FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 483話


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第483話:二重写しの死影


何者かが追ってきている事には気付いていた。
相手をしようかとも思ったが、喉元から込み上げる吐き気が制止した。
澱のような感覚は、動けば動くほど全身に浸透していく。
やけに梃子摺らせてくれたカメ。あいつが使ったという毒の魔法の影響だろう。
これだから魔法使いは嫌いだ。

早くリュカに会いたい。
あいつは回復呪文を使っていたから、キアリーぐらい覚えているだろう。
ピエールかエドガー、あるいはリュカの娘とかいう子供――タバサを捕まえて、丁寧に壊しながら頼めばいい。
そうすれば、きっと昼間みたいに親切に、あたしの身体を癒してくれる。

目指すはサスーン。
方位磁針を取り出すまでもなく、ゴゴ達がやってきた方角だ。
あたしはザックから薄汚れた翼を取り出し、マントを羽織るように装備する。
テリーの奴が使えたんだから、あたしにだって使えるに決まってる。
炎の爪といった魔法の道具を使う要領で、意識を集中させた。
灰色の羽が微かに音を立て、あたしは宙へと舞い上がる。
地上から十センチほど浮いたところで一旦停止、全速力で前へと駆ける。
こうすれば石ころだの木の根だのを気にしないで済むし、転ぶ心配もない。
少し頭が疲れてくるけれど、うざったい追跡者もどうにか撒けそうだ。


何分ほど空を翔けただろう。
木立が途切れ始め、露出した岩を目にした辺りで、ようやくあたしは異変に気付いた。
来た道を振り向き、左手の方へ視線を向ける。
森の中からでは決して見えなかった双塔のシルエットが、月明かりに照らされていた。

おかしい。あたしはゴゴ達が現れた方角に進んできたはずだ。
わざわざ山岳地帯を通ってきたのか?
一体何のために?
フルスピードで回転し始めた思考は、やがて一つの結論を導き出す。

ウィーグラフの話では、ピエールは突如現れた自称竜騎士の白魔導士と子供達を追っていったという。
だとすればどこかで派手な戦闘を繰り広げていたのかもしれない。
それを見かけたゴゴとマティウスが、助太刀を行ったとしてもおかしくはない。
加えて思い出す。ウィーグラフが言っていたもう一つの情報を。
白魔導士とは通常、回復の技を心得ている者を指すらしい。
その中でも特に高レベルな者だけが、ピエールを吹っ飛ばした攻撃魔法を扱えるそうだ。
つまり子供と魔物を助けた男は、回復魔法のスペシャリストということになる。

作戦変更。
邪魔をした白魔導士を探し出して、利用してから、子供共々始末しよう。
そちらの方がリュカ達を脅すよりも手軽だ。
何せ、普通の白魔導士ってのは魔法以外何の取り得も無い虚弱な連中だって話だし。
あの子供もタバサと違って、ただ震えているだけだった。

手頃な高さの木を探してから、翼に意識を集中させる。
高度を上げ、枝に飛び乗り、また高度を上げてを繰り返し、天辺近くまで登る。
そうして地上を見下ろしてみると、百メートルほど離れた地点に、小さな明かりが灯っていた。
普通に森を歩いているだけでは決して気付かない場所。
でも、地形だの何だのに安心して、焚き火を熾したことが間違いの始まりだ。

くすっと笑いながら地上に戻ると、かすかな眩暈があたしを襲った。
全力を出して戦ったせいで、毒の回りを早めてしまったのだろうか?
それとも翼を使うのに精神力を削ったせいか。
どちらにしても、早めに治療しておかないとまずいかもしれない。
負けて死ぬのもごめんなら、のたれ死ぬのも真っ平だ。

