目的と背景


 2004年12月26日に発生したM9.0のスマトラ沖地震は、広範囲に甚大な被害をもたらした。特に、インド洋沿岸地域における津波による被害が顕著であり、災害に対する知識の欠如が人的被害を増長させた大きな要因になったと考えられる。われわれKIDS(京大防災教育の会)はこの地震をきっかけに2005年6月に結成され、同年9月にインドネシアのバンダアチェ、メダンで防災教育を行う機会を得た。その際、これまでほとんど防災教育が行われていなかったという状況に触れ、今後も継続的な防災教育を行っていく必要性を強く感じた。
 また、昨年5月のジャワ島中部地震により、ジョグジャカルタで大きな被害が出たのを受け、昨年9月の防災教育活動では、東南アジア研究所の浜元聡子氏をはじめとする多くの方々の現地でのコーディネートなどのご協力をいただき、バンダアチェに加えてジョグジャカルタでも活動を行う機会を得た。昨年に引き続き、本年度もジョグジャカルタ、バンダアチェにて一連の防災教育活動を行ったので、本書にて報告する。

渡航メンバー

氏名 所属
清野 純史 京都大学大学院工学研究科准教授
堤内 隆広 京都大学大学院工学研究科修士1回生
為季 あずさ 京都大学法学部3回生
Rishe Dwiyani(Iche) 京都大学大学院工学研究科修士1回生
Rizqi Fitrasha(Fitra)

活動日程

現地時間   活動内容
8/31(金) 11:00-16:55   関空-デンパサール
19:00-19:40   デンパサール-ジャカルタ
9/1(土)  08:20-09:20   ジャカルタ-ジョグジャカルタ
16:00-18:00   防災教育活動-1-1(授業)
9/2(日)  10:00-12:00   防災教育活動-1-2(フィードバック)
15:00-17:00   防災教育活動-2
9/3(月)  06:00-07:00   ジョグジャカルタ-ジャカルタ
09:10-12:55   ジャカルタ-バンダアチェ
15:00-18:00   現地視察
9/4(火)  09:00-11:00   防災教育活動-3
11:30-13:30   防災教育活動-4
15:30-18:00   現地視察
9/5(水)  09:30-11:30   防災教育活動-5
15:00-17:00   防災教育活動-6
9/6(木)  13:30-17:10   バンダアチェ-ジャカルタ
20:00-23:10   ジャカルタ-デンパサール
9/7(金)  00:15-08:00   デンパサール-関空

活動場所

1  ジョグジャカルタ     バントゥル県ウィイレジョ村ゲシアン集落・プカランガン 大人100人・子供50人
2  バントゥル県イモギリ郡ウキルサリ村ギリロヨ集落の集会所 大人・子供合わせ100人
3  バンダアチェ     MIN Mesjid Raya(バンダアチェ市) 100人
4  SDN29(バンダアチェ市) 130人
5  SDN 2 Peukan Bada(NAD州) 100人
6  SMP Peukan Bada(NAD州・ここのみ中学校) 60人

授業について

 「地震・津波のメカニズム」、「地震・津波の対処法」、「稲村の火の紙芝居」の3本を柱として授業を行った。その内容について以下に説明する。なお今回の授業は、日本での防災教育で培った経験を元に、またインドネシアの電力供給の不安定さを考慮し、教材は全てKIDSオリジナルの手書きの模造紙を使用した。

地震・津波のメカニズム



 子供たちに親近感を持ってもらうために、現地で大人気のアニメ「ドラえもん」のキャラクターをKIDSのメンバーが演じながら知識を伝える劇形式で授業を行った。途中にはクイズをいれ、さらに模型を用いてメカニズムを再現してそれを視覚的に捉えてもらうことで、知識の定着を狙った。


 模型に関しては、昨年の活動でも用いたのだが、クラスの規模が大きいところで後ろのほうでは見えづらく、反応が今ひとつに感じられたという反省を踏まえ、より子供たちが近くで見ることが出来るようにプレートの模型と津波の模型をそれぞれ3個ずつ用意し、改良も行った。
 プレートの模型は、プレート上にバネのついた人形と家を用意し、プレートが跳ね上がった際に地上のものが振動するという物理現象を再現した。
 津波の模型は、パウダービーズを水の代わりに用いて、津波の動きを再現した。


 劇の内容についても、以下に説明する。


 最初に、全体像を把握してもらうために地球全体の構造を説明した。地球を卵と比較することで、出来るだけわかりやすく、簡潔に地球の構造について説明した。


 そこから視点をプレート境界にズームさせて、プレート境界周辺を拡大し、プレート境界での地震のメカニズムを説明した。


 最後に地震の発生から、津波の発生メカニズムを解説し、その後陸地に伝わる様子も説明した。

地震・津波への対処法(レスポンス)



