恥子 第一章 酢豚
カタカタカタカタカタ
キーボードを軽快にリズミカルに叩く。
カタカタカタカタカタ
今日の私は調子がいい、ノリノリだ。
カタカタカタカタカタ カチッ
書き込みボタンを、クリック。
「任豚って風呂入ってねえんだろ?(^-^;)
くせえんだよお前ら」
そうしてスレッドにレスを一つ刻み込む。更新。
ものの20秒程でレスが付いた、嬉しい。
「それはお前だろ生き恥 さっさと自殺しろ」
お決まりの返答だ、全く馬鹿の名無しは馬鹿の一つ覚えの
馬鹿だから困る。思わずにやける。
顔に掛かった長い髪を手でかき上げ、
なんと返してやろうか思案する。
ベタベタした髪の手触り
前にお風呂入ったのはいつだったっけ・・・
垢じみた手を一瞥し。
「くせー!任豚くせー!任豚のすっぱい臭い
酢豚くせー!おえっ(^0^)」
そう書き込んだ。
酢豚・・・酢豚・・・
「お前ら論破するのも飽きたし
ちょっとクラブいってギャルハメてくるわ(^-^;)
そして重い腰を上げる。
ドアを開け、階段を降り老いた母の居る居間へと向かう。
「聡子、部屋から出るの珍しいわね。
いい仕事でも見つかった?いい加減働かないと・・・」
「うるさい 酢豚、酢豚が食べたいの、作って」
「酢豚?豚肉無いし・・・夕飯はカレーにしようと思ったんだけど・・・
今煮込んでる最中よ」
そういえばカレーの匂いが漂っている、だけど
「いいから酢豚にして、酢豚酢豚酢豚酢豚!
食べたいんだからさっさとしてよ!」
「しょうがないわね・・・じゃあ中華屋さんで
お持ち帰り買ってくるから・・・」
「あとプリンとポテチもね、コンソメのやつ
買ってきたら部屋にもってきてね」
「母さん近頃腰が痛いのよ・・・たまには
聡子が外に買物いってくれるといいんだけど・・・」
「うるさい」
そう言いきって私はさっさと自分の部屋に戻る。
甘酸っぱい酢豚を想像しながら。
30分後、酢豚とご飯、カレー、それと菓子の入った
ビニール袋を提げた母が部屋に入ってきた。
「聡子、あんたまたペットボトルにおしっこなんて
してるの・・・ちゃんとトイレにしなさいって・・・」
「うるさい!さっさとそれ置いて出てって!
それにカレーなんて頼んでない!下げて」
「一応作ったんだし食べてちょうだい聡子
夏野菜がいっぱい入ってるわよ」
「いらない!うるさい!でてけ!ババア!」
母親を追い出してドアを閉めて鍵を掛ける。
何度叱っても口の減らない母親だ。
何も言わずに私のいう事を聞いていればいいのに。
豚のような体の私は、不機嫌な顔で酢豚をほうばった
「よう任豚、お前らまだやってんの?(^0^)
もう終わった話題蒸し返すなよ(^-^)」
食事を終えすぐさま書き込む。
まるでそのスレッドの主かのように
偉そうに、仕切り屋のようにレスをする。
それが私のやり口だ。
私が中心になるように、レスが沢山付くように。
話題は加熱していた。長文のマジレスが飛び交っている。
私に構うことなくスレッドは進んでいく。
「お前邪魔だよ」とさえ誰もいってくれない。
私は空気。
とたんに寂しい気持ちになる、そして、腹が立つ。
怒りのやり場は新しいスレッドを立てる事。
「なぜ任豚はマルチ商法に引っかかるのか」
そんなタイトルのスレッドを立てた。
中身なんてどうでもいい。ただ煽りに、反応してくれれば
それでいいのだ。
「またメイドオナニーか」 「死ね」 「糞スレ」
そんなレスがポツポツ付いてやがて放置される。
反応が悪い、失敗したか。
苛立ちながら更新をクリックする。
適当に目についたスレッドに煽りをくれて
また更新を繰り返す。
食いついたレスをまた煽り返す。
それだけ 私のやることはそれだけ
それが私の日課 私の楽しみ 私という私
最終更新:2008年02月18日 19:58