433話

第433話:星の箱舟


 湖に程近い山林の中。
 その一角、幾重もの枝葉が絡むように生い茂り、偶然にして生まれた天然の死角。
 そんな木々の結界の中心で、長く伸びた銀の髪が風にゆれていた。

 大木を背もたれに、座り込んだセフィロスは瞑想をしていた。
 静かに、ともすればまるで、死者のように微動だにせず。
 目を閉じ、肉体の全ての活動を停止し、呪われた細胞に身をゆだねる。
 細胞は駆け回り、異常な速度で肉体は完全な状態へと復されていく。


 ―――星という箱舟を得て。
 ―――母のように星を回る。

 星を回る命の流れ。
 その流れに乗り箱船を流す。
 私は星を回る片翼の天使。
 運ぶは、繁栄と滅び、絶望と歓喜。
 星となり、星を得る。
 新しき大地で新しき箱舟を得て 繰り返し流れる。
 永遠に流れ続ける、星の遊牧民―――。

 ―――星を回る夢を見た。
 ―――不覚にも眠っていたようだ。


 地を揺らす程の獣の咆哮に、眠っていた意識が目覚めた。
 不覚にも、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 咆哮は北、湖の方向から聞こえる。
 どうやら戦闘が行われているようだ。

 ジェノバ細胞の再生能力により回復はしているが、まだ傷は深い。
 雑魚ならともかく、まだ強者や複数の敵と戦闘が行えるほどではない。
 積極的に係わり合いになるべきではない。
 できれば、このまま静観が望ましいが、
 誰かがこちらに近づいてくるのなら、そういうわけにも行かない。
 暫くは、様子をみるとしよう。

 セフィロスはその場を動かず、再度瞑想に入り聴覚に神経を集中する。

 僅かに入る戦闘音。
 銃声、爆発音、獣の怒哮。
 そして、動き始めた巨大な足音。

 その足音はこちらに近づいてきている。
 枝葉の結界に囲まれたこの場所は、遠目から発見されづらい場所ではあるが。
 偶然ここにたどり着かれる可能性はゼロではない。

 この場を離れよう。
 ゆっくりと目を開け、早急ににその場を離れようとする、が。
 面を上げて、目の前を見上げ、その考えを改めた。

 どうやら、様子見が過ぎたようだ。
 ここまで巨大な魔物が参加者にいようとは。
 完全にこちらの失策だ。
 あの視点の高さでは、この場所も視界に入っている事だろう。
 今動けば逆に発見される。
 今は、動けない。
 幸い、魔物はまだこちらに気付いてはいないようだ。
 このまま動かず、自然と同化しやり過ごすしかないだろう。

 そう思い、セフィロスは自然と同化するように、静かに目を閉じた。

 荒れ狂う巨山の魔王。
 全てを壊し、全てを殺すため森の中を突き進む。
 目的は生存。
 目的は逃避。
 体を蝕む痛みからの逃避。
 体のいい八つ当たりだ。
 ブオーンは、この痛みをぶつける生け贄を渇望していた。

 失われた左目の死角。
 偶然にも、その位置にセフィロスはいた。

 激痛が意識を覚醒させている。
 正常な思考は失われ、意識は本能に返る。
 それは魔物の本性でありあるべき姿。
 獣の本能が研ぎ澄まされる。

 そう、たとえ死角であろうとも、今のブオーンは人間の気配(におい)を見逃しはしない。

 だがそれでも、ブオーンはセフィロスの存在に気が付くことができなかった。
 その気配は完全な無。
 心に乱れはなく、風のように緩やかで、木々のように穏やかだ。
 まるで自然と、この星と一体になっているかのよう。

 仮にセフィロスに僅かでも動揺が走れば、すぐさまその存在は発見される事だろう。
 魔王はゆっくりと巨大な歩を踏み出し、一歩一歩確実にセフィロスに近づく。
 そして、ついにその巨体はセフィロスの目の前迫った。
 目の前を通過する巨大な魔王。
 それを、微動だにせず、眉一つ動かさずセフィロスは静観する。
 振り上げられた巨足は、砂埃を上げ振り落ち、僅か数メートル先を霞め通る。
 それでもその心に乱れはない。
 そして、最後まで彼の気配は星から人間に移ることはなかった。

 魔王過ぎ去りし後。
 セフィロスはコケの生えた巨大な背を見つめ。

「…………ふん」
 それを一笑し、再度瞑想に入った。

【セフィロス(HP 1/7程度)、
 所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
 第一行動方針:瞑想
 基本行動方針:黒マテリアを探す
 最終行動方針:生き残り力を得る】
【現在地 湖南の森】

【ブオーン(左目失明、重度の全身火傷、)
 所持品:くじけぬこころ ザックその他無し
 第一行動方針:生き延びるために全参加者の皆殺し
 基本行動方針:頑張って生き延びる】
【現在位置:湖南の森→南へと移動(速度は遅い)】

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最終更新:2008年02月16日 22:18
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