FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 419話


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第419話:悪意の螺旋


ウィーグラフは山を登っていた。
カズスの北方にてフリオニールのマシンガンの洗礼を受け、
南東へと背走した彼はそれから廃墟となったカズスを迂回し西へ。
そして人目につく平野や砂漠を避け、カナーンへと向けて山岳地帯へと入ったのだ。
本来移動する場所ではなかったのだろう。
アリアハン大陸と違い、山道などはなく鬱蒼と木々が生い茂るばかりである。
(くっ、これならば平野を回りこんだほうが良かったか?
 いや、仇敵以外の者と関われば碌なことにはならない。
 元よりこの広大な大陸で偶然ラムザと出会うなどという幸運も期待してはおらぬ。
 奴は必ず仲間を求めるはず。ならば人の集まる拠点を虱潰しにするまでよ)
だが日が落ちるまでに山を越えられるだろうか?
それだけがウィーグラフの懸念であった。道がない以上、夜の山は危険だ。
ゲームの性質上、野獣などが放されている可能性は低いが
茂みに隠された急傾斜などに足を取られ転落すれば救助など求められぬこの場では致命的だ。
崖や亀裂などに道を遮られ、コンパスはあれども遭難の危険性もある。
なんとか日が昇っているうちに山を越えたいものだ、
とそんな事を考えながらウィーグラフは黙々と山を登っていた。
そうしてしばらくすると少し開けた場所に出た。
何があったのかいくつかの木がなぎ倒され、焼け焦げている。
範囲はそう広くなく、局所的に稲妻が落ちたかのようだ。
(恐らくは……その通りなのだろうな)
つまりはここで戦闘がおき、誰かが雷の魔法を使ったのだろう。
そしてその破壊痕の中心に倒れている一人の少女を見つけた。
死体か、と思って近づいてみると僅かに息をしている。
あちこちに火傷を負っているが、致命的なほどではないようだ。
時々呻き声を挙げ自身の生存を周囲に伝えるが、それを受け取れるのは現在ウィーグラフしかいない。
そしてウィーグラフには少女を助けるつもりは更々なかった。
(敗者に価値はない。どこの世界でも普遍の法則よな。
 私には目的がある。余計な荷物を負っている余裕などないのだ……すまないな)
心の中で形だけ詫び、その場を後にしようとする ―― その時。
「うう、ラ……ラムザ……」
足が……止まる。

ウィーグラフは振り返り、少女を抱き起こした。
「おい、今何と言った? おい!」
「ぐっ、うう……」
当然だが気絶している少女は呻くだけで答えはない。
ウィーグラフは舌打ちすると、ザックから小瓶を一つ取り出した。
霊薬エリクサー。至高の回復薬である。
(あまり使いたくはないのだが……やっと奴の情報を手に入れる機会が訪れたのだ。
 これを逃すわけにはいかん)
蓋を取り、少女の口に中の液体を垂らす。
しかし少女はすぐに咳き込み、液体を吐き出してしまった。
「吐くんじゃない。ちゃんと飲み込むんだ」
まだ数滴しか垂らしてないとはいえ、貴重な薬を吐き出され思わず声を荒げる。
どうやらダメージが深く、喉が受け付けないようだ。
しばし黙考し、舌打ちする。
(ち、仕方ない)
ウィーグラフは小瓶を煽り、エリクサーを口に含むと少女に口付けた。
口移しで強引に少女の口腔内へ霊薬を流し込んでいく。
「む……う……」
苦しそうに、でも確実にコクン、コクン、と液体を嚥下する少女。
少女の身体が熱を持ってきたことを感じ、ウィーグラフは唇を離す。
全身の火傷跡が消えていき、少女の顔に血色が戻る。
そして少女……アリーナは目を覚ました。
いや、途中から目を覚ましていたらしい。ギロリ、とウィーグラフを睨みつける。
「目を覚ましたか」
だがウィーグラフのその問いかけにもアリーナは答えない。
「う、く……あ」
否、答えられない。
全身のダメージは消えても全身麻痺はエリクサーでは癒せなかったのだ。
だが、それに気付かずウィーグラフは尚も問いかける。
「おい、話せるか?」
「あ、あたしの……ザックに、く、薬が……」
アリーナはやっとのことでそれだけを言葉にする。

