45話

第45話:姫分身の術


アリーナは支給品の壺を前にして迷っていた。
この壺、入れたものが分裂するっていうけど本当かな。
見た目はなんの変哲もない、花を生けるのにでも使うであろう普通の壺だ。
いや、大きさが普通ではないが。壺というより瓶といった方がいいのか。
しかし、それ以外はいたって普通だ。模様とか、あと色ぐあい。

説明書にはちゃんと効果があるから試せ、なんて書いてある。
分裂ねえ。
じゃあ試そっか。

何か手近なものは……と、石ころに、どこかから飛んできた葉っぱ……?
ここ何にもないね。
アリーナはザックを逆さにしてゆさゆさと振ってみる。
他に何も入ってないのはさっき確めた、当然何も出てこない。
はあ……

アリーナは自分の帽子でも壺に入れようかと思い立って……やめた。
このとんがり帽子は別に高価なものでもないし、今増やしたところで、何か自分にとって有利になる
ものでもなんでもないからだ。
何だかろくでもないものもらっちゃった……どうせなら、鉄の爪とか、グリンガムの鞭とか、
私の心を煮え滾らせるような熱い代物を寄越せっての。

……
しばらくアリーナは草原で膝をかかえて座り込んでいた。
そして唐突に思いついた。
これって何でも増やせるよね。きっと。
だったら、自分を増やすのはどうだろう。
私が二人になれば、当然戦力は二倍。
ううん、相乗効果で二倍どころか、三倍、いや、四倍ぐらいいくかもしれないけど。
まあ、それはそれとして、とにかく今より有利な状況になるのは確かだよ。
よーし、おもいきってやってみよう。

アリーナは壺の中に潜りこんな。中は狭くて暗くて、かび臭い臭いがした。
とてもじゃないが、長く居たいと思えるようなところではなかった。
「早く増えないかな」
アリーナがつぶやくと、もう一人の自分が現れた。
中はどうやったら人間二人も入っていられるんだというたこつぼ状態になり、ぎゅう詰めの、つまり
とにかく大変だ。
「ちょっと、出られないじゃない!」
「あんた早く出なさいっ…ぎゃー、足どかして」
「アゴが当たってる!痛いってば!」
「もうどうなって……ちょっ、これ、本当に出られないよ!」
二人のアリーナは壺の中ではまってしまい、出られなくなってしまった。

【アリーナ(二人に分裂)所持品:分裂の壺
 行動方針;壺から出る】
【現在位置:レーベ南東の山岳地帯近くの平原】

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年02月17日 22:58
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。