32話

第32話:生きるために殺す


生き残るためには殺さねばならない、それが正しいことであると言えるか、しかし――
アグリアスは岬の洞窟を片手づたいにひた歩き、なんとか出口を見つけ外に出た。
洞窟の中では暗闇が恐怖を誘ってしまう。光が欲しかった。明るい日差しのもとで、敵を倒す。
そう、他の参加者はすべて敵だ。
ひとりだけしか生き残れないゲームなのだから、仲間なんて意味がない。

あまりに唐突に始まったこのゲーム、アグリアスは始まりの部屋でラムザに声をかけられた時も、 半信半疑でいた。
うなずいて、扉に走りこんではみたが、そう簡単に信じていいのだろうかと不安になった。
暗闇の洞窟のなかでラムザの顔を思い出したとき、あれは幻影であったように思えた。
あの毅然とした態度の中に確固たる本物の人間としての精神を見い出したのは確かなのに。
そう簡単には信じられないのだ。

あの男の姿は自分を騙す罠の一つであり、気を許して近づいてこの身をゆだねることなぞ、このゲーム
に乗ることと同じ位愚かなことなこと、そう考えるべきだとアグリアスは思う。
……だから結局私は一人でこの世界に投げ込まれた……
彼女は、今洞窟をぬけ、自分は孤独であると思い込んでいた。
現に傍には誰もいなかった。


洞窟を出たところは森の中だった。
入りくねった木の枝や、足をからめとられそうな草の茂みに面倒なものを感じながらも、先へ進むことを決意する。
少し歩いた所で、人間の気配が背後にあることに気づいた。
洞窟を出たころにはまったく感じられなかったもの。いつの間にか接近されたようだ。
……やる気だ
アグリアスは武器をとった。
支給品はビームウィップとクロスクレイモア。
どちらもすぐ手に馴染んだ。鞭を使った戦闘はほとんど経験がなかったが、この武器は難なく使いこなせる自身がある。
ぱきぽきと折れた枝を踏みつける音がした。敵は近い。
アグリアスは深呼吸した。敵が背後にいると知っていながら、わざと背を見せたままでいる。
だが、射程内に入ったら、一瞬のふり向きざまに、一閃――

――私は騎士だ。仕えるべき主君がいる。その方を守り抜くまで、何も生まないこんなくだらぬゲームで、
こんなところで死んでたまるかッ……

アグリアスは次の瞬間ビームウィップを横になぎ払い、その勢いを利用して体を180度反転させた。
線状のビームが大きく弧を描いて、木という木を真っ二つに切断した。
草が焼かれ赤い火が辺りに燃え移る。火花が散ったような音がして、大木が崩れ落ちた。
やったか? 今の攻撃をかわすような相手がいるとは思いたくないが……
アグリアスが気をぬかずにいたのは幸いだった。
敵は瞬間的に跳躍し、ビームの閃光をかわしたのだ。
「!」
頭上から赤い塊が降ってくる。
アグリアスは体を屈め、緊急回避の体勢をつくった。後転し、背中が太い木の幹にぶつかったところで
もう一度鞭で前方を薙いだ。

赤い髪の戦士、サラマンダー・コーラルがアグリアスの十数メートル先にいた。
サラマンダーはアグリアスの第二激もかわしていた。
「まさか気づいていたとはな。俺の気配を殺す術は完璧に近いと思っていたが」
アグリアスは口の端をわずかにつり上げた。
「気配を消せても、枝を折る自分の足音に気づかないようでは、二流だな」
サラマンダーは突進してきた。
黒くくすぶった草の上を跳ねとび、あっという間に距離をつめてくる。右手に鋭い爪が生えているのを
アグリアスは確かにみた。あれはきっと鋼鉄をも切り裂く使いこなされた武器だろう。
ならば、アグリアスもクロスクレイモアを手にとった。
こちらも専門を使わせてもらう。剣の扱いならば負ける気がしない。
少なくとも今ならば。

【アグリアス 所持品:クロスクレイモア、ビームウィップ、もう一つは不明
 行動方針:サラマンダーを倒す】
【サラマンダー 所持品:ジ・アベンジャー(爪) 他は不明 
 行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?)】
【現在位置:岬の洞窟入口近辺】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月17日 21:52
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。