ゴゴから奪った靴を履き、地面を踏みしめながら、あたしはゆっくりと獲物に近づく。
焚き火の傍にいるのは、カンテラを抱いた例の銀髪の子供と、金髪の少女と、白いローブを着た人間。
魔物がいないことを除けば、あたしの読みは完全に当たっていたようだ。
どこかに隠れているのかとも思ったけれど、視界の片隅に墓らしきものを認め、事態を理解する。
高揚する気分を抑え、慎重に距離を詰めていく。
残り数メートルに達したところで、一旦足を止め、耳をそばだてた。

「兄ちゃん、リルム……みんなは大丈夫だよな?」
「大丈夫だよ。ゼルはね、町一個吹き飛ぶ大爆発から生還した男だよ?」
「そうそう。ゴゴなんて、物真似で世界を救った奴だし」
「ギードだって、プロの格闘家顔負けの勢いで渡り合っていたじゃないか」
「ツノ男は謎だけど、あの物腰は只者じゃないからきっと強いって」

現実も知らず、好き勝手に言っている連中を横目に考える。
果たして誰の身柄を押さえるのが一番いいのか。
最も近くにいて取り抑えも簡単なのは銀髪の子供だが、白魔導士が攻撃してくるかもしれない。
カメのことは遠慮なく切り捨てていたのだし、一概にお人よしと決め付けられない相手だ。
ならば白魔導士本人を捕まえてしまうべきか。実力がわからない少女にするべきか?

思案に耽る間もなく、魔導士が動いた。
「テリー。もう夜だし、リルムと一緒にお休みしなさい。
 心配しすぎても疲れちゃうし、あっちの岩陰なら風も来なくてぐっすり眠れるよ」
「……そうだね。一眠りして目が覚める頃には、みんな戻って来てるよ」
思わず舌を打ちたくなった。あの子供、髪の色ばかりではなく名前まで『テリー』と同じらしい。
人の苛立ちを他所に、リルムと呼ばれた子供が、テリーの手を繋いで立ち上がる。
そうして二人は、あたしがいるのとは正反対の方向に歩き出した。
一方で、魔導士は大きなあくびをしながら、あたしの方へ向き直る。
絡まっていた思考は、その瞬間に行動を命じた。

だらしなく口を開けた男の目前に踊り出て、両手を掴み取る。
右足を相手の左足に絡めて手前に引き寄せ、体勢を崩させたところでジャンプ。
左の膝で顎を蹴り飛ばし、押し倒しながら胸の上に着地して、男の身体を組み伏せた。
もちろん全ての動作は最大限に手加減している。
本気でやれば簡単に殺せるが、今回ばかりはそれでは意味が無い。

「動かないでね。そこのガキもよ。
 少しでも変な真似したら、首をへし折るから」
耳障りな悲鳴を上げる子供達を制し、膝の下に視線を移す。

目深に被っていた白いフードが脱げ、若い男の顔が露出している。
顔立ちこそ違うが、ウェーブのかかった長髪と青い瞳がエドガーを思い出させた。
魔法使いというだけで十分むかついていたけれど、目と髪のせいで百倍増しだ。
テリーはテリーで言わずもがなだし、リルムはタバサと同じ金髪で、年頃も近い。
元々逃がす気はないとはいえ、ますます苛立ちと憎しみが募る。
でも、その前に、やらせるべきことはやらせないといけない。

苦しげに顔を歪める男に、あたしは軽く微笑みを向けた。
「頼みがあるの。素直に聞いてくれたら見逃してあげるわ」
「たの……み?」
胸に体重をかけているためか、苦しそうに息を吐く。
この調子なら、面倒な真似をしなくても応じてくれそうだ。
「そう。そっちの子供が連れてたカメに変な魔法かけられたの。
 だから責任を取ってほしいのよ。シロマドウシなら、キアリーぐらい使えるんでしょう?」
「き、きあり~……?」
理解力がないのか、とぼけているのか。あたしは両手と膝に力を込める。

