ガンダムF(仮題)



 人が言葉を持ちながら、戦うことでしか意思の疎通ができない事実は不幸だと思う。
決戦兵器GGF-001フェニックスガンダムのコックピットの中で、
レイチェル・ランサムは重い息を吐き出した。寒い。そのくせ、ひどく喉が渇く。
フェニックスに搭載されたサイコミュ・コントロールシステムが警告していた。
敵が来る、と。真の敵が来ると。この機体の設計思想には、確実にそれの姿が在る。
「SYSTEM∀-99……! 大丈夫だよ……脅えないで、フェニックス。
 もう……やらせは、しないから……アタシとあなたなら、やれるんだからッ!」


              「ガンダムF」


 極論を言うなれば、人という種は限界を迎え行き詰ったということになる。
人の革新、ニュータイプと呼ばれる者達こそが却ってこれを痛感した歴史は、
なんと皮肉なものであろうか。世代を超え、時を超えて、彼等は主張した。
人は地球という揺り籠から巣立っていくべきなのだと。ある者は暴力を以て、
これを成さんとした。そして、ある者は地球圏から外宇宙へと旅立って行った……。
Concept-X 6-1-2は、その末裔がもたらした禁断の果実である。
「醜悪ですわね……本当に、不細工なマシーンですこと!」
 人は、やはり母なる大地から離れることができぬ愚かな生き物なのだろうか。
皮肉めいた笑みを浮かべ、豪奢な金髪を揺らしつつネリィ・オルソンは見上げる。
ターンX。“帰って来た者”という名をつけられた、未知の技術の集合体を。
緑がかった銀色の、宇宙世紀以前の宇宙人像を具現化したような異形のフォルム。
これは美しくないというのが、名門オルソン家に生まれ育った少女のセンスだ。
「お父様の道楽も度が過ぎるというものですわ」
 この気品の無い、機能にのみ特化した機体の性能を解明し、量産するのだと、
ネリィの父親であり地球連邦軍の高官である男は声高に言ったのである。
馬鹿馬鹿しいと思う。男の子は大人になってもオモチャを手放せないのだわ。
そういった批評をしつつ、ネリィは技術研究所の床の上を足音を立てながら歩く。
ハイヒールがコンクリートを打つ音が小気味よい。ああ、とネリィは息を吐いた。
この情趣がターンXには欠けているのだ。ターンXの顔を凝視し、手を打つ。
「角をつけたら雄々しくなりましてよ! そう、色も華やかにいたしましょう。
 エターナさんの、地球に帰りたいという遠いお友達の目にも映るように……ね!」
 我ながら妙案だと少女は声を弾ませた。小さな胸が高鳴り、白い頬を朱に染める。
この素晴らしいアイディアを一刻も早く伝えたくて、少女は靴を手に走り出した。
コンクリートの冷やりとした感触が、今は素足に心地いい。
『こんなはしたない姿、もし見つかったらばあやに叱られますわ』
と一片の理性が警告してはいたのだが、燃える情熱の前にそれは吹き飛んでいた。
エターナ・フレイル。ターンXに乗って外宇宙から地球に不時着した銀髪の少女。
あの新たな友人に、早く自分の話を聞いて欲しいと思うのである。

「ガンダム! そうよ、ターンのガンダムさんですわ!」


 エターナ・フレイルはニュータイプの末裔でありながらニュータイプではない。
彼らは言葉を口にせずとも理解し合える特異な能力を有していたにも関わらず、
やがてそれを捨てた。更なる進化において心の中で嘘をつくという能力を得た時、
精神で直接わかり合う意味は消失したのである。進化がやがて退化につながり、
ただの人間へ先祖返りさせるとは何とも皮肉な結果ではないか。
『ターンXにはサイコミュが搭載されていたと聞くがな……』
 己が主たるネリィ・オルソンと歓談するエターナの銀髪を見詰めながら、
騎士見習いエルフリーデ・シュルツは色素が薄目の長い黒髪をかき上げる。
そろそろ短くしよう。いっそ煌びやかなブロンドならば長髪も映えるのだろうが、
自分がネリィを真似れば野暮ったく女を主張するだけだろうと密かに嘆息した。
エルフリーデ・シュルツは、女であるよりも騎士でありたいと願う少女ではある。
 残念ながら、彼女を魅了するだけの殿方にはまだめぐりあえていない。
敢えて言うなれば、今や伝説の類となった歴史上の人物がそれに該当するのだが。
エルフリーデが想いを巡らすのは、エターナら外宇宙人の祖となった人物である。

