265話

第265話:ヒトトシテ……ヒトトシテ……


朝。

レーベの村の入り口で、ある意味死にそうになっている人間が2人いた。
そう、ローグとバッツだ。

「あ~…疲れた……バッツ、お疲れ」
「俺たちの仲間が放送で呼ばれることも無かったし…ラッキーだったな……」
「ああ、そうだな………でも、これは有りだと思うか?」
「……………無しだろ」

やっと辿り着いたというのに、2人の目の前に広がるのは瓦礫くらい。
凄惨な状況だ。まぁ奥はまだマシらしいが。

「火事でも起こったのか?」
「…だと、思うけどな……」
「人もいないみたいだし……もしかして、無駄足?」
「いや、それはねぇだろ………俺の仲間がいた」
「な、本当か!?」

バッツがキョロキョロと辺りを見回す。
そしてローグがある一点を指差して、やっと気づいた。

「おお、本当にラッキーだな!接触しようぜ!」
「いや、ちょっと待てバッツ!確かに俺の仲間だが…」
「あ………そうだよなぁ…殺し合いに乗ってるかもしれないよな」
「まぁでも…様子を見ながら近づくか……いざとなったら逃げるぞ」

寝転んでいた2人は、静かに起き上がって近づいていった。



一方、民家前。
そこにアルスは一人立っていた。

「”…そして彼女の部屋の鍵を、後ろ手に閉めた。
 『ど…どうしたの?そんな顔をして……』
 何か嫌な予感が過ぎっているのか、声が震えている。
 それを見て、溜息をつきながら彼はこう言った。”」

何かの本を真剣に音読している。
見張りはどうしたのだろうか。

「”『すまない。もう俺の欲望は止められないんだ!』
 『な…何を言ってるの!?やめてギルダーさん!大声を出すわよ!』
 『それでもかまわない!…貴女のその甘美な声が聞けるなら……幸せだ』
 そしてギルダーは恐怖の表情を浮かべる彼女の服に、獣の如く手をかけ―――”

 ―――くだらないな。展開が唐突過ぎるわ男の名前が不吉過ぎるわで……はぁ…」

官能小説のようだ。しかもダメ出しまでしている。
それでいいのかお前は。勇者だろ?勇者なんだろ?

「まぁ…こんな民家から取ってきたんだから贅沢は言えな……って、誰だ?あれは」

しかしそんなアルスだが、何かの異変に気が付いた様だ。
奇妙な構図の中でも注意力を棄てないのは、流石は勇者といった所か。

見ると2人の人間がまっすぐこちらに向かっている。
建物に隠れるなどといった行動は起こしていない、敵意は無いのだろうか。
しかし不用意に近づくわけにも行かない。さて…どうするか。
そこまで考えて、アルスは窓を叩いた。シドを呼ぶためだ。

「シド、どうやら客人のようだ!………おい、シド!…シド!……シド?」

窓から覗くと、落胆している姿が見えた。
成程、恐らくさっきの放送か…知り合いがまた殺されたのか。
アルスは呼びかけるのを止め、静かに近づいてくる2人を見ていた。

「………ローグ?ローグか?誰か一緒にいるな…」

ようやくアルスも、近づいてくる人間が誰なのかがわかったらしい。
しかし油断はできない。金髪の男のようにゲームに乗っているかもしれない。
そんな嫌な考えが過ぎるのも嫌な話だが、仕方が無い。
とりあえずは相手が近づいてきたら行動を起こそうと、アルスは様子を見た。


しばらくして、2人はアルスの目の前で止まった。
睨み合うアルスとローグ、そして手持ち無沙汰にも似た感覚を感じるバッツ。
暫くしたところで、アルスが口を開いた。

「敵意が無いという証拠が欲しい。その袋を落とすように置いてくれ」
「………OK。俺もそうさせるだろうな」
「…これで、いいのか?」

バッツとローグが支給品袋を足元に置くと、アルスは溜息をついた。
そして静かに座り、こう言った。

「すまない、気が立っているからな……悪かった」
「いや、普通だろ。こんな状況滅多にない……久しぶりだな、アルス」
「…ああ、久しぶり。で、ローグ…隣の奴は誰だ?」
「こいつはバッツだ。なかなかのやり手だぜ」
「お前がアルスだな。ローグも言ってたが、バッツだ。宜しく」
「宜しく」

そして3人は、自分たちの周りで起こったことを話した。
大切な人間が死んだこと、そして今からどうするつもりなのかということ。
因みに「ここに人はいるのか」「首輪の呪いを解く魔法を知らないか」という2人の問いに、アルスは横に首を振った。

