477話

第477話:巡る意思・継がれる遺志・騎士の意志


「着いたぞ、フィン! 城だ!!」

ゼルが最後に放った轟音から数刻。
あれから僅かに歩みを速めたジタンとフィンは、ようやく森を抜け
サスーン城の門前まで辿り着いた。

「さっきの音が気になる。ここからは慎重にいかないと…」
「あっ! ジタン! あそこ、人が倒れてる!!」
「何!?」


「こいつは…。確か、ゼル、ってヤツ…。リノアの仇を取ると言っていた…。
 …ダメだな。死んでる」

城の前に横たわるゼルの死体。
その躯は所々が焼け焦げ、喉笛が切り裂かれ、背中にはナイフが突き立てられている。
そしてその体は、まだほんのりと赤く、温かい。が…、
すこしずつ、だが確実に、熱が奪われ冷たくなりつつあった。

「まだ死んでから間も無い…か。それに…」

ジタンは、横たわるゼルの右手の部分に目を移す。
右の拳が地面に撃ちこまれており、まるで地雷でも炸裂したかのように陥没し、そこから無数の裂け目が地面を走っている。
まだ微かに残る、舞い上がった土砂と、爆発でもしたのだろう、煤の様な臭いが鼻につく。

「さっきの音の正体はどうやらこいつか。恐らく死に際に放ったんだろうが…。
 火薬の臭いはしないから技か魔法のどっちかだとは思うが…大した根性してるぜ」

ゼルの瞼を下ろし、背中に刺さったナイフを抜きつつ、ジタンがつぶやく。

「どうする? …お墓、つくってあげようか」
「いや…。この人を殺した奴はまだ近くにいる筈だ。
 そいつが敵か味方かもわからない以上、ヘタに動くわけにはいかない。
 ……勿論放っておくわけにもいかないが、それは安全を確保してから、だな」

(致命傷は首を切られた傷。それと背中から胸へのナイフ。出血からしてナイフが先…少なくとも刃物は二本。
 リュカはナイフはもちろん刃物一本持っていなかった…。犯人はリュカじゃない?
 いや、ナイフ程度ならどうとでも…。それに、配下の魔物がやった可能性も捨てきれない…。)


その時、二人は地面に点々と残った真新しい血痕と、人のものではない体液の痕に気付く。
その痕が続く先は……、城門。そして城の中。

「どうする……行くか?」

ジタンの問いに、フィンは暫く無言のまま、熱でぼんやりとした頭を巡らせていた……。



エドガーとティーダはユウナとプサンの待つ隠し部屋へと向かうべく、東棟の階段を駆け下りていた。
その間も、それぞれが持つ情報の交換などをこなしつつ。

「そういえばエドガーさん、さっき言ってたお願いッスけど」
「ん? ああ、なんだい?」
「リルムが言ってたんッスけど、かなり機械に詳しいらしいッスね。改造したり作ったり出来るくらい。
 んで、この首輪…。こいつ、解せk…」
「しっ」
「な、何スか!?」

エドガーは咄嗟にティーダの口を塞ぎ、二人はその場で一旦足を止める。
そして先ほどポケットに突っ込んだ
書きかけの『誰にでも判る首輪の盗聴に関する注意書き』のメモを取り出し、ティーダに見せる。
書きかけではあるが、要点は十分に書き込まれている。それを見て軽く青ざめるティーダ。
続けてエドガーは別の紙を取り出すと、何かを書き込み始める。

『解析は勿論試みている。だが、私の首に首輪が嵌ったまま、という事でまあ現状は分かるだろう。
 だが、無論諦めた訳は無い。解析しようにも情報が足りないのだ。
 今はとにかく情報が欲しい。それ次第では…ということだ』

それを見てティーダは少しうなだれた…が、すぐに気を取り戻した。
可能性は消えてはいない。ならばまだ道はあるのだ。

「で、そのリルムについてだが…」



一方、ゼルを殺害した張本人…ピエールは、城の物陰深くに身を潜め、じっと体を休めていた。
先ほどの戦闘で受けたダメージ、決して軽いものではない。動くのがやっとな程だ。
回復呪文はかけてはいるが、この世界ではまださしたる効果は望めない。
自分にはやるべき事がある。まだ倒れるわけには行かない。
リュカ様に王者のマントを届け、リュカ様以外の参加者を始末する。
冷静になれ。無理はするな。今は耐え、忍び、力を蓄えるのだ。