『やはり、あれは……ジュード・アーシュのZZガンダムなのだ……』

 ガンダムの名はもはや神話である。真の英雄、薔薇の騎士ジュード・アーシュ。
叙事詩に描かれるその姿が実像からどれ程かけ離れたものであるかはさて置き、
彼の婦女子に優しく巨悪を挫く生き様を、規範とする少女は決して幻ではない。
エルフリーデの誠実さに触れれば、木星じいさんの名で親しまれる開祖は、
そのような人であったのだろうとエターナ・フレイルは思うのである。
 ガンダムは宇宙移民を虐げた白い悪魔であるという故郷の伝承を忘れぬままに。
「いいですね、ターンXガンダム。素敵だわ」
「エターナさんもそう思ってくださる?」
「強い言霊を感じます。まるで、それが本来の名前であるように」
 それをニュータイプの血を引く少女の直感と評するのは早計であろう。
だが、事実は事実として黒歴史の片隅に深く刻みつけられている。
後にエターナ・フレイルがターンXガンダムを駆り、己が宿命と戦う未来が。


 人が言葉を持ちながら、戦うことでしか意思の疎通ができない事実は不幸だと思う。
レイチェル・ランサムは全身で叫ぶ。不死鳥の名を冠する機体を以て、全力で叫ぶ。
「アタシ達は……生きるんだッ!」


 その女バルチャーは、姫と呼ばれていた。東洋系のエキゾチックな顔立ちと、
豊かな黒髪が神秘的である。立ち居振る舞いに品が無いのが玉に瑕ではある、が。
ずずっと音を立ててヌードルをすすりながら、女バルチャーはフォークを振り回す。
「ヘインの姐御には悪いのですけれど、気が乗らねえ仕事……ですわ」
 ソニア・ヘイン女史の含みのある笑顔を思い浮かべ、女バルチャーが顔をしかめた。
女バルチャー……童顔のフローレンス・キリシマが駄々っ子のようにごねる姿は、
微笑ましいがスープが飛び散るのが傍迷惑である。事実、その被害は広範囲に及んだ。
お気に入りのバンダナに新たな染みを見つけ、ニードルと名乗る男が悲鳴を上げる。
「ヒャアー!? ひでぇや姫さん!」
「あら、失礼」
 オホホと誤魔化し笑いを浮かべ、フローレンスが丼をテーブルに結構な勢いで置く。
またもスープが跳ね、ブラッドを名乗る白髪の男に琥珀色のにわか雨を浴びせた。
無言で軍服を拭くブラッドを尻目に、ニードルがそそくさと丼を片付けようとする。
これ以上の被害拡大を許すわけにはいかないという極めて真っ当な動機なのだが、
フローレンスが向けるのは抗議の視線であった。スープを飲み干すという強固な意志。
観念し、ニードルは手を引く。その瞳には、ブラッドと同じ諦めの色が見られた。
「AガンダムだかBガンダムだかCガンダムだか知りませんが……」

「定食じゃあるまいし……∀ガンダムです、姫。ターンしたAですぜ」

「はいはい、∀ガンダム∀ガンダム」
 ずずーっと音を立ててスープを飲み干し、フローレンスが無言で丼を差し出す。
かくんと肩を落とし、無言で受け取ったニードルが返却トレーに乗せた。
ありがとうとニッコリ笑い、フローレンスが頬杖をつく。ぷうっと頬を膨らませ、
先程の愚痴めいた不満告白を再開した。子供のような仕草が、奇妙に愛らしい。
「その∀さんの模擬戦のお相手をしやがれと言いやがられるのがですね、
 気に入らないと思いません? 軍にだってパイロットさんはいるでしょうに」
「でも姫、報酬はすげぇ金額ですぜ」
「あのなあー……だからきな臭いのでしょう。例え死んでも文句は言わせねえぞって、
 仰っているようなものではないかしらとワタクシ、思いますのよね?」
「あ、そうか! やっぱり姫はココの出来が違うぜぇ!」
 ぽすっとバンダナ越しに自分の頭を叩くニードルに苦笑し、フローレンスは、
ひたすら神経質に軍服の染みを拭き続けているブラッドに視線で同意を求める。
この無口な男は軍人上がりであるから、何かしら考えているところはあるだろう。
少なくとも、ニードルよりはずっと。軍服を拭き続けながら、ブラッドは無言で頷く。
「人手不足なんですかね? 連邦軍にはロクなパイロットはいないって話ですぜぇ。
 ついこないだも十代そこらの小娘に一杯喰わされたんでしょう?」
「口を慎みやがりなさい、ニードルさん! ここは連邦軍の基地ですのよ!」

