435話

第435話:考える亀


前方の山を境に、左に緑の森、右に黄土色の砂漠が見える。
「腹減ったなぁ……」
「ずっと歩きづくめじゃったからな」
太陽はもう大分傾き、風は涼しさを増してきた。
山道を避け、山脈に沿って歩いて来たので、かなり遠回りになってしまった。
テリーはまだ肩の痛みが残っていたが、ギードに余計な体力を使わせ、負担を掛けたくなかった。
トンヌラはすっかり落ちついたらしく、ぺたぺたとテリーの後に付いてきている。
「この分だと、カズスへ着くのは夜になるかな」
「となれば、ここらで一休みした方がいいかもしれんな」
「ここなら回りも見えるし、安全かな…… よし! ご飯にしよう」

ひらけた平原の真ん中に腰を落ち着けたのには、ちょっと理由がある。
ここまで来る途中、山に大きな雷が落ちるのを見た。
ギードが言うには、あれは自然現象ではなく、人為的、魔法の類いだろう、という事だった。
普通に考えても、雲ひとつない青空からいきなり雷が落ちる事は、まず、無きに等しい。
それを裏付けるかのように、落雷から間もなく、何か、影のようなものが飛び去るのを目撃した。
遠目ではあったが、あれは――確かに人間であった。
もし誰か、そのような術を使う者や、あのスライムナイトのような襲撃者が近づいて来た場合でも、
見晴しのいい場所ならばすぐに察知できるし、逃げる事もできる。

草の上に座ったテリーは、食事を取り出そうとザックを開いた。
その時、ふと、シャナクの巻物が目に止まった。
「ねえ、ギード」
「何じゃ?」
「これで首輪外せないかなぁ」
テリーは巻物を広げてギードに示した。
「これ使うと呪いとか解けるんだろ? だから、ひょっとしたら……とか思ってさ」
一瞬、ギードの目が大きく見開かれた。

「まあ、無理じゃろうな……この首輪には、魔術の他、様々な力が絡み合っておるようじゃし……
 それに、あの魔女が、『参加者』にわざわざそんな物を持たせる訳はなかろう」
しばしの沈黙の後、ギードは説き伏せるように、静かに言った。
「そうだよなぁ……」
テリーは巻物をしまい、ナプキンを広げてギードとトンヌラの分のパンをちぎり始めた。
単なる思いつきを言っただけで、特に深い考えがあった訳ではなかった。

だが、食事をしている間、そして休息中もずっと、ギードは何かを考えていた。

「さて……少し急がなきゃ」
カズスへ行くには砂漠を渡る方が距離的には近いが、砂に足を取られて歩き辛い上、暑さで体力も奪われる。
そう判断したテリーとギードは、食事と休憩を終えた後、森の方へ向けて歩き始めた。
が……突然、トンヌラが砂漠の方へ走り出した。
「トンヌラ、そっちじゃないよ!」
「ふむ、何かを見つけたようじゃな」
テリーは慌ててトンヌラを追い掛けた。

「なに? 何を見つけたの?」
ほどなく追い付いたテリーは、トンヌラの指差す方を見た。
草の上に、何か光るものがある。
それは、鈍く光る、金属の造型――確か、銃とかいう物だ。
すぐ近くに、その弾らしき物も落ちていた。
「これかぁ」
テリーは銃を拾い上げた。思ったよりも重く、手にずっしりとくる。
「ルカが似たようなやつ持ってたな」
よく分からないけど、ちょっとカッコイイ、と羨ましく思っていたテリーは、弾倉も拾い上げると、銃と共にザックに入れた。

その時、声にならない叫びが耳を貫いた。
「トンヌラ?!」
少し離れた場所で、トンヌラは、黒い土塊を前に体を突っ張らせたまま、ブルブルと震えていた。
「どうしたんだ? 何……っ……」
駆け寄って、「それ」を見た瞬間――息が詰まり、心臓が止まるかと思った。


土塊のように見えたもの、それは―― 人間――いや、かつて、人間であった物体――
焼け爛れ、手足をもがれ、胴体を真っ二つに寸断された、無残な亡骸――


「……うわああああああっ!!」

思わず、さっき食べたパンが逆流しそうになった。

「テリー?!」
テリーとトンヌラの異変に気付いたギードも、こちらにやって来た。
「うっ……!」
テリー達が見つけた「それ」を見て、ギードも顔をしかめる。
「惨いな……」
「こ……ここまでしなくたって……」
衝撃が去り、少し落ち着きを取り戻すと、自然にテリーの瞳から涙が溢れた。
こんな体になりながらも、命尽きるまで必死に抵抗したのだろうか……
亡骸は、何故かナイフをしっかりと銜えていた。

この人に、どんな罪があったというのだろう?
たとえ、この人がとてつもなく悪い人だったとしても……こんな仕打ちが許されていい筈はない。

余りにも損傷が酷過ぎ、持ち上げると崩れそうだったので、テリー達は回りの土を掘り、亡骸の上へかけた。
最後まで離さなかったナイフも胸の上に置き直し、一緒に埋めてあげる事にした。
埋葬を終え、軽く手を合わせた後、一行は沈黙したまま森の端へと歩き出した。

テリーの胸に渦巻いているのは、不安、悲しみ、そして理不尽なものへ怒り。
そしてトンヌラも、それを強く感じ取っているのだろう。
だが、ギードは別の事を考えていた。

『あれだけの衝撃を受けても、壊れもせず、融けもせんとは……』

あの亡骸の全身が隈無く焼かれていた事から見て、普通に火を着けられたとは考えにくい。
恐らく、強力な魔法をまともに食らったのだろう。
にも関わらず、あの首輪には傷も歪みもなかった。

『やはり、魔力以外の力……もしや……?』

「……ギード」
テリーが突然重い沈黙を破り、ギードは我に返った。
「何じゃ?」

「首輪、外せなくても、助かる方法……もう、誰も死なずに……殺されずに済む方法……ないのかな」

ギードは目を細め、ゆっくりと首を縦に振った。
「……もちろん、有る……だから、それを考えるのじゃ」

【ギード 所持品:首輪
 第一行動方針:ルカとの合流 第二行動方針:首輪の研究】
【テリー(DQM)(右肩負傷、3割回復)
 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖、りゅうのうろこ×2、鋼鉄の剣 、コルトガバメント(予備弾倉×4)
 行動方針:ルカ、わたぼう、わるぼうを探す】
【トンヌラ(トンベリ)所持品:包丁(FF4) スナイパーアイ、りゅうのうろこ
 行動方針:テリー達についていく??】
【現在地:カズス北西の森西の草原からカズス北西の森南端へ】

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最終更新:2008年02月16日 01:41
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