ウィーグラフはアリーナの身体を横に向け、マントの下に背負われていたザックから黒い丸薬を取り出した。
「こいつか?」
アリーナは返事の変わりに口を開き、舌を伸ばす。
ウィーグラフも黙って丸薬をアリーナの口の中に押し込んだ。
ゴクン、と喉を鳴らし飲み込む。目を閉じて全身の制御を取り戻そうとする。
幸いにもこの万能薬は即効性ですぐに全身の麻痺が取り除かれたのが分かった。
そして目を見開くと、どん、とウィーグラフを突き飛ばして跳ね起きる。
「な、何をする!?」
危険を感じ、ウィーグラフはアリーナとの距離を取る。
アリーナは黙してウィーグラフ目掛けて殺意を走らせる。
ウィーグラフはこの状況に戸惑っていた。
「ま、待て! 私には戦う意志はない!」
なんと愚かなことを口走るのだ、と自分で思う。
迷わずに疾走してくる相手。その目を見れば彼女自身がゲームに乗っているのは明らかだ。
こちらの意志に関係なく相手はウィーグラフの命を奪いに来ている。
彼は広刃剣プレデターエッジを横に構え、少女の跳び蹴りを受け止めた。
あまりの蹴りの鋭さに刃を合わせることが出来なかったのだ。
しかし彼女の攻撃はそれだけでは終わらない。
身体を捻って逆足の浴びせ蹴りが彼の首筋に襲い掛かる。
咄嗟に身体を屈めることでウィーグラフはその蹴りに空を切らせる。
すると彼女は地面に手を突いて着地すると、そのまま逆立ちの状態で更に廻し蹴りを叩き込んできた。
ウィーグラフはそれもまた屈んだ状態から起き上がり、スウェーバックで回避する。
またもや空を切った彼女の足が地面についたかと思うと、そのまま高速で回転して身体を屈め
無防備になったウィーグラフの足元へ目掛けて水面蹴りを放ってきた。
それは彼の向こう脛を正確に狙っており、アリーナは笑みを浮かべる。
しかしそれにもまたウィーグラフは反応した。
スウェーバックの状態から高速で身体を仰け反らせて、そのままバック転したのだ。
広刃剣を右手に持ったまま左手で着地し、後ろへと飛び退く。
結果、最後の水面蹴りも空を切り、両者は再び間合いを空けて対峙する。
アリーナは衝撃を隠しきれないようで、ウィーグラフの顔を驚きと共に見つめた。
身に着けている皆伝の証の効果で、相手が一度行動する間に4連続で攻撃できる自分。

その4連続の彼女の高速乱れ蹴りを全て完全に回避したのだ。驚愕しないわけがなかった。
「何者よ……」
思わず呟く。
しかしそれに答えるほどウィーグラフは慈悲深くはなかった。
今度は自らが明確な殺意の塊となってアリーナへと斬りかかる。
その鋭さはアリーナの記憶の中で、マティウスやピサロ、ソロ達に匹敵すると判断した。
斬撃の軌道を完全に見切ることは出来ない。
彼女はカウンターをとる事を諦め、斬撃の射程範囲から高速で逃れる。
しかしウィーグラフの踏み込みはそのアリーナの回避速度を上回った。
それは彼女の予測よりも一瞬だけ早く、一歩分だけ深い。
一瞬で間合いをゼロにされた彼女に向かってプレデターエッジが迫り ――切り裂く。