「……随分とバカにされたもんだな」
 食堂の片隅で騒ぐ外部者の発言に、ゼノン・ティーゲル特務中尉は眉をひそめる。
地球連邦政府の統治を快く思わぬ者は決して少なくない。それ故に、軍隊がある。
敵国など存在せぬはずの今日に至っても、世界各地で内乱が勃発しているのだから。
 ゴロツキ共が話題にする小娘というのが、数ある反抗勢力の一角を担うエース、
エリス・クロードという年端のいかぬ少女であることをゼノンは知っている。
教導隊時代の、それも取り分け優秀な教え子であるエイブラム・ラムザット大尉が、
その少女に撃墜されたことも。機体の性能差だと人は言うが、それだけではない。
エリス自身の力もまた侮れないというのが、生還したエイブラム自身の述懐だ。
 気に入らないのは、それを反抗の象徴として利用するゲリラのやり口である。
いたいけな少女が銃を取らねばならぬ程に我々は地球連邦政府に虐げられていると、
声高に叫ぶやり口がだ。裏を返せば、少女を戦わせているのは貴様達ではないか。
 そういう意味では、このガンダム開発計画も気に入らないのがゼノンという男だ。
数年前に不時着したターンXの存在をプロバガンダとして利用しようというのが、
ガンダム開発計画の真意である。仮想敵を宇宙に配置し、民衆の関心を外に向ける。
それは政治ではなく、ただのその場凌ぎに過ぎない。愚劣である。
『愚痴めいた思想に傾倒するのは、俺が年を取ったせいかな……?』
 軽く苦笑し、ゼノンはコーヒーをすする。その苦味が、心境を代弁するようだ。
相変わらず不味いコーヒーだなどと呟き砂糖を探すうちに、周囲が騒がしくなる。
血の気の多い連中が、あのバルチャー達と早速もめているのだろう。やれやれ。
飛来するカレー皿を左手で受け止め、右手で砂糖を入れたコーヒーをかき回す。
 やらせておけばいい。長い付き合いになるのだから、レクリエーションは重要だ。
口論する者達の中に目立つ赤毛を視認し、これは荒れるなとゼノンは席を立った。
案の定、赤毛……ビリー・ブレイズ曹長がバルチャーの一人を殴り倒したことから、
乱闘が幕を開ける。再び飛来してきたパイ皿を受け止め、ゼノンは食堂を後にした。
「ティーゲル特務中尉、止めてくださいよぉ!」

「やらせとけ、男なんて生き物は殴り合わないと仲良くなれんのだよ」

「あ、男女差別ですよ特務中尉」
「……区別。人としてのありようだエリン伍長」
「それにバルチャーさんには女の人もいるみたいなんですけど……」 
「さすがに女を殴るようなクズはこの基地にはいないだろう」
「ああっ、ビリーさんが女の人に手を!」
「……そうか、ヤツがいたな」
 まだ少女であるミリアム・エリン伍長の懇願に屈服し、ゼノンは踵を返す。
ビリーが女……フローレンスに蹴り飛ばされたのは、その数秒後だった。
自業自得だなとゼノンは笑う。気絶したビリーにジュナス・リアム軍曹が駆け寄り、
フローレンスの流れるような連撃たる飛び蹴りを喰らったのは不幸であるが。

「うらぁ!」
 基地司令室の扉を外側から蹴りつけ、ノーラン・ミリガン少尉が中指を立てる。
そして色素の薄いウェーブがかった長めの黒髪を翻し、脱兎の如く逃げ出した。
いつもの風景である。慣れた様子でニキ・テイラー少尉がその後を追う姿も含めて。
ビリーを含む部下の不始末についてノーランが叱責されるのは日常茶飯事であり、
わざわざ退室直後に欝憤を晴らす行為もまた日常茶飯事であった。