その時、東棟から何者かが出て来ようとしているのに気がついた。
回復呪文をかけていた手を止め、気配を絶ち、五感を研ぎ澄ませ、様子を探る。
足音が聞こえる。一人……いや、二人か。
次第に話し声も聞こえ始めた。…男が二人。片方の声には聞き覚えがある。
前の世界、旅の扉の前で仕留め損なった男。確かエドガーとかいったか。
あの時取り逃がしたもう一人…シンシアという女は先程の放送で名前を呼ばれたようだが。
向こうはこちらに気付いてはいない。ならばここで奇襲を仕掛けるか。
否。相手は二人。加えてこちらはこの状態。
もし相手が単独ならば、この状態でも隙を衝き、策を練り仕留める事もできよう。
或いは体調が万全ならば、二人を同時に相手をする事も出来たかもしれない。。
銃を持っていたならば狙撃で仕留める事も出来たであろう。
無理をするな。分の悪い賭けに乗る必要は無い。それよりも当面の目的を達成する事が重要。
此処は身を潜め、やり過ごすのだ。まだ動くには早い。
と、その時城門の方からも気配が二つ、感じた。
あの者達は…リュカ様が魔物を使って人を襲っているのではないか、と疑っていた者達。
まずい。だが、今出るわけにもいかない。どうすれば…
待てよ。このままなら間違いなくあちらの二人とこちらの二人は衝突する。
その隙をつく。これしか、ない。
そのように思考を巡らせ、ピエールは沈黙を保ち続ける。
山のように動かず、林のように静かに…。



城門をゆっくり押し開け、城の敷地内へと入るジタンとフィン。
二人は東棟の方から出てくる人影に気付き、得物を構え、そちらへと向かい駆け出す。

話を交わしつつ東棟から出てきたエドガーとティーダ。
二人は城門がゆっくりと開く音を聞き、こちらに向かう二つの人影に気付く。
そして…四人は相対した。

「動くな。妙な動きを見せたら…容赦しない」
「ちょ、ちょっと! いきなり何ッスかあんたたち!?」
「穏やかじゃないねぇ。こっちはレディを待たせてるというのに」
「黙れ。……質問に答えてもらおう。
 外にあった死体……先ほど殺されたばかりだ。やったのはあんた達か?」
「死体!? …いや、知らないな。私達はずっとあの塔の中にいたから」
「俺は気絶してたみたいッスから…エドガーさんが知らないのなら俺も知らないッスよ」
「……本当か?」
「本当だよ。…あ、ひょっとしてさっきのすごい音……それかい?」
「…………」

「この人たち、嘘はついてないみたい…かな」
「フィン? どうしてそう思う?」
「うん…。風邪と熱でボケてて忘れてたんだけど…。
 僕、以前魔物使いって職業やってたことがあって…。他にも海賊とかもやったけど。
 それからかな。目を見ると、何となくわかるんだ。嘘をついてるか、そうでないか。…ちょっと時間かかるけどね。
 この人たちの目は…嘘をついてる目じゃないし、ましてや悪人の目でもない。綺麗に澄んでる目だよ」
「……そうか。フィンがそう言うなら……」
「疑いは晴れたッスか?」
「ああ……。いきなりすまなかったな」
「何。こんな状況じゃ仕方が無いさ。それよりその死体、気になるな…。
 知り合いという可能性もある、一応確認しておきたい。案内してくれないか」
「ああ。こっちだ」

そうして四人は城門の外へと足を進めた。
そして見てしまった。少し前まで行動を共にしていた人の、無残な姿を。

「ゼル!!」
「ティーダ君! 知っている人か!?」
「ああ、昼にカズスって村で出会って、それから暫く一緒に居た人ッス!
 夕方ぐらいに一旦別れて、俺たち三人でサスーンを調べてから合流する予定だったんッスよ。
 アーヴィンとリルムと一緒に居た筈ッスけど…はっ、そういえば二人は!?」
「何、彼もリルムと一緒に居たのか!?」
「そうッス! ああ、どうなってるんスか……。
 どうしてゼルがこんな所まで…。二人は無事ッスかねえ…」
「落ち着け。…死体が無い、という事は、とりあえず無事の可能性が高いだろう。
 彼が独走したのか、或いは二人を逃がすために彼が盾になったのか。それは分からんが…ん?」

エドガーは、少し離れた茂みの影に何か光るものを見つけた。
草を掻き分け、それを拾い上げ、手に取る。

「これは…、対人レーダーじゃないか!」

対人レーダー。だが、これは前の世界で、持ち主だった者…デッシュとともに失ったはず。
それが何故ここにあり、今自分の手に…。まさか、デッシュの遺志、とでも言うのか?
だが、このレーダー、首輪の研究をする上ではまず間違いなく重要なモノだ。。
しかもこのレーダーは、人数がかなり減っている現状では、人を探すのにも、自衛としても大いに役立つ。
これを再び手に入れることが出来たという事は、間違いなく大きな収穫となるだろう。


