軍争篇

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*軍争篇  主に戦場地に敵より先について、戦闘を有利に進める方法を中心に書かれている。 ***篇名の「軍争」とは? 「軍争」の意味については、有力な説が二説ある。一つは勝ちを争うとする説で、もう一つは利を争うとする説である。 勝ちを争うのは兵法書としては当然のこととして、利を争う場合の利とは何か? これまで見てきた『孫子』の内容、それと「軍」に陣取る、駐屯するという意味があることから察するに、陣取りを争い、敵より先に自軍の態勢を整えることに利がある、ということだと考えられる。 **迂直の計 &bold(){“その途(みち)にして、之を誘うに利を以てして、人に後(おく)れて発するも、人に先んじて至る者は、迂直の計を知る者なり。”} (戦場に遠い迂回路を取りながら、敵軍を利益で誘い出し、敵より後に進行しながら、敵軍よりも先に戦場に到着することができるのは、「迂直の計」を知る者である。) 戦場に先着すれば地の利が得られ、兵士の体力も回復でき、また精神的にも安心感が得られ、優位に戦いを進めることができる。しかし、想定される戦場へ向かう際に迂回路をとった場合、それに敵軍に後れて進発した場合、戦場への先着は不可能に近い。 想定される戦場への迂回路をとりつつ、且つ敵を誘い出して、戦場を自軍が先着可能な場所へ設定しなおすことが、「迂直の計」である。 **軍争の有益性と危険性 &bold(){“軍争は利たり、軍争は危たり。”} (「軍争」は、軍隊にとって利益をもたらす行為であると同時に危険性の高い行為でもある。) ***戦場への先着争いで得られる利益とは? 戦場へ先着できれば、地形を調査して有利な場所へ布陣し、地形を利用した様々な戦法を案出できる。つまり、「地の利」を得られる。 また、行軍で疲れた兵士を休ませ、英気を養うことができ、さらには先着して現場を見ていることの安心感により、軍隊に精神的な余裕が生まれる。 &bold(){“軍を挙げて利を争えば則ち及ばず、軍を萎(す)てて利を争えば則ち輜重損(す)てらる。”}(もし軍隊全体で「利」を得ようと敵と競争すれば、大部隊では機敏な行動が取れないため敵に遅れをとる。一方、軍全体に構わず「利」を得ようと敵と競争すれば、行動が鈍重な輸送部隊は後方に置き去りにされる。) 戦場への先着を優先させて行軍すると、輸送部隊は付いてこられなくなる。これでは戦争を継続できなくなる。かといって輸送部隊に歩調を合わせると、先着争いに負けて自軍は不利になる。 こうした問題を、発想の転換で解決する方法が、「迂直の計」である。 **「風林火山」の真意はカムフラージュ &bold(){“其の疾きこと風の如く、其の徐(しず)かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震(ふる)うが如し。”} (疾風のように進撃するかと思えば、林のように整然と隊伍を保って行動し、時には猛火のように辺りを侵略し、また時には泰山のように不動の態勢をとる。暗闇のように敵に知られず、雷のように威圧して動き出す。) これらは、敵軍との会戦以前の軍事行動で、自軍の意図を敵に悟られぬよう、カムフラージュするためのものである。 行軍速度に緩急をつけ、侵攻姿勢に積極と消極を織り交ぜ、自軍の行動の秘匿と誇示を使い分ける。これらの偽装行動により、敵軍に自軍の意図を誤って読み取らせ、こちらの望む場所、つまりは新たに設定しなおした戦場へと誘い出すのである。 &bold(){**統率の道具 “去(そ)れ金鼓・旌旗(せいき)は人の耳目を一にする所以なり。人既に専一なれば、則ち勇者も独り進むを得ず、怯者も独り退くを得ず。”} (鉦や太鼓、幟や旗は兵士の耳目を統率する道具である。兵士が統率されていれば、勇敢な者も勝手に進むことはできず、臆病な者も勝手に退くことはできない。) 