地形篇


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地形篇

 主に軍の統率者がいくつかの地形に対してどう対処すべきかについて書かれている。

篇名の「地形」とは?

「地形」とは土地の形状のことであり、一般には山地、平地、河川という分類がなされ、さらに高低、広狭、長短、傾度といった点から細分化される。しかし本篇における地形の分類はこれと異なり、大まかに六種に分類される。これは、戦場がどのような状態であるかという点から見たものである。
将軍はこの六種の地形に応じた戦法を取る命令を下すことになるが、その麾下の軍が命令どおりに動かなければ意味がない。対陣以前に自軍の整備を行うことについても、本篇には示されている。

六種の地形とその戦法

“凡そ此の六者は地の道なり。将の至任にして察せざるべからす。”
(全てこの六点は土地についての道理である。将軍の最大の任務として認識しなければならない。)

六種の地形とは?

軍事上、とりわけ戦法の観点から分類された六種類の地形のことである。

1:「通(つう)」
 自在に往来可能な開けた場所。
 持久戦になりがちなので、敵より先に高みの日当たりのよい場所を占め、補給路を確保する。

2:「挂(けい)」
 復路が難渋する障害がある場所。
 敵の備えを点検して通過する。攻撃を受けると各個撃破され、撤収もしにくい。

3:「支(し)」
 枝分かれしたわき道がある場所。
 分岐点から軍を引いて待機して、敵軍が半分以上出てきたところを攻撃する。

4:「隘(あい)」
 両側が岩壁に挟まれた狭隘な場所。
 先にその場を占め、兵を集めて散逸した敵が来るのを待つ。

5:「険(けん)」
 傾斜が急で容易に越えられない場所。
 敵より先に傾斜を登り、高みの日当たりのよい所に居て敵を待つ。

6:「遠(えん)」
 彼我の布陣を遠ざける障害がある場所。
 戦力が同等の時は戦を仕掛けてはならない。

将軍と軍組織の管理

“凡そ此の六者は天の災(わざわい)に非ず、将の過ちなり。”
(敗北を招く軍隊の六種の状態は天がもたらした災いではなく、将軍の過失である。)

敗北を招く六種の状態とは?

将軍の指揮管理に絡む六種の状態は以下の通り。

1:「走(そう)」
 遁走。兵勢が同等で、十倍の兵力の敵と戦う状態。
 圧倒的な敵を前に戦わずして遁走しかねない。

2:「弛(し)」
 弛緩。軍吏(兵卒が軍令に従うかどうか監視する役)が弱腰で、兵卒の横暴を管理できない状態。
 規律が弛緩した組織で敵に向かっていっても、簡単に蹴散らされる。

3:「陥(かん)」
 陥没。軍吏は強腰だが、兵卒は無気力な状態。
 士気の上がらない軍隊で、戦闘になってもあっさり手をあげる。

4:「崩(ほう)」
 崩壊。軍目付(将軍の行動を監視する役)と将軍が対立し、軍目付を将軍が統御できない状態。
 軍内部に統率者が二人居ることになり、軍は上から崩壊する。

5:「乱(らん)」
 混乱。将軍が意志薄弱で威厳がなく、その方針が不明瞭な状態。
 指令が浸透せず、組織全体が混乱し、戦闘が出来る状態ではない。

6:「北(ほく)」
 敗北。将軍に敵情をはかる能力がなく、戦のやり方を知らない状態。
 小勢を大勢に当て、弱兵を強兵に当てるなど、敗北は必至である。

地形把握の意味

“夫(そ)れ地形は兵の助(たすけ)なり。敵を料(はか)って勝ちを制するに、険夷(けんい)・遠近を計るは、上将の道なり。”
(そもそも土地の形状は、軍事活動の重要な補助要件である。敵情を観察して勝算を立てるに当たり、土地の状況とその位置を考慮するのは、上将軍の任務である。)

戦闘に入る前に、敵の兵力、兵備状況、将軍の性格、兵卒の士気などを見定めて、戦術を策定することになる。その際に戦場の形状と位置を詳細に把握しておくことは不可欠である。地理的条件によって戦術・戦法が変わり、それが勝敗を決定する要因となる。

“此れを知りて戦を用う者は必ず勝ち、此れを知らずして戦を用う者は必ず敗る。”
(これを知って戦う者は必ず勝ち、これを知らずして戦う者は必ず敗れる。)

地形が味方に有利であれば、それを活かす戦法を取る。味方に不利であればそれを回避し、敵に押し付ける作戦を取る。要するに、「地の利」を得る戦いをするのが基本である。それを実現するには、まず地形に熟知していなければならない。

軍の進退の判断

“進んで名を求めず、退いて罪を避けず。唯だ民を是れ保ちて、利は主に合す。国の宝なり。”
(進撃して名誉を求めることなく、退却しても罪科を避けることは無い。ひたすら民の保全を念頭に置き、君主の利益にも一致する将軍は、国の宝である。)

軍隊の進撃と退却の基準を、名誉を得るか否か、罪を得るか否かに置いてはならない。無謀な進撃が横行し、正当な退却が影を潜める結果となってしまう。

“戦の道必ず勝つならば、主戦う忽(なか)れというも必ず戦いて可なり。戦の道勝たざるならば、主戦えというも、戦うことなくして可なり。”
(戦の道理として勝ち目があれば、君主が戦いを避けよと命じても戦ってよい。戦の道理として勝ち目がなければ、君主が戦えと命じても戦わなくてよい)

戦、不戦、進退の判断は、戦況における勝算による。よって、君命であっても無視してよい。しかし勝算があっても、それが味方の多大な損害を伴うものであるならば、その戦いは回避すべきであり、進撃は中止しなければならない。
大局的な視点で軍の進退を判断できる将軍こそ、国家の宝なのである。

将軍と兵士のあり方

“卒を視ること嬰児の如し、故に之と深豁(しんこく)に赴(い)くべし。卒を視ること愛子の如し、故に之と倶(とも)に死すべし。”
(将軍の兵卒に注ぐ眼差しがいたいけな赤子に対するもののようであればこそ、兵士は危険な深い谷底にでも、将軍とともに行く。将軍の兵士に注ぐ眼差しが可愛い我が子に対するもののようであればこそ、兵卒は将軍と生死をともにする。)

将軍と兵士は命令する者、される者というドライな上下関係にとどまらず、父母のような慈愛の心で、日頃兵士と接する必要がある。こうして築いた強い絆があってこそ、兵士は将軍を信頼し、その命令に従うのである。

“厚くして使うこと能(あた)わず、愛して令すること能わず、乱れて治むること能わず。”
(手厚くするだけでは働かせることが出来なくなる。可愛がるだけでは言い聞かせることが出来なくなる。羽目を外させるだけでは抑えられなくなる。)

“驕子(きょうし)の如く、用うべからず。”
(傲慢な子供のようで、ものの役に立たない。)

兵士を甘やかしてばかりいては付け上がってくる。厳しく教育する側面を欠いてはいけない。

自然条件の把握

“地を知り、天を知れば、勝乃(すなわ)ち全うすべし。”
(土地の状況を知り、気象の様子を知っていれば、勝利は万全である。)

勝負は往々にして自然条件に左右される。これは人為ではいかんともしがたい面を持つが、それをも味方につけることが、勝利の要因となる。