441話

第441話:同じ空、同じ誓い


 どれくらいそうしていただろう。
 愛する弟の亡骸にすがり、ヘンリーは声もなく哭き続けていた。
 気付けば空に太陽は消え、夜の闇が世界を包もうとしていた。
 頬を撫ぜる風が冷え始めた頃。やっとヘンリーはゆっくりと顔を上げた。
 そして、デールの両の手を前に組ませ、ゆっくりと地面に横たえ。

「…………じゃあな、デール」

 それだけの、今生の別れを告げた。
 そこに、どれだけの思いがあったのか、自分に推し量れるものではない。

「……ヘンリーさん」
 声をあげる。
 何を言えばいいのかは分からない、けれど。
 自分は彼に何か言わなければならない。

 彼が立ち上がれなくなってしまわないように。
 自分にはその責任があった。
 彼の弟を殺したのは自分なのだ。
 どのような理由があろうとも、それは許される行為ではない。

 そんな自分が、彼に何を言えばいいのだろうか。

「……もう大丈夫だ」
 何かを言おうとした自分を遮るように、彼は立ち上がった。
 そして前を見据えて。

「大丈夫―――」

 大丈夫だと。
 もう立ち上がれると、前を見据えて彼は言った。

 それはただの虚勢かもしれない。
 自分すらも騙す嘘なのかもしれない
 だが、それでも、彼は立った。自分の足で。
 そして前に進もうとしている。
 ならば自分が彼に言うことはないのだろう。

「―――戻りましょう、もう日も暮れます」
 それだけを告げ、宿屋に向かい歩き始めようとした、瞬間、

 突然に、世界が揺れた。

 都合三度目。
 何が起こるかはイヤでも理解できる。

 上空に映し出される魔女の幻影。
 感情の無い魔女の声が呪いを告げる。
 その呪いは容赦なく降り注ぐ。



 『ビアンカ』

「―――っ」
 魔女の呪いに、すぐ後ろで喉のつかえる音がした。
 悲しみを堪えたのか、怒りを堪えたのかは分からない。
 それはたしか、このゲームが始まってすぐにであった女性の名だ。

 そんなことはお構いなしだと言わんばかりに、魔女の呪いは止らない。
 ―――告げられる。



 『シンシア』



 ―――――――――



 一瞬。頭の中が真っ白になった。
 ガツンと、後頭部を殴られたような気がした。

 立ちすくむ。呆然と。
 虚無が心の中を支配して何も考えられない。

「――――――」

 声も出ない。
 うまく考えが纏まらない。

 自分の心が空虚のようだ。
 大切なものをまた失って、穴が開いてしまった感覚。

 ああ、そうか、また自分は、

「また、彼女を救えなかったのか……」

 それが、悲しくて仕方がなかったんだ。

 崩れてしまわないように足に力を込める。 
 悲しみに負けないように歯を食い縛る。 

 挫けはしない。
 涙も流さない。

 “全ての悲しみを終わらせる”

 それは、悲しみにくれたあの日の誓い。
 彼女に命を助けられたあの日の誓い。

「―――止まるもんか」

 その為には、自分は止まってなんかいられない。
 このゲームを終わらせる。
 こんなゲームで大切なものを失った人のために。
 失った全てのもののために。


「……ソロ」
 背後から声がかかった。
 それは自分を気遣う声だ。

「大丈夫です。僕も、立ち上がって前に進めます」

 そう言って、空を見上げた。
 すでに空は暗く、微かな星の瞬きが世界を薄く映し出す。
 闇に沈んだ空はいつかと同じだ。

 手を伸ばす。
 届かない星に向かい。

 伸ばした手を強く握り締める。
 約束はそれだけ。


 同じ空と、羽帽子の少女に、同じ誓いと別れを告げた。


【ソロ(魔力ほぼ枯渇 体力消耗)
 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング
 第一行動方針:宿屋に戻る
 基本行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】
【ヘンリー(手に軽症)
 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP3/4) G.F.パンデモニウム(召喚不能)
 キラーボウ グレートソード アラームピアス(対人) ひそひ草 デスペナルティ リフレクトリング 賢者の杖 ロトの盾 ナイフ
 第一行動方針:宿屋に戻る
 基本行動方針:ゲームを壊す。ゲームの乗る奴は倒す)】
【現在地:ウルの村 外(西出入り口付近)】

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最終更新:2008年02月17日 22:50
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