379話

第379話:殺意と、悪霧と、もやもやと


おともだちができました。
ぼくはそれまで宝箱の中の三匹のお友達しかいませんでした。
だから、新しいお友達ができて、本当にうれしかったです。

でも、れくすはわるい人をやっつけようとして、遠くに、遠くに行って、
ついにもどって来ませんでした。
次に会ったとき、れくすはもう動くことはありませんでした。
みんなから、そしてぼくの中からも、かなしい感じがいっぱい出てくるのが分かりました。
ぼくはそのとき決めました。わるいやつは許さないって。
わるいことができないようにやっつけてやるって。みんなのうらみ、ゼッタイ晴らしてやるって。

れくすは死んでしまったけれど、ぎどさんは、
ぼくが覚えているかぎり、れくすはぼくの中で生き続けるんだって言ってくれました。
「トンヌラ」の名前を付けてくれたのはれくすだから、
ここにれくすが生きているですか?きっとそうなんだと思いました。

おともだちができました。
「るか」っていうてりみたいな人と、「どるば」っていう強そうな「どらごん」さんでした。
どるばさんもるかさんも優しいです。
お肉を分けてくれました。とってもおいしかったです。
そのあと、いっしょにけしきを見ました。とってもきれいなけしきでした。
旅のナントカもみんなでいっしょに入ったからこわくありませんでした。
ふわーっとして、もやーっとして、みんなの顔がのびたりちぢんだりして面白かったです。



なんでれくすの体があるのでしょう?
なんでれくすに剣がささっているのでしょう?
れくすは何か悪いことをしましたか?
れくすは天国に行けなかったですか?
ぼくは泣きました。今までよりも、もっと、もっと泣きました。
そのとき、とつぜん、ぱんって音がしました。
てりがとつぜん、吹き飛ばされました。
ぷよぷよしたものに乗った、変なのが出てきました。
まだかわいていない、赤い血が付いていました。
れくすとてりにひどいことをした、わるいやつだと分かりました。

どるばが、こいつをやっつけてくれるって言いました。
なんだかとってもいやな感じがしましたが、どるばは強いから、大丈夫だと思って
先にてりを助けるために町に行くことにしました。
でも、それでもいやな感じがして、こっそり後ろの方を見てみると、
どるばが剣できられて……
それを見たとき、ぼくの体が勝手に動き始めました。
頭の中が、ぐるぐるまわって、止められない感じでした。



先ほどピエールが殺したドラゴンの支給品の杖。
とびつきの杖、ひきよせの杖、ようじゅつしの杖。
仲間がいる場合、そして逃げる場合、これら杖の効果は不利にはたらく。
とびつきの杖で自分一人逃げるわけにもいかないし、ひきよせの杖を使えば敵に追いつかれてしまう。
また、効果がランダムな杖は何が起こるか予測できないため、非常に使いにくい。
だが、狩る者が使えば、これらは非常に有用なものとなる。

とびつきの杖。奇襲ができるというメリットはあれど、敵陣のど真ん中に飛び込むのは、危険行為である。
ひきよせの杖。これを遠くから使えば、強制的に一対一に持ち込むことができる。
当たればいいので、銃のように細かく狙う必要もない。

相手との距離は30メートル程度。これなら、向こうが追いつく前に一匹始末する時間は十分にある。
ピエールは剣を構え、ギード達に向かってひきよせの杖を振った。


「トンヌラ!どこへ行くんだ!」
先ほどまでテリーに寄り添っていたトンヌラが、突然飛び出していったのだ。
その原因は分かっている。
ドルバは自分たちを逃がすための捨て駒となったのだ。
トンヌラはとても純粋だ。おそらく、感情的な行動だろう。
確かにあのスライムナイトは許せない。
だが、ここで殺されてしまうと、ドルバの行動、ドルバの思いは無駄になる。
逃げ切れるかどうかの微妙な距離だが…

それとも、確実に自分たちが逃げられるようにトンヌラ自身も捨て駒になる気なのだろうか。
させない。そんなことは絶対にさせない。まださほど離れていない、連れ戻すことができる距離だ。
「ギード!中のもの貸して!」
ギードの支給品袋に手を入れ、取りだした風のローブをさっとまとう。
少しでも身が軽くなるよう、自分の支給品袋は置いていく。
「トンヌラ、待て!戻ってこい!」
そういってトンヌラを連れ戻そうと飛び出た瞬間。
何故か自分の体はスライムナイトの真ん前にあった。
そして、まさに剣が振り下ろされようとしていた。


「トンヌラ!待て!戻ってこい!」
こんな声が聞こえました。
ぼくは反省しました。カッとなって、自分だけ勝手に行動するのはいけないことです。
急いでもどろうとしました。何で、るかはぼくを追いぬいているですか?
剣がふりおろされているのが分かりました。
るかも……?れくすも、どるばも、るかも、あいつにきられて……?
…だれかがぼくに話しかけてきました。そうじゃないかもしれないけど、そんな感じがしました。
自分の思う通りにやれって。自分のキモチを相手にぶつけろって。
もうぼくはがまんができませんでした。
ぼくは、もやもやしたキモチをみんなぷよぷよにぶつけることにしました。