「ビリーめ! あのバカタレは弱い癖にケンカっ早いからムカつくんだよ!」

「まあまあ……元気なことは結構じゃないですか」
 ノーランとニキは士官学校時代からの友人である。正反対な性格をしているため、
却って気が合うのだろう。荒れ果てた食堂で熱いココアをちびりちびり飲みながら、
ニキがその友人を宥めているとテーブルがみしっと音を立てた。数拍の間を置いて、
崩壊する。ノーランがヤケ食いしていた各種スイーツを上に載せたままに。
「あああああ……!」
「……御愁傷様です」
 嘆息し、ニキがココアをどこかに仮置きしようと右往左往していると目が合った。
巨山のようにそびえ立つ、特大フルーツパフェに一人で挑むルナ・シーン少尉と。
誰もが凛として神秘的な美女という印象を受けるだろう。写真で眺めるだけならば。
現実の彼女は今こうして、パフェの白いクリームに顔という顔をまみれさせている。
「シーンさん。ここ、よろしいですか?」
「ああ」
「民間企業に出向するのだそうですね」
「そうだ」
「長期の任務になるのですか?」
「だろうな」
「でしたら、先日お貸しした絵本を返してください。姪に贈るものですから」
「あ……すまない、鍵を渡す」
 ルナが、借りているアパートの個室の鍵を差し出した。糖分でベトベトしている。
これをおしぼりで拭き取りながら、ニキはふと思い浮かんだ疑念を口にした。
「ところでシーンさん、時間は大丈夫なのですか?」
「ん? ……ああ」
「そこの時計、先程の騒動で止まっているのですけど。ほら」
 ルナが食堂を飛び出したのは、ニキが腕時計を差し出して数秒後のことである。
残された山盛りの特大パフェを前に、ニキとノーランはスプーンを手に取った。

 自社で開発した宇宙船の性能を証明するために、木星へと旅立った男がいる。
件の大冒険を乗り越え大企業となったイワノフィック社の創業社長にして、
今世紀最高峰の冒険家と名高い“木星帰りの大英雄”イワン・イワノフだ。
超がつくほどの有名人なのだが、今更それを会社案内誌で知ったのがルナである。
どうも世事に疎い。ペラペラのパンフレットに目を通しつつ、座席に着いた。
 これからオルソン中将の命で出向するのが、このイワノフィック社の研究所である。
テストパイロットが必要だというのだ。それも特殊な才能を持った……つまるところ、
ニュータイプのパイロットが。資料を見る限り、軍需産業ではないようだが……。
「お姉さん、イワノフィックの人なんですか?」
「え?」
「それ、会社の人しか貰えないんでしょ?」
「……ああ」
 そういうことか。隣席の少女に膝の上の通行証を指さされ、合点し首を横に振る。
奇妙な既視感を覚え、人懐っこい少女をじいっと見詰めたままルナが小首を傾げた。
無表情から来る威圧感に思わず「ごめんなさい」と大きな声を張り上げてしまい、
褐色の肌をほんのり赤くして、少女が左耳の上で括り上げた黒髪を指に絡ませる。
「ああ……」
 そうか。ニキに借りた絵本だ。人間になった黒猫の御話の主人公に似ているのだ。
周囲の好奇に満ちた視線の中で小さくなっている少女に、微笑み手を差し出す。

「ルナ・シーン。軍人だが任務で出向する」

「レイチェル・ランサムです、よろしくお願いしますルナさん!」
 握った手が柔らかくて温かい。不思議と懐かしいような気持ちにさえなる。
さすがに、あの黒猫と名前までは一致しなかったが。

