111話

第111話:恐怖と暴走


魔女の放送が始まったとき、ティファの足は自然に止まった。
勿論世界の振動によってまともに走れなくなったというのもあるが、
それ以上に、確実に聞き届けようという彼女の意思が足を止めたのだ。

死者の名が、抑揚無く読み上げられていく。
その一つ一つが命を与えられこの世界に生まれてきた証だ、などと、考えていないかのように。
『…バレット』
他の名前と何の変わりもなくただ読み上げたその名前が、ティファの心を揺さ振る。
「バレット…」
バレットが殺された…?
殺した人は誰…?
許さない。許せない。許せる訳が…

『…エアリス』
最後のほうに呼ばれたその名前は、ティファの心を揺さ振るだけでは済まなかった。
全ての思考が停止し、あるいは心臓が止まったのではないかと思えるほど、その瞬間は空虚で。
ゆっくりと身体が活動を再開したとき、彼女の思考は既に答えを導き出していた。
さっき、私が、殺したんだ…
私ガ…

彼女の心を包み込んだのは、罪悪感でも後悔でもなかった。
――恐怖。
嘗ての仲間を自分の手で殺してもなお、彼女にとっての一番はクラウドで。

どうしよう。
クラウドは、私を許さない…
私がエアリスを殺したから…
――クラウドがこれを知ったら?
――ソンナ事ハ絶対ニ嫌ダ!!

私から話さなければ、クラウドは気づくはずがない…
でも、あの金髪の人と蒼い髪の女の子は、私が殺したって知ってる。
…じゃぁ、どうすればいい?

――彼ラヲ殺セバイイ。

一瞬にして辿り着いたその選択肢は、彼女に他の選択をさせることを許さなかった。
次の瞬間、視界の隅に蒼い髪が映ったから。
別の方向に逃げたはずのその姿が、在ったから。
日没直後の薄暗さの中でも、それが誰かは直ぐにわかった。
もう、躊躇いを捨てた。
クラウドに嫌われたくないから。
そしてゆっくりと銃を構えた。

(また殺すの…?)
刹那、頭の中で誰かが呟いた。
知ってる。この声は、さっきと同じ。
エアリスの声で。
(もう誰も殺さないで)
イヤダ。クラウドガ知ッタラ私ハ終ワリダカラ。
イヤダ。イヤダ。イヤダ…

引き金に、手を掛けた。
目の前に、幻のエアリスが立っていて。
それでも、躊躇うことは無くて。

――銃声が森に木霊した。
幻のエアリスの胸をもう一度貫いた弾丸は、蒼い髪の少女の耳元を、掠めた。

…何故、当たらなかったのだろう。
…いや、当てられなかったのか。
一瞬考えたティファの耳に、少女の悲鳴が飛び込んできた。

この距離を走って、血は見えなくなって、地震が起きた衝撃で、やっと自我が戻ったというのに。
すぐに、エアリスを殺した『音』が聞こえて。
何か熱いものが、耳元を掠めて。
「いやぁぁぁっ!!」
ターニアは、思わず、叫んでいた。

「ごめんなさいね…本当は殺したくないんだけど」
ティファが、銃を構えながら言う。
腰が抜けたように座り込んで、呆然とした視線をティファに送るターニア。
それならば何故殺すの?と問うようなその視線から、ティファは目をそらす。
ゲームに乗ったわけじゃない。ただ、恐ろしかったのだ。
――クラウドとの関係が壊れるのが。
ティファは銃口をターニアに向けながら、ゆっくりと言った。
「あなたを殺さなくちゃいけない理由を話すから聞いて欲しいの…」
何故そう言ったのかわからない。
ただ自分の罪悪感から逃げたかったのか。
それともこの子から、止める様に説得してもらいたかったのか。
傍から見ればあまりに理不尽な理由だろう。
でも、ティファは話し始めた。
ゆっくりと…
「私の幼馴染に、クラウドって言う人がいて…」

【ターニア 所持品:微笑みの杖
 行動方針:逃げたい
【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ
 行動方針:自分が殺すのを正当化するために、話す
【現在位置:レーベ東の森中央付近】

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最終更新:2008年02月16日 15:46
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