夢狩りの伝説
話は少し戻り、魔法王国ができる前後の時代のお話。
ある森に1人のとても美しいエルフがいました。
彼女は透き通るような白い肌と、月の光を集めたかのように白く輝く銀髪、翡翠のような深い緑色の瞳を持ち、その姿は森の女神の生き写しのようで、とても繊細で美しく心優しい乙女でした。
彼女は森を愛し、森の全てのものは彼女を愛し、そして森の外のものたちも彼女に惹かれて、彼女の姿を一目見ようと森を訪れるのでした。そして、その中には小さき神々の姿もありました。
あるとき、闇の神と、夢の神が、エルフの乙女にあなたの望むものを与えましょうと言葉をかけました。
乙女は最初はその申し出を断っていましたが、熱心に語る二柱の神に折れて、ささやかな願い事を伝えました。「わたしが望むものは、新たな友達と、心を通じ合うための術です」と。
それを聞いた闇の神は、魔獣を呼び出す“召喚の魔術”を、夢の神は、夢に触れ心を通わす“夢の魔術”を乙女に教えました。
乙女はその贈り物にとても喜び、新たな友を“奈落”から呼び寄せ、彼らと心を交し合い、また、森のさまざまなものたちが見る“夢”を感じ、古くからの友たちとも友情を深めていきました。
しかし、あるときそのエルフの乙女は目覚めぬ眠りへと落ちてしまいました。
それは、彼女が夢の深い深い所へ入っていってしまい、出て来れなくなったからだといわれています。
それを見た夢の神は乙女を取り戻すために彼女の夢の中へ入っていって、さまざまな夢と溶け合い、“世界の見る夢”となり、闇の神は彼女の体をその闇の神しか知らぬ深き闇の中へと隠してしまいました。
そのエルフの乙女には二人の家族がいました。
1人は彼女の妹であるエルフ。そしてもう1人は乙女が森の外れで拾い、育てていた人間の少女です。
残された彼女たちは、しばし悩んだあと、乙女の想いを継いで“夢”と“魔獣”の導き手になろうと決心しました。乙女がいなくなって嘆き悲しんでいるものたちがたくさんいます。少しでも彼らの慰めになればと、二人は夢の技と魔の技をもって、さまざまなものたちの思いに触れて、癒していこうと思いました。
しかし、人間はすぐに老いて死んでしまいます。
それでは多くのものを慰められないと思った乙女の妹は、人間の少女に長く生きるための方法を教えました。また、少女も自分ひとりでは難しいだろうと、その技と乙女の想いを他の人々に教えました。そうすれば彼女が老いても、他の人々が慰める事ができます。
こうして、人間とエルフの中に“夢狩り”と呼ばれる魔法使いが生まれました。
彼女たちは“夢”の意味を知り、人々や妖精たちの心を癒し、怨霊や悪夢を寄せ付けぬように、その技をふるっていきました。
普段は(争いを避けるために)森や谷の奥に隠れて住んでいましたが、魔法王国の崩壊の後は、各地に打ち棄てられたルーンに怨念がたまって悪さをする事を防ぐために、ときおり人里に下りて、怨念を払ったり、人々を癒したりしたのでした。
そしてのちには彼女らが集まって住む“夢の谷”から、村や町に“夢狩り”が送られるようになり、その村や町のさまざまな儀礼を取り仕切るようになったのです。
彼女たちは、人や、妖精や、動物や、森や、建物や、さまざまなものが“夢”を見て、それゆえにさまざまな幸せや悲しみを得る事になるのだという事をわたしたちに教えてくれます。
だから、彼女たちの言葉に耳を傾けてみてください。
それがあなたの魂と、彼女たちの運命を救う事になるのですから。
~放浪民の語り部が村の子供たちに語った言葉より
最終更新:2008年01月09日 16:38