553話

第553話:獅子の雑考


懐かしい重みを感じながら、俺は一人歩いていた。
腰に下げたライオンハート、愛剣の柄を時々さすりながら旅の扉を探す。
今までとは違って装備は少なく、体は身軽だった。
ライオンハートの他にはナイフを懐に忍ばしているだけだ。

十分毎にあの妙な草に向かって定期連絡。
マーダーが現れたら状況により撃退、及び離脱。
その際にも緊急の連絡を行う。
旅の扉を見つけ次第その場を確保し、周辺を押さえ、仲間を迎える。

それが今俺の為すべき任務であり、自分自身の気持ちを治める方法だった。
片腕を失い、昏睡しているマッシュ。
先の放送で呼ばれた仲間、ゼル。
そしてラグナやリノア……。
目の前で、あるいは会うこともなく何処かで死んでいった者達。
何も果たせずにいる自分が不甲斐なかった。
……しかし、もちろん単なる感情のみから行動を起こしているわけではない。
サイファーと殴り合いでいくらか鬱屈感の遠のいた俺の頭には
SeeDとして、ガーデン司令官としての冷静な思考も一方で戻ってきていた。
このウルの対主催グループは大規模ではあるが、負傷者もまた多い。
負傷者や非戦闘員を引き連れて歩き回るのは危険が多く、
またなにより負傷者の負担が大きい。
特にマッシュなどは生きている方が不思議なほどの重傷で絶対安静だった。
守備を固める者もちゃんといなくてはならない。
戦力の分散を最小限に抑えるための単独行動。
単独行動に耐えられるだけの戦闘力を有する者。
現状で最適なのは俺かサイファーだった。

そして今、俺は一人で歩いている。
軽装は万一、自分がマーダーにやられた時に武器を奪われないため。
特に銃を奪われるわけにはいかなかった。
瀕死の者もいる中、距離を取られて狙い撃ちされたら防ぐのは難しい。
今判明している少なくとも一人のマーダー、サラマンダーという赤髪の男はおそらく接近戦タイプ。
正確な狙撃ができるかは疑わしいが、わざわざ戦術に幅を与えてやる必要はない。
それにGFをジャンクションした今ならば、
大抵の相手はライオンハートだけで乗り切れるという自信が俺にはあった。
……騙まし討ちにでもあわない限り。
脳裏にはどこか暗さを纏ったサックスの顔と、
サックスが赤髪の男と何事かをやりとりしている光景が浮かんでいた。
サイファーとの喧嘩の後、身体を休めながら皆で情報交換した時に
俺はあいつの話に違和感を覚えた。
あの時は赤髪の男がマーダーではないと思っていたから見逃したが、
今となってはあの光景は重大な意味を持つ気がする。
もちろん現段階ではサックスがマーダーであると言い切ることはできないが、
少なくともあれはサックスの言うように「見失って逃げられた」ようには思えない。
……しかし、俺もまだ十分な信頼を得ているとは言いがたい。
「仲間」の糾弾は慎重に行うべき。
そう考えて、サックスの不審さはサイファーだけに耳打ちをしておいた。

焼け焦げた建物の陰に注意しながら、俺は更に旅の扉を探す。
思考はアーヴァインと、リノアを殺した犯人のことに移ろっていた。
緑髪の男、ヘンリーとソロに対する疑いは既に殆ど解き、
ヘンリーからはアーヴァインの情報も得ていた。
そして、あくまでも推測ではあるが、リノアを殺した人間のことも。
「緑髪と銃の殺人者」
言えた特徴はこれだけだったが、ヘンリーは何かに思いあたった様子で、
それは自分の弟かもしれないと言った。
瞬間、頭に血が上った。
が、何故かその時、アーヴァインの姿が脳裏を横切り、消えた。
(サイファーは怒声を上げてヘンリーに詰め寄ろうとし、バッツ達になだめられた)
ヘンリーに怒りを向けるのは筋違いだと分かっていたし、
仲間の殺人を止められなかった俺は、筋違いと分かってそうすることを自分に許せなかった。
……それに、あくまで推測だ。
ヘンリーの弟がリノアを殺したという確証はない。
俺は新たに緑髪の男を見つけるごとに、また心を波立たせるのだろう。

そしてアーヴァイン。
あいつはあれからさらに人を殺したものの、追い詰められて気絶をし、
目が覚めた時には殺人者としての自覚を失っていたという。
話を聞いただけでは、記憶喪失というのは演技だと判断するのが適当。
しかし魔女を暗殺しようとした時を手始めに、俺はアーヴァインの隠れた繊細さを見知っていた。
物凄いプレッシャーの中で自分を壊してしまってもおかしくない……。
そんな風にも思えるのだ。
もしもヘンリーが言うように、アーヴァインが元の自分を取り戻し、
犯した罪を悔いていたとしたら、俺は一体どうしたらいいのだろう?
あいつのしたことは許されることではない。
だけど、だからこそ仲間である俺がまず許してやるべきなのかもしれない。
あのソロという男がそうしたというように。
……だけどやっぱり、会ったらとりあえず一発殴ってやる。

さあ、ウルの東部は探し終わった。
こちらには旅の扉はないようだ。
次は南部を探すとしよう。

【スコール
 所持品:ライオンハート エアナイフ ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP1/4)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:マーダーを警戒しつつ旅の扉を探索(サックスにも警戒心)
 第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】
【現在位置:ウル東部→ウル南部へ】

スコールの支給品には、猛毒入りの水のほかに普通の水も混ざっています。

スコールのその他の支給品はソロ達のもとにあります。

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最終更新:2008年02月16日 22:23
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