556話

第556話:Touchstone


サラマンダーは息を潜めて、その男が来るのを待っていた。
暗殺者としての能力を尽くして気配を、殺気を抑えつけ、襲撃の瞬間を待ち侘びる。
目の前の路地を曲がったすぐ先に、その微かな気配はあった。
五感を研ぎ澄ましてやっと聞こえるほどの足音から、そこはかとなく同業者の匂いが嗅ぎ取れる。
戦闘にあまり影響が出ない程度に傷は回復してあるが,
もはやサラマンダーには武器と言えるものが殆どなく、自身では罠らしい罠も張っていない。
しかし、男が向かうその先には、あの恐るべき魔女が作ったそれがある。
このゲームの参加者全てが否応なく探さざるをえない旅の扉。
時間内に通り抜けねば、生と死を分かつことになるそれを見つけた瞬間の安堵。
その安堵の一瞬こそが、サラマンダーが我が身を凶器と変える合図となる。

サラマンダーにとってありがたいことに、相手は一人だった。
他の人間に気付かれる前に隠密裏に抹殺するのがベスト。
慎重且つ大胆な行動が求められるが、それをこなす十分な能力が自分にはあるはずだ。

(刃物など必要ない。声も出せぬうちに殺してやる)

男の気配はすぐ近くまで迫っていた。
サラマンダーは身を隠した物陰から、そっと男の影を視認する。
似ても似つかないその影にかつての仲間――もう二度と戦うことの叶わない男――の姿を投影し、闘志を掻き立てる。

(さあ、扉を見つけ、その背を晒せ)

そう胸の内で囁いたと同時に、男――スコール・レオンハート――は姿を現した。
そして事態は一気に進む。

サラマンダーが全身の筋肉を爆発させ躍り出た瞬間、たしかにスコールは背を見せていた。
そしてそれはたしかに、一流の暗殺者から逃れるには致命的な隙だった。
しかし、勝利を確信しかけたサラマンダーの目は驚愕で見開かれることになる。
―――そもそもなぜ索敵の任務も請け負ったスコールがアラームピアスを、
あるいは『けいかい』のアビリティを持つGF.ケルベロスを借り受けてこなかったのか?
サラマンダーには問うことすらできないその問題への答えが、予想外の事態を引き起こした要因である。
―――GF.パンデモニウム、アビリティ『さきがけ』
初動だけに限定されるその特殊能力は、背後からの奇襲にも適用される。
つまり、3mの距離まで肉薄し、延髄に一撃を食らわせようとしたサラマンダーが見たもの。
それは一瞬前まであった背中などではなく、冷酷とも言えるほど落ち着いた蒼い瞳と、斜めに走った刀傷。
(……ッ!!)
驚愕に目を見開くと同時に、サラマンダーは本能的に身を横にひねらせた。
一瞬後、風の音と共にサラマンダーの首元を浅く切り裂いてナイフが飛んでいく。
勢いのまま横に転がった体を、サラマンダーはクエスチョンマークで満たした頭のままで立ち上げ、相手から距離を置く。
―――とにかく、相手は異常な反射神経の持ち主。
それだけを頭に叩き付けて気持ちを落ち着けようとするが、相手は悠長に待ってはくれない

今度は自分自身を第二のナイフに変えたかのように突進してきたスコールが
腰から抜き出した奇妙な剣を……地面に突き刺した。
―――爆音。
空気の微かな震えと共に砂埃が舞い、サラマンダーは反射的に目を閉じる。
(目くらまし!? 敵は……背後か!)
射抜くような殺気と共に突き出された刃を間一髪避ける。
不意打ちという絶対的優位から叩き落とされた反動がサラマンダーを後手に回していた。
再び距離をとると今度は何か青い光が自分から……いや、違う。
物を取り出しやすいように半分空けられていたザックの中、
チョコボの像から光が抜け出てスコールの手へと伸びていく。

―――フレアと同じ威力の爆発を起こす代物です―――

困惑した頭に、サックスの言葉が危険信号となって甦った。
そして、相手の紡ぐ言葉が懸念を確かな事実に変えていく。
「……フレア」
スコールの左手から紅蓮の光が発した。
一見して威力はクジャなどに劣るが、魔法自体が高位のもの。
今更ながら、自分と待ち伏せは相性が悪いと心中で吐き捨てつつも、
サラマンダーは大きく横っ飛びをしてフレアの直撃を避ける。
一瞬、この爆発に紛れて逃げようかとも思うが、未知なる相手への闘争心が打ち克った。
仲間と決別してまで、ビビを殺してまで手に入れたかったもの。
それは命を、存在を焔の如く燃えたぎらせた先にある勝利なのだ。
(距離をとったら勝ち目はない。どうにかして懐に飛び込んでやる!)
サラマンダーは舞い上がる煙の中を疾走した。


一方、スコールは爆発の間隙をついて、今度はひそひ草を取り出していた。
自分のやろうとしていることを再確認して溜め息をこらえる。
場合によってはこれは自分の危険度を格段に上げるかもしれなかった。
相手は負傷者。自分は健康。
相手は素手で、自分は最強のガンブレード。
おまけにガーデンで格闘家相手の訓練も積んでいる。
このまま戦闘を続ければ、自分が負ける要素は少ない。
―――だが……。

「不意打ちを食らった。赤髪の男だ。応援を1人頼む」

まくし立てるように、そして若干呻くように言う。
曖昧な表現はわざとだ。
相手の返事も待たずに草を懐にしまうと、スコールは再びライオンハートを構える。
フレアによって巻き上がった黒煙、そこから飛び出してくる敵を待ち受けながら、
スコールは一体誰が「応援」に来るかを考えていた。

【スコール
 所持品:ライオンハート ひそひ草 猛毒入りの水
G.F.カーバンクル(召喚○、コマンドアビリティ×、HP2/5)、G.F.パンデモニウム(召喚×)
 第一行動方針:サラマンダーとの戦闘
第二行動方針:旅の扉周辺の安全を確保 
第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男を探す/緑髪を警戒/サックスを警戒
 基本行動方針:ゲームを止める】

【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、首元軽傷、MP2/5)
 所持品:カプセルボール(ラリホー草粉)×1、各種解毒剤(あと2ビン)  チョコボの怒り
 第一行動方針:スコールとの戦闘
第二行動方針:旅の扉付近で他参加者を待ち伏せる
 基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る】

【現在位置:ウルの村南部(旅の扉付近)】

スコールの支給品には、猛毒入りの水のほかに普通の水も混ざっています。

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最終更新:2008年02月16日 22:23
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