図面とは


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2次元から3次元へ,進化する“図面” 2005/08/19 17:53

「設計検討は3次元で行いながら,なぜ2次元図面も作成しなければならないのか?」「2 次元図面と3次元の形状データをもらったけど,両者に食い違いがある。どっちを信用すればいいのか?」---。

CADが2次元から3次元に変わったことで,開発・製造プロセスに新たな手間や混乱が生じている。3次元の技術をもっとうまく使えば,そうした手間や混乱を減らし,より効率的な設計情報手段が確立できるに違いない…。新しい“図面”の文化の確立を目指して,業界団体や3次元CADのユーザーが組織的な取り組みを本格化させている。

その先頭を進むのは,自動車業界と,日本PTCユーザー会3次元図面フォーラムの2グループである。自動車業界は,上記のような問題を解決しようと,3次元データを使った新しい設計情報伝達手段の標準化に動いている。一方の日本PTCユーザー会3次元図面フォーラムは,既存の図面文化を3次元の世界に移植するのではなく,より効率的な設計情報伝達手段を3次元技術を利用してイチから作り直そうと議論を開始している。

図面が担う二つの役割設計検討と設計情報伝達

製造業において,長い年月をかけて確立された“図面”の文化。その在り方が問われている。

きっかけは,昨今の3次元CADの普及だ。3次元CADは2次元CADと違い,立体を立体(3次元データ)として表せる。そのため,入り組んだ形状の部品や,多くの部品を緻密に配置しなければならない製品/ユニットなど,2次元で考えていては細部を詰めにくい部分の設計検討を試作の前段階で効率良く行える。

それだけではない。2次元図面を読めない人でも設計者がどのような製品を考えているかをデータの段階で理解でき,開発中の製品に対してアドバイスを与えることも可能。機械加工用NC(数値制御)データの作成や解析,RP(ラピッド・プロトタイピング),プレゼンテーション資料/カタログの素材などに同データを活用すれば,開発の初期段階に設計内容を詰めたり,業務を効率化したりできるようになる。「3次元CADを使い始めたら,もう2次元CADには戻れない」---多くのユーザーがそう語るのは,まさにこうした魅力からだ。

だが,その一方で,3次元CADを使い始めた設計者の多くが,多かれ少なかれ「納得できない」と感じていることがある。それは「3次元データを完成させたのに,なぜ2次元図面を作成しなければならないのか」ということだ。2次元CADも3次元CADも,設計者にとっては思い描いた設計を形に表し,それを検討し仕上げていくためのツールである。それ自体に本質的な違いはない。しかし,現場での扱いは似て非なる状況。2次元図面ならそのまま後工程や関連部門に受け取ってもらえるのに,3次元データだと一般にそれがかなわないのである。2次元図面や簡易2次元図面を添付して補う必要があるのだ。しかも,そうした2次元図面や簡易2次元図面を作るのは,量産着手に向かって設計変更や手配業務などに追われる多忙な時期。設計者が「納得できない」と感じるのも,無理のない話である。

こうした状況が生じたのは,実は図面には二つの役割があるためだ。(1)一つは「設計検討のための媒体」としての図面,(2)もう一つが設計者の意図を他の人に伝える「設計情報伝達のための媒体」としての図面である。前者は,製品や部品の形状を実際に形に表してみることで設計内容を確認・検討できるようにするという役割。後者は,生産技術,金型設計・製造,部品加工,部品や製品の検査といった後工程に対し,幾何公差,寸法公差,表面処理方法,材質といった形状だけでは表現できない情報(設計意図)を,読み手が即座に理解できる明示的な形で伝達するという役割である。

そして,2次元CADで設計していた時代は,幸運なことに,その設計検討の成果物である 2次元図面は,設計情報伝達のための媒体としても機能した。従って,設計者は,設計検討のための媒体としても,設計情報伝達の媒体としても,2次元図面だけを作れば済んだ。そして,そうした状況に慣れていた設計者は,3次元CADに移行すれば,3次元データも当然両者を兼ね備えたものになると思い込んでしまったのである。

だが,現実は違っていた。3次元データは,設計者の意図を生産技術や製造・検査部門などの担当者に伝える媒体としては使い物にならなかったのである。その結果「2次元図面より作成に手間のかかる3次元データを作っても,さらに2次元図面や簡易2次元図面を作らなければならない」といった現在の状況が生まれてしまった(図1)。

[図1]変化する図面の形態。日本自動車工業会(JAMA)と日本自動車部品工業会(JAPIA)の3D図面標準化ワーキンググループの資料を基に作成。従来の2D図(2次元図面),もしくは2D図と3D形状(3次元データ)の組み合わせから,3D図と簡易2D(簡易2次元図面)の組み合わせへと図面形態は変化してきている。

