113話

第113話:深き夜のアナリーゼ


夕方になった。

夕焼けが綺麗だ、2人は心底そう思った。
殺し合いの場で持つには奇妙じゃないかとも思ったが…これが唯一の癒しのようにも思えた。

「そろそろ誰かいても良い頃だと思うんだけどねぇ…」
「…結局、誰にも会わなかったね……」

"裸マントの殺人鬼にでも会いたかったかい?"とセージは口にしそうだったが、やめた。
流石に傍らにいる少女にかける言葉としては不自然だ。
ローグになら言っただろう、確実に。そう思ってしまってセージは苦笑を浮かべた。
悪態をつく相手がいないのも寂しいなぁ…と、そう呟きながら目を閉じた。

それと同時に、彼の脳裏には思い出が蘇る。
しっかりしてるけど、確実にR-指定の道へとスライディングしそうなあの勇者。
いつも自分に悪態こそつくけど、楽しい話には事欠かなかったある盗賊。
思い出したくは無い過去はあるが……まぁ頼りになった僧侶。
仲間……なのかは知らないけれど、「勇者」の代名詞だろうと思えたある父親。
ついでに裸マント。名前は忘れた…ダンカタ……だったか。違う、カンダタだ。

そしてすぐさま考えを今の状況に戻し、自分を奮い立たせた。
そして、タバサもまたそうしている様だった。


それが、悪かった。


ドオオォォォォン――――――――!!!!
突然地鳴りにも爆発音にも似た音が鳴り響いた。
そしてそのまま、この世の出来事とは思えぬほどの地震が起こる。

「ちょ…これはないんじゃない!?これで死んだらどうしろって言うんだよ!」
「お…ッお兄さん!!大丈…夫っ!?」
「あまり…こういう経験…ないからねっ!でも大丈夫!」
「…だ、だいぶ落ち着いてきたかも……」

ふと、不思議なまでにその地震は止んだ。
だが空は黒く裂けてゆく。セージは苦笑を、タバサはある種の恐怖を浮かべてそれを見ていた。



そして、名前が呼ばれていく。
死んだものの名が虚空に響く。
静かに…ただ静かに見ていたが、タバサの顔からは"恐怖"は消えていた。

"恐怖は"だが。



「ピ…ピン……さん………」

彼女が住むお城には、ある兵士がいた。
王子や王女にも親しく接していた兵士がいた。
王達と共に旅をし、至福の表情を浮かべていた兵士がいた。

名を、"ピピン"といった。

知り合い…か。と、セージは心の中で呟いた。
傍らでは、タバサの焦点の合っていない様な…だが透き通っている目が空を見ていた。
放送が終わった後も、暫く空を見上げていた。

「……あのさ」
「大丈夫!」

セージが何か、慰めの言葉か何かを発そうとしたと同時にタバサの声が響いた。

「大丈夫。ここで挫けてたら…お兄さんに迷惑かかっちゃうし。
 それに、これからもきっと…こういう事があるんでしょ?
 その時に何回も何回も挫けてたら…会える人にも会えない、しね」

「……そうか、強いね」

本当に強い。セージはそう思った。
それと同時に、この子の為に必ず家族を見つけてあげようと…そう思った。

「おにいさん、早く安全そうな所に行こうよ。暗いから危なくなっちゃうよ?」
「ああ、そうしよう」

そう言って、二人はまた歩き始めた。

「ん?もしかしてあれは…」

本当にほんの少し歩いていると、セージは建物を見つけた。
明かりが灯っていない。人が潜伏している可能性があるが、子どもを置いての野宿は危険だ。
その建物にお邪魔する事にし、2人は建物へと歩いていった。勿論警戒は解かずに。

建物の中には階段があった。地下へと下る暗い階段だった。
そしてその階段を下ると、扉があった。

開けようと試みる。鍵がかかっている。開かない。
タバサが困ったように押したり引いたりしていると、

「ちょっと下がって。こういう時は…"アバカム"」

カチッ!
鍵が開く音が聞こえた。
そして二人が部屋に入ると、何の気配も無かった。
きちんとドアを閉める。この間に尾行されて侵入されたわけでもない。

「……ビンゴだ」

そう言ってセージは灯りに火を灯すと、数人分ある椅子に座った。
タバサも続く。椅子に座ると、机に突っ伏すように上半身を倒した。

「トイレもバスルームもないっぽいけど…我慢してくれないかな?」
「私は大丈夫。でも、ラッキーだったね。」
「そうだね。とりあえず野宿にならずに住んだ。今日はここで夜を明かそう」

そう言うとセージはこの後の事を必死に考える事にした。
アナリーゼを行う音楽家のように、必死に危険から回避する方法を組み立てようとしていた。

【セージ 所持品:ハリセン 
 行動方針:部屋で夜を過ごす】
【タバサ 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑
 行動方針:同上】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠内部の部屋】

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最終更新:2008年02月17日 22:31
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