304話

第304話:復讐の炎は消えず


焼け焦げた地面と木々。飛び散った血痕。突き立ったままの矢。穿たれた弾痕。
あまりの惨状に、オレは思わず呟いた。
「なんつーか……この村って、前からこんな感じだったんッスか?」
「んなわけないだろ」
ロックが答える。その声にはやはり元気が感じられない。
それがこの光景のせいなのか、セリスという人のことを引き摺っているせいなのかはわからないが……
「長居は無用みたいッスね」
オレはそう言って、旅の扉を探して歩き出した。

「あれ、ロックさん?」
大きな家の前を通り過ぎようとしたとき、誰かがロックを呼び止める。
振り向くと、見覚えのない妙な二人組が立っていた。
片方は、全体的に田舎っぽい雰囲気を漂わせた、少々目つきの悪い緑髪。
もう片方はいかにも外見に気を使っていそうなタイプの、背の高い茶髪。
どちらも、年齢はオレと同じぐらいだろうか。
「ソロ、知り合い?」
オレとロックが何かを言う前に、茶髪が口を開いた。
「ああ、昨日の昼にお世話になった人だよ。食事の時、ヘンリーさんが少し話してただろ」
ソロと呼ばれた緑髪が答えるが、茶髪は「そうなの?」と首を傾げている。
「……あ、そうか。何て言えばいいかなぁ。
 えーと、とりあえず悪い人じゃないから、その辺りは心配しなくて大丈夫だよ。 
 ね、ロックさん」
「そんなことはどうでもいいだろ」
微妙なところで同意を求めてきたソロに対して、ロックは突き放すように切り捨てた。
「オレのことなんかどうだっていいんだよ。
それよりお前、金髪の女を見なかったか? セリスって名前の、ロングヘアーの若い女だ」
……まだ言ってる。
呆れ帰るオレを余所に、ソロが話し掛ける。
「セリス、って……その人、放送で呼ばれたんじゃ」
「ああ、そうだ。だが、見かけていたなら教えてほしいんだ」
「……ロックさん、何があったんです? フリオニールの姿も無いし……」
「それを言うならお前だってヘンリーはどうしたんだよ」

だんだん、オレの知らない話になってきた。
ロックとソロが熱心に話しこみ、その傍らでオレと茶髪のヤツが取り残されてる格好だ。
「なんか、ついていけないッスね」
手持ち無沙汰になったオレは、茶髪に声をかけた。
そいつは数秒ほどぼんやりとしていたが、話し掛けられているのが自分だと気付いたか、はっと顔を上げる。
「え? あ、ああ、そうだね」
「………」
何だか知らないが、こいつもどこか挙動不信だ。
ロックよりはマシだけど、そわそわしているというか、不安が滲み出ているというか、落ち着きがないというか……
いや、それ以上に気になるのはこいつの顔だ。
最初は見覚えがないと思ったものの、やはりどこかで見かけたような気がする。
どこでだろう? 思い出せないが、単なる既視感という奴にしては引っ掛かる。

「あんたさ、前にどっかで会わなかったか?」
オレがそう尋ねた瞬間、茶髪が息を呑んだ。
見開かれた目には、驚愕というより恐怖に近い色が宿っている。
そう、その表情だ。どこで見た? あれは、確か……
「あー! そっか」
思い出した。――こいつ、一番最初に名前呼ばれて出て行った奴だ。
「あんた、確か……アー……アーヴィンとかいう人ッスよね?
 ティアマトだったっけ、でっかい竜に、アイウエオ順がどうとか尋ねてた」
「え?」
アーヴィンはしばしの間、ぽかんとオレを見つめた。
そして、いきなりぺたんと地面に座り込んだ。
「ど、どうしたんッスか?」
「……ごめん。何でもない」
右手で口を押さえ、地面に目を落としながらアーヴィンは言う。
「また、迷惑をかけたんだと思ったんだ」
「迷惑?」
ちょっと待て。どこをどうやったらそういう話になるんだ?
ソロとの噛みあってない会話といい、やっぱり何かおかしい。
そんなオレの疑惑に答えるかのように、アーヴィンが口を開いた。

「わからないんだ……昨日、自分が何をしていたか、全然覚えてないんだ。
 ヘンリーさんやソロが教えてくれたけど、それでも思い出せない。
 でも、間違いないんだ。全部僕がやったんだ。それだけはわかるんだ。
 僕がギルバートさんを……たくさんの人を、ころ――」