真っ二つに切り裂かれ虚空を舞う……アリーナのマント。
肝心のアリーナはその場に倒れ付し、無様に横に転がりながらウィーグラフとの距離を取る。
一瞬でも彼女が自分から転ぶのを躊躇していればマントの運命はそのまま彼女のものだっただろう。
ウィーグラフはひらひらと宙を舞うマントが視界を遮り、追撃が叶わなかった。
お互い体制を整え、距離を取って対峙する。
(ふん、か弱い少女かと思えばとんだじゃじゃ馬だな。
 殺しはしないがもう一度、動けなくなるほどに斬り伏せる必要があるか)
(あいつ……強い、私よりも。……負ける? 私が? また?)
考える。自分は今までに3度敗北した。
一度目は油断だった。実力では上回っていたのに、相手を侮って敗北した。
二度目は戦術を誤った。複数を相手に受けに回ってしまった。あの黒服も強かったが。
三度目は挑発に乗って我を忘れ、周囲の警戒を怠った。テリーを見切るのも早すぎた。
もう自分に負けは許されない。
アリーナは考える。三度も敗北すれば嫌でも学習する。
(力だけじゃ、生き延びられない)
ならばどうする? どうすればこの場を切り抜けられる?
(考えろ、考えろ、考えろ、リュカの時のように)
思考が高速で活性化する。自分が生き延びるための方策を模索する。
そして、アリーナは気を抜くと両手を挙げてその場に座り込んだ。
「?」

「降参、よ。私の負け、好きにすればいいわ。
 私の身体が目当てなんでしょ? 」
それを聞いてウィーグラフは激怒する。
「私を愚弄するか!」
「でもあなた、気絶してる私の唇奪ったじゃない」
「貴様がそうやって立っていられるのは誰のおかげだ?
 貴様が薬を受け付けんから、無理に飲ませてやったのだ!」
やはり、と思う。
思い返せば自分はあの雷で手酷いダメージを負っていた。
目覚めたとき、痺れしか残っていなかったのは彼が助けてくれたからなのだ。
(なら、私を助けた理由がある。その理由が解消されないうちは殺されることはない、か)
「そういうことなら私が悪かったわね。ごめんなさい。
 襲われるかと思って必死だったの」
(フン、白々しい。貴様がこのゲームに乗っていることは一目瞭然だ)
だが突然襲い掛かってきた理由については納得した。
マーダーであるうえ、そういう誤解が上乗せされれば仕方ないかと思う。
ウィーグラフは警戒は解かないままに剣を下ろした。
「小娘」
「アリーナよ」
「ではアリーナ。貴様はうわ言でラムザの名を言っていた。
 ラムザと出会ったな? 奴はどこにいる!?」
問い詰めてくるウィーグラフを見てアリーナは考える。
ラムザ。最も新しい憎悪の対象。そしてそれは向こうも同じのようだ。
どうみても仲間という雰囲気ではない。
教えても構わないが、自分はラムザの行く先を知らない。
だがなんとかこの状況を上手く立ち回らなければならない。
「ええ、知っているわ。ラムザの行く先もね」
ハッタリである。よく考えれば自分の示した先にラムザが居なくても一向に構わないのだ。
こっちの方向に向かったことは確かだが途中で何かあって方向転換したのかも知れない、で通る。
それよりもこの騎士の強さは利用できる。
もともとテリーを取り込んだのは、ピサロやあの黒服のような強者との戦いの為の手駒とする為であった。
実用には耐えないと判断して捨ててしまったが。今思えば惜しいことをした。

あの剣の効果を知っていれば考えも変わっていただろう。
だが今更仕方がない。その代わりに何とかこの騎士を取り込んでみようか。
「本当か! どこだ!」
「ちょっと落ち着いてよ。事情くらい聞かせてくれない?
 ラムザってあんたの何なの?」
「妹ミルウーダの仇だ! ラムザとその仲間アグリアスをこの手で殺さぬうちは死んでも死に切れぬ!
 嫌、そんなことはどうでもいい。さっさと奴の居場所を吐け!」
妹ミルウーダ、このあたりが鍵か。そしてアグリアス。
この名前には危機覚えがある。あの忌々しいサスーン城で。

