。
姉と弟なのだろうか? だが、それにしては似ていないし、髪の色もずいぶん違う。
「兄さんは? 一緒にいないんですか?」
また、若者が言った。良く通る声だ。これだけ離れているのにはっきり聞こえる。
身なりといい、育ちの良さそうな感じといい、演説馴れした貴族か王族なのかもしれない。
女性は首を横に振る。
「ヘンリー」「先に名前を」、「デールさん」「会っていないの?」という部分だけが辛うじて聞き取れた。
「はい……でも、ヘンリー兄さんは簡単に死ぬような人ではありませんよ。
 兄さんも、きっとねえさんを探してるはずです……あの人は、貴女を誰よりも愛しているから」
――ここまで聞いて、ようやくカインにも理解できた。
若者は兄弟の弟で、女性は兄の嫁なのだろう。『姉さん』ではなくて、『義姉さん』と言っているのだ。
「マリア義姉さん、歩けますか?」
若者は義理の姉を心配し、手を貸そうとする。しかし女性は再び首を振る。
「疲れ」、「足が」、「動かない」、「やすま」――『疲れて足が動かない、少し休まないと』。
その返事に、若者は困ったように夜空を仰いだ。そして何を思ったのか、唐突に女性に問い掛ける。
「……そうだ。刃物か何かを持っていませんか?」

(――刃物?)
若者の言い方に、カインは少し違和感を覚えた。
自分なら、「剣を持っていないか?」という風に聞くだろう。少なくとも刃物とは言わない。
けれども女性は気にとめた様子もなく、一振りの大剣を渡した。
「これしかなくて……」
済まなさそうに頭を下げる女性を余所に、若者は剣をじっと見つめ、何度か素振りをする。
筋は決して悪くないが、素人だというのが丸判りだ。
若者自身もわかっているのだろう。「兄さんならもっと上手く扱えるだろうに」と一人ごちる。
その通り、疲れて動けない女性を守るには、あまりにも頼りない。
(俺の勘も鈍ったか?)
カインは自嘲した。
若者の武器が何かは未だにわからないが、わざわざ剣を受け取る辺り、役に立たない代物なのだろう。
そしてあの腕前では、自分の敵になれなどしない。
彼から感じた危険は全て気のせいだ――己の迷いが生んだものだったのだろう。
カインがそう考えた時、若者の声が夜空に響いた。
「でも、贅沢は言えませんね……切れ味は良さそうだし、壊すのには向いていそうだ」
(――壊す?)
カインがその言葉の意味を理解する前に――

若者の剣が、女性の肩に突き刺さった。

「――っ――!!?」
カインの叫びは喉の奥で止まる。女性の絶叫は声にならず、それでも空気を震わせる。
何だ? 何が起きた?
混乱する二人の前で、若者だけが静かに笑う。
剣は真下にゆっくりとすべり、鈍い音と共に腕を断ち切った。
「壊れてください、マリア義姉さん」
若者はそう言った。嫌になるほど落ち着いた声で。
血濡れの刃が右足に潜り込み、今度こそ、女性は絹を裂くような高いソプラノの悲鳴を上げた。

「綺麗な歌ですね。修道院で覚えたのですか? もっと、聞かせていただきたいのですがね」
ぞっとするような呟きと共に、また赤い飛沫が咲く。左足に、左腕に。
女性は涙と血を流しながら、必死で若者を見上げる。
「どうして、デールさん? ……止めて、止めて……!」
若者は止めない。義理の姉を、兄の妻を、あれほど親しそうにしていた相手を、笑顔で切り刻んでいく。

(狂っている……)
カインは呟いた。呟かずにはいられなかった。
誰が誰を思い起こさせるだと? どいつが無害そうだと? 何が頼りないだと?
勘が鈍っていたのではない。俺の目が曇りきっていただけだ!

