虚実篇


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虚実篇

 主に、いかにして「味方の実で敵の虚を突く」か、ということについて書かれている。

篇名の「虚実」とは?

「虚」は隙、油断の意味で、防備の無いところ、手薄な所を指す。「実」はその反対で、防備のある所、充実した所を指す。敵の「虚」と「実」を見分けて「虚」を突く戦法について、本篇では語られている。
実戦において敵の「虚実」は決して明白なものではなく、固定化したものばかりではない上、敵も自軍の「虚」狙ってくる。また、敵の「虚」よりも「実」を撃破しなければならない場合も数多くある。そしてそういう場合にこそ、「虚実」の戦法が生かされる。
自軍の戦力を秘匿し偽装行動を取ることにより、敵軍の行動を制御して、敵軍に「虚実」を露呈させ、敵の「虚」と「実」を変化させ、それを自軍が攻撃する。これこそ、「虚実」の戦法の真骨頂である。

戦いにおける主導権の確率

“善く戦う者は、人を到して人に到されず。”
(戦巧者は、敵を思い通りに動かして、敵の思い通りに動かされない。)

戦いに勝つまでには一定のプロセスがある。まずは主導権を握り、戦いを有利に進めることが、その第一歩となる。

主導権を握る意義とは?

  • 敵軍の兵力を直接消耗させうる。
  • 自軍が自在に行動できる。
  • 自軍が敵軍を自在に攻撃できる。
  • 自軍が敵軍の攻撃を自在に防御できる。

“能く敵人をして自ら至らしむるもの、之を利すればなり。能く敵人をして至ることを待(え)ざらしむものは、それを害すればなり。”
(敵を自軍の望ましい地点へ誘導するものは、敵軍にその利益を示すからだ。敵に自軍の望まない地点への進出を断念させるのは、敵にその損害を示すからだ。)

敵に対して利害得失を示すことによって、その進退を自在に制御して自軍の都合のよい条件を整えていく。

敵を誘導する為の利害とは?

例としては、次のようなものが考えられる。
  • 無防備な兵糧を囮にして、敵をそちらに誘導する。
敵が長距離遠征中で、兵糧不足である場合は特に有効である。
  • 狭い道を岩などで塞ぎ、敵の進軍を阻む。
進軍が困難で、そのまま進めば部隊に損害が出たり、時間を余計に消費したりすることを考慮すれば、自ずと敵軍は他の道を進むことを選ぶことになる。
  • 敵の重要拠点を襲う姿勢を示し、敵軍をそちらの防御に向かわせる。
他国に展開中の敵部隊を防御に回らせることができ、移動するその敵を待ち伏せることが可能になる。

戦力の相対的優位を確保する

“人を形せしめて我に形なければ、即ち我は集まりて敵は分かる。”
(敵軍にその態勢を露呈させ、自軍はその態勢を伏せておけば、自軍は兵力を集中でき、敵軍は兵力を分散せざるを得ない。)

敵軍の態勢、つまり兵備状況が露呈され、その「虚実」が明確となれば、じぐんは敵の「虚」に対して集中攻撃することが出来る。一方、自軍の態勢を隠し、その「虚実」が分からないようにしておけば、敵軍は兵力を集中する危険性を考えて、分散せざるを得なくなる。兵力を集中させると、包囲されたりあらぬ方向からの攻撃を受けやすくなる為、周囲を警戒する為に部隊を分散させなければならなくなるからだ。

“我は専らにして一となり、敵は分かれて十となる。是れ十を以て一を攻むるなり。”
(自軍は集中して一つの部隊となり、敵軍は分散して十の部隊となる。これは十の力を持つ一つの部隊で、一の力を持つ十の部隊を攻撃することに他ならない。)

自軍の戦力は総兵力そのものであるが、分散した敵軍は個々の部隊の戦力を総兵力の十分の一にしてしまう。この敵軍を各個撃破すれば、勝利を得る公算が強くなる。これは、敵の「実」を「虚」に変えて戦う戦法であり、無勢が多勢を破る方法である。

戦力の相対的優位を確保する為に必要な条件とは?

  • 確実な情報収集による敵軍の「虚実」の把握
  • 厳格な情報管理による自軍の「虚実」の秘匿
  • 自軍の高度な機動性(兵力の集中に不可欠であり、態勢を変化させて「虚実」を不明にさせるために必要)

戦闘の場所と日時を設定せよ

“戦いの地を知り、戦いの日を知れば、則ち千里にして会戦すべし。”
(会戦する場所と日時を事前に察知していれば、千里の遠方から行軍しても採算が取れる。)

戦争はいつ、どこで戦うのかが、必ずしも決定されたものではない。
もしこれがわかれば、準備万端整えて敵と交戦できることとなり、敵より圧倒的に優位に立てる。千里の行軍のダメージを補って余りある。

戦闘の場所と日時を知る、とは?

敵軍を自軍が設定した戦場へ誘導し、敵の動静を把握して戦場へ到着する日時を推定する、ということである。

「無形」の態勢を整備せよ

“兵を形するの極みは無形に至る。無形ならば則ち深間を窺がうこと能わず、智者も謀ること能わず。”
(軍の形、つまり態勢を形成する極致は無形になることである。無形であれば深く入り込んだ間者にも窺い知ることが出来ず、智謀の将士も謀り知ることができない。)

将軍は敵を打ち破るために彼我の兵力、天候、地形等、あらゆる要素を考慮して軍形(態勢)を定める。この軍の形を定型化したものが、いわゆる陣形である。
陣形は、その作戦の意思表示である。いかなる作戦であるかは、その陣形によって示されることになってしまう。したがって、その意図を敵に察知されてしまうことになる。
そこで、陣形を千変万化させることで偽装し、定まった形の無い「無形」の態勢をとることで、敵の「虚」を補うことを狙うのである。

軍の態勢と水のあり方

“兵の形は水に象(かたど)る。”
(軍隊の態勢は水を模範とする。)

“水の形は高きを避けて低きに趨(おもむ)く。兵の形は実を避けて虚を撃つ。”
(水は高い所を避けて低いところに流れる。同様に、軍のあり方も敵の「実」を避けて「虚」を攻撃する。)

“水は地に因(より)て流れを制す。兵は敵に因(より)て勝を制す。”
(水は地形に従って形を変えて流れる。同様に、軍隊も敵の情勢に従って勝利を収める。)

敵の「虚」を攻撃する戦法は、水が低所へ流れるように自然になされるものであり、水が地形の変化に従って自在に形を変えるように、敵の「虚実」に従って柔軟に対応して勝利を収めるものである。