260話

第260話:Let's see if you really mean you're sorry.


――あの戦いから八時間ほどが過ぎた。
僕は今、アリアハンの武器防具屋にいる。


傷ついた僕達を見つけてくれたのは、テリー君とトンヌラというモンスターだったらしい。
……『らしい』というのは、その時僕は気を失っていたから、詳しい事がわからないのだ。
ただギードさんが僕を運び、テリー君が何かを喋っていたことは何となく覚えている。
やがて完全に意識を取り戻した時は、僕はもう武器防具屋の中に……
正確に言うなら、ギードさんとロザリーさんが作った救護用結界の中に運び込まれていた。
そして、そこで――リディアの死を伝えられた。

結界の中には、僕らとロザリーさんたち以外に四人の男女がいた。
誰もがひどく傷ついていて、ここで行われた戦闘の激しさをどんな言葉よりも雄弁に語っていた。
四人のうち、金髪の剣士――サイファーは僕達を睨みつけ、こう叫んだ。
「あのクソ野郎をみすみす逃したどころか、回復までしたんだってな!
 ……何考えてるんだテメェ等は! 甘ちゃんなのも大概にしやがれ!
 セリスとクラウドとパウロにどう顔向けするつもりだ、ああ?!」
セリス。クラウド。パウロ。
犠牲になった人。ヤツを倒すために命を散らせた人。
僕らがしてしまったことは、彼らの死を踏みにじる以外の何者でもない……
それなのに……僕に出来たのは「すまない」と頭を下げることだけで。

あの男を助けてしまった事。
魔道士の女性を止められなかったこと。
リディアを死なせてしまったこと。
銀髪の人間は危険だというアルガスの忠告を真摯に受け止めていれば、きっとどれも防げていたのに。
彼の言い方が少しだけ気に食わなかった――そんな些細な事で、話半分に聞いてしまっていた。
いくら頭を下げたって、どれほどの言葉を尽くしたところで……許されるはずも無い。
僕の犯してしまった過ちは、あまりにも大きすぎた。

それでも――リノアとジタンは、僕達にこう言ってくれた。
「過ぎたことは仕方ないだろ。
 だいたい悪気があってやったわけじゃない。
 こいつらだって、リディアって子だって、セフィロスって奴の被害者なんだ」
「二人とも私たちを助けようとしてくれたんでしょ?
 謝ったりしなくていいから、今は早く傷を治す事を考えよう? ね?」

リュカさんとロザリーさんは言ってくれた。
「結果はどうあれ、君たちの志そのものが間違っていたわけじゃない。
 この戦場で人を助けようとする勇気を、捨てないでくれ」
「あなた方を危険な目に合わせてしまったのは、私のせいです……
 頭を下げなくてはならないとすれば、それは私のほうですわ」

そして――最後に、サイファーが言ってくれた。
「ったく、どいつもこいつも甘ちゃんばかりだな。
 まぁいい………お前らのせいでセフィロスは生き延びちまったんだ。
 その落とし前はきっちり着けてもらうぜ」
彼は、そう言ってくれたのだけれど……
罪悪感で一杯だった僕の頭は、言葉の意味を理解する事さえできなかった。
多分、間抜けに首を傾げていた――そんな僕に、彼は一振りの剣を差し出す。
「自称勇者のガキが使っていた剣だ。
 下らない玩具やナマクラ刀よりかは、数倍役に立つだろ」
「どうして……僕に?」
ここまで言ってもわからないのか、と彼は呆れるようにため息をついた。
見かねたリノアが、苦笑しながら説明を挟む。
「サイファーはね。これから先、セフィロスとクジャを倒すのに協力してくれって言いたいのよ。
 私たち四人だけじゃ、戦力的に不安なところもあるしね。
 ……ホント、もう少し素直に言えばいいのに。そういうところは相変わらず子供なんだから」
僕はサイファーを振り返った。彼はつまらなそうに鼻を鳴らし、呟いた。
「ガキで悪かったな」と、小さな声で。
でも、みんなしっかり聞こえていたようで、どこからともなくクスクスという笑い声がこぼれた。

その後――といっても、数時間後の話だ――ある程度傷が塞がったところで、僕も他の人の治療の手伝いを始めた。
あの、ホーリーという魔法を喰らった時は、もうダメかと思ったけれど……
僕達の時は、何故かそれほど威力を発揮しなかったようだ。
ギードさん曰く、本来効果範囲の狭い魔法を無理に全体化したから
効果が不安定になっていたのではないか、ということらしい。
直後に、サイファーとジタンから同じ魔法が城を丸ごと吹き飛ばしたのだという話を聞いて、背筋が寒くなった。
僕はよっぽど運が良かったのだろう。
「今、こうして生きてるって事が信じられないよ」
僕が呟くと、ジタンも「奇遇だな、俺もだ」と笑った。
その表情が寂しく見えたのは……決して、僕の気のせいなどではなかった。

