107話

第107話:遺される言葉


(――どうしてなんだ?)
俺の思考は声にならず、代わりに横にいたマッシュとアイラが叫ぶ。
「マリベル!!?」
数時間前に出会ったばかりの、先ほどまで元気でいたはずの少女が、俺たちの目の前に倒れていた。
竪琴と鞭を抱えるように、赤い水溜りの上で。

(どうして……彼女がここにいる?)
そんな疑問に答えるかのように、マリベルが弱々しく言葉を紡ぐ。
「なんだ、無事だったの。絶対ピンチになってると思ってたのに。
 おまけにアイラまで一緒にいるなんて、心配して損したわ……」
それで、わかった。
ろくな武器を持っていない自分たちを案じて、彼女はここまでやってきたのだと。
そして誰がやったのかは聞くまでもなかった。
彼女の身体を抉る幾本もの矢が、何よりも雄弁に物語っている。アーヴァイン以外にいるはずがない。

「あーあ。柄にもないこと、するもんじゃないわね。
 人のこと心配して、自分がやられて、荷物まで取られてれば世話ないわ……
 あ、でもね。あんたの友達の武器は、何とか取られずにすんだのよ」
そう言って、マリベルはそれを差し出した。セイブ・ザ・クイーン。ここにはいない、キスティスの鞭。
「……ありがとう」
俺はそう答えた。というより、そう言うしかできなかった。
もし、キスティス本人がここにいたら、もっと気の効いた言葉を返してやれただろうか。
「もう、素っ気無いわね」
マリベルは不満げに口を尖らせ、急に激しく咳き込んだ。
表情は苦痛に歪み、食いしばった歯から呻き声がもれる。
「しっかりして! 今、回復するから」
アイラがマリベルに手をかざし、呪文を唱えた。
だが、灯った治癒の光は弱々しく、流れる血をわずかに止めただけで消えてしまう。
「そんな……」
呆然とするアイラを、焦点の合わぬ瞳が見つめた。

「あたしのことはいいから、早く、三人でラグナさんたちのところ、戻りなさいよ。
 アイラ、あたしと同じぐらい強いし、きっとエーコもイクサスも、歓迎するわよ」
「馬鹿なこと言うな! 置いて行けるわけないだろうが!」
マッシュが怒鳴る。マリベルは――恐らく肩をすくめようとしたのだろう――わずかに腕を動かした。
「甘いわね。そんなんだから、心配になるのよ……
 ま、本当に置いていったら、一生、恨んでやったけどね」
わがままな台詞も、この状況では痛々しいだけだ。
それが耐え切れなかった。
「マリベル、もう……」
言葉は喉で詰まってしまう。それでも彼女は察したのだろう。
「喋るな、なんて言わないでよ。喋ってた方が、落ち着くの……」
彼女は再び咳をした。口元を抑えた手が、赤く染まる。
それでも彼女は言葉を紡ぎ続ける。死から足掻くためというより、意思を伝えるために。
「ねぇ、スコール、マッシュ。
どんな理由があったって、仲間同士で戦うなんて、やっぱりバカげてるわ。
そんな覚悟や、余裕があるなら、この首輪外す方法、見つけなさいよね。
きっと、誰だって、望んで殺してるわけじゃ、ないんだから」
マリベルはティナの死を知らない。だからこそ言えたのかもしれない。
けれど――
(なんでそんな風に言えるんだ?
 わかってるのか。あんたをそんな目に合わせたのは、俺の……!)
――そう叫びたかった。
だが、俺の口から出たのは、正反対の言葉だった。
「ああ……そうだな」
「あら、やけに物分りいいわね。明日あたり、雨、降ったりして」
逃れられない死の影を覆い隠すように、彼女は微笑みを浮かべた。
苦痛を知らせぬための意地なのか、本心から来るものだったのかは、永遠にわからない。
「あーあ。何だか、疲れちゃったわ……
 殺し合いとか、戦いとか……もう、うんざりよ……」
マリベルは小さく息を吐き、静かに目を閉じた。

彼女はもう、何も喋らなかった。瞼を開くこともなかった。

【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石
【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ
 第一行動方針:ラグナ達と合流 第二行動方針:ゲームを止める
【現在位置:アリアハン東山岳地帯、森と祠の中間地点】

【アーヴァイン(HP4/5程度)
 所持品:キラーボウ 竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)
 エアナイフ  グレートソード ミスリルの小手 食料+ランプ等(マリベルから回収)
 行動方針:ゲームに乗る
【現在位置:アリアハン東山岳地帯中央部→移動】

【マリベル 死亡】
【残り 107名】

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最終更新:2008年02月16日 14:30
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