『それ以上喋るな。アグリアス、大丈夫か?』

そうだ、あの黒服と一緒にいた女騎士の名前だ。
どうやら向こうの仇は同時にこちらの仇でもあるらしい。
「分かった。教えるわ、だけど条件があるの」
「条件だと? 貴様、そんなものを出せる立場だと思っているのか」
ウィーグラフは下ろしていた剣を再び構え、殺意を乗せる。
アリーナはその威圧感に少し怯むが、何とか平静を装った。
「待って、私を助けてくれた礼としてラムザの行く先は教えるわ。
 条件のほうはアグリアスの居場所を教える代わりにってことよ。
 それにあなたにも悪い話じゃないと思うけど?」
「何、アグリアスだと!?」
(ラムザだけでなくアグリアスの情報までも!
 なんだ? 何か上手く行き過ぎている気がする……だが)
「条件、とはなんだ」
「私と同行して。私もそいつらには怨み心頭なのよ。
 さっきの戦いで分かってもらえたと思うけど、お役に立つわよ?」
「彼奴らは私自身の手で冥府へと送る。加勢は必要ない」
「そうかしら? アグリアスには手練の仲間がいるわよ?
 とても強い長身で黒服の男に赤い貫頭衣を纏った物真似なんて奇妙な技を使う男。
 それにラムザまで加わる可能性があるわ」
ウィーグラフは沈黙する。

その二人には覚えがある。もう少しでアグリアスに止めをさせるかと言うときに邪魔をした二人だ。
長身の男に関しては服装は違うが着替えたのであろう。
確かに侮れない。しかもラムザは単体での戦闘よりも集団戦闘に長けている。
奴が指揮を執れば、たった五人の集団も一個師団に匹敵する戦力を持つのだ。
(この提案……乗るか)
しかし……この女の性は凶だ。この女は参加者の全てを殺すつもりだろう。
同行するということは自分はそれを容認するということだ。
つまり、ゲームに乗るということ。今まであやふやだった決断を迫られている。
鬼女という言葉が浮かぶ。血を好み啜る鬼。いつ後ろから刺されるかもわからない。
そこまで考えて自嘲する。鬼がどうした。
自分もまた復讐鬼。かつては悪魔に魂を売り渡した立派な鬼だ。
そして復讐を果たした後もここで朽ちる気はない。
ふと、何故かジタンの顔が脳裏をよぎった。だが、ウィーグラフはそれを振り払う。
「わかった。その条件飲んでやる。
 だが私の指示には従ってもらうぞ」
「OK、交渉成立ね。あ、言い忘れてたけどリュカとエドガーってのも
 そのアグリアスの居場所に向かってたから、もしかしたら大勢を相手にする羽目になるわよ?」
「構わん、もうそんな話はどうでもいい。さっさと居場所を言え」
「いや、その話詳しく教えてもらおうか」
突然第三者の声が割り込んできて、アリーナとウィーグラフはその方向を見やる。
そこにはオートボウガンを構えたスライムに乗った騎士……ピエールが居た。
「魔物?」
「そちらの女性、今リュカ様の名前を出したな。その居場所を教えてもらいたい」
(リュカ「様」? そういえばアイツ魔物使いだっていってたっけ。
 てことはコイツはリュカの仲間モンスター。
 ドラゴンライダーのスライム版だからスライムライダーとでもいうのかしら? でも……)
「あなた……殺してるわね、何人も」
そう、ピエールの放つ殺意、臭気、雰囲気がそれを克明にアリーナに知らせていた。
(コイツはリュカ様といった。リュカへの忠誠は捨ててない。
 なのに殺人を犯してるってことは……リュカの為ね。
 リュカを生き延びさせて最期に自殺する、てところかしら、なら……)
取り込めるかも、と思ったところでウィーグラフが飛び出した。