「このまま手首と肋骨折ってもいいのよ?」
男は小さく息を飲み、ゆるゆると首を横に振った。
それから絞り出すように、か細い声を上げる。
「ちょ、いや、だから、『きあり~』って、何のための魔法なんだよ?」

ああ、とあたしは心の中で手を打った。
ゴゴが使った魔法のように、同じ効果の技でも、他の世界では名前が違っているんだろう。
ダメだダメだ、こんな短絡思考。本物のアリーナじゃあるまいし。
自分には冷静さを、魔導士には頼み事を、改めて命じる。
「解毒の魔法よ。使えるでしょ、それぐらい」

すると魔導士はぱちぱちと瞬きをし、それから焦ったようにまくし立てる。
「む、無理だ、今は。傷を治すのに、魔力を使い果たしちゃったんだよ。
 二十分……いや、十五分待ってくれ。そうしたらどうにか唱えられるから」
「あら、そうなの」

あたしはとびっきりの笑顔を作り、筆を折る時のように右手に力を込めた。
思ったよりは筋肉がついていたけれど、三秒ほどでバキッと渇いた音がする。
「うわああああああああああああッ!?」
よっぽど打たれなれてないんだろう。予想外に盛大な悲鳴が上がる。
聞き分けのない体がびくんと跳ねて、思わずバランスを崩しそうになる。
おまけにバカなところまでそっくりなテリーが、「兄ちゃん!」なんて近寄ろうとしてきた。
あたしは折れた右腕を全力で捻り上げながら命令する。

「ね、お兄さん。言ってあげなさいよ、近づくなって」
「く、来るな、テリー……はやく、逃げ」
余計な事を言う前に、片足を軽く浮かせて、つま先を股間に押し付ける。
「余計な事言うと踏み潰してすり潰すわよ?」
汚いから本当にやるつもりはないけれど。
間に受けたのか、逆に冗談だと思ったのか、か細い声で呟いた。
「この、サディスト女……そういうのはマゾの奴にやれよ……」
微妙に意味がわからないけれど、とりあえずふざけるだけの余裕はあるらしい。
左手を潰してやろうかと思ったけれど、向こうも予測してるだろう。
目を抉るのもクリムトにやったし、ワンパターンはつまらない。
「こんなの、片方だけあれば十分よね」
あたしはそう言って右手を離し、落ちていた木の枝を拾い上げる。
そうして呆気に取られる男の耳に、脳を突き破らない程度に突き刺した。

「ッぐああああああーーーーーーーーーーーッ!!」
先ほどよりも大きな悲鳴を迸らせた辺り、これはかなり効いたらしい。
派手に動かして反応を楽しんでみたかったけれど、流石に遊んでいる場合ではないと自制心が働く。
子供達の様子を伺い直したが、二人とも地面に手を当てて睨みつけているだけだ。
見捨てて逃げれば、片方ぐらいは生き延びられたかもしれないのに。
バカガキ二人を嘲笑いながら、残っている左耳に顔を近づけて、そっと囁く。

「ねぇ。治してくれる?」
男は何度も口を動かした。
どうやら「わかった」と連呼しているらしい。

あたしは手を小刻みに動かしながら、枝を引っこ抜いた。
軽い手ごたえを感じる度に、足元で痙攣するのがうっとおしかったけれど、仕方ないだろう。
そうして完全に抜いてやると、男は半分白目を剥きながら息を吐く。
か細い声で何かの文句を唱え始めたのはしばらくしてからだった。

もうすぐだ。
もうすぐでこの疎ましい気だるさから解放される。
あたしはそっと目を閉じ、未来のことへ思考を移す。
マティウスにリュカ達にピエール。それに本物のアリーナ。
倒さないといけない連中は一杯いるのに、回復手段が心もと無いのが痛い。
……癪に障るが、この男は極限まで生かしておくべきかもしれない。
徹底的にしつけた上で片耳と口だけ残しておけば、薬草の代わりになる。
あたしも学習した。
大人のテリーのように早く切り捨てても、何もいいことなんてない。
利用できるものは限界まで利用することを考えた方がいい――

