60話

第60話:影


ファリスは、深い森を一人、歩いていた。
鬱蒼と茂る森は、いつかのあの森を思い出す。
最後には、焼け野原と化したあの森を。
大切な仲間を失った、森を。

森が燃える回想を頭から振り払おうとした彼女に、赤く燃え上がる何かが見えた。
…一瞬、エクスデスと相対し炎に包まれたガラフが脳裏に過ぎる。
慌ててそれに近づき、支給品のマントで火を消す。
火の中から現れたのは、原形を留めぬ、炭化された物体。

「酷い…っ」
ちょっと見ただけなら、焼けた木と何も変わらなかっただろう。
だが、人間の肉の焼ける独特の強烈な匂いが周囲を包み込んでいた。
思わず、胃の中の物がこみ上げる。
「っ…!」
何とか堪えるも、彼女の心は、体以上にそれに反応する。
自殺か、他殺かは知らないけれども、また誰かが死んだ。
匂いのせいかもしれないが、目の奥が熱い。
(こんな…ふざけてる)
ファリスは、立ち竦む。


「無防備だな」
何の前触れもなく、ファリスの背後から声がした。
「っ、誰だっ!?」
振り返り、もう一つの支給武器…聖なるナイフを咄嗟に構えた。
そこに立っていたのは、短刀を手に持った、全身黒尽くめの男。
いや、黒尽くめだから見た目では男かどうかはわからないのだが。

「忠告をしただけだ。名乗る必要もない」
男は、ほとんど感情を感じない声でそう告げた。
「忠告だと?」
(…この男、腕はいいだろう。殺気を感じないから、今はまだゲームに乗っていることはないはず。
だが、いざと言う時…何の躊躇いもなく人を殺せる人間だろうな)

「そうだ。ここは戦場だ。油断が命取りとなる。
俺がゲームに乗っていたのなら、お前の命はさっき尽きた」
(確かにそうだ…)
「この忌まわしい匂いが嗅ぎ付けられる可能性も、さっきの炎が見られていた可能性も、ある」
「確かにそうだな…」
「その辺にゲームに乗った奴が近づいているかも知れんということだ。実際、俺は気づいてやって来た」
男は冷静にそう言った。

「そうだな、ありがとう。それで、あんた結構強そうだし、一緒に行動してもらえないか?」
ファリスが右手を差し伸べたが、男はそれを握らなかった。
「悪いが、団体行動は好きじゃない。一人で行く」
そう言うと、男はふっと独り言のように言った。
「もしリルムという娘を見つけたら…」
「えっ?」
「…いや、なんでもない」
男は、何かを飲み込むように最後の言葉を残し、木々の間を跳躍してどこかへ消えた。

「リルム…か」
男の最後の言葉が気になった。
だが、それよりも、ここは危険だ。
バッツ、レナ、クルル…何処にいるんだ?
ファリスは、かつての仲間を探すべく、その場を立ち去った。

黒尽くめの男は、走りながら考えていた。
なぜわざわざ人助けのような真似をしたのか。
…理由は明白だった。
あの女がゲームに乗っていない事と直感的にわかったとき、男は思っのだ。
――殺される理由のない人が殺されるのは見たくない。

かつて殺し屋として生きていた彼はもう、死んだ。
今、一度死んだ筈の身がここに有るのは、殺戮のためではない。
――そうだろう、ビリー?
男は、シャドウは、影のように木々を縫い、走っていた。

【ファリス 所持品:王者のマント@DQ5 聖なるナイフ
 行動方針:仲間を探しに行く】
【シャドウ 所持品:ダガー 祈りの指輪
 行動方針:マーダーを減らす、出来ればリルムに会いたい】
【現在位置:レーベ南の森北東部から移動中(別々に) 】

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最終更新:2008年02月16日 01:14
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