「チェックメイト! へへーん、まだまだ間合いが甘いですなあ」
「……信じられん……この俺が……」
 チェス盤を前に少女と青年が正反対の表情を見せた。イワノフィック社の研究所に、
こういう娯楽室が設けられているのはイワン社長の遊び心というか人柄に起因する。
少女の名はクレア・ヒースロー。ボーイッシュな黒髪といたずらっぽい瞳が印象的だ。
ヒースロー技術部長の愛娘であり、研究所のマスコットガール的な存在である。
 チェスには結構自信があったために落ち込んでいる長髪の青年がマーク・ギルダー。
イワノフィック社に勤務するテストパイロットだ。腕は悪くない。抜群に良くもないが。
しかし秘める才能は本物だというのは異邦人エターナ・フレイルの言ではある。
 本当にそうなのかなと値踏みしながら、エルフリーデ・シュルツ少佐は端末を閉じた。
そのエターナと、己が主ネリィ・オルソンからの手紙を読み終えて。
『良い返事は……したいものだがな?』
 外宇宙からの使者ターンXを、未知の脅威としか認識できないのが今の地球人である。
故にターンXを仮想敵として、それを超える機体を開発するに到った。愚かしいと思う。
ニュータイプが必要だ。サイコミュを使えるという意味合いでなく、真の意味での。
人は理解し合えるという証となる者が。ただそれが、自分ではないことが口惜しい。
 かつて少女たちが語り合った夢を裏切らんとする白い機体、SYSTEM∀-99。
ターンXすら凌駕するその機体が地球に帰還しようとする異邦人に戦いを挑む時、
止める者が必要なのだ。オルソン中将とその友人イワンが密かに用意した剣を以って。
 ネリィから送られた手紙の内容を反芻し、エルフリーデは嘆息する。気が重い。
∀ガンダムの名で呼ばれるSYSTEM∀-99の開発状況は極めて良好だという。
そしてパイロットが人工的に作られたニュータイプ……強化人間の少女であるとも。
人は再び禁忌に触れているのだ。侵略の危機への抵抗という大義を高々と掲げて。
かの薔薇の騎士ジュード・アーシュが地球圏に絶望した気分がわかるような気さえして、
エルフリーデは舌を打った。

「SYSTEM-Mitwirkung……人を機械として扱うなどと……!」


「ミットヴィルクング?」
 首を傾げる金髪の少女に、男にしては長めの赤毛を掻き上げつつ青年が頷いた。
青年の名をトニー・ジーンという。反地球連邦政府組織シャダイのMMパイロットだ。
そして、陽に焼けた金髪の少女は反抗の象徴たる偶像……エリス・クロードである。
 伝説の白い悪魔の面影を残す機体、ガイア・ギア雷電を駆るエースパイロットだが、
その点を除けばエリスは一人の健気な紛争孤児ではあった。やや内向的なところも、
彼女なりの個性といえるし境遇を考えればやむなしということでもあろう。
「ゲルマンの言葉で、共に機能するとかいう意味さ」
「ふう……ん」
「女性限定で共演者を指すこともあるけどね」
「……なるほど」
 軽薄ではあるが博識だな、とエリスは素直に感心する。世直しを口にする若者が、
往々にしてインテリであると歴史が証明している事実などは少女に関係のないことだ。
許してはならない悪が目の前にいる。その事実があれば、憤りは戦う動機となる。
「シス・ミットヴィルか……コレンのような子をまた生み出したのね……」
 コレン・ナンダー。ガイア・ギア雷電の本来の主たる不幸な赤子の名を口にして、
その保護者であるエリスは重たい息を吐き出した。
「戦いなんて……望まないのに……」
 子供を依り代として英雄と称された人物の魂を復活させんとする悪魔の計画、
シャア・コンテニュー・オペレーションと同質のおぞましさを感じて少女は苛立つ。
そういう意味では、このシャダイの前身たるメタトロンとてエリスには罪深い存在だ。
一体、どれだけ滅亡の危機を迎えれば、人はこの愚かしさから解放されるのだろうか。

「人が永遠にメビウスの環から抜け出せず、罪を繰り返す生き物ならば……」

 いっそのこと滅んでしまえばいいとさえ思うのは、エリスが若過ぎる故ではある。
この少女もまたシャア・アズナブルのメモリーに影響を受けているのではないかと、
いらぬ心配をしてしまうのがマリア・オーエンスという女だが。
「……今はやれることをやることにしましょう? エリスちゃんも、トニー君も」
「任せなさいって! いっちょビシッと決めてやるさ!」
「……ええ。わかってます、マリアさん」
 マディア艦橋のモニターに映し出された幼い少女の姿を見詰め、エリスは唇を噛む。
SYSTEM∀-99を稼働させるためだけに造られた人工生命体への哀れみと、
そのようなものを生み出す地球連邦政府への怒りを込めて。
「シス・ミットヴィル……助けてみせるわ……必ず……!」
            つづく
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