話を聞けばもう一人の襲撃者――クジャにも、三人もの仲間が殺されてしまったらしい。
テリー君の友人でリュカさんの子供、レックス君。
リノアとジタンの仲間だった青年、キーファ。
それからリュカさんと一緒に行動していた猫(?)のケット・シー。
彼らのことを一通り話し終わった後、ジタンはぽつりと呟いた。
「俺はクジャを止めたい。……止めなきゃいけないんだ」
「止めなきゃ……いけない?」
その言い方が気に掛かって、思わずおうむ返しに言ってしまう。
ジタンはひどく思い詰めた顔でうなずいた。
「ああ……俺も一度、あいつを助けてしまったからな」
「え?」
「サイファーじゃないけど、落とし前はキッチリつけるべきだろ?
 だから俺が……俺がクジャを止めなきゃいけないんだ」
僕は何と言えばいいのかわからなかった。
そのせいで何となく気まずい沈黙が流れ……やがて、ジタンが無理矢理な作り笑いを浮かべて言った。
「ま、今日はとりあえず休んでおこうぜ。
 クジャもセフィロスってヤツも、しばらくの間はこっちに戻ってこないだろ。
 あんただって怪我人なんだし、いくら結界の力があったってゆっくり休まないと疲れちまうぜ?
 ほらほら、さっさと寝た寝た。当面は俺が見張ってるからさ」

――そうして僕は眠りにつき、夜が明けた。

大きな揺れに目を覚ませば、聞こえてきたのは魔女の声。
セリス、クラウド、レックス、キーファ、パウロ、ケット・シー、リディア……
このアリアハンという小さな町で散っていった人々の名前が読み上げられる。
それから――何故か、ミレーユの名前も、あった。

横を見れば、ジタンが険しい表情で虚空を睨んでいる。
リノアは誰かの名前を呼び、サイファーは壁を叩きつけている。
リュカさんは泣いているかのように、ロザリーさんは祈るかのように目を閉じている。
僕は――呆然と天井を見上げた。頭の中で、ミレーユとの思い出が走馬灯のように浮かんでいた。

「お主の……知り合いがいたのか?」
ギードさんの問いに、僕はうなずいた。
「元の世界での仲間です。強くて、優しくて――素敵な女性でした」
「そうか……」
ギードさんは僕と同じように天を仰ぎ、ややあって目を伏せる。それから、ゆっくり扉の方に歩き出した。
「どこか行くんですか?」
「うむ……ルカが心配じゃ。放送で名が呼ばれぬとはいえ、誰も戻ってこなければ不安になるじゃろ。
 それに……リュカ殿とロザリー殿に頼まれたしの」
「頼まれた?」
僕が首を傾げていると、ギードさんは扉の方を指差す。
目をやると、そこにはテリー君とトンヌラが立っていた。
「この子達を、危険な戦いに巻き込むわけにはいかんからの。
 それにルカの友人でもあるし、ワシがナジミの塔まで連れて行くことになったんじゃ」
「オレだって……オレだって、本当は兄ちゃん達と一緒に行きたいんだ!
 でも、ロザリー姉ちゃんは結界を張ったりできるけど……オレは何も出来ない。
 足手まといにしかならないってわかるから……だから……」
テリー君は拳を握り締め、唇を噛みしめる。僕は彼の肩にそっと手を置いた。
「大丈夫……僕に任せてくれ。君の分まで戦って、みんなの仇を取ってみせるよ」
テリー君は涙を見せまいとするかのように帽子を目深にかぶりなおしながら、小さくうなずいた。

「ここに戻ってくる時間はないようじゃ。じゃから、再会できるまでワシらは首輪について調べておく。
 ……死ぬなよ、イザ」
僕がうなずいたのを確かめて、ギードさんはテリー君たちを背に乗せる。
三人の姿は、あっという間に崩れた街の向こうに消えていった。

【ギード 所持品:首輪、不明
 第一行動方針:ルカ達と合流 第二行動方針:首輪の研究】
【テリー(DQM)(若干精神不安定気味) 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
 第一行動方針:ルカ達と合流 第二行動方針:わたぼうを探す 最終行動方針:ゲームから脱出する】
【トンベリ(トンヌラ) 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ 行動方針:テリー達についていく】
【現在地:アリアハン城下町→ナジミの塔へ移動中】

【イザ(HP2/3程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード
 基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出】
【リュカ(HP4/5程度) 所持品:竹槍 お鍋(蓋付き) ポケットティッシュ×4 デスペナルティ スナイパーCRの残骸
 基本行動方針:家族、及び仲間になってくれそうな人を探し、守る】
【サイファー(右足軽傷) 所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード
 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ジタン(HP2/3程度、右足軽傷) 所持品:英雄の薬 厚手の鎧 般若の面 釘バット(FF7)  グラディウス
 基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【リノア(HP2/3程度) 所持品:賢者の杖 ロトの盾 G.F.パンデモニウム(召喚不能)
 基本行動方針:スコールを探す+首輪解除手段を探す 最終行動方針:ゲーム脱出】
【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー(ルビーの指輪)、破壊の鏡、もう一つ不明
 基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【第一行動方針(共通):旅の扉を探す 第二行動方針(共通):セフィロスとクジャを倒す】
【現在地:アリアハン城下町・武器防具屋の結界内部】

ギードとロザリーが作り直した結界は、内部にいる者全員にリジェネの効果。

 ただし防御力は前の結界より数段落ち、ステータス上昇効果も無い。

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最終更新:2008年02月16日 01:36
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