鉦や太鼓、幟や旗は、情報伝達手段として用いられていたが、それだけではなく、兵士の統率の手段としても活用すべきである。兵士の進退をこれらで指示することで、混沌とした戦場での統率された行動を可能とするのである。 **心理作戦の道具 &bold(){“夜戦は火鼓を多くし、昼戦は旌旗を多くするは、人の耳目を変する所以なり。”} (夜の戦いで火や太鼓を多く使い、昼の戦いで旗や幟を多く使うのは、人の耳目を変化させる方法である。) 火や太鼓、幟や旗は、通信・統率の手段として利用されるべきだが、それらにとどまらず、敵を欺く偽装の意味でも利用できる。 昼の戦いで旗を多用し、夜の戦いで火や太鼓を多用するのは、兵力を実数よりも多く見せかけ、敵を欺くことが出来る。これにより、敵は多数の兵に対応する為、戦法・戦術の変更を余儀なくされ、不用意に攻撃を仕掛けるのを躊躇う。 また、多数の兵は敵方に恐怖心を与え、特に夜ともなれば、太鼓の音や火の明かりは兵士の安眠を妨げるものとなり、夜襲に対する恐怖心ともあいまって、精神的・身体的に敵軍を追い詰めるものとなる。 **攻撃時期の鉄則 &bold(){“善く兵を用うるものは、其の鋭気を避けて其の惰帰を撃つ。”} (戦巧者は敵の気力が盛んな時期を避けて、怠惰でそわそわした時期を攻撃する。) “朝の気は鋭く、昼の気は惰(おこた)り、暮れの気は帰る。” (朝の士気は鋭く盛んだが、昼下がりになると怠惰となってきて、夕暮れにはそぞろとなる。) 士気の盛衰は一日の中で一定のサイクルがあり、敵の士気が下がる頃合を的確に掴み、攻撃を仕掛けるのが名将である。 &bold(){“近きを以て遠くを待つ。”} (戦場の近くに居て遠方から来る敵を待つ。) 戦場に先着すれば、行軍で疲れて餓えた、無気力な敵軍を攻撃することが出来る。しかし、気力の衰えを見せず、堂々と進軍してくる敵は避けるに越したことはない。
*軍争篇  主に戦場地に敵より先について、戦闘を有利に進める方法を中心に書かれている。 ***篇名の「軍争」とは? 「軍争」の意味については、有力な説が二説ある。一つは勝ちを争うとする説で、もう一つは利を争うとする説である。 勝ちを争うのは兵法書としては当然のこととして、利を争う場合の利とは何か? これまで見てきた『孫子』の内容、それと「軍」に陣取る、駐屯するという意味があることから察するに、陣取りを争い、敵より先に自軍の態勢を整えることに利がある、ということだと考えられる。 **迂直の計 &bold(){“その途(みち)にして、之を誘うに利を以てして、人に後(おく)れて発するも、人に先んじて至る者は、迂直の計を知る者なり。”} (戦場に遠い迂回路を取りながら、敵軍を利益で誘い出し、敵より後に進行しながら、敵軍よりも先に戦場に到着することができるのは、「迂直の計」を知る者である。) 戦場に先着すれば地の利が得られ、兵士の体力も回復でき、また精神的にも安心感が得られ、優位に戦いを進めることができる。しかし、想定される戦場へ向かう際に迂回路をとった場合、それに敵軍に後れて進発した場合、戦場への先着は不可能に近い。 想定される戦場への迂回路をとりつつ、且つ敵を誘い出して、戦場を自軍が先着可能な場所へ設定しなおすことが、「迂直の計」である。 **軍争の有益性と危険性 &bold(){“軍争は利たり、軍争は危たり。”} (「軍争」は、軍隊にとって利益をもたらす行為であると同時に危険性の高い行為でもある。) ***戦場への先着争いで得られる利益とは? 戦場へ先着できれば、地形を調査して有利な場所へ布陣し、地形を利用した様々な戦法を案出できる。つまり、「地の利」を得られる。 また、行軍で疲れた兵士を休ませ、英気を養うことができ、さらには先着して現場を見ていることの安心感により、軍隊に精神的な余裕が生まれる。 &bold(){“軍を挙げて利を争えば則ち及ばず、軍を萎(す)てて利を争えば則ち輜重損(す)てらる。”