96話

第96話:本当の自分


残された魔石を挟み、対峙する二人。
だが、静寂を破ったのはどちらでもなかった。
「動くな、アーヴァイン」
アーヴァインにとっては懐かしく、最も聞きたくなかった男の声が背後で響く。
彼はアイラに視線を向けたまま答えた。
「スコールか。ずいぶん近くにいたんだね~。
 まだティナが生きていた頃に会いたかったよ」
「てめえが殺したくせにッ!」
怒りをあらわにするマッシュを制しながら、スコールはアーヴァインにナイフを向ける。
「なぜ、こんなことをした? ゲームに乗る理由はなんだ?」
「最期に聞いておいてやるってわけ? 優しいね、スコールは」
アーヴァインは小さく笑った。殺気の渦中にいながらさも愉快そうに、挑発するように。
それが急に真顔に戻る。
「期待に添えなくて悪いけど、理由なんて大したことじゃないんだ」
「……何だと?」
スコールの目がすうっと細まり、マッシュの怒気が高まった。
一触即発の雰囲気の中で、アーヴァインは言葉を続ける。
「忘れたのかい? 僕はスナイパーで傭兵だよ?
 依頼されれば誰でも殺す。任務達成のためなら何でも使う。遂行に邪魔なら排除する。それだけの話さ。
 君たちみたいに奇麗事や甘いこと言ってる余裕なんて――ないね!」
それが合図だった。マッシュが、スコールが、アイラが同時に躍り掛かる。
けれどもアーヴァインはスライディングするように身をかがめ、素早く大剣と小手を拾い上げると、斜め前へ一気にジャンプした。
アイラの身長どころか木々の背丈よりも高く飛び上がり、空中で回転しながらボウガンの狙いを定める。
その矢が、不意に漆黒の色を帯びた。
「じゃあね」
何の躊躇いなく引き金を引く。暗黒の波動を帯びた矢は、狙い違わずアイラの背へ――
「ふざけるんじゃねえ!」
だが、その時マッシュが両手から光輝くオーラを打ち出した。
黒と白、二つの色はぶつかり合い、互いに相殺して消滅する。

「あらら~……無茶やるなぁ」
三人の包囲を抜けて着地したアーヴァインは、ぽつりと呟いてから踵を返す。
「待ちなさい!」
「やだよ~だ。三対一なんて無謀な真似するほど馬鹿じゃないもんねー」
迫るアイラをボウガンで牽制しつつ、アーヴァインは再び飛んだ。
山の急斜面を飛び越えて、はるか下の道へと姿を消す。
「……アーヴァイン」
スコールは悲しげに彼の名を呼んだ。仲間であり旧友『だった』、青年の名を。
マッシュは、少女が残した緑石を手にした。その深青色の瞳から、涙が静かに零れ落ちた。

上手く三人から逃げおおせたアーヴァインは、すぐに山道を下ろうとした。
だが、数歩歩いたところで足がもつれて転んでしまう。
「うーん。やっぱこの高さだし、無理がきたかな?」
彼は頭を掻きながら立ち上がり、再び歩き出す。だが、またもやよろめき、バランスを崩してしまう。
ふと、手を見た。小刻みに震えていた。いや、手だけでなく足も、全身が。
呼吸は荒く、心臓は早鐘を打っている。何より、耐えがたい後悔と悲しみが胸に渦巻く。
――孤児院の仲間と離れ離れになった時もこうだった。
デリングシティでイデアを狙撃した時もこうだった。
人前で自信家を装うことはできても、一人になると臆病な自分が噴出してしまう。
大切な人を傷つけないといけない時、気弱な本性が垣間見えてしまう。
一度そうなると止まらない。どうしようもなく辛くて、心が悲鳴を上げて崩れそうになる。
だが、彼の場合、壊れてしまうには意思力が強すぎた。それ以上に記憶に残る少女の笑顔が、狂うことを許さなかった。
(……僕は彼女に会うんだ。もう一度、あの青いガーデンで。
 そう決めた……決めたんだ。誰の意思でもない、僕自身の意思で。
 だから迷わない。今さら迷ってたまるものか)
己の弱さを噛みしめながら、それでも自分の願いを叶えるため、アーヴァインは立ち上がる。
繊細で弱気な少年から、殺人者のそれへ戻りつつある瞳が、道を上ってくる人影を捉えた。
相手は一人、頭巾をかぶった少女だ。
「スコール達が追ってくるまでに片付けられるかな?」
彼はシニカルな笑みを浮かべながら、ボウガンを構えた。

【アーヴァイン(HP4/5程度)
 所持品:キラーボウ 竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能) エアナイフ  グレートソード ミスリルの小手
  第一行動方針:時間があればマリベルを殺す 第二行動方針:ゲームに乗る
【現在位置:アリアハン東山岳地帯、森とほこらの中間辺り】

【マリベル 所持品:セイブ・ザ・クイーン(FF8)、アポロンのハープ
 第一行動方針:スコールとマッシュを連れ戻す、戦いは極力避ける
【現在位置:アリアハン東山岳地帯、森とほこらの中間辺り】

【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー
【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石
【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング
 第一行動方針;アーヴァインを追い、止める
【現在位置;アリアハン東山岳地帯、ほこらの近く】

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最終更新:2008年02月16日 14:30
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