446話

第446話:Crazy Little Thing Called Kill


森の中、ピエールとアリーナは肩を並べて歩いていた。
眼を交わす事も、言葉を交わす事も無い。
ただ、明りも灯さずに、行くべき道と狩るべき獲物を探している。

放送前までは一人だけ『我関せず』といった表情で長大なタイトルが記された本を捲っていたウィーグラフも。
今や灯火と剣を携え、周囲に目を光らせている。
先を行くピエール達と、お互いの姿が確認できる距離を保ちながら。

方や闇夜に紛れて犠牲者を探し、方や明りを灯して血に狂う者をおびき寄せる。
どちらも伏兵、どちらも囮。
お互いに無関係を装いながら、いざとなれば即座に加勢できる距離を保ち、サスーン城へと向かう。

三人の同盟は、アグリアスの死という計算外の事態を経ても崩れることはなかった。
放送で彼女の名が呼ばれた時、アリーナなどは反射的にウィーグラフを見つめてしまったものだが――
幸か不幸か、彼が何かを言い出す事もなかった。

ピエールが言い出した『二手に別れる』作戦も、アリーナ・ウィーグラフ両名共に反対することはなく。
同盟の強固さを物語るように、三人はそれぞれの役割を果たしながら、月の下を歩んでいた。


【Blue Blood,Taste Blood】

(あーあ。あたしってば、なんでこう、考えたことが表に出ちゃうのかしら?
 アグリアスが死んだところで、あいつはラムザが北にいるって思ってるんだから、大した問題じゃなかったのに。
 あんな風にジロジロ見たりしたら、怪しまれちゃうじゃない。
 ・……何も言ってこないってことはバレてないってことだと思うけど。
 そうよ、ダメダメ。不安になっちゃ。
 どうせあいつにもラムザの行き先なんてわかりっこないんだし、あたしを信じるしかないんだ。
 堂々としてればバレやしないわよ)

(それにしても、こういうのって、ホントあたしの悪い癖よね。
 リュカの時も、あの眼に動揺してついつい怪しまれるような行動を取っちゃったり。
 アグリアスの時も、変な方向に思考が飛んで反応が遅れたり。
 感情と行動が制御できてない。
 学習自体はしてるはずなのに、モノの考え方を根本的に切り替えることができない。
 ここまでくると頭の良さどうこうより、生まれ持った性格なんだと思うけど。
 ホント、嫌になってくる。
 アリーナがあんな単純バカじゃなければ、きっとあたしもこんな単純じゃなかったんだ。
 そう、アリーナじゃなければ、テリーの時もアグリアスの時ももっと上手くやれたんだから!)

(……フン。そうよ、アリーナ。今なら大声で言えるわ。
 あたしは、バカで脳ミソ筋肉ですまし顔の偽善者のあんたが世界で一番大嫌いよ!
 あたしのこと生んで、こんな痛い目に合わせておいて、自分は正義だの何だの甘い事ばかり語ってのうのうと生きてる!
 それで最後にあたしを始末して、自分だけが善人気取りで生きていくつもりなんでしょ。
 冗談じゃないからね。
 それをやるのはあたしの方だからね!
 あんたに全部罪を着せて、葬り去って、あたしが本物のアリーナとして生きていってやるんだから!)

(……そうよ、だから二人に言ってやったのよ。
 『絶対にアリーナには手出ししないで』ってね。
 だってそうでしょ? 復讐するのに、一番最初に本人を狙う奴なんていない。
 本人より先に、大切な人、仲間、殺されたくない相手を、見せつけるように殺すに決まってる。
 それにね、あたし我慢するつもりなんかこれっぽっちもないの。
 ラムザもリュカもあたしの手で殺してやるつもりなのよ)

(そうすればあいつら、きっとあたしより先にあんたを殺しに行くわ。
 復讐してやるつもりで――あたしの計画通りにね。
 あんたさえ死ねば、あたしが本物になれる。分身なんかじゃない、アリーナって本物の人間に。
 ――それだけじゃないわ。
 あんたの名が放送で呼ばれれば、あたしは居るはずの無い存在になれる。
 あたしの姿を見たソロ達は、驚くかしら、怖がるかしら?
 フフ……死んだはずの仲間の幽霊が襲い掛かってくるなんて、とびっきりの呪いじゃない。
 一石二鳥ってこういうこと言うのよ。頭にお花が咲いてる人には理解しきれないだろうけど!)