「とりあえずはシドと共に次の世界へ行くことを目標にしたい。そしてギルダーと言う奴を探して、場合によっては斬る」
「そうか。じゃあ俺たちはお前と一緒に行動しないほうが良いな。俺たちが邪魔になりそうだ」
「すまないな。お詫びといってはアレだけど、このダーツをあげよう。
 僕はこういうのは得意ではないし、お前くらい器用なら武器にもなるだろうしな」

ダーツの矢を貰って、ローグは黙った。
そして今度はバッツが問いかける。

「その…ローグは俺と行動してるからアレだけどな、他の仲間が一緒に行動してたらどうするんだ?」
「それでも必要であれば斬るし、自分から手を組んでいたのだとしたら……仲間ですら僕は斬ろう」

バッツは、アルスの意志の強さに負けたようだ。
止めるということはせず、ただ短く相槌を打った。

「だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今とこれからの事をどう思っているのかが重要だ。
 俺にも、かつて敵だったけど…最期に俺たちを守ってくれた誇れる仲間ができたんだ……ま、何故か今いるけど」
「その誇れる仲間とやらは……昔は人殺しだったりしたのか?」
「……え?」
「人殺しだったのか?遺された人が悲しむ事を知っていても、他人を殺せる様な奴だったのか?」
「………それは…」
「…いや、いい。悪かった……言うとおり気をつけよう。忠告有難う」

そういうと、アルスはある一点を指差した。

「あそこのレーベ中央部…そこに扉はある。先程開いたのを確認した」
「あ、本当だな。疲れてて気づかなかった。注意不足だな…」
「色々とありがとうな。俺たちは先に行くぜ」
「そうか、また会おう…ローグ、バッツ」
「ああ………死ぬなよ。あ、セージとフルートに会ったら宜しく言っといてくれ」
「勿論だ。お前も死ぬなよ?……じゃあな」

そしてバッツとローグは、レーベの村の中央部へと歩いていった。


―――村は意外と狭い。すぐに扉の目と鼻の先に来た。

「なぁ」
「…なんだ?」
「あれで、良かったのかよ」

バッツが不意にローグに尋ねた。
ローグは静かに首を振った……横にだ。

「そんな訳あるか…アイツが、アイツがセージやフルートを斬るところなんて見たくも無い」
「………じゃあ」
「止めねぇよ。あいつ、頑固な所あるし…無駄だ」
「だけどよ!」
「それに…俺の仲間がそんな奴と手を組んでるなんて、ありえねぇよ。
 乱暴で怒るかもしれないけど…バッツ、お前の仲間のほうが心配なんだよ」

俯いて、ローグは逆にバッツに尋ねた。
バッツの仲間も良い奴なんだろうと思う。だが、アルスはそれでも斬るつもりでいるのだ。
それにローグはバッツの仲間に会ったことが無いし、どうしても不安があったのだ。

「大丈夫だ。俺はそんなことで怒らない。そんでもって、仲間も大丈夫だ。
 後……もしアルスが襲い掛かることがあっても…俺が守ってやれば良いだけだ」
「ははは、そこまで悪者にされちゃ…アイツの方が怒るか……」
「ああ、襲い掛かるとかは…言い過ぎたな」

2人が苦笑して、アルスの方を向いた。
それに気づいたのか、軽く片手を振っていた。
2人も手を振って返した。それを少しの時間だが、続ける。

「ま、そうだな!お前の前向きな答えでわかったよ!」
「ああ、俺たちは仲間たちと会わなきゃいけないんだ!後ろ向きに考えても仕方が無い!」
「そういう事だ!よっし行くぜ!!」

2人はそのまま、旅の扉へと入っていった。
そして青い光に包まれ、異世界へと運ばれていった―――――。


「行った…か」

『だけど…見誤るなよ。お前の仲間ってのも、そのギルダーって奴も、今とこれからの事をどう思っているのかが重要だ』
バッツの言葉が嫌にアルスの頭に響く。過去の自分が語りかけているようにも錯覚する。

「未来を見据える…か。そうだな、そうやって…僕は悪人を許したこともあった。
 ……でも、今は違う。こうでもしなきゃ駄目なんだ……そうじゃないと………」

頭では整理できていないことはわかっている。強がりにも似ていることは知っている。
けれどやらなければならないのだ。自分がやらないと、死人が増えるだけなのだ。

「でも僕は………殺したくなんかないんだ……!
 父さん…母さん……皆……僕は……僕は………っ!」


【アルス 所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘
 第一行動方針:葛藤 最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】
【現在位置:レーベの村の老人の家の外】

【バッツ 所持品:チキンナイフ、ライオンハート、薬草や毒消し草一式
 第一行動方針:新フィールドへ 第二行動方針:レナ、ファリスとの合流】
【ローグ 所持品:銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ 静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか)
 第一行動方針:新フィールドへ 最終行動方針:首輪を外す方法を探す】
【現在位置:レーベ旅の扉→新フィールド】

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最終更新:2008年02月15日 23:28
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