剣が振り下ろされたとき、もうダメかと思った。
でも、俺だって冒険者だ、反射的に体は反応してしまう。
確かに一介の冒険者に比べたらまだまだの反応だろうけれど、
山から吹く風、このローブ自体の滑りやすさとつむじ風、ローブによって高まった自分の素早さ。
色々な要素が合わさって、大したダメージは無かった。
自分は生きてる。相手は戸惑っていた。
当然だろう、確実に殺せるはずの行動が、何故か失敗したのだから。
その隙をついて、わるぼうにもらったチカラ。命の無いものを破壊する、破壊の鏡のチカラで、青龍偃月刀を壊してやった。
それで、相手がさらに驚いているうちに、急いで逃げようとしたとき、何か赤黒いものが自分たちの周りを漂っているのに気が付いた。
何かと思って、ふとトンヌラの方を見ると、トンヌラの方にもその赤黒いものが漂っていた。
それで分かった。トンヌラの特技なんだろうと。
でも嫌な感じがした。そう、ちょうど、魔王に操られたモンスター、どうしても仲間にできないモンスターの発する感じに似ていた。


私は確かに青龍偃月刀を振り下ろしたはずだった。
それは確かに相手の脳天を捉えたはずだった。
だが、斬撃が滑って、ほとんどダメージを与えられなかった。
風の抵抗があった。おそらくあのローブのせいだろう。
この程度のタイムロスなど問題ない。もう一度一閃するだけの余裕はある。
相手は何を考えたのか、逃げずに刀の鎬地の部分を手で挟んでいる。冷静な判断を失ったか。
子供の腕力だ、たかが知れている、相手は丸腰、この状態でもはや反撃は不可能。
剣を持つ手に力を込め、下から斬り上げた。

刃の部分が無かった。剣が砕けていた。
どういうことだ?この剣に使用制限などは無かったし、そんな脆い武器でもなかったはずだが…?
考えても仕方がない、ウィンチェスターを取り出そうとして、周りの状況に初めて気付いた。
何だ、私を囲んでいるこの赤黒いものは?直後、映像が映し出された。

これは…?
確か、ゲームが始まって間もなく私が殺した少女だ。
こっちには、昼に焼き殺した黒装束の男。放送直後に殺した男。向こうは金髪の女性。
旅の扉の前で殺した、五人組のうちの二人。今さっき殺したドラゴン。
そして、今し方、剣を突き刺したレックス様。
何だ?一体なんなんだ?
こんなものを見せて何をしようというのだ?

  『ネェ、ドウシテ ワタシヲ コロシタノ?オニイチャンモ コロスノ?』
           『キサマハ ワタシノムスメモ コロスノダロウ?』
 『セッカク、テリーニ デアエタノニ、アナタノセイデ…。イマモコロソウトシテイル』

そうだ、子供でも容赦はしない。
全員殺して、リュカ様を生き残らせる。
貴様らは過去の亡霊だ、あの世で成り行きを見守っているがいい。
謝罪ならあとでいくらでもしよう。

    『キサマノセイデ、シシテナオ、ワタシノ プライドハ フミニジラレタ』
                         『オレサ、カノジョガマッテタンダゼ?ドウシテクレルンダ?』
    『イキノビタカッタ、ナニガナンデモイキノビタカッタ。ソレヲ…』

死んだのは貴様らの生への執念が弱いせいだ。
強い意志を持っていれば、必ず目的は達成できる。
私は達成する。リュカ様を元の世界に戻し、私自身はここで朽ち果てよう。
言い訳はそのときにいくらでも聞いてやる。邪魔をするな。まとわりつくな!どうして動けないのだ!

                   『キサマノヨウナマモノ、マスタートモドモイキルカチナシ』
『ネエ、ピエール、キミハモウ ボクラノナカマジャナイ。オトウサンモ キット ソウイウダロウネ』

そうだ、私はもはやあなたたちの仲間ではない。リュカ様を生かすためだけに動く、ただの駒なのだ。
駒に情などない。…なのに、未だに罪の意識に囚われて動けないでいるというのか!?自分がもどかしい!

『『『『『『『『シンデシマエ、オマエナンカ コロサレテシマエ!』』』』』』』』

たかが雑霊、だが何だ、この圧迫感は?頭が割れそうだ。
あの揺れている光、カンテラの光か?そうか、このあの包丁を持った見慣れぬモンスターの仕業なのか。
何か無いか?この状況を打破できる何かがないか?チャンスは無いのか?
こんなところで脱落してなるものか!


