91話

第91話:ニアミス


「ねえ、何やってるの?」
声をかけられて、オレはようやく牢屋の外に一人の女が立っていたことに気が付いた。
「何って、見てのとおり本を読んでるんだけど」
その女、いや、女の子と言った方がいいか――オレと同じ年頃か、下手したら年下かもしれないしな――は、興味と好奇の入り混じった視線を本の表紙へ注いでいる。
「言っとくけど、小説や物語の本じゃないぜ」
オレがそう言うと、彼女は「なーんだ」と少しがっかりしたように肩を落とした。
……変わった娘だ。見慣れぬデザインの薄青の服といい、艶やかな長い黒髪といい、性格といい。
グランエスタードでも、旅で出会った人たちの中でもあまり見なかったタイプだ。
だから、思わず口に出してしまった。
「変わってるな」
「え?」
「いや……よく、こんな状況で人に話し掛ける気になれるなぁって思ってさ。
 オレが強い武器とか持ってて、おまけにゲームに乗ってたらどうするつもりだったんだ?」
「武器持っていたら、私だって話し掛けたりしないよ。
 でも、本読んでたから『ああ、この人は大丈夫そうだな~』って」
「そんなことで?」
「そんなことじゃないよ、本が好きな人に悪人はいないの。ゼルも雷神もそうだもん。
 あ、でもサイファーも本借りようとしてたっけ……まあ、アイツは本好きってより映画好きだしね」
微妙にわかるようで、わけのわからない論理だ。そもそもサイファーやゼルや雷神って誰のことだ?
オレの頭に浮かんだ疑問を余所に、彼女は話を続ける。
「あっと、そうだそうだ。私、スコールって人を探してるんだけど。
 額に傷がある、黒っぽい服を着た男の人を見なかった?」
「いや、見てないな。ここにはあんた以外誰も来てないぜ」
「そっか」
女の子はまたもや肩を落とし、ため息をつく。
その落胆ぶりがあまりに気の毒だったんで、オレは殆ど反射的に声をかけた。
「そのスコールとかいう奴、探すの手伝ってやろうか?」
そう言った途端、彼女の顔がぱぁっと輝いた。
「え! いいの?」
「いいよ。オレもそろそろ、知り合いを探しに行こうと思ってたんだ」



――二人の会話が終わってから、四半刻ほど経っただろうか。
静かな地下に銃声がこだまし、しばらくして、扉が軋みながら開いた。
けれども、その音を聞く者は誰もいなかった。

【リノア 所持品:不明
 行動方針:スコールを探す】
【キーファ 所持品:攻略本
 行動方針:自分の仲間とリノアの仲間を探す】
【現在位置:アリアハン城地下牢→一階へ】

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最終更新:2008年02月16日 15:57
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