(でも、このささやかな夢をかなえる為には、学んだ事をきっちり生かさないとダメ。
 あたしは二つのことを学んだわ。
 一つは、何でもかんでもすぐに決断を下すのは良くないってこと。
 もちろん、シンシアやウィーグラフの時みたいに上手くいくこともあるけれど。
 でも、アグリアスやテリーの時みたいに裏目に出ることだってある。
 ……じっくり考えようと思っても、誰かさんに似ちゃったせいか中々纏まってくれないけど。
 けれど気が散らなければ、とびっきりのアイデアを閃ける。
 今でも、ギリギリの状況なら集中できるけど、いつまでもそれじゃあやってけない。
 もっと、腰を降ろして考える癖を身に付けないとね)

(それともう一つ、ついつい遊びすぎてしまうってことも改めないと。
 後で呪って壊して嬲って殺そう、そう思って止めを刺さなかったから、テリーなんかにしっぺ返しをされた。
 確かに他人を呪うのは楽しいけど、でも、いつまでもふざけてちゃダメ。
 もう何十人も死んでるんだ。この先も生き残ってる奴らは、多分、黒服やソロやピサロみたいな強い奴らが殆どよ。
 邪魔になるなら即座に殺す。止めを刺せるなら黙って刺す。
 そうしないと、こっちまで痛い目見ちゃう。
 ――そうよね、ピエール?
 どうせあんた、サスーンについたらリュカの味方に回るんだもの。
 そうなったら、ただの邪魔者よね)

(いけ好かない黒服を殺すまでは……
 いいえ、殺した後もずっとずっと利用してやりたい。それが本音。
 でも、わかってるわ。高望みのしすぎは身を滅ぼす元。
 リュカとあの黒服達が仲良くなってる可能性もあるし、そうでなくてもあれだけの武器がリュカに渡ったら危険すぎる。
 逆にピエール一人いなくても、あの雷の剣があれば、黒服やリュカを殺すのに十分な戦力を保てる)

(ううん……もしかしたら、ピエールのアイテムとウィーグラフの本があれば、二人ともいらないのかもしれない。
 放送の前、こっそり横合いから覗いてやった時、見えたあのページ。
 リュカと一緒にいたエドガーって奴の写真と、【対策法】って書かれた文字。
 もし、あの本に全参加者のデータと対策がセットで載ってるなら……
 そして、雷を呼ぶ剣に、遠くから攻撃できる武器に、人の居場所がわかるってレーダー……
 ……あれだけあれば、どんな雑魚でも、他人の力なんて借りる必要ないわよ)

(でも、ウィーグラフは強いし、黒服共と腕の立つ奴らとアリーナを殺してもらうって役目があるからね。
 だからピエール。あんたには別の役目をあげる。
 例の黒服でも、青髪でも、通りすがりの誰かでもいい。
 サスーンに着くまで、あたしの分まで適当な奴を始末し続けて、最期に適当な奴に始末される。
 それがあんたの役目よ。
 ――ウフフフ、安心して。リュカの所にはちゃんと連れてってあげるから。
 首を切り落として、足元のスライムも兜の中に一緒に詰めて、キレイなブルーのリボンでラッピングしてあげる。
 きっと、リュカも泣いて喜んでくれるわ!)