――その言葉を最後まで聞くことはできなかった。
突然、視界を埋め尽くすほどの激しい砂煙が舞い上がったのだ。
風や何かのせいとも思えない。
「これは? ……まさか、アーヴァイン!」
黄土色の紗幕の向こうで、ソロの声が響く。
困惑するオレの耳に、甲高い女の子の声が届く。
「イオラ!」
叫びとともに、身を焦がすような熱風が巻き起こった。
一瞬遅れて、衝撃が砂塵もろともオレらの身体を吹き飛ばし、地面に叩きつける。
「う……くそっ!」
オレは地面を転がりながら、その弾みを利用して身を起こした。
薄れていく煙に、二つの小さな人影が霞む。
「久しぶりだな、アーヴァイン」
そう言ったのは子供だった。家の戸口の前に立つ、赤髪の少女と医者のような服装の少年。
二人とも並々ならぬ敵意を込めて、アーヴィン……もといアーヴァインを睨みつけている。
「そいつらがティナのヤツの代わりか?
 仲間を集めて、俺やバーバラを仕留めに舞い戻ってきたってのか?」
「……ティナ?」ロックが小さな声で呟く。
その言葉が聞こえたのかどうか、少年は喉を鳴らすように笑った。
間違っても子供のする笑い方じゃない。
シーモアのそれに似た、暗い憎悪と復讐心を秘めた、そんな笑いだ。
「ご苦労なこった。――だが、誰がテメエなんかに殺されてやるかよ。
 死ぬのはお前だ、アーヴァイン!」
少年がラケットを振りかぶった。
圧縮された空気が、全力でシュートされたブリッツボールのようにアーヴァインに向かって走る。
だが、寸前で弾け飛んだ。
アーヴァインを庇って飛び出したソロの、白銀の盾に防がれて。

「止めるんだ」
どこか哀しげな声でソロは言う。
「彼にはもう、戦う意思はない。
 僕もロックさん達も、人を傷つけようなどとは思っていない」
「………」
二人は意外にも静かに聞いている。
オレは、地面に座り込んだままのアーヴァインに目をやった。
かすかに身を震わせ頭を抱え込むその姿は、嘘偽りや演技だとは思えない。
「アーヴァインは罪を犯したのかもしれない。
 けれど、彼にだって友達や仲間がいる。彼が死んで悲しむ人もいる。
 ……君たちだって、これ以上悲しむ人を増やしたいわけじゃないだろう?」
「それで? だから、許してやれっていうつもり?」
「見逃してやってほしいんだ。
 許せないのかもしれないけど、だからといって命まで奪う必要はないはずだ」
「……なるほどね」
少年が笑った。くすくすと。
「イクサス?」
バーバラというらしい少女が、相方に振り向く。
少年――イクサスは、静かに言った。

「ふざけるなよ」

イクサスの姿が掻き消えた。
一拍遅れて、大きな金属音と共にソロの身体が吹き飛んだ。
「ソロ!!」
アーヴァインが叫ぶ。
目にも止まらぬスピードの体当たり、それをまともに喰らったソロは、それでもよろよろと立ち上がる。
「ちっ、やっぱり上手く使いこなせないな」
靴に着けられた装置をいじりながら、イクサスが呟いた。
その視線は、最初からアーヴァインにのみ注がれている。
「こいつの知り合いなんて、どうせこいつと同類だろ。
 そんな奴らが何人悲しんだって、知ったこっちゃないね」

「……ロックさん。それに、そこの君。
 僕がこの子達の相手をしますから、アーヴァインと一緒に道具屋に行ってくれませんか。
 ヘンリーさんと僕の仲間が待ってるんです」
ソロが言った。オレはロックとアーヴァインを見た。
ロックは……動かない。アーヴァインは……
「何言ってるんだよ、ソロ。
 あんたこそ、早くみんな連れて逃げろよ」
そう言って、両手を上げて子供たちの前へ進み出た。
「アーヴァイン?!」
「悪いのは僕一人、だろ? あんたまで恨みを買う必要はないさ。
 ――そういうわけで、僕は君たちに投降するよ。
 そのかわり、他の人は見逃してやってくれないかな。僕以外は誰も、何も、悪い事なんかしてないんだからさ」
緊迫した雰囲気にはそぐわない、軽い口調だった。
しかし、決して嘘や冗談で言っているわけではないということは、オレにもわかった。
……だが。
「そんなこと言ったって、もう騙されないよーだ!」
バーバラが両手をかざす。
「ベギラゴン!」
閃光にも似た巨大な炎の壁が、駆け寄ろうとしたソロの行く手を遮るように走る。
そのまま炎はロック達を取り囲み、ついでにオレらの退路をも断ち切った。
そして。
「悪い事なんかしてないだと? 貴様と一緒にいるだけで同罪なんだよ!
 貴様も、そいつも、そいつも、そいつも!
 ティナやマッシュやスコールやギルダーと同じ、どいつもこいつも同じ、裏切り者の人殺しだ!」
イクサスがまたもやラケットを撃った。今度は何かボールのようなものを乗せて。
オレの目の前で、アーヴァインは右足を後ろに下げ――突然、左腕を振りかぶる。
そのまま下がっていれば難なく避けられたはずのボールは、アーヴァインの腕に当たってはじけた。