 後半の対処法部分では、地震・津波が起こったときの対処法に関する授業を行った。前半と同じくドラえもん・のび太が登場し、彼らが地震、津波、避難、そして余震を体験するという流れとした。



 それぞれの場面で子供達にどう対処すべきかを質問し、自由に意見を出させることで自ら考える機会を与えた。最後に意見の出揃ったところでまとめを行い、子供達に具体的な対処法を示すことができるようにした。なお、まとめ役はKIDSのインドネシア人メンバーが担当し、言語面での問題が無いようにした。


 最低限覚えておいて欲しいことは、何度も子供たちに声を出して復唱させることで知識の定着を図った。
(上の標語は、津波が発生したら高いところへ避難するという意味。)

稲むらの火の紙芝居


 稲むらの火は、和歌山県広川村を舞台とした安政南海地震の実話に基づいた話である。前年の活動では、インドネシア語に翻訳されたアニメ版のビデオ上映を行ったが、今回は京都大学防災研究所の河田先生に提供していただいた英語版の「稲むらの火」の絵本をもとに、インドネシア語に翻訳して紙芝居を作成し、それを読み聞かせる形をとった。前回の活動の反省点の1つに、学校で継続的な防災教育を行ってもらうのに参考にしてもらうための教材を残してこれなかったということが上げられたため、今回はこの紙芝居を教材の一つとして各学校に残してきた。地震や津波に関する知識があることで救われる命があること、地震や津波の際には、家や財産よりも何よりも命を優先する必要があることを伝えるため、この紙芝居を行った。

パンフレット、アンケート



 授業内容の終了後に、授業内容の理解度や災害観などについてのアンケートを実施し、来年以降さらなる授業内容の改善のためのヒントを得ることを試みた。さらに、授業内容を簡単にまとめたパンフレットの配布も行った。子供たちがいつでも授業内容を思い出せるように、そしてそれを家族や兄弟に伝えるのにも役立てばと考えた。

授業風景

第1回 ジョグジャカルタ・プカランガン


<授業風景などの紹介>


 プカランガンの中のあずまやの表に掲げられた手作りの看板。このあずまやの中には子供たちの絵や絵本の並べられた本棚などがあった。ここが災害時の避難などの拠点となると同時に、日ごろから災害についての知識にふれることが出来る場所としても機能することが期待される。我々も授業で用いた紙芝居などをこちらに残してきた。


 プカランガンでの授業は本年度の活動で初めての授業であった。子供から大人までたくさんの方々に参加していただいた。
 基本的に小学生向けの内容であったが、アンケートの結果からは大人の方々にも楽しみながら学んでいただけたようである。


 プカランガンでの活動は授業翌日の意見交換会と一連になっており、特に年配の女性からの授業に対する意見や、地震と津波、その防災についての質問を頂いた。防災教育の内容について、大人の方々には簡単すぎるのではとも思ったが、「基本的ではあるが大事な知識であると思う」というご意見を頂いた。また、ここで出た質問内容は、現地の方々が知りたい内容として次回以降の授業内容をさらに厳選していく上で大変重要なヒントとなると思われる。


 授業の最後には皆で記念写真。このプカランガンが災害時の拠点として機能すると同時に、普段から人々が集まり、災害についても勉強できる場所として定着する、そしてその知識が人々の間で共有され語り継がれる拠点となる、この活動がそんなきっかけになればと願う。

<授業についてのコメント>
 本年度初めての授業。昨年度の最初の授業ではかなり想定外のことがあった。今年はドラえもん役を引き受けてくださった浜元さんとは日本で全く台本合わせをしておらず、台本を渡して目を通しておいて頂いただけの状態で授業に臨んだが、今年は昨年と違い授業の中でメインで説明を行うキャラクター(ドラえもん、博士)がインドネシア語のエキスパートであったため、語りかけなどを効果的に使っていたのが印象的であった。また、昨年の活動で非常に効果的な印象を受けた復唱やクイズは、やはりここでも反応が良かった。さらに、この授業では小さな子供、大人の男性、大人の女性がそれぞれ固まる形で座っていたのだが、自然にいい反応が返ってくる小さな子供だけでなく、見てるだけになりがちの大人の男性にも、クイズの問題を声をそろえて読んでもらうなどの呼びかけをしており、今年大人の人も授業に引き込むような働きかけができた印象がある。
 反省点としては、やや走りすぎた授業であったことが挙げられる。昨年の授業以降、さらに授業の流れをスムーズかつ簡潔にすべく台本の修正を行っており、授業を行っている側としてはそれほど長いという印象はなかったのであるが、終わってみると1時間半ほどになっており、最後の紙芝居では子供たちの集中力は切れ掛かっている印象であった。休憩を取るとそこからもう一度授業に戻るのが大変(小さい子供たちはあちこちに行ってしまう)なので難しいところではあるが、授業の3部構成の合間に立って背筋を伸ばしてもらうぐらいの休憩があってもよかったかもしれない。また、今回初めてのアンケートや授業プリントの配布、意見交換会があったが、事前にもう少しメンバー内で役割分担をはっきりさせておいたほうがより良かったように思う。一部にやや手持ち無沙汰になりがちなメンバーが見られた。活発な意見交換ができたのでこれ自体は成功であったが、こちらとしても事前から質問内容を固め、段取りを全員がもっとしっかり把握した状態で行うのが望ましいであろう。