(さーて。早く間抜けな子羊の一匹か二匹、出てこないかしら。
 飢えたオオカミが待ってるわよ?
 あたしのために頑張って死んでちょうだいな。
 羊もオオカミも、どっちもね……フフフッ)


【Two is company,three is a crowd】

(アグリアスという取引材料が消えて、私が裏切るとでも思ったか……
 浅はかな考えだ。
 自分が賢人だと言うつもりは毛頭ないが、小娘、貴様ほど短慮になった覚えもない。
 ……フン、だが先ほどの表情で確信できたぞ。
 どうも話が上手すぎるとは思っていたが、やはり私を謀るつもりだったか。
 貴様はラムザの行く先など知るまい。
 よくよく考えれば、気絶していた人間が相手の行方を見ている可能性など、限りなく低いはずではないか。
 大方、私の気を引くために、アグリアスの居場所に合わせて北に向かったと答えた。そんなところか。
 まぁ、アグリアスの件に関しては嘘では無いようだし、今しばらく付き合ってやる。
 あの二人が邪魔をしなければ、アグリアスは私の手で仕留めていたはずなのだからな)

(しかし、二日で79人か。思っていたよりも乗っている人間が少ないのか、弱いのか。
 今まで出会った連中のことを考えれば前者だろうな。
 どちらにしても、今から狩る側に完全に回ってしまうのは後々不都合なことになりそうだ。
 ――ラムザや奴に纏わる者達を仕留めるために、この二人と手を組んで狩る側に回る。
 それ自体は一向に構わん。
 しかし危うむべきは、アリーナ達もろともに『殺し合いに乗った者』とレッテルを貼られ、
 ラムザの元に『そうでない者』が集結してしまう事。
 アリーナ達以外で殺し合いに乗っている者が、私やアリーナ達に力を貸す可能性は限りなく低い。
 だが、殺し合いに乗っていない者は、殺し合いに乗っていない者と簡単に手を組む。
 最悪の場合、三人の殺人者とそれに対する多数の抵抗勢力という図式で包囲されてしまう可能性さえ有りうる)

(それに、このメモだ。
 袋の中に入っていた首輪と、研究成果を記したらしき文面。
 最初はあの魔物が書いたものかと思ったが、二人分のイニシャルが記してあった。
 D、そしてE=R=F。
 『D』はわからない。けれども、『E=R=F』は……恐らく、アリーナの言っていたエドガーという男だ。
 エドガー=ロニ=フィガロ。
 あの『公式基礎知識完全攻略アルティマニア解体ガイドブック』とやらに記された内容と照らし合わせても、ほぼ間違いないだろう。
 本気で首輪の解析を行っている者がいる。この事実は看過できん)

(我が最大の目的はラムザを殺す事。
 そのためならば、誰が敵に回ろうが構わん。
 奴をこの手で殺せるのならば、何を失おうと後悔はしない。
 ……しかし、そうでないなら話が別だ。
 無駄な戦いを仕掛ければ、傷つく率も命を落とす率も上がる。
 私はラムザを殺すまで死ぬ気はない。このような世界で朽ちるつもりもない。
 有用な札を手元に揃え、邪魔な手札は素早く切り捨てるべきだ。
 先を見通せなければ、遅かれ早かれ身を滅ぼすことになる)

(小娘、貴様はリュカが怪我を負っていたと言っていたな。
 それが真実だとすれば、貴様のような人間が怪我人を見過ごすとはおかしな話があったものだな?
 フッ……ピエールが何故、二手に別れると提案したか。
 私にはわかる気がするぞ。
 貴様は額面どおりに受け取り、それ以上のことは考えておらぬだろうがな)

(小娘。二人寄れば仲間かもしれんが、三人寄らば群集だ。
 貴様は根本的に戦略というものを知らん。
 その場しのぎで人を欺くことはできても、大局を見通す眼を持たん。
 ――エリクサーの個数を見破ったこと、私やピエールを陣営に引き込んだ手腕は認めてやろう。
 しかし、それ以外に貴様に何がある? 魔法も使えぬ、力押し以外の技も持たぬ。
 回復呪文が使えるというピエールと比べれば、貴様の利用価値は限りなく低い。
 だが、万が一貴様とピエールが完全に手を組めば、私とて無傷ではいられまい。
 人心掌握に長けていようと……いや、長けているからこそだ。
 災いの芽は間引かねばならぬ。できる限り、私の利となる形で)

(小娘、サスーンであの二人組を殺すまでは、茶番に付き合ってやろう。 
 だが、それで終わりだ。
 私が手出しせずとも、ピエールが仕留めにかかるだろうが……
 リュカとエドガーに近づく為にも、貴様には死んでもらわねばならない。
 第三者を装って小娘、貴様を殺し、必要ならばエリクサーを使ってでもリュカとエドガーの信頼を得る。
 リュカを人質に取った状態ならば、ピエールも私に逆らうような真似はできまいからな)