「最初はね。可愛いコリンズとラインハットのために、戦おうと思っていました」
若者は不意に手を止めて、女性を見つめた。
「けれど途中で気付いたのですよ。僕の望みに。僕自身が、何を望んでいたのかに……」
泣き崩れる恋人を慰めるように優しく頬に手を触れ、指先を唇へと滑らせる。
「僕はずっと、人の夢を叶えてやることばかり考えていました。
 でも、生まれて初めて、自分自身の望みを叶えてみようと……そう、思ったのです。
 僕の願いを……人間を、生命を、何もかもを壊したいって願いをねぇ!」
ざくり、と嫌な音がして、剣先が女性の肺へ突き刺さった。
飛び散る血の量を減らすためか、長くいたぶりたいがためなのか、やけにゆっくりと。
女性の口から血が溢れる。若者の指も同じ色に染まる。
「邪魔をする者も、逃げる者も……! バーバラって小娘も、リュカさんも、ビアンカさんも!
 僕が! この手で! 壊してやるんですよ! 最高でしょう!?
 それが僕の願いなんですよ、義姉さん!」
若者は女性の身体に何度も刃を突き立てながら、愉快そうに笑った。楽しそうに笑い続けた。
それが再び、唐突に止んだ。
「……神に感謝します。僕を、ここで、貴女と引き合わせてくれたことに。
 ヘンリー兄さんと貴女だけは、他の誰にも殺させたくなかった……
 貴方たちを壊すのも、その最期を看取るのも……できるならば、僕でありたい」
果たして、若者は笑っていたのだろうか? それとも泣いていたのだろうか?
カインからは見えない。ただ、重なる二つの影だけがはっきりと見えた。
「……愛しています。マリア義姉さん」


――カインは込み上げる吐き気に口を抑えた。
彼でなくても、真っ当な神経の持ち主ならば誰だってそうする。あるいは、恐怖とおぞましさで卒倒するかだ。
そんなカインの胸中を知らない若者は、女性の身体を離すと紅色に濡れた唇を舐めながら言った。
「誰か、いるな」
それが自分に向けられたものだとカインが気付くには、数秒が必要だった。
「壊されたいか? 僕に」
若者は周囲を見回しながら、剣ではなくあの奇妙な武器を構える。
「これでも女性と待ち合わせをする身だ、あまり時間は割けぬ。
 剣は使ってやれないが、何、鉛球と共に踊るのも楽しいものだぞ?」
若者の持つ武器が、突然硝煙を吐き出した。鉄筒の直線状に位置する木に、無数の穴が穿たれる。
剣や槍など比べ物にならぬ破壊力だ。そしてあの速度、避けることも弾くことも難しい。
「さあ、出て来るがいい」
若者は空を仰ぎ、静かに告げた。ほんの一瞬だけ、カインの目は若者の顔を捕え――
(――くそっ!)
カインは跳んだ。挑むためではなく、逃げるために。
あの未知の武器のせいか。それとも、常軌を逸した言動のせいか。
どちらにしてもカインには若者が容易く倒せる相手とは思わなかった。
純粋な実力からすれば、カインの方が優位に立つにも関わらず、だ。
(アレは、人間じゃない)
カインの脳裏に、若者の表情と瞳が浮かぶ。
予想したような血走った目ではない。焦点を結ばぬ濁った瞳でも、狂人のへらへらした表情でもない。
逆だ。
真珠のように綺麗な目、確固とした一点を捉える澄んだ瞳。理性と威厳さえ感じさせる、ひどく冷静な表情。
――間違いなく狂っているはずなのに、正気であるとしか思えない。
(アレは人間じゃない。俺のような殺人者でも、狂人ですらない……)
アレを一言で形容するならば、邪悪だ。
このゲームが、ソレを作り出すためだけに用意されたとしても納得するぐらいに、邪悪な化物だ。
けれども、元は。たった半日前までは、アレも人間だった。
恐らくは兄夫婦を慕い、他人を気遣いながら生きてきた、優しい心を持つ青年だったのだ。
(ここで生き延びようとする限り、俺も、いつかは……ああなってしまうのか?)
その問いに答えられる者も、そうでないと断言できる者もいない。カイン自身を含めて。

【ユフィ(瀕死) 所持品:プリンセスリング フォースアーマー
 行動方針:死を待つ】
【エッジ 所持品:風魔手裏剣(30) ドリル 波動の杖
 第一行動方針:波動の杖の向く先(アルカートのところ)へ走る 第二行動方針:仲間を探す】
【現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→東へ移動】

【デール 所持品:マシンガン、アラームピアス(対人)、ひそひ草、アポカリプス+マテリア(かいふく)
 第一行動方針:レーベでバーバラと会い、殺害する 第二行動方針:皆殺し(ヘンリーが最優先)】
【現在位置:アリアハン北の橋から西の平原→レーベへ移動】

【カイン(傷はほぼ回復) 所持品:ランスオブカイン
 行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【現在位置:アリアハン北の橋から北西の森の中】

【マリア(DQ5) 死亡】
【残り 99名】