第495話:dark of inside
「………………ぅ~ん」
闇に産声を上げた飛竜は、その胎盤たる闇の中で目を覚ました。
目を覚ました飛竜は辺りを見渡そうとするも、その目に映るのは暗闇のみ。
既に日の光は完全に落ち消え、明かりの無い洞窟内は完全に暗闇に包まれていた。
だが、その完全な暗闇を穿つように遠方に僅かな月明かりが差し込んでいる。
飛竜はその光を頼りに、出口へと向かい緩く両翼をはためかせた。
洞窟より抜け出し、見上げた空は墨色に染まり、見下げた泉はただ天上の月を写すのみ。
眠りに落ちる以前の喧騒が嘘のように、その場は静寂に包まれていた。
静寂の中、飛竜は月下に翼広げ、自らの身に起きた変化を再認する。
「あ、夢じゃなかったんだやっぱり」
広げた翼は夜の闇に負けぬ漆黒。
その大きさも前よりも一回りは大きい。
戦闘能力がほぼ皆無だった以前と違い。
今の自分なら、直接交戦し実力で参加者を殺す事も出来るだろう。
ま。
そんな手段は取るつもりはないが。
自分で手を下すのはめんどくさいし、何より面白みがない。
自分の思惑通りに人が動き殺し合うように仕向ける。
それが何より楽しいんじゃないか。
その手段は、取るとしても最後の切り札としてだろう。
ニタリと竜らしからぬ笑みを口元に張り付かせ、飛竜は生まれ変わった漆黒の翼をはためかせる。
ゆっくりとその体は宙に浮かび、天高くへと舞い上がってゆく。
上空から辺りをグルリと見渡した後、飛竜は同盟相手の居るカカズへと向かい一直線に風を切った。
約束は完全に遅刻。同盟相手は怒っていることだろう。
そりゃあもう、完全に。
土産はこの身と子供一人と魔物一匹をいい方向に導けた事。
まあ、魔物に関してはコチラも手痛い目にあったのだが、それは置いておこう。
さて、この土産であの相棒は怒りを静めてくれるだろうか?
そんな事を考えながらカカズに向かう途中の森で奇妙なモノを発見した。
見下ろした巨大な森に、あの巨大な魔物の仕業だろう、森の木々は踏み倒され出来た奇妙な一本道が存在していた。
それはいい。あの魔物が暴走している証拠だ。体を張った甲斐があったというものだ。
問題は、その道のすぐ脇の大木にに座りこむ人影がある事だ。
こんな辺鄙な場所でいったい何をしているのか。
居眠りと言う事もあるまい。
調べて見るか?
今は無用な危険は避けたいところだが。
今、自分がいるのは、地上より天高く離れた遥か上空。
漆黒の身は夜の闇に紛れ、発見することは叶わない。
運悪く発見されたところで、白兵戦など、上空に届くべくもなく。
天に向け放たれる魔法や狙撃など、上空に逃げ回避することなど造作も無い。
この天地は決して覆らない。
ならば、何の問題も無いだろう。
危険は避けたい、だが危険がないなら行うべきだ。
なにより、土産は多いほうがいいだろう。
スミスは静かに、飛行の高度を下げる。
佇む男に反応は無い。
気付いてはいない、気付けるはずもない。
ゆっくりと高度を下げながらスミスは男の思考にアクセスしてゆく。
男の精神がスミスの脳裏に流れ込む。
断片的な単語が頭の中に焼きついてゆく。
―――――そして、闇を見た。
『…璧………ノバ…………』
?
『星を巡る命の循環天からの災厄生命の巡り全て破壊。
黒マテリアメテオ降り注ぐ災厄破壊破壊破壊破壊再生。
白マテリアホーリー古代種障害殺害による排除。
再生のエネルギー星の力片翼の天使は神となる』
なんだこれ?
『ジェノバ細胞はリユニオンするジェノバの子供達人形達失敗作。
魔洸神羅ソルジャーライフストリームジェノバプロジェクト。
呪われた力呪われた剣呪われた細胞呪われしジェノバ呪われし私。
星の力生命の力呪いの力手に入れる手に入れる手に入れる』
なんだこれ?
なんだこれ?
『殺し合いの儀式死の循環を留める儀式ゾンビの様に変化する参加者。
増加する怨念増加する無念増加する呪い増加する死増加する暗い闇。
絶望狂気怨念外道暴力残虐罪罰死恐怖最悪凶殺害殺害殺害殺害。
斬殺刺殺絞殺惨殺撲殺殴殺毒殺焼殺銃殺圧殺爆殺呪殺。
男を殺す女を殺す剣士を殺す騎士を殺す魔物を殺す魔女を殺す。
ありとあらゆる手段戦術戦略戦力道具を用いて全員、殺す』
―――なんだ、コイツは?
