FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 214話


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第214話:試練


「とりあえず…これでいいよね?」
アリーナは、クリムトの目を覆うように布を巻きつけていた。
細長くちぎったクリムトの服を巻き付けた簡易の眼帯だ。
慣れない作業だったが、それは不器用ながらに完成した。
「う、む。すまない」
クリムトは心底すまなそうに言う。それが、アリーナの心にまた罪悪感を与えて。
「ううん…あたしが、深く考えないで分裂なんてしちゃったから…」
「誰だってそういう事はある。…どんな賢者であっても」
クリムトは思う。
元の世界では全てを知っていたつもりであった。だが、ここに来て思い知らされている。
自分は何も知らなかった――

「眼が見えなくなることで、わからなかった事がわかるようになってくる…」
クリムトは呟き、アリーナは彼に視線を向ける。
「人間は五感があると言うのに…大抵は視覚をベースにして物事を判断する。それが失われた事を或いはチャンスと捉えることも出来る」
「チャンス?」
思わずアリーナは聞き返した。
「うむ。今までは視覚に頼って怠けていた聴覚や嗅覚等の本来の力を発揮するためのチャンスとな」
――或いは自分自身を戒めるチャンスだろうか。
大賢者とまで呼ばれた。少なからず自分は驕っていたのではないか。
自分を諌める為、自分の無力を感じさせるために用意されたこの状況を切り抜けてこそ、本当の大賢者と呼ぶに相応しいだろう。
嘗ての牢獄よりも闇が満ちているこの世界を、光を失ったこの目で切り抜けてこそ――

クリムトは急に、顔をアリーナに向けて、言った。
「さて、おぬしはあの分身を止めたいと思っているのであろう?ならば早めに行動を起こさねばなるまい」
「えっ?あっ、うん…」
「私は足手纏いだからここに残る事にする。…これを預けよう。絶対に死ぬでないぞ」
クリムトは、アリーナに腕輪を差し出す。
「え、でも…」
一瞬呆気に取られたアリーナは、それを受け取って、言葉を続ける。彼の言葉の本当の意味も、受け取って。
「…ありがとう。で、そっちはどうするの?」
「私は大丈夫だ」
威厳の有る様な、言い切った声を聞き、アリーナは頷いた。
「うん…わかったわ。あなたも絶対に死んじゃダメだからね」
クリムトが心配じゃないと言えば嘘になる。
でも、彼が何を望んでいるか、わかる気がするから。
彼は、あたしがあたし自身でケジメをつける事を望んでいるのだろう。
そして彼は、何か『自分一人で』したいことがあるのだろう。

クリムトは、口の端を歪めた。目を無くして表せる表情は、これが限界だった。
笑顔を表現したいのだという事は、アリーナにもわかった。でもそれはあまりに痛々しい笑顔で。
わかり過ぎて、辛い。

「じゃぁあたし、行くね。また、会えたらいいね」
一種、最も過酷な戦いが待っているのだ。自分との。
それでも彼女は、目の前の相手が見ることが出来なくても、満面の笑顔をして見せた。
「じゃあねっ!」
地面を蹴り、彼女は走り出した。
その足音が聞こえなくなるまで、クリムトはその口の端を歪めたまま、座っていた。

「さて…」
足音が聞こえなくなると、クリムトは立ち上がった。
「大自然よ。クリムトは眼が見えぬぞ。襲い掛かってくるがいい」
両手を広げて呟き、数十秒の静寂を楽しむ。
否、静寂ではない。風が木々を僅か揺らし、虫が鳴き、地面を小動物が駆け回っている。
その全てを、今の彼は感じることが出来るのだ。
それを感じることを妨害していた一つの能力を失うことによって。
「…さて、行くとしよう」
彼は、杖を片手に、木々の鬱蒼と茂る森を歩き出した。

数歩も歩かないうちに、木の根に躓く。
…だが、これでよいのだ。
これが試練なのだ。大自然を相手とする試練は始まったばかりだ。
躓くのは自らの感覚が未熟なだけなのだ。
自ら混沌とした危機の中に身を置けば、いずれはその全てを感じることが出来るかもしれない――

クリムトの姿もまた、森の奥に、消えた。


【アリーナ 所持品:プロテクトリング
 行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】

【クリムト(失明) 所持品:力の杖
 第一行動方針:視覚以外を鍛える 最終行動方針:ゲーム脱出】

【現在位置:レーベ南東の山岳地帯近くの南の森から、別々に移動中】