もちろん,2次元で設計していたころに比べて,3次元で設計している現在は,設計の質は平均的に高まっている。ただ,現実問題として,設計者の負荷が軽減されたかというと,逆に増えている。そこで芽生えてきたのが,現状の2次元図面よりもっと効率の良い設計情報の伝達方法として,3次元データをベースとした新たな図面(3次元図面)の在り方を探り,その標準化を推進していこうといった動きだ。標準化が進めば,設計側では補完用の2次元図面を作らずに済むようになる。さらに,3次元データと2次元図面(あるいは簡易2次元図面)の中に書かれている情報がしばしば不整合を起こし,後工程が混乱するという現在の悩みも解消できる。

こうした目標に向かって今,精力的な活動を進めているのが,自動車業界のグループと,日本PTCユーザー会の3次元図面活用フォーラムのグループである。自動車業界のグループとは,日米欧の自動車業界団体などが加盟する標準化組織「SASIG」や,日本自動車工業会(JAMA)と日本自動車部品工業会(JAPIA)の3D図面標準化ワーキンググループである。

3次元データに足りないものとは?ものづくりに不可欠な形状以外の情報

既に簡単には説明したが,ここでもう一度「3次元データでは,なぜ多くの場合に2次元図面や簡易2次元図面の追加が必要になるのか」という点を整理しておこう。それは,3次元データだけでは現在往々にして,製品を製造・検査できないためだ。生産技術,金型設計・製造,部品加工,部品や製品の検査といった工程で必要となる設計意図が,3次元データでは,読み手が即座に理解できるような明示的な形で盛り込まれていないのである。

確かに,3次元データには2次元図面に盛り込まれていない詳細な形状の情報が含まれている。ただ,そこには幾何公差,寸法公差,面粗さ,表面処理方法,熱処理方法,材質,結合方式,クリアランスの設定,接着範囲,グリス塗布範囲,色,適合が求められる規格や基準など,形状だけでは表現できない(非形状の)情報が往々にして盛り込まれていない。さらには,注記による形状指示や,ポイントとなる部位の拡大図や断面図など,より柔軟かつ適切に設計意図を伝達する術が不足しているのだ。

もう少し正確に言えば,そうした情報の幾つかを3次元データに付加する方法は考え出されている。ただ,それらは2次元図面と違って規格化されていないため,統一されたルールがない。また,3次元データに付加する情報の種類によっては,3次元CAD側での機能開発が必要となるし,2次元図面と違って,そうしたデータを閲覧するためのツール(ビューワ)も必要となり,それらの機能強化も不可欠になる。

要するに,3次元データを設計情報伝達のための媒体として成立させるには,どのような情報をどのような形式で表現するのかという3次元図面の在り方を明確にしなければならず,しかも,それを可能とする機能を持った3次元CADやビューワが必要となるのである。これまでは3次元図面の在り方が不明確だから,それを実現可能とする機能が3次元 CADやビューワになかなか盛り込まれず,そうした機能がないから,3次元データが設計情報伝達の媒体としてなかなか育たないといった悪循環に陥っていたわけだ。

先に紹介したJAMA/JAPIAにおける取り組みや,日本PTCユーザー会を母体として発足した3次元図面活用フォーラムの取り組みは,こうした悪循環からの脱却を目指すものといえる。ユーザー主導で3次元図面の在り方を模索し,JAMAとJAPIAはさらにその標準化を目指す。それによって,3次元CADやビューワのベンダーに働きかけ,3次元図面でものが造れる環境を築こうとしているのだ。このように,これまで長い歴史の中で確立されてきた 2次元図面による“図面”文化が,3次元CADの普及によって今まさに進化の道を歩み始めようとしている。

標準化で先頭を走る自動車業界ガイドラインの発行は2006年末

現在,3次元図面の標準化でトップを走っているのが自動車業界である。SASIGが,3次元図面に関するスタンダードやガイドラインの2006年末の発行を目指し,現在,その作成作業を進めている。それと足並みをそろえるように,JAMA/JAPIAでも同様の作業が進行中だ。JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループで同ガイドラインの整備を進める本田技術研究所栃木研究所CIS2ブロック主任研究員の永井昭良氏によれば「2006年秋までに JAMA/JAPIAとしてガイドラインとスタンダードを作成する計画」という。

