122話

第122話:狂った忠誠心


勝負はあっけなかった。
地を蹴っていたピエールがそれに気がついたときには、既に体制を立て直す事も、防御をする事も間に合わない。
ラムザのブレイブブレイドは、上空からピエールの本体――緑スライムの部分を貫いた。
ピエールは頭から倒れる。緑色の液体がスライムから流れ出し、ラムザとゴルベーザの靴を汚した。

ゴルベーザは怪訝そうな表情でラムザを見る。
「……なぜ、助けた?」
「え?」
「助けてくれと頼んだ覚えはないぞ」
その言い方は少しばかり気に触るものがあったが。
「この怪物は明らかに危険でしょう。だから」
ラムザは正直に答えた。ラムザは元々、ゴルベーザを助けるつもりではなかったのだ。
ゴルベーザはたまたま現れチャンスを作ってくれただけであって、助けることになったのは…
「そうか…一応、礼は言っておこう」
「…いえ、不可抗力ですから」
そう、不可抗力である。
ゴルベーザは特に反応はせず、淡々と続けた。
「すまないが、白いマントを着た銀髪の剣士を見なかったか?」
「いえ…見てません。あの、金髪の…騎士風の女性を見たりしませんでしたか?」
ゴルベーザは静かに首を横に振った。その返答にラムザは少しばかり気落ちする。
――もうすぐ日が落ちるというのに、未だにアグリアスに会えない。落ち合おうといったのは自分なのに…。
ラムザは「ありがとう」と軽く会釈すると、ゴルベーザに背を向けまた森を駆け出した。

ゴルベーザはラムザの姿が森に消えていったのを確認すると、その場で溜息をつく。
…柄にもなく、周りが暗くなるにつれて不安が大きくなる。セシルが無事でいるという保証は、ない。
……。
ゴルベーザはピエールの動かない体を一瞥し、立ち去ろうとした――その時だった。
轟音と共に大地が大きく震動した。空が割れ、魔女の姿が映し出される。
そして――死者の名前を呼びはじめた。
ゆっくりと。


『…「アモス」……「ローラ」…』
 しっかりと空を見上げ、一人の名前も聞きのがさまいとする。
『…「ゲマ」……「バレット」…』
 人数が多いな…予想以上だ。
『…「宝条」……「ローザ」…』
 ――ローザだと?まさか…ローザ=ファレル。
『…「ムース」…「シャドウ」…』
 セシルもこれを聞いているだろう。恋人の死を聞かされ、どれだけ悲しんでいる事か…?
『…「ティナ」…「ガーランド」…』
 ……。
『「セシル」』


ゴルベーザは目を見開いた。


「セシル―――――」


思わず弟の名前を口にして――しかし。
彼が理解したのは『セシルが死んだ』という事実の、内容だけとなった。
その先の思考は既に、停止していたから。
彼が弟の名前を口にしたと同時に、背後から後頭部に撃ち込まれた弾丸によって。



ロングバレルRを手にしたピエールが、物言わぬ死体となったゴルベーザの後ろでゆっくりと起き上がった。
ドロドロとした緑の体液が、また地面に落ちていく。ピエールは…まだ、生きていた。
ラムザもゴルベーザも、ピエールは完全に絶命したと思っていた。
本体であるスライムがほぼ真っ二つになっているのだから、当たり前である。
いや、ピエールの身体はラムザに貫かれたその時、確かに停止していた。
脅威としかいいようがない。魔物だからとか、そういった次元ではないほどの生命力。
それもまた、あまりに高すぎた主人への忠誠心からきたものなのか。

ピエールは何も考えず、生と死を彷徨う身体で祝福の杖をふりかざした。
何度かそれを繰り返すうちに、あまり傷の回復を実感できないまま、杖は音を立てて壊れた。
「……」
ピエールは壊れた杖を投げ出すと、そのまま草の上に倒れこんだ。

【ラムザ(見習い剣士 アビリティジャンプ)
 所持品: アダマンアーマー ブレイブブレイド
 第一行動方針:アグリアスを探す  最終行動方針:ゲームから抜ける】
【現在位置:レーベ南の森から移動】

【ピエール(瀕死)
 所持品:鋼鉄の剣 ロングバレルR 青龍偃月刀 いかずちの杖 魔封じの杖 ダガー 祈りの指輪
 第一行動方針:?(動けない)  基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:レーベ南の森(南部)】

【ゴルベーザ 死亡】
【残り 105名】

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最終更新:2008年02月15日 23:20
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