コイツは、違う。
こんな闇を、人間が持っているはずが無い。
こんな闇に、人間が耐えられるはずが無い。
つまり、コイツは人間なんかじゃない。
ならば、人間でないのならば―――涼しい顔をしてこんな物を抱ている―――アレは、なんだ?
「…………………………」
―――――――煩い羽虫だ。
瞑想を続けていたセフィロスの目蓋が薄く開いた。
視線のみを上空に動かし、夜を舞う黒竜を正確に見据える。
過ぎ去るだけならばと放置していたが、長居するようでは些か鬱陶しい。
放置するか。駆逐するか。
ジェノバ細胞による肉体の再生は行われている。
現在どの程度回復しているか、現状把握は必要だろう。
では、アレを使って自身の復旧状況の確認を行うとしよう。
長らく根を張っていた、重い腰がユラリと上がる。
幽鬼のように怠慢な動きは一瞬のみ。
その動きは次の瞬間、疾風に変わっていた。
疾風の行く先には10メートルを超えようとする巨大な大樹。
このまま突き進めば衝突は必至。そのままの勢いで聳え立つ大樹に突撃する。
だと言うのに、疾走の勢いは止まらない。
その足は大地ではなく、大樹の幹を蹴っていた。
重力すら意に介さないその踏み込みで、足場の木の幹を踏み砕きながら天へと向かい駆け上がる。
瞬きの間に大樹の頂点に達し、瞬時にセフィロスは細く伸びる枝葉に飛び移る。
その重さに弓の弦のように枝葉がしなる。
そして、放たれる矢の如くセフィロスの体が空に舞った。
「え……?」
声を漏らしたのは飛竜だった。
それは一瞬の出来事。
気付けば、絶対の制空権を持っていた飛竜の優位は崩れ、覆るはずのない互いの天地が入れ替わっていた。
跳躍が頂点に達した体は重力に従い落下を始める。
落下に遅れた銀髪が舞う。
月光に照らされ輝く髪は、広げられた天使の翼のよう。
銀翼を広げ、片翼の天使が夜に舞う。
舞い落ちる天使が死を持って刃を突き落とす。
飛竜も咄嗟に身をかわそうとするも、その動き遅すぎる。
空中で突き下ろされた刃が、飛竜の左翼に突き刺さった。
そのまま刃は勢いを止めることなく横一文字に振るわれる。
一枚だった竜翼がトンボの様な二枚の翼に引き裂かれた。
「ギャアアアァァァァァァァアアァァアア!」
叫びを上げ墜落する飛竜。
片翼で何とかバランスを取ろうとするが僅かに落下速度を減速させるのが精一杯。
地面との衝突は避けられず、大きく砂埃を上げ墜落する。
僅かに遅れその横に、セフィロスが音も立てず着地した。
着地したセフィロスは飛竜には目もくれず、片腕を確かめるように見つめ握り開きを繰り返す。
………ふむ。悪くはない。
生命力はともかくとして、運動性能は7、8割復旧している。
ある程度のレベルの戦闘ならば支障は無いだろう。
とはいえ、万全には遠い。
クジャレベルの強敵や複数の手練を相手にするにはまだもの足りない。
今一歩、と言ったところか。
「ガッ………ぁぁ………」
漏れた声を見つめれば、落ちた飛竜がピクピクと翼を痙攣させていた。
まだ息がある事を確認し、次の行動を思案する。
肉体の復旧状況の確認は完了した。
ならば、次は情報といくか。
刻一刻と動き続ける戦場において、情報は立派な武器となり、情報の遅れは立派な命取りとなる。
数時間に及ぶ瞑想の間、全く行動できず、得られた情報は皆無だというのは痛い。
「貴様の知っている事、全て話せ」
剣の切っ先を竜の喉下に向けそう言い放つ。
話さなければ殺す、それはシンプルな脅迫だった。
だが、皮肉にも、先ほどこの男の中にある”闇”を垣間見たスミスにはよく分かる。
一瞬でも答えを躊躇えば、それこそ躊躇いなく、瞬時にこの喉元は貫かれているだろう。
だから話した。
自分の知りうる事すべてを。
これまでの記憶、経緯、成果その全てを。
カインの事を、フリオニールの事を、カインとの計画を。
さらには先ほど山のような魔物をけしかけた事を。
魔術師を喰らったことも、自らの肉体の変化も。
その全てを、洗いざらい話した。
虚言は無かった。虚言とバレれば殺されるから。
だけど、話した理由はそれだけじゃない。
心の奥で確信があったんだ。
この男に話したところで、計画に支障はないと。
いや、むしろゲームの進行という目的は果たされることだろう。
この男が他の参加者に今の話を言いふらす事はない。
この男は得た情報を駆使して参加者を殺し回ってくれるだろう。
結果として目的は果たせたはずだ。
そう後は、どうやってこの場を死なずに立ち去るかが問題だ。
「――――――――ほぅ」
話を聴き終え、セフィロスの口元にかすかな冷笑が浮かぶ。
私が瞑想中、この飛竜も同じく深い傷を受け昏睡中であったらしい。
そのため、その間の情報は得られなかったが、予想外の、実に益のある情報が得られた。
コイツとカインとやらの悪巧み?