「――」

「……?」
男が押し黙ったことに気付き、あたしは我に返る。
「何よ。さっさとしなさいよ」
促すつもりで、喉に手をかけた。
だが、みっともなく歪んでいたはずの顔は、うって変わった表情を浮かべる。
苦痛の色さえ塗り潰した不敵な笑顔。
それが合図であったかのように、後方に殺気が生まれた。
「おらぁッ!!」
振り向くと同時に気合の入った掛け声が響く。
あたしは盾にするために、素早く男の身体を引き上げた。
しかし。
「ガーデン生を、甘く、見るなよ!」
わけのわからないことを叫びながら、男が片手で大地を突き上げ、身を捻る。
反動で回転する身体。
予想外の動きにあたしは反応しきれず、長大な剣の目前に投げ出された。
目前に迫る切っ先。サイドステップは間に合わない。
あたしは男の身体を突き飛ばし、切っ先を片手で挟んだ。
痺れるような衝撃と刃を、真横の地面に受け流す。
同時に死角となった『元前方』から迫る何かを避けようと、振り向き様に飛び退いたが。
「援護射撃と女のコの相手はっ、僕の専売特許だよ!」
忌々しい魔導士が、自由になった左手であたしの服を掴んで引き寄せた。
体勢を崩したあたしの目に飛び込んできたのは――アリーナの姿。

「リルム様を舐めてると痛い目見るんだぞ、凶暴ズンドー女!」
しゃがみ込んだ子供達。その前にある地面が奇妙に彩られている。
その意味を知るより早く、アリーナが間合いを詰めてくる。
『消えろ、偽者!』
唸りを上げる右ストレート。それは物真似ではない、紛れもないあたし自身の拳。
とっさに翼に意識を集中させ、宙に浮いて交わしつつ、魔導士に蹴りを入れて弾き飛ばす。
そのまま着地して連続攻撃に移ろうとしたが、水晶の剣が間合いを詰めていた。
「余所見してる暇は無いぜ!」
銀色の髪を持つ乱入者が懐に飛び込んでくる。
あたしは身を捻りながらフックで迎撃。
攻撃動作に移る前に相手を殴り飛ばし、どうにかまともに斬撃を浴びることだけは避けた。
奪った靴がなければ危なかったところだ。
体勢を立て直される前に、あたしはバック転して間合いを取り直す。
アリーナの姿はどこかへ消えていた。
あたしは指の間から流れる血を舐め取りつつ、残った三人と一人に視線を注ぐ。

「ロック!」
襲撃者の姿を認めたのか、リルムが驚いたように声を上げた。
一方で、ロックと呼ばれた銀髪の剣士は、魔導士を見やりながら面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「何でお前がリルムと一緒にいるんだよ」
「い、色々あってさ~。それにしてもロックさんが近くにいたなんてラッキーだよ。
 あれ以上の引き伸ばしなんて、正直自信無かったしさ~……」

魔導士は右耳を抑えながら、相変わらずの情けない声を出す。
何度か蹴飛ばしはしたが、耳と右腕以外は大したダメージではないだろう。
アリーナならともかく、あたしは目的を忘れるほどバカじゃない。
それに無理な体勢と毒の影響で、力も上手く入れられなかった。
杖を拾い上げ、ロックの傍に逃げている余裕こそが、その証拠だ。

「うるさいふざけるな近寄るな馬鹿野郎。
 お前の事はヘンリーから聞いたんだ。自分がしたこと忘れたとか言うなよ」
「ぼ、僕よりあっちの方がヤバイってば~。あいつ、ティーダ狙ったストーカーだよ?
 それに……落雷だの隕石だの、この近くでマティウス達とあいつが戦ってたと思うんだけど~……」