これらの作業で対象としているのは「3次元単独図(3D annotated models)」と「DEV (Digital Engineering Visual)」である。3次元単独図とは,いわゆる2次元図面や簡易 2次元図面を添付しない3次元データ主体の設計情報(図面)のこと。「JAMA/JAPIA 3D図面ガイドライン V1.0」では「製品形状と製品特性(注釈,属性)を表した3次元モデル(3次元形状)と,製品特性の注記および管理情報を3次元モデル(3次元形状)から独立した情報として表した図面」と規定している(図2,表1)。ただし,製品特性の注記や管理情報の付け方には,ある程度の自由度を認めている。それらは,パソコンのOAソフトや 2次元CADのデータとして添付しても良いし,3次元データとは別の紙の図面として添付しても良いとしている。

[図2]JAMA/JAPIAが想定している3次元単独図の例。JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループの資料より。

[表1]JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループによる製品形状/製品特性/管理情報の定義。同ワーキンググループの資料を基に作成。

一方,DEVとは,そうした3次元単独図を表示する仕組みのこと。すなわち,サービス,承認,CAE結果確認,部品設計,組み付け手順,原価検討,検査,認証書類といった開発プロセスの各工程で3次元単独図を活用していく場合,ビューワにはどのような要件が求められるのかを明確にし,既存のビューワにおけるその実装状況と一緒に,その要件をガイドラインにまとめようという取り組みだ。DEVについては,3次元図面の活用方法や組織の在り方などが企業によって異なるため,スタンダードではなくガイドラインとしてまとめる計画という。

JAMA/JAPIAが3次元単独図のスタンダードとして,策定を進めている項目は具体的には表2のようなものである。すなわち,3次元データの中で製品特性と管理情報をどのように表現すべきかということを規定しようとしている。例えば「幾何公差を入れる場合は,検査が可能な幾何特性を選び,3次元形状面へデータム(基準)と幾何特性を直接指示する。その際の3次元モデルの寸法は中央値で作成することを基本とし,そうでない場合はその旨を注記に書く」「寸法や公差など3次元形状に直接指示するアノテーションが多い場合,必要に応じて投影図や断面図を設け,見る方向によって必要なアノテーションが見えるように設定する(図3)」「箇条書き形式の注記や表題欄などの文字による管理情報は,3次元モデル(3次元形状)とは別にディスプレイに平行な平面に表示する(図4)」といったような内容を検討している。

[表2]JAMA/JAPIAが検討している3次元単独図のスタンダードの目次。JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループの資料より。

[図3]アノテーションが見やすいようにビューを区別して表記した例。JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループの資料より。

[図4]文字による管理情報を3次元形状とは別にディスプレイに平行な平面に表示した例。 JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループの資料より。

なお,3次元単独図やDEVに関するスタンダードとガイドラインの実際のまとめ方については,JAMA/JAPIAとSASIGでは多少異なりそうだ。すなわち,SASIGではスタンダードとガイドラインを明確に区別したいという考え方から,3次元単独図に関する「3D単独図スタンダード」と,3次元単独図とDEVの双方に関するガイドライン「DEVガイドライン」の2本立てにする予定。これに対してJAMA/JAPIAでは,3次元単独図のスタンダード,同ガイドライン,およびDEVガイドラインの三つに分けるか,それらを3次元単独図ガイドラインとしてひとまとめにして出すか思案中という。JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループにおける今後のスケジュールは表3のようになっている。

[表3]JAMA/JAPIAの3D図面標準化ワーキンググループの計画。同グループの資料より。

自動車業界はさらに,SASIGでまとめた同スタンダードおよびガイドラインを国際標準化機構(ISO)へ提案していく計画だ。

3次元製図,すなわち3次元CADで注記や寸法線といった形状以外の設計情報を表現するルールに関しては,既にASME(米国機械技術者協会)の規格「Y14.41(Digital Product Definition Data Practices)」(ASMEの「Y14.5M」を3次元の世界でも使えるように拡張したもの)が存在している。しかも,ASMEの提案によりISOの技術委員会10(TC-10)において同様の規格を策定する審議が進行中だ。

ただ,Y14.41は,矢印の入れ方などがASMEに準拠したもののとなっており,日本や欧州はISO準拠でルールを作るべきと主張している。さらに,それに加えてこの審議中の規格(ISO DIS16792)では,図面様式(Drawing Style Types),すなわち「製品データにおいて製品特性,形状モデル,管理情報とは具体的にどのような内容を持ったもので,それらをどのようなパターンで組み合わせればいいのか」といったルールなどが明確にされていない。SASIGは,そうした点を明確にしていかないと3次元図面はなかなか使えるようにならないと考えており,ISO DIS16792で不足しているものをISOに提案していこうと考えている(表2)。

