会長小説
第一話
「プリステラ大捕り物」
いつもと同じように、王宮を朝日が包み込んでいった。今日もここ、花と芸術のグレイルに平和な一日が訪れようとしていた。 王宮の中庭には、プリステラ姫が育てているいちごも、その食べごろをまもなくむかえようとしていた。見るだけでも口の中に甘みが感じられるほど、紅く実を熟そうとしている。もちろん、これもひとえにプリステラのまごころもそそがれているから… 町にも朝日が照り始め、人々も一日の活動を始めていた。時間に違いはあれど、朝からグレイルの人々は明るく働いている。町には活気が満ち溢れ、笑い声やおしゃべりも聞え始めている。それぞれの店もそろそろ開店準備。人々は毎日お店で買い物をしては、小さな幸せを楽しいでいた。
王宮ではそれぞれが朝食を済ませ、午前の活動を始めていた。王宮の掃除をするものや、昼食の仕込をする給仕、読書にふけるものや、町に散策にでる姫や…いずれにしても、今日もいつもと変わらない一日がはじまっていた… そんな平和な一日が突然揺らいだのは、中央広場もすっかりにぎわう正午前のことだった。プリステラが町から戻ってきて、いつものように中庭にたちよって、自分の大切ないちごたちの様子を見ようとおもったときだった… プリステラはその変わりばえにしばらく現実をのみこめないでいた。「ど…どうゆうこと…?!」 目をこらしてもう一度見た。何度見ても同じだった。なんと、大切に大切にそだててきた、紅くてかわいいいちご畑のほぼ半分がごっそり消えているのだった!プリステラの額から一筋汗がながれた。「と…とにかく、一人で考えても仕方ないものね。」そうつぶやくと、その今だ信じられない自分のいちご畑を後にして、オイカワを呼びにかけていった… 目の前の悲惨な光景をじっとオイカワはプリステラと共にみつめていた。「む…これは…」「どう思う?」「確かにこれは妙ですな…」「でしょ?私も最初は盗み食いでもされたかと思ったけれど…」「少し考えにくいですな…これだけの量を盗み食いというのも無理がありますしな…第一、盗み食いが目的であれば、この畑ごと、それもほぼ半分もなくなる理由がありませぬからな…」 「そうなの!きっと食べる事が目的でやられたのではないと思うの。」「しかし、盗まれ事は事実…」「ええ、どのみち、犯人を捕まえなきゃならないわ!わたしのいちご達が無事ならちゃんとこの畑に帰してもらわないと。まだ、もう少し食べごろには待たなきゃならないのよ」 オイカワもプリステラもお互いの見解の一致を確かめると、早速調査をはじめることにした。まずは、プリステラ自身の記憶を整理してみた。プリステラは昨日も同じようにいちごの世話をしていた。最後に中庭を訪れたのは夕食後の夜。そのときは全く異変もなく、いつものように水をあげていた。そして、先ほど王宮の少数の者にも聞いたが、中庭をおとずれた者は少なく、一人のメイドが早朝、おとずれたという。 「私も姫のいちごが元気になっているのを見ているんです。朝食の支度が一通り終わって、姫様たちが召し上がるまでの少しの時間…中庭を少し歩いてから私も朝食をいただいています。」 話を聞いたメイドによると、どうやら、今日の朝食の時間までにはなんの異変もなかったようだ。そうすると、やはり姫が異変に気づいたお昼までの間、およそ3時間ほどの間に、事件が起こったようだ… 自室でプリステラは頬に手を当てながら考え込んでいた。すると、ドアをノックする音が聞えた。「オイカワですが」「どうぞ入って」「失礼いたします」「なにか手がかりは?」「それが…」「なにもなかったの…?」困惑して姫に語りかけるオイカワの顔に、姫は何も手がかりがなかった事を悟った。「私もとても困惑しておるのですが…」「いいのよ、なにも手がかりがなくても不思議じゃないわ。私以外、中庭をそう度々おとずれる人はいないもの…」そういってため息をつくプリステラに思わぬ言葉が飛び込んできた。「いえ、直接の手がかりは確かになかったのですが…先ほど町で…」「え?!果物屋さんが?!」なんと、先ほど、果物屋さんの果物の一部がごっそり無くなったそうなのだ。プリステラの苺畑に続き、果物屋までもが…ただ事ではすまない事件がはじまっていた。
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