ゴゴの名前を聞いて、あたしは思わず笑みを浮かべた。
「へぇ。やっぱり知り合いだったの」
人のことを睨み据えていた二人に、履いている靴を見せ付けてやる。
意味を悟って顔色を変えたのは、魔導士と子供達だけだった。
「このズンドーまな板……ゴゴをどうしたんだ!」
顔を紅潮させながらリルムが吠える。
どの辺りがズンドーでまな板なのか、歯をへし折りながら聞いてみたいところだが。
「会いたいなら今すぐ案内してあげるわ。地獄への片道切符と一緒にね」
苛立ちを抑え、意趣返しとばかりに挑発してやると、二人の男は両極端な反応を見せた。
片やわざとらしく身を震わせ、片や眼光鋭く睨みつけ。
ただしその瞳に宿る色は、リルムと同じ、明確な敵意。

「ねぇ、どーするの?
 僕の立場としては、ヘンリーさん達が怒るようなことはしたくないんだけど」
「そりゃ、余裕があれば穏便に生け捕った方がいいだろうな。余裕があれば」
「それ、『余裕がないから以下略』って意味で、ファイナルアンサー?」
「「ファイナルアンサー!」」

少女と剣士の唱和した声が、二度目の開戦合図。
あたしが大地を蹴り、間断挟まずロックが駆ける。

この男、素早さは本来のあたしと同等かそれ以上だ。
だが、あたしは魔法の靴を履いてるし、相手は中空への攻撃手段を持っていない。
限界までひきつけた上で、翼を使って上空へかわす。
足首をわずかに切りつけられたけど、所詮は浅手だ。
そのまま空を駆け、先にリルムを仕留めに向かう。
魔導士を捕らえている間は気付かなかったが、リルムの回りには幾つもの絵が描かれていた。
普通の絵ではない。精密なスケッチは全て、魔力特有の薄ぼんやりとした光を放っている。
悔しがり、歯噛みするフリをしながら描いていたのだろう。
そしてテリーの持つカンテラの光が、あたしの目を誤魔化す役割を果たしていたのだ。
「テリー! 銃出して!」
リルムは叫びながらスケッチに目を書き足す。
魔法の線画はあっという間に彩られ、魔導士と同じ顔をしたコート姿の男が浮かび上がった。
実体化した絵はテリーから奇妙な武器をもぎ取り、こちらに向き直る。
同時に悪寒が走り、あたしはとっさに身を沈めた。
『3seconds SHOT!』
爆発魔法に似た音が立て続けに大気を震わせ、衝撃が走る。
ぐらりと眩暈が起き、気がつけばあたしは地上に落下していた。
大量の羽が舞い散る中、後方でばさりと音がする。
だが、音の意味を探る余裕は無かった。
「リルム! もういい、逃げるんだ!」
そう叫ぶ声は真上から。
しかし、魔導士の姿よりも先に、大きく広がる闇が落ちてくる。
幻影が着ていたのと同じコートだと認識した時には、あたしの身体に覆い被さって、動きと視界を遮った。
起き上がる間も無く、風が唸りを上げる。
「ゴゴの仇、討たせてもらうぜ!」
裂帛の気合と共に濡れた音がして、次の瞬間には痛みに摩り替わった。
腕を斬られたのだと一々感じている余裕さえない。
あたしは地面を転がり、執拗に追い縋る斬撃を避ける。

どうすればいい?
派手に動き続ければ毒に身体を蝕まれる。魔導士を殺せば毒を消す手段が減る。
だが、このままでは待ち受けるのは敗北だ。

躊躇いが間違いなく死に繋がる状況。
ならば――迷う必要などどこにある?