}(もし軍隊全体で「利」を得ようと敵と競争すれば、大部隊では機敏な行動が取れないため敵に遅れをとる。一方、軍全体に構わず「利」を得ようと敵と競争すれば、行動が鈍重な輸送部隊は後方に置き去りにされる。) 戦場への先着を優先させて行軍すると、輸送部隊は付いてこられなくなる。これでは戦争を継続できなくなる。かといって輸送部隊に歩調を合わせると、先着争いに負けて自軍は不利になる。 こうした問題を、発想の転換で解決する方法が、「迂直の計」である。 **「風林火山」の真意はカムフラージュ &bold(){“其の疾きこと風の如く、其の徐(しず)かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し。知り難きこと陰の如く、動くこと雷の震(ふる)うが如し。”} (疾風のように進撃するかと思えば、林のように整然と隊伍を保って行動し、時には猛火のように辺りを侵略し、また時には泰山のように不動の態勢をとる。暗闇のように敵に知られず、雷のように威圧して動き出す。) これらは、敵軍との会戦以前の軍事行動で、自軍の意図を敵に悟られぬよう、カムフラージュするためのものである。 行軍速度に緩急をつけ、侵攻姿勢に積極と消極を織り交ぜ、自軍の行動の秘匿と誇示を使い分ける。これらの偽装行動により、敵軍に自軍の意図を誤って読み取らせ、こちらの望む場所、つまりは新たに設定しなおした戦場へと誘い出すのである。 **統率の道具 &bold(){“去(そ)れ金鼓・旌旗(せいき)は人の耳目を一にする所以なり。人既に専一なれば、則ち勇者も独り進むを得ず、怯者も独り退くを得ず。”} (鉦や太鼓、幟や旗は兵士の耳目を統率する道具である。兵士が統率されていれば、勇敢な者も勝手に進むことはできず、臆病な者も勝手に退くことはできない。) 鉦や太鼓、幟や旗は、情報伝達手段として用いられていたが、それだけではなく、兵士の統率の手段としても活用すべきである。兵士の進退をこれらで指示することで、混沌とした戦場での統率された行動を可能とするのである。 **心理作戦の道具 &bold(){“夜戦は火鼓を多くし、昼戦は旌旗を多くするは、人の耳目を変する所以なり。”} (夜の戦いで火や太鼓を多く使い、昼の戦いで旗や幟を多く使うのは、人の耳目を変化させる方法である。) 火や太鼓、幟や旗は、通信・統率の手段として利用されるべきだが、それらにとどまらず、敵を欺く偽装の意味でも利用できる。 昼の戦いで旗を多用し、夜の戦いで火や太鼓を多用するのは、兵力を実数よりも多く見せかけ、敵を欺くことが出来る。これにより、敵は多数の兵に対応する為、戦法・戦術の変更を余儀なくされ、不用意に攻撃を仕掛けるのを躊躇う。 また、多数の兵は敵方に恐怖心を与え、特に夜ともなれば、太鼓の音や火の明かりは兵士の安眠を妨げるものとなり、夜襲に対する恐怖心ともあいまって、精神的・身体的に敵軍を追い詰めるものとなる。 **攻撃時期の鉄則 &bold(){“善く兵を用うるものは、其の鋭気を避けて其の惰帰を撃つ。”} (戦巧者は敵の気力が盛んな時期を避けて、怠惰でそわそわした時期を攻撃する。) “朝の気は鋭く、昼の気は惰(おこた)り、暮れの気は帰る。” (朝の士気は鋭く盛んだが、昼下がりになると怠惰となってきて、夕暮れにはそぞろとなる。) 士気の盛衰は一日の中で一定のサイクルがあり、敵の士気が下がる頃合を的確に掴み、攻撃を仕掛けるのが名将である。 &bold(){“近きを以て遠くを待つ。”} (戦場の近くに居て遠方から来る敵を待つ。) 戦場に先着すれば、行軍で疲れて餓えた、無気力な敵軍を攻撃することが出来る。しかし、気力の衰えを見せず、堂々と進軍してくる敵は避けるに越したことはない。

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