向かってくるウィーグラフに向かってピエールはオートボウガンを放つ。
高速で飛来する矢を全て叩き落してウィーグラフはピエールへと迫る。
アリーナにも矢弾は降り注いだが、彼女はその矢の全てを掴み取った。
「何!?」
その二人の常識外れの反応速度に驚愕するピエール。
だがそれも一瞬、手に入れたばかりの雷鳴の剣でウィーグラフのプレデターエッジを受け止める。
膂力でも体重でも劣るピエールは弾き飛ばされる前に自分から飛び、力を受け流す。
(あの剣?)
アリーナはその剣に見覚えがあることに気付いた。
そしてピエールは距離が開くとすぐに杖を取り出し振る。
その光弾の標的はアリーナ。
しかし決して速くはないその光弾をアリーナは簡単に回避する。
だがその光弾が着弾したその場所にピエールが現れた。飛びつきの杖の効果だ。
「え?」
驚き、動きが止まる。その隙を逃さず振り下ろされた剣を咄嗟に白刃取りで受け止めた。
身を捻り剣を奪い取るが、ピエールはすぐに手を離し別の剣を手にしていた。
アリーナが奪い取ったのはスネークソード。そしてピエールの手に握られているのは雷鳴の剣。
(殺られる!?)
「大地の怒りがこの腕を伝う! 防御あたわず! 疾風、地裂斬! 」
ウィーグラフの放つ地を這う衝撃波がアリーナを窮地から救った。
ピエールは衝撃波を回避するために後方へと飛びずさる。
そして今度は別の杖を取り出し、ウィーグラフへと放った。
その光弾をウィーグラフは切り払うが、嫌な予感が背筋を走り剣を手放す。
するとプレデターエッジはウィーグラフの前から消え失せ、ピエールの前に出現していた。
こちらは引き寄せの杖の効果である。
「瞬間移動だと!?」
先ほどアリーナの傍に移動したことといい、実に奇妙な技だとウィーグラフは警戒する。
ピエールはプレデターエッジを蹴り飛ばし、遠くへやると雷鳴の剣を振りかざした。
周囲の空気が乾燥し、帯電、静電気を放ち始める。
(まずい、あれって!)
アリーナは雷撃を阻止しようとピエールに向かって駆け出すが明らかに遅い。
しかし一瞬早くウィーグラフがレーザーウェポンを取り出し、リボン状にしてピエールを打った。

弾き飛ばされ、ピエールは雷鳴の剣とザックを一つ取り落とす。
雷鳴の剣はすぐに起き上がったピエールが再び手にしたが、ザックはアリーナが拾い上げた。
ウィーグラフは使い慣れぬレーザーウェポンを仕舞うと、青い片刃剣、フラタニティを取り出し駆ける。
ピエールも再び雷鳴の剣を使おうと振りかざす。
そして……アリーナがウィーグラフを背後から羽交い絞めにした。
「な、何!? 貴様ァッ!!!」
「ちょ、ちょーと、ストップ! あんた、私達は降参するわ!
 だからその物騒な剣を下ろして! 質問にも答えるから!」
それを聞いてピエールも動きを止める。
だがウィーグラフは納得がいかず激昂する。
「貴様何のつもりだ!」
「落ち着いてよ、あの剣は雷を操るのよ?
 ここの焼け跡見たでしょ? あんたアレ防げるの?」
「む……」
「だったら下手に危険を冒すよりも上手く切り抜けましょうよ。
 とりあえず私に任せてくれない?」
「ちっ」
ウィーグラフは一つ舌打ちすると一歩後ろへと下がる。
そしてアリーナはピエールと正面から向き合った。
「あなた、テリーを殺したわね?」
ピエールは沈黙をまもる。実際は殺してはいないが答える必要を認めなかった。
「そう、やっぱりね。アイツは私の手で引導を渡したかったんだけど、とりあえず礼を言っておくわ」
「戯言はいい。私が必要とするのはリュカ様の居場所だ」
そう、今のピエールはリュカの居場所を求めていた。
主のために殺人を犯してからは、完遂するまで会うことはしないと思っていたが事情が変わった。
先刻、テリーと対峙した際にピエールの命を救った王者のマント。
これがあればリュカの生存率は大幅に向上するだろう。何としてもリュカに渡さねばならない。
自分が他の参加者を殺し尽くしても、肝心のリュカが死ねば全ては無意味となるのだから。
最初は会えれば渡すという思考だった。しかしここに来てリュカの居場所を知る者と出会ってしまった
王者のマントに救われたときも思ったがこれは天命なのかもしれないと思うほどの偶然だ。
アリーナは肩を竦める。
「OK、OK、判ってるわ。それで教えた後のことなんだけど、あなた、私達をどうするつもり?」