「いつまでも……調子づいてんじゃないわよ!」
吐き気と眩暈を怒りで抑え、あたしはコートを跳ね飛ばす。
手加減していたのをいい事に、散々人を甘く見ていただろう忌々しい魔導士。
そいつの鳩尾に全体重とスピードを乗せて裏拳を叩き込む。
「がはっ!」
クリーンヒット。
ついでに吹き飛ぶ前に延髄を刈り、完全な止めを刺そうとする。
だが、何故か足が反応しない。
首を傾げる前に、魔導士の身体は岩に叩きつけられ、ずるずると滑り落ちた。
「この野郎!」
剣士が迫る。その手には、あたしが身に付けていたはずの皆伝の証が握られている。
あたしはヤツの二度目の攻撃を思い出した。
上手く迎撃できたと思っていたが、あの時に既に掏り取られていたとしたら――
あたしは小さく舌打しながら、流水のような連撃を迎え撃つ。

一撃目、上段からの振り下ろしをサイドステップでかわし。
二撃目、斜めの薙ぎ払いをバックステップで。
三撃目、腕を返しての突きは身を捩り。
その勢いを利用して、大きく弧を描く回転斬りの軌跡を飛び越える。
連続攻撃が途切れる瞬間こそが最大の隙。
今まで皆伝の証を使っていたのはあたしだ。そのことはよーく知っている。

「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべるロックの胴体に、ソバットキックをぶちかます。
ミシ、と鈍い手ごたえ。肋骨ぐらいはへし折ってやれただろう。
そのまま身体を地面に叩きつけ、倒れたところで即座に足首を掴む。
「ロック!」
様子を見ていたリルムが、最後に残った絵に触れた。

子供騙しの技でどうにかできると思っているのだろうか。
現れた幻影は、やはりというべきかあたし自身。
絵という形でコピーを作り出すのは、賞賛に値する能力だけれど。
一度に一枚分だけ、しかも一撃で終わりではこけおどしにしかならない。
やっぱりこいつもただの曲芸、紛い物だ。

「本物はあたし一人で十分なのよ!」
しっかりとロックの身体を捕まえたまま、全力でスイング。
遠心力を利用したパワーにロック自身の重みを乗せて、偽者に向かって放り投げる。
あたしに向かってきていた幻影は、巨大な弾丸と化したロックに薙ぎ倒され、消えた。
愕然とするリルムを、ロックの後を追って駆け出したあたしの拳が捉える。
「お休みなさい」
悲鳴さえ響かない。
玩具のように軽い身体は、呆気なく木の幹に叩きつけられた。
動かなくなった少女と男に止めを刺す前に、あたしはテリーに向き直る。

こんなガキでも侮ってはいけない。
他の三人に構おうとした隙に、背後から剣を突き立てようとするかもしれない。
避ける自信があろうと自惚れは禁物。今まで散々学んできたことだ。

テリーはカンテラを左手に握り締めたまま、あたしを睨みつける。
「よくも……よくもみんなを……!」
みっともなく震えながら、テリーは細身の剣を持ち上げた。
魔導士が言っていたようにさっさと逃げれば良かったものを。
それともウィーグラフかピエールの襲撃を気にしていたのか。
どちらにしても、既に命運は尽きている。
足掻くだけ無駄というものだ。
「怒らなくても、皆と一緒に送ってあげるわよ」
あたしがそう言って慰めてやると、
「……こ、の、悪魔めぇえええええ!!」
テリーは叫ぶなり、身の程知らずにも真っ直ぐに向かってきた。

やっぱりバカだ。大人のテリーと同じ、救いがたいバカだ。
丁度いい。あいつの分も一緒にわからせてやろう。
最後に勝つのはあたしだってことを。
お前が抱いているちっぽけな思いも、お前自身の命も、何の価値もないんだってことを――

「テ、リー……!!」
「……スロ、ウ……!」
「!!?」
あたしの背後で、男の声が二つ、響いた。
ほんの一瞬、視界を閃光が満たす。
スローモーションで流れていた光景が二重に加速する。
衝撃。そして、のめり込むような激痛。

