327話

第327話:喜劇


ただ静けさが支配する誰もいない森。
その静けさを打ち破るように、不意に上空の空間がゆがむ。
ゆがみの中から、銀色の美しい青年が現れた。
青年はその場に着地すると、わき腹を押さえひざまづいた。

アリアハンを離れる直前。
魔物との戦闘中に現れた女。
誰も、自分でも、人を殺そうとするのならば心が動く。
殺意、怯え、恐怖、怒り。
その感情は読みやすい、その気配をもとに攻撃を避けることなど、自分には造作ないこと。
だが、あの女にはそれがなかった。
自然に、殺気も何も発せず弾丸を放ったのだ。
まるで、当たり前の日常の作業のように。
横合いから完全に不意を突かれた。

その傷は深い。
怒りに任せ、自分の状態も考えず撃ってしまったフレアも、負担になっている。
血が溢れるわき腹に回復魔法をかけるが効果が薄い。
何とか血は止まったが、この傷は流石にまずい。
このままでは死んでしまう。
死ぬ?

「フ、フフフ……」
唐突にクジャは笑う。
「ク、ククク……アハ……アハハハハハハ!! 死ぬだって…この僕が!?」
傷口を押さえていた手を離し、両手を大きく広げ、空を見上げ叫ぶ。
勢いよく広げたその手からはベットリ付いた血が飛び散り、キラキラと宙に舞い輝いた。
その様は舞台の上で唄う役者の様。
「ハハハハハ… バカげた話だ。僕が死ぬなんて。
 ガイアに戦乱をもたらしたこの僕が、完全な魂を手に入れたはずのこの僕が!
 訳の分からぬまま蘇り、また死ぬというのか? また失うというのか? この魂を!
 アハハハハハハハハ! まるで喜劇だ! 哀れな人形をあざ笑う喜劇だ…。
 これを笑わずしてなにを笑う! 魔女もガーランドもさぞ満足だろうよ!
 ククククク…ハハハ…ハハハハハハハハハハ!!」
壊れたように笑い続け、その笑い声は虚しく森に吸い込まれる。
そして、電池の切れたかのように、唐突にその笑いは止まる。
両手を広げたまま、糸の切れた人形のようにバタリと後ろに倒れこんだ。

倒れこみ、木々に囲まれ見上げるその光景は、いつかの記憶を思い出させた。
すべてを失ったあの時。生きるという意味がわかった気がした。
だけど、今はもう、その気持ちを思い出すことができない。
「…ああ、ジタン…僕は今、とてつもなく君に会いたいよ…。セフィロス、君でもいいかな…」
そう呟き、クジャはゆっくりと立ち上がる。
この二人なら、なにか答えをだしてくれる、そんな気がする。おそらくその答えは、対極の答えなのだろう。
そして、森を後にしたクジャは、北に見える村に向け歩き始めた。
そこに彼の望む再会は待っているのだろうか?
それは、まだ誰もわからない。

【クジャ(HP1/5、負傷、MP消費)
 所持品:ブラスターガン 毒針弾 神経弾
 第一行動方針:ジタンかセフィロスに会う、会ってどうするかは不明 最終行動方針:最後まで生き残る】
【現在地:ウル南の森→ウルの村 移動中】

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最終更新:2008年02月17日 21:57
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