33話

第33話:記憶


レーベ北西の草原に、一人の少女がいた。
その蒼い髪の少女は、涙を止める術を知らない。
記憶の中で飛び散った鮮血が、何度も何度も彼女の瞳の中を染め上げる。
少女は、無防備ともいえる状態で、草原の真ん中で突っ伏していた。

蒼い瞳に浮かぶのは、勇気ある一人の女性。
――あまりに無残に、その生涯を終えさせられたその姿を。
――紫の髪を、血の池に横たえた、最初の犠牲者の姿を。

少女はかつて父も母も失った。
ともに安らかな死に顔だった。
お前を一人残していくのはつらい、と呟いて逝った。
それが死ぬことだと、今までそう思ってきた。

だが、その女性は最後の一言も発する事無く、絶命した。
きっとこのゲームでは、多くの人がそうやって死んでいくのだろう。
安らかな死など、認められないこの世界の中で。


止まらない涙を拭き、体を起こす。
こんな風に泣いていても、何も変えられない。
…お兄ちゃんを見つけよう。
本当はレイドックの王子様だったお兄ちゃん。
魔王を倒して、伝説の勇者と呼ばれたお兄ちゃん。
私の、これからもお兄ちゃんと呼んでもいいかという問いに、笑って答えてくれた。
「もちろんだよ、ターニア」と。
…また、会いたい。
お兄ちゃんも、その仲間達も…ランドも。
みんなと、会いたい。

少し勇気が出てくると、ターニアは支給品を開いた。
配られたアイテムは二つだった。
一つは、巨大な剣。とても、扱えそうに無い。
もう一つは、小さな種。使い方はわからなかった。
とりあえず二つをまた袋にしまうと、ターニアは周りを見渡した。

隠れる場所のほとんど無い、平原のど真ん中。
東に200m位のところに、森があるのを確認する。
ふと反対側に目をやると、西の方から、誰かが歩いてくるのが見えた。
「あれは…?」
確か、魔王を倒した時のパーティーに来ていた人だ。
お兄ちゃんの仲間のテリーさんだ!
「テリーさん!!」
少女は、ありったけの声でその青年を呼んだ。

その青年は、表情を変えなかった。
…私のことを、覚えていないのかな?
ターニアのある意味楽観的なその想像は、即座に否定された。

青年はおもむろに歩みを走りに変え、剣を前に構えた。
それでターニアは、凍りついた。
青年の剣は、血で濡れていた。

「あっ…」と言う間に、テリーはターニアから50mの所まで迫っていた。
もう、明らかだ。私にも感じる。彼の殺気が。
彼に背中を向け、全力で逃げようとするも、鍛えた戦士と普通の少女の違いは大きい。
真正面に森があった。あそこに逃げ込めば助かるかもしれない…!
そう思ったとき既に、テリーとの距離は30mをきっていた。

20m…いやだ…15m…どうしよう…10m…お兄ちゃん…5m…助けて!

もうダメだ、そう諦めかけた瞬間だった。

バーン。自分の後ろで、何か大きな音がした。
振り返ると、テリーの姿は20m以上後方で、宙を飛んでいた。
何かに吹き飛ばされたようで、彼は背中から地面に激突した。

「大丈夫!?」
森の中から、一人の女性が出てきた。
女性…エアリスは杖を正面に構え、大きな声で叫んだ。
「早く、逃げて!」
ターニアは、躊躇いを捨てた。
杖を構えるその女性の方へ、一目散に駆け出した。


「くッ…」
唐突な攻撃だった。
強かに腰を地面にぶつけ、苦悶の表情を浮かべる。
立ち上がって見ると、少女と、自分に攻撃した『誰か』は既に森の中に消えていた。
「ちッ」
テリーは、苦々しく舌打ちをする。
――しかし…わからない。
あの少女は自分の名を知っていた…?
一瞬考えようとするも、彼はその思考自体はあまり意味がないと考え直す。
――まあ、いい。
彼は、力の証明のための相手を探すべく、南西のレーベへと向かった。

【ターニア 所持品:ゴディアスの剣 理性の種
 行動方針:テリーから逃げる/兄(DQ6主人公)を探す】
【エアリス 所持品:ふきとばしの杖 他不明
 行動方針:テリーから逃げる/??】
【現在位置:レーベ北東の森入り口付近?】

【テリー(DQ6) 所持品:クリスタルソード イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド
 行動方針:レーベへ向かう/自らの力を試す=ゲームに勝利する】
【現在位置:レーベ北東の平原】

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最終更新:2008年02月16日 15:50
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