繰り出した鉄拳は、込めた力を開放する前に、テリーの胸に当たっていた。
スピードだけの攻撃は子供の身体を貫くこと叶わず、ただ、弾き飛ばすだけで終わる。
激突した時に取っ手が壊れたのか、宙を舞ったカンテラが落ちて割れる。
反射的に破片を目で追うと、あたし自身の胸から生えた、剣の束に気がついた。

「え……?」
鮮血と間抜けな声が、あたしの口からこぼれる。
「兄、ちゃん……」
立ち上がろうとしたテリーの身体が崩れ落ちた。
あたしも立っていられずに、片膝をつく。
どんどん力が抜けて、視界が狭まっていく。

わからない。何が起きたのか。
割れたカンテラから流れた油が燃え上がる。
赤い光に照らされたあたしの手が、砂のように崩れていく。
そして消え行く意識の中、あたしじゃない『アリーナ』の記憶が脳裏に浮かぶ。

 長い冒険の旅で戦ってきた、数多の魔物達。
 その中には、死体も残さずに消滅するものがいた。
 どうしてそうなるのか、老魔術士と神官に聞いたことがある。
 神官の答えは、『彼らは自然の理から外れた者。神の御許に行く事は許されないのです』
 魔術士の答えは、『所詮は紛い物の命。塵は塵に、無は無に戻るだけのことですな』……

――違う。
あたしがアリーナだ。
あたしは紛い物なんかじゃない。
手を伸ばす。赤い炎に。その中に映る赤い髪の女に。
あたし自身の、アリーナの、本物であるはずのあたしの姿に――

「あたしは……あたしは――!!」



――揺れる光と静寂が辺りを包む。
 杖を振るった狙撃手は、髪を塗らす血の感触すらわからぬ、昏迷の闇に飲み込まれた。
 魔法を唱えたトレジャーハンターは、血を吐きながら、地面に身体を横たえる。
 重い一撃に意識を刈り取られた絵描きの少女は、大木の幹に身体を預けている。
 友の形見に守られた少年は、受けた衝撃と限界に達した緊張から、気を失う。

 模造品の身体は砂へと朽ち、身に付けていた首輪を埋もれさせる。
 残されたワンピースとマントは、油を伝わった炎に包まれ燃え上がる。
 四発の銃弾に撃ち抜かれた天使の翼の破片を前に。
 誰も動かない世界の中で、焔だけが勢いを増す。

 その光景を見る者、見た者は誰も居らず。
 ただ、塵は塵へ、無は無へ還り――

【アーヴァイン(変装中@白魔もどき、身体能力低下、一部記憶喪失)
 (昏睡+重傷、右腕骨折、右耳失聴)
 所持品:竜騎士の靴、ふきとばしの杖[0]、手帳、首輪
 第一行動方針:?】
【リルム(HP1/2、気絶、右目失明、魔力消費)
 所持品:英雄の盾、絵筆、祈りの指輪、ブロンズナイフ
 第一行動方針:?
 第二行動方針:仲間の帰りを待つ】
【テリー(DQM)(気絶+軽症、右肩負傷(5割回復))
 所持品:突撃ラッパ、シャナクの巻物、樫の杖、りゅうのうろこ×3
 鋼鉄の剣、雷鳴の剣、スナイパーアイ、包丁(FF4)
 第一行動方針:?
 第二行動方針:ギードを待つ/ルカ、わたぼうを探す】
【ロック (気絶+重傷)
 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード 魔石バハムート 皆伝の証
 第一行動方針:?
 第二行動方針:事態の処理後、ピサロ達と合流する
 第三行動方針:ケフカとザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在位置:サスーン南東・山の中、森との境付近】

アリーナ2の所持品とコルトガバメント(予備弾倉×3)はその場に放置。

 天使の翼は壊れています。一部アイテムは燃えてなくなる可能性もあり。

【アリーナ2 消滅】