明らかにトンヌラの目がおかしい。あれは、野生のモンスターの目でも、ましてマスターのモンスターでもない。
最初の広間で見た、あの魔女と、その手下の目にそっくりだ。
それに、カンテラの周りに集まる変な霧。明らかに、何かの影響を受けている。
何とかして、もとに戻さないと…。

『ネェ、ドウシテ ワタシヲ コロシタノ?ドウシテ オニイチャンヲ コロソウトスルノ?』

イル?確かイルはもう死んでしまったはず。どうして?
スライムナイトを包む、赤黒い霧をよく見てみる。
イルだけじゃない。ドルバに、ミレーユさんもいる。他にも何人も見える。
もしかして、こいつが?こいつが、みんなを殺したのか?
心臓が、ドクン、ドクンと鳴っているのを感じた。

「その霧はトンヌラや死者達だけのものではない!魔女の魔力が入っておる!
 このままにしておいては、トンヌラの意識が魔女に乗っ取られてしまうぞ!」

『オニイチャンタチ、ワタシタチノ カタキヲ トッテヨ…』

「ルカ、止めさせるんじゃ!このまま殺しをさせてしまうと、もうトンヌラは元に戻れなくなってしまうぞ!」
でも、こいつは妹の仇…。
「ルカ!これを使うんじゃ!このオーブの魔力なら正気に戻せる!」
ギードが星降りのオーブを投げてよこした。
確かにこれなら多少の恨みや魔力といったものは取り払うことができるけれど…。

俺はスライムナイトのザックから武器を取りだした。
先に自分がこいつを殺してしまえば、トンヌラはこいつを殺さないですむはずだ。
それに、…どうせなら自分で仇を討ちたいと思う。
欲張りかもしれないけれど。

心臓の部分に確実にダガーを突き刺した。
頭に、ボウガンにセットされている矢をすべて撃ち込んだ。
といっても、ちょっと重いせいで、ほとんど外したけれど。
ウィンチェスターは…ちょっと無理か。
でも、もうこいつは動かないはず。

トンヌラの目の闇が一層深まった気がした。マズイ。
俺は急いで星降りのオーブをかざした。
トンヌラは何が起こったのか分からない様子で、きょろきょろしている。成功だ。
「さ、トンヌラ。もう大丈夫だよ。行…」


確かに動けるようにはなった。
だが、思った以上に体が言うことを効かない。
本体に攻撃されなかったので、一命は取り留めたか。
あの技も最後の「締め」は受けなかったので、ダメージは少ない。
今なら目の前の一人と一匹は油断している、本来なら殺せるのだが。
ダガーやボウガンを抜いたり、言霊を紡いだりすれば確実に気付かれる。
生きていることに気付かれれば、本体の部分にウィンチェスターの弾を撃ち込まれて今度こそ終わりだ。
ようじゅつしの杖。取り出すと同時に振れば効果が出る。効果がランダムであり、多少使いにくいが、
五分の四の確率で切り抜けられる!

魔法弾は当たり、相手は消えた。
ワープの効果らしい。この状況では、贅沢は言えない。
カメがこちらにきている。あの包丁のモンスターも健在だ。
このままでは勝てない。武器は体に刺さったダガーと散乱したボウガン。体も思うように動かない。
とびつきの杖なら、一瞬で町まで行くことができる。
不本意だが、仕方がない、退避しよう。急いで治療せねば後に響く。


突然光に包まれて、気が付いたら別の場所にいる。
そうだ、スライムナイトの本体は下のスライムだった。
じゃあ、あいつにやられたのか。
どうして肝心なことを忘れていたんだろう?あいつはまだ生きてるかもしれない。
ギードが追いついてるだろうから、多分みんなは大丈夫だと思うけれど…。
仇は取れなかったし、結局別れてしまったし、言い表せないけれど、もどかしい気分だ。


いきなり光がぱぁーっときて、気が付いたらぷよぷよがたおれて、るかは無事でした。
よかった、と思ったら、とつぜんるかのすがたが消えて、ぷよぷよもどこかへ行ってしまいました。
何がおこったですか?ぼくはどうすればいいですか?
何も分かりません。ただ、さっき感じた、もやもやな感じが残っているみたいでした。
何だったんだろ?

【ピエール(HP1/10程度) (MP1/2程度) (感情封印)(弱いかなしばり状態)
 所持品:魔封じの杖、ダガー、死者の指輪、魔法の玉、毛布、対人レーダー、オートボウガン
 ひきよせの杖[5]、とびつきの杖[5]、ようじゅつしの杖[5]
 第一行動方針:町に身を隠し、休む
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
 現在位置:カナーンの町】

【ギード 所持品:首輪
 第一行動方針:テリーの治療 第二行動方針:首輪の研究】
【テリー(DQM)(精神不安定回復気味、右肩負傷)
 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖
 第一行動方針:治療を受ける 第二行動方針:わたぼう、わるぼうを探す】
【トンヌラ(トンベリ)(精神不安定状態)
 所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ
 行動方針:テリー達についていく???】
 現在位置:カナーン北の草地】

【ルカ 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 、風のローブ 
 第一行動方針:ギード達と合流
 第二行動方針:ピエールを殺し、妹の仇をとる】
 現在位置:?】

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最終更新:2008年02月16日 01:39
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