「リノアのネックレス…」

ティーダは、ゼルの手首に巻かれた、ライオンの彫られた指輪が通ったネックレスを外す。
リノアの死体を埋葬するとき、首輪と一緒に外したネックレス。
別れる前、ゼルは言っていた。必ずリノアの仇を取ると。
そしてこのネックレスを、スコールに必ず渡す。渡さなきゃいけない、と。

「ゼル…、あんたの遺志、俺が引き継ぐッス。
 必ずこのネックレス、スコールって人に渡すッスよ…」

そう誓ってティーダは、手の中にあるネックレスを、かたく、握り締めた…。


「…で、この男を殺した奴は、ついさっき城に入って行った筈だ。
 お前ら、怪しい奴とか見かけたりしなかったのか?」
「見なかったねえ。少なくとも、東棟には居ないよ。全員アリバイもあるし
 とすれば、西棟か、中央の城…」
「ああっ! てことは、ユウナ、それとプサンのオッサンが危ないかもしれないって事じゃないッスか!
 こーしちゃいられないッス! 急いで向かうッスよ! ユウナ~~!!」
「あっ、おい!」

言うが早いがダッシュで走り出すティーダ。それを追ってエドガー、ジタン、フィンの三人も城へ向かう。



四人の話を密かに盗み聞いていた者…ピエールは考える。
まず話からすると、中央の城に居るのはティーダという男の仲間が二人。
ユウナという者と、プサン殿……マスタードラゴン様がいるとは驚きだが。
ならばリュカ様がいるのは西棟か東棟のどちらか。
そしてエドガー。片手を失っているあの男が単独で今まで生き抜いてきたとは考えにくい。
誰かと行動を共にしていた筈。…そう、恐らくはリュカ様。
ならばリュカ様が居るのはあの男が出てきた東棟の可能性が高い。
そしてエドガー含め6人が中央の城に居る。すなわち今は手薄になったという事。
この機を逃す手は無い。今こそリュカ様の元へと向かう時。

もしかしたら、リュカ様は私のことをエドガーから聞いているかもしれない。
何人もの人をこの手にかけている事を。ならばリュカ様と共に居る事は出来ぬ。
だが、それがどうした。元より我が独断で動いた事。己が蒔いた種。
今はこの王者のマントをリュカさまの元に届ける。それだけなのだ。
あとは再びこの身を独り野に放ち、リュカ様以外の者を始末すればよい。この身、朽ちるまで。
全ての悪名はこの身に浴びよう。そしてその罪と共に冥府に落ちよう。
そう、それが我が意志、我が望み……。

【ティーダ(変装中@シーフもどき)
 所持品:鋼の剣、青銅の盾、理性の種、首輪、ケフカのメモ、着替え用の服(数着)、自分の服、リノアのネックレス
 第一行動方針:ユウナ達の安全を確認
 基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】
【エドガー(右手喪失 MP1/2)
 所持品:天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、再研究メモ、ライトブリンガー、盗聴注意メモ(書きかけ)、対人レーダー
 第一行動方針:ティーダを追う
 第二行動方針:首輪の研究/アリーナ2を殺し首輪を入手/仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの脱出】
【ジタン(左肩軽傷)
 所持品:英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ
 第一行動方針:ティーダを追う
 第二行動方針:ゼルを殺した者を探す/真相を確かめる/フィンの風邪を治す
 第三行動方針:協力者を集め、セフィロスを倒す
 基本行動方針:仲間と合流+首輪解除手段を探す
 最終行動方針:ゲーム脱出】
【フィン(風邪)
 所持品:陸奥守、魔石ミドガルズオルム(召還不可)、マダレムジエン、ボムのたましい
 第一行動方針:三人についていく
 第二行動方針:休憩する/風邪を治す
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:サスーン城中央の城1F→隠し部屋】

【ピエール(HP1/5、MP1/4)(感情封印)
 所持品:スネークソード、毛布、魔封じの杖、死者の指輪、王者のマント、
 ひきよせの杖[1]、ようじゅつしの杖[0]、レッドキャップ
 第一行動方針:リュカに王者のマントを渡す
 第二行動方針:回復と戦闘準備
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:サスーン城内→東棟】

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最終更新:2008年02月16日 14:21
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