72話

第72話:流血の残像


レーベ北東の森の中。
三人の男女が、真ん中を向いて円形に座っていた。

ミレーユが去ったことで落ち込むターニアを、ティーダとエアリスが慰める。
二人は明るく振舞っていたが、心の中ではこのゲームに対する憤りが絶えることなく湧いていた。
(この娘は、武器を握ったことも無いだろうに…)
「ごめんなさい…もう、大丈夫」
ターニアの一言も、何処か悲痛な叫びを抑えているように思えた。

それでもその一言をきっかけに、少しずつ会話が始まった。
そして誰が言い出したわけでもないのだが、アイテムを使いやすいように配分した。

「これは何ッスかね?」
ティーダが、ターニアの持っていた理性の種をつまみ上げる。
「わからない。でも…特別な効果がある種だと思う」
エアリスはそう言った。もちろん、確信は無いけれど。
結局それ以上はどうしようもなく、それを他の必要ないアイテムと一緒に袋にしまった。
「あれ、ティーダ君、その腕どうかしたの?」
エアリスが、彼の左腕に、僅かに流れる血を見つけた。
「あ…木の枝かなんかで切ったみたいッス。こんなの放っておいて…」
ティーダはそこまで言うと、ターニアの異変に気づいた。

「あ…血…」
虚ろな声で、ターニアはうめく様に呟く。
――転がる女性の首。飛び散る血。
――剣を濡らして輝いていた、赤い血。
残酷な血の記憶が、無垢な少女を支配する。

「いやぁぁぁっっ!」
ターニアは頭を抱え、大きく横に振り始めた。
まるで、そのままそれをもぎ取ってしまいたいかのように。
「ターニアちゃん!?」
エアリスが両手で彼女の頭を押さえつけようとしたが、何処から湧いたのか、凄い力でその手を振り払う。
「ティーダ君!血を見せちゃダメェェッ!」
エアリスが叫び、はっとしたティーダは腕を流れた血を自らの口で拭い取り、消し去る。
「ターニアちゃん!!」
「いやあぁぁっっ!」
目をぎゅっと閉じ、何も見まいとする。耳を両手でふさぎ、何も聞くまいとする。
脳に残る血の残像だけが彼女を完全に闇へ引き入れようとしていたが…

パァン!

エアリスが少女の頬を引っ叩き、それに反応し少女の心は一瞬間覚醒する。
「怖がるものは何もないから、目を覚まして!」
エアリスの言葉が、少女の耳に届く。
「うぅっ…」
ターニアはゆっくりと目を開ける。
赤い血は何処にも見えない。それが、彼女の心を正常に戻した。
「ご…ごめんなさい、私…」
ターニアは、震える声で謝った。

だが、それは暫く彼女の心に居座るだろう。
――血の、恐怖は。
それから彼女を救えないことが、今のティーダやエアリスにとって一番の苦痛だった。

【ターニア 所持品:微笑みの杖
 行動方針:兄(イザ)に会う】
【エアリス 所持品:ふきとばしの杖〔4〕
 行動方針:ターニアを治したい】
【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 ゴディアスの剣 麦わら帽子 理性の種
 行動方針:同上】
【現在位置:レーベ北東の森の中】

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最終更新:2008年02月16日 15:52
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