「……バカが」

イクサスが嫌な笑いを浮かべる。
その意味を示すかのように、アーヴァインが急に激しく咳き込んだ。
「ゲホッ、ゴホッ……ぐ、うぁ……ゲホッ、ゲホッ、がはっ」
普通の咳じゃない。喉を掻き毟って、苦しげに口をぱくぱくと動かしている。
そして良く見れば、白っぽい粉のようなものが周囲に舞っている。
(――まさか、毒?)
そんな考えが脳裏を過ぎると同時に、冷徹な声が響いた。
「死ねよ、お前も」
ラケットがまたもや宙を切ろうとする。
あの毒薬の弾は入っていない――が、まともに喰らえば真後ろに吹き飛ばされて、炎に焼かれて一貫の終わりだ。
オレは横に避けようとした。
「させないよ、ベギラマ!」
けれども、バーバラの唱えた魔法が、逃げ場を塞ぐように炎の壁を作り出す。
まずい――!!

オレがそう思った時、急に、身体が浮き上がった。
真後ろでも、横でもない。
真上に高く、高く飛び上がり、炎の輪を抜けて地面の上に着地する。
そんな力が残っているとも思えないのに、アーヴァインがオレの腕を掴んで飛んだのだ。
「ごめ、ん……巻き込んで……」
ぜひぜひと苦しげに喉を鳴らしながら呟く。
「早く、逃げろ……」
その身体がぐらりと傾いだ。
オレは慌てて支えたが、アーヴァインは既に気を失っていた。

「……」

オレは後ろを振り向く。道の向こうに、青い光がかすかに見える。
道具屋はどこだかわからない。探している暇なんてなさそうだ。

「……事情はさっぱりわかんねーけど……オレ、恩知らずにはなりたくないッスよ」

オレはアーヴァインの身体を担ぎ上げた。そして、真っ直ぐ光に向かって走り出す。
「君?!」「ティーダ!?」――炎の向こうから、ソロとロックの声が。
「待ちなさい!」――バーバラの叫びが。
「逃がすか、このヤロウ!」――イクサスの怒号が響く。
けれどオレには届かなかった。
それを耳にした時は、もう、青く輝くゴールに身体ごと飛び込んでいたから。

【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
 第一行動方針:仲間になってくれる人を探す/アーヴァインを助ける(ただし、人殺しだとわかったら……?)
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【アーヴァイン(気絶+毒、HP2/3程度、一部記憶喪失(*ロワOP~1日目深夜までの行動+セルフィに関する記憶全て)
 所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
 第一行動方針:? 第二行動方針:罪を償うために行動する】
【現在位置:レーベの扉から新フィールドへ】

【イクサス(軽度の人間不信)
 所持品:加速装置、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、ねこの手ラケット、拡声器、
 紫の小ビン(飛竜草の液体)、カプセルボール(ラリホー草粉)×2、カプセルボール(飛竜草粉)×3、各種解毒剤
 第一行動方針:アーヴァインを追う、もしくはソロ達を殺す
 第二行動方針:ギルダー・アーヴァイン・スコール・マッシュを殺す/生き残る】
【バーバラ 所持品:ひそひ草、様々な種類の草たくさん(説明書付き・残り1/4) エアナイフ
 第一行動方針:イクサスに着いていく 第二行動方針:自分をハメたアーヴァインに復讐する
 最終行動方針:エドガー達と合流/ゲーム脱出】

【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ
 第一行動方針:イクサス達を傷つけずに退ける/ヘンリー達と合流し、旅の扉へ移動
第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
 行動方針:?】
【現在地(四人共通):レーベの村、バーバラ達がいた家の正面付近】

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最終更新:2008年02月16日 14:09
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