3次元の表現力を生かす新たな情報伝達手段を模索

日本において,自動車業界以外で3次元図面の在り方を模索しているのが,日本PTCユーザー会3次元図面フォーラムである*。同フォーラムの目的は,2次元図面の文化を3次元の世界に移植するのではなく,3次元データの特徴を生かした新しい設計情報伝達の在り方をユーザー主導でイチから模索すること。そのために,ユーザー会から一歩飛び出したフォーラムという形式で議論を進めている。現在は,PTC(Parametric Technology Corporation)製品のユーザーがメンバーとなっているが,いずれはPTC製品以外のユーザーにも門戸を広げていきたい考えで,オブザーバという形であれば参加も受け付けるとしている。

日本情報処理開発協会(JIPDEC)でも,2005年から,非形状の設計情報を3次元形状データといかに組み合わせて表現すべきかという検討を行う「設計属性サブワーキンググループ」を「コラボレーティブワーキンググループ」の中に立ち上げている。対象としている業種は製造業全般だ。


同フォーラムでは,そうした議論に基づき,3次元図面を今後利用していくための利用基準(ガイドライン)を作成する計画。その成果を,2005年11月22日に開催が予定されている日本PTCのユーザーミーティングの場で提案する考えという。同フォーラムのメンバーの一人は「3次元図面のルールを自社内で作っても,サプライヤや他社が同調しないと使えない」とこの活動の意義を説明する。

そして,こうしたガイドラインの作成で同フォーラムが強く意識しているのが(1)CAD の種類に依存しないガイドラインを作成すること,(2)単に2次元図面の情報を3次元データに反映させられるようにするのではなく,3次元データが持っている表現力を生かして,これまでよりも効率的かつ人が理解しやすい設計情報伝達の在り方を模索すること---の2点。例えば,3次元データは色が使える。面や線に色を付ければ,見た目にも分かりやすく効率的な情報伝達手段となり得ると考えている。

同フォーラムのメンバーが,ガイドラインの作成に当たって最も苦労しているのは「2 次元図面の文化という既成概念から抜け出し,新たな情報伝達の在り方をゼロベースで考えること」。そのため,同フォーラムでは「ものづくりで必要とされている情報とはどのようなものか」を,仕様設計,構想設計,部品設計,製造準備,評価/検証といったステージごとにまず洗い出し,その上で,そうした情報を3次元データの表現力を利用してどう伝達するのが良いのか議論を進めている。

例えば,部品設計のステージでは,使用材料,熱処理,表面処理,基本寸法,寸法精度,加工方法,面粗さ,形状精度,はめ合い,結合方式,クリアランス設定,規格/基準適合,応力,熱影響,色(樹脂や鉄板の色),接着範囲,断面(詳細図),注記による形状指示(指示なきRは○○)---など,必要な情報をメンバーに挙げてもらい,その表現方法を議論している。さまざまな観点から活発に交わされている議論の一部を抜き出してみよう。

「使用材料は,グリーン調達で必要となるので管理情報(部位などに依存しない情報。 Pro/ENGINEERではパラメータとして3次元形状に付加するが,一般にはXMLフォーマットで定義する)として盛り込んだ方が現状では集計しやすい。複合材については,3次元形状にアノテーションとして付加すると同時に管理情報として入れてはどうか」「熱処理は,管理情報として付加し,部位を指定する場合はアノテーションも付加してはどうか。全体を処理してから部分的に熱処理するものもあるので,ベースは赤で,高周波焼き入れは他の色といった具合に色とセットでアノテーションを使うのはどうか」「色の使い方にはさまざまな応用が考えられる。例えば,加工部を識別しやすいように色を付けたり,抜きテーパに対して抜き方向が分かりやすいように色を付けたりすることも考えられる。簡略表示のような形で加工の表示にすれば加工の色が入り,抜きテーパの表示に切り替えればその色が入るといったコントロールはできないか」

これまでも3次元図面の必要性はいろいろなところで叫ばれていた。しかし,実際にはそれが個別の企業/企業グループを超える大きな活動につながることはなく,従来の2次元図面を使い続けるケースが少なくなかった。今回紹介した取り組みは,そうした3次元図面を「皆で協力して利用できるようにしていこう。そして,それを実際に使いながら改善すべき点は徐々に改めていこう」という意識を持って進められている点が新しい。企業/ 企業グループの枠組みを超えた活動に発展したことで,3次元図面の在り方の模索は新たなステージを歩み始めたと言えそうだ。

富岡 恒憲=日経ものづくり