「…………」
「必要なくなれば殺す。当然よね、でもさ……それって簡単だと思う?
 さっきの戦いでわかったでしょう? 私も、そして彼も強いわ。
 あなた強力な武器を持ってるけど、それの弱点も私は知ってる。」
ハッタリ第二段である。ピエールに動揺は見られないが、確実に迷いは与えたはずだ。
そう、状況は2対1。不利なのはピエールのほうなのだ。
「あなた、私達の仲間にならない?」
「何?」
この提案には流石のピエールも動揺を隠せなかった。
ウィーグラフも驚愕する。
「正気か小娘!」
アリーナはそれを黙殺して話を続ける。
「私達は全員ゲームに乗っている。それがこんな場所で潰し合いしても益はないわ。
 このゲームには異常な強さを持つ連中がごろごろいるわ。まだ人数もたくさん残ってる。
 だったら協力して事に当たり、最後に雌雄を決したほうが効率がいい。
 そうは思わないかしら? どう?」
「……考えている」
アリーナはピエールを観察する。噴出すような殺意が弱まってきている。
(もう一押しといったところね)
小声でウィーグラフに話しかける。
『ねぇ、私を治した薬まだ持ってるでしょ? あれ出して』
『な、何故知っている?』
『あんな強力な薬、数に余裕がなきゃ他人に使うわけないでしょ?
 しかも不確定な情報を聞き出すためになんて、よっぽど余裕がない限りは使わない』
『ぐ、確かにそうだが……奴が回復すればこちらに牙をむくかもしれんのだぞ?』
『大丈夫、人質がいるわ。リュカっていうね。
 私とあんたが逃げに徹すればアイツを撒くことは可能だし、それは奴もわかってる。
 そして私たちを逃せば私たちにリュカが殺されるかもしれない。
 だから絶対にアイツはここで私たちを始末するか、リュカを殺せない状況に持っていきたい筈なのよ。
 それに成功すれば強力な戦力になるわよ』
(今アイツが考えているのは私たちをこの場で確実に殺せるか否か。
 そしてそれは難しい。そこでもっと美味しい条件が別の選択肢に加われば……転ぶはず)

仕方なくウィーグラフはザックからエリクサーを取り出す。
「魔物よ。貴様が我らと同行するというのならこのエリクサーをくれてやっても良い。
 これは体力と魔力を完全に回復させる希少な薬だ」
チラリ、とピエールはウィーグラフの持つ小瓶に視線をやる。
「私たちを信用する必要はないわ。どうせいつかは訣別するのよ。
 だったらそれまで私たちを利用すればいい。私たちもあなたを利用する」
そのアリーナの言葉を区切りに、しばらくお互いに沈黙が続き――
ついにピエールは口を開いた。
「確認することが一つ。条件が一つ」
内心ほくそえみながらアリーナは答える。
「何かしら?」
「リュカ様とは何時であった? 負傷はされてないのか?」
「私が出会ったのはお昼頃かしらね。結構な怪我をしていたわよ。
 命には別状なさそうだけど、誰かに襲われたら危険でしょうね」
「!」
それでピエールの腹は決まったようだ。
「今後、リュカ様と出会っても一切手を出すな。その前に私を相手にしてもらおう。
 これが条件だ。飲めないならば私は敵となる」
「ええ、分かったわ。アンタもそれでいいでしょ?」
ウィーグラフも了承する。
「ウィーグラフ、だ。そちらがそんな条件を出すなら私も条件がある。
 ラムザ・ベオルブという者には手を出すな。奴は私が殺す。
 もし手を出せばいつでも私の剣は貴様らへの脅威となるぞ」
アリーナは得心したように頷く。
「なるほど、人質交換ってわけね」
「ふん、貴様にはそのような者はおるまい」
「いいえ」
そのアリーナの意外な答えにウィーグラフは少し驚く。
「このゲームには私がもう1人参加している。
 私と同じ容姿、同じアリーナの名前を持った参加者。
 彼女には決して手を出さないで」
「どういうことだ?」