(卑怯だと罵りたければ罵るがいい。
 誇りなどとうに捨てた。正義も理想も用は無い。
 私が求めるはラムザへの復讐。
 そのためならば手段は問わぬ、利用できる物は全て利用してくれる)

(小娘、ピエール。
 精々、束の間の夢を楽しんでおくのだな。
 自分こそが『利用する側』であるという、儚い幻想を・……)


【Raison d'etre】

(全てはリュカ様のために)

隣を歩む少女と、後方で揺れ動く灯火。
異形の騎士は沈黙を保ったまま、小さな機械を見つめている。
兜の奥はどこまでも暗く、瞳があるのかどうかさえわからない。
垣間見える暗闇を見つめても、その本心を理解できる人間は皆無だろう。
けれど、その足元のスライムを見るものがいれば気付いたはずだ。
どんぐりのような眼に宿った光を。
『全ては主君のために』――それ以外の感情を持たない光を。

血に飢えた殺人鬼を葬る機会を作るためなのか。
邪悪な企みを抱く復讐者を遠ざけるためなのか。
純粋に人を狩る為、そのためだけの策略なのか。
全て正しいのかもしれない。
どれでもないのかもしれない。
だが、今さら理由を問う事など無意味だろう。
真意の在り処に関わらず、もはや賽は投げられた。
今、ピエールが考えているのは、主君の身を守るために全力を尽くす事。
ただそれだけ。

研ぎ澄まされた刃のように純粋な思考。
そこには一点の曇りも迷いも無い。悪意と呼べるものすらない。
だからこそ、彼は運に恵まれることができたのかもしれない。
いつの時代でも、天は強く澄んだ意志を持つ者を愛した。

(全てはリュカ様のために)

それが彼の意志。
それが彼の存在理由。
例えアリーナの嘘に気付いていようと。
例えウィーグラフが持っているザックの片方に付着した銀の輝きに気付いていようと。
それ以外の事は、彼は必要としていない。


【Crazy Little Thing Called Kill】

機械に映る幾つかの光点。
遠くの木陰で瞬く、かすかな光。
それに気づいたアリーナ達は、息を潜め、近づく。

己の目的を果たす為に、異なる思考を胸に秘めて。
三人は、今しばらくの間だけ、それぞれ仲間であることを演じるだろう。
殺意という名の欲望を満たす、そのための仲間を――

【ピエール(HP MAX MP MAX) (感情封印) 】
 所持品:雷鳴の剣、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード
 王者のマント ひきよせの杖[2]とびつきの杖[1]ようじゅつしの杖[0]
 死者の指輪、毛布 聖なるナイフ 魔封じの杖
 第一行動方針:サスーンに向かってリュカを探し、王者のマントを渡す
 基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す
【アリーナ2(分身) (HP MAX) 】
 所持品:E:悪魔の尻尾 E皆伝の証 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼
 第一行動方針:ピエールを葬り、サスーンに向かってリュカを殺す
 第二行動方針:ラムザを殺し、ウィーグラフにアリーナを殺させる
 最終行動方針:勝利する】

【ウィーグラフ
 所持品:暗闇の弓矢、プレデターエッジ、エリクサー×7、ブロードソード、レーザーウエポン、
 フラタニティ、不思議なタンバリン、スコールのカードデッキ(コンプリート済み)、
 黒マテリア、グリンガムの鞭、攻略本、ブラスターガン、毒針弾、神経弾 首輪×2、研究メモ、
 第一行動方針:サスーンに向かいゴゴとマティウスを殺す/ラムザを探す
 第二行動方針:アリーナを殺してリュカとエドガーに近づき、二人を利用してピエールを服従させる
 第三行動方針:生き延びる、手段は選ばない
 基本行動方針:ラムザとその仲間を殺す(ラムザが最優先)】

【共通方針:利用できるうちは同盟を守る】

【現在位置:カズス北西の森南部】

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最終更新:2008年02月17日 22:16
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