知った事か。
こいつ等が何をしようが私の知るところではない。
そんな物の成否になど興味はない。
先刻私の前を通り過ぎた山のような魔王の話?
くだらん。
あの魔物が誰を殺して、どこで死ぬのかなど微塵の興味も沸かん。
注目すべきは別の話だ。
そう、それはこの黒い飛竜自身の話。
この飛竜が――――変化した参加者、実例二人目だと言う事だ。
進化とも呼べる急激な肉体の変化。
通常的にはそんな事は起こり得ないだろう。
重大な肉体の損傷。
魔力物の摂取。
急激な肉体の再構築。
これは変化の要因ではあるが原因ではない。
では原因はなにか?
上記の過程の中に異物が混入したのだ。
その異物とは――――。
――――――――闇だ。
この舞台に漂う闇。
死者の怨念、漂う狂気。
それは呪いと言ってもいいだろうし、それは魂と言ってもいいだろう。
死者が増えるたび、その密度を増している、暗い闇。
それこそ魔女の求めるもの。
それこそ私の求めるもの。
狂気のエネルギー。
人のエネルギーだ。
このエネルギーを取り込み、肉体を変化させる為の条件は、朽ち果てた肉体と堕ちた精神か。
いや、むしろ重要なのは精神か…………?
リユニオンによる肉体再生の際に、私自身になんら変化がないのはそれが原因か。
狂気との同化を果たすに、私の精神力、自我は強すぎるのだろう。
オリジナルジェノバを差し置いてリユニオンを律する精神力が、狂気に侵されるを許さない。
自らの精神を弱める手段が必要だ。
何らかのアイテム、何らかの設備がこのゲーム内にあるだろうか?
力を得るために、力を失う、か。
その矛盾にセフィロスは苦笑する。
ふと目の前の飛竜を見つめる。
情報は得た、もはやこの飛竜に用はない。
殺してもいいが、有益な情報の代価に、見逃してやっても構わないだろう。
「……失せろ」
「…………………………は?」
脱出の思惑を巡らせていたスミスは、その言葉に思わず間の抜けた声を上げた。
「聞こえなかったのか。気の変わらん間に失せろ」
余りの思惑通りの言葉に、スミスの思考は一瞬止まってしまったが。
すぐさまその言葉を理解し、その場を立ち去ろうと慌てて方向を変えた。
「………ああ、そうだ」
そこに、思い出したようなセフィロスの呟きがかかる。
立ち去ろうとしたスミスはその呟きに動きを止め、その先を待った。
「――――――――黒マテリアを、知らないか?」
「黒、マテリア……………?」
そう飛竜は、僅かに呆けた声を上げた。
その様子を見つめ、得られるものはないと判断したのか。
それとも、元よりこの質問に期待などしていなかったのか。
「……………もういい、知らないのなら。行け」
あっさりと質問を取り下げ、セフィロスはその場に腰を下ろす。
飛竜は泥にまみれ地を羽ばたきながらその場を去った。
そんな飛竜にもはや興味はないと、セフィロスは瞑想を再開した。
そして瞑想の中、勝者となりえた己の姿を幻視する。
その幻想に、思わず口元が歪み、彼らしからぬ笑みが浮かんだ。
天上では雲が流れ、夜を穿つ月の姿を隠そうとしてる。
夜は深まり光は消え去る、空は一色漆黒に染まった。
そろそろ日を越え、新しい日を迎える頃だろう。
さて、勝者となり全てを取り込んだ暁には、私は何になるのだろうか。
――――それが、今から楽しみで仕方がない。
【セフィロス(HP 1/5程度)、
所持品:村正 ふういんマテリア いかづちの杖 奇跡の剣 いばらの冠
第一行動方針:瞑想
基本行動方針:黒マテリア、精神を弱体させる物を探す
最終行動方針:生き残り力を得る】
【スミス(HP1/8 左翼負傷、重度の全身打撲、変身解除、洗脳状態、闇のドラゴン)
所持品:魔法の絨毯 ブオーンのザック
第一行動方針:この場から離れる
第ニ行動方針:カインと合流する
行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】
【現在地 湖南の森】
最終更新:2008年02月16日 22:19