「説明するのが面倒だわ。双子の姉妹とでも思ってちょうだい。
 大きな変わりはないから」
疑問は残ったがウィーグラフは追求しないことにする。
もとより関係のないことだ。
彼はプレデターエッジを拾うとエリクサーをピエールへと投げ渡した。
ピエールはすぐさま煽り、回復する。
これでお互いに人質を出し合ったことで裏切ることは難しくなった。
「それよりこれで同盟は成立ね」
「ならばリュカ様の居場所を教えてもらおうか」
「ラムザとアグリアスもな」
意気込んで問いかけてくる二人にアリーナはにっこりと笑いかける。
「場所はサスーン城よ。あの場所にアグリアスとその他二人の仲間がいるわ。
 アグリアスには怪我を負わせたから、まだそこに留まっていると思うわ
 そしてリュカとその連れエドガーも城に向かっていた。今頃はもう到着しているんじゃないかしら?
 ラムザはここから北のほうへ向かった。確実ではないけれど城へ行く可能性は結構高いんじゃない?」
ラムザのくだりだけは大嘘である。彼女はラムザが去った方向を見ていない。
だがその嘘を見破る方法は皆無である。
アリーナの証言に二人は頷く。
「ならば急ごう、もう日暮れも近い。夜の山は危険だからな」
「承知」
「OK! 行きましょう」
そして三者三様の思惑を胸に駆け出す。

(ラムザよ、アグリアスよ、とうとう尻尾を掴んだぞ!
 待っていろ、すぐに冥府魔道へと叩き落してやる)

(リュカ様、どうぞご無事で……! このピエール、一命を賭してお救いします!)

(これであのバカ強い黒服に対抗できるわね。怨みを晴らしてあげるわ)

そしてアリーナは改めて思う。やはり力だけでは生き延びられないのだ。
考えろ、考えろ、どうすれば一番いいのか。
どうすれば生き延びられるのか。何度敗北してもいい、最後に生き残っていればそれが勝利だ。
考えろ、思考しろ、神経を研ぎ澄ませ。

こうして……悪意の螺旋は再び大陸の中心、サスーンへと向かう。

【ウィーグラフ 】
 所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×7、ブロードソード、レーザーウエポン、
 フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
 黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾 首輪×2、研究メモ、
 第一行動方針:ラムザを探す
 第二行動方針:生き延びる、手段は選ばない
 基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】
【ピエール(HP MAX MP MAX) (感情封印) 】
 所持品:雷鳴の剣、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
 王者のマント ひきよせの杖[2]とびつきの杖[1]ようじゅつしの杖[0]
 死者の指輪、毛布 聖なるナイフ 魔封じの杖
 第一行動方針:リュカを探し、王者のマントを渡す
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【アリーナ2(分身) (HP MAX) 】
 所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
 第一行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
 最終行動方針:勝利する】
【共通第一行動方針:サスーン城へ向かう
 共通第二行動方針:利用できるうちは同盟を護る】
【現在位置:カナーン北の山岳地帯→サスーン城へ】