第2回 ジョグジャカルタ・イモギリ集落


<授業風景などの紹介>


 授業の開始前の村の人々の様子。授業へのコメントにもあるが、ここでの授業が年齢層が最も幅広く、小さな子供、若者、ご年配の方、さらには現地で活動されている日本人の方なども授業を見ていただいた。


 今年からスタイルを変えた「稲むらの火」の紙芝居の様子。(昨年まではプロジェクターやスクリーンを使ってアニメDVDを上映していた。)ジョグジャではワヤン(影絵)が定着しており、次回はそれとの融合によって関心が引けるのではないかという意見が上がった。

<授業についてのコメント>
 対象児童の年齢層が幅広く、10代半ばの児童も多く参加していたために、ゲシアンほどわかりやすい反応は得られなかった。年齢層によってアプローチの方法を変える必要があるかもしれない。観客側には日本人留学生が同席しており、要所要所で子供達に解説してくれている姿が見受けられた。場所のセッティングからはじまり、村の人々の紹介まで、この活動場所においては現地の日本人の手助けが必要不可欠だった。紙芝居のパートと神戸の被害前後の写真が、多くを引き付けたようだった。視覚的な提示物がやはり強いとの印象をうけた。劇は低学年の子供には受けがいいが、もう少し写真や他メディアソースからの情報なども盛りいれたほうが、年上の子供達の興味もひきつけられるように思う。全体的には残念ながら反応は薄かったように感じられたが、それでも最後まで集中して聞いてくれていたとは思うので、これが年配の子供達なりの授業の聞き方かもしれない。
 反省としては、語学の完成度を上げるべきだというのが第一にあげられる。劇中のアドリブに対応できないことや、授業中の語りかけがあまりできないことでどうしても一方的になりがちなところなど、実際的な支障が多く生じたため、個人レベルでの改善が必要になるだろう。又、アンケートを配るタイミングも、もう少し計算した方が良いだろう。効率が悪くなりがちである。

第3回 バンダアチェ・MIN Mesjid Raya(Islamic elementary school)


<授業風景などの紹介>


 授業前、授業の開始を待つ子供たち。教室がこのように2つの教室をつなげたような形をしていた。昨年度も1校このような形の教室での授業があり、珍しくはないようである。


 昨年に引き続き、やはり小学生ぐらいの年代にはクイズの反応が非常によく、我先に答えようとする姿が見られた。また、今年は博士役をインドネシアからの留学生のメンバーが演じてくれたため、クイズの後の補足説明なども行ってくれた。

<授業についてのコメント>
 子供たちの反応は良かった。ただ、教室が2つの部屋に分かれていたため、後ろのほうの部屋にいた子供たちは授業に集中し、前の模造紙などをしっかり見るのは大変だったかもしれない。ここでは、昨年の反省を基に数を増やした模型や紙芝居をフルに使い、子供たちになるべく近い場所で見せられるように心がけた。
 各パートについては、メカニズム、対処法に関しては大変よく理解したようで、半数近くは地震災害について何らかの形で知識を得たことがあったようで、正しい対処法を知っている子供も見受けられた。クイズに関しては非常に反応がよく、積極的に答える姿が見られた。アンケートに関しても質問の意味をしっかり理解して答えてくれた。ただ、紙芝居に関しては、開始前に配ったお菓子やアンケートに気を取られてあまり紙芝居に集中できていない子供たちが見受けられた。せっかくのアンケートが裏目に出る形では非常にもったいない。アンケートを配るタイミングもしっかり授業の流れの中でしっかり位置づける必要があった。

第4回 バンダアチェ・SDN29(国立第29小学校)


<授業風景などの紹介>


 授業開始前の先生による趣旨説明の様子。アチェで行った4校の中では一番子供の数が多く、少しでもたくさんの子供が座れるようにと机、椅子を全部寄せて、所狭しと座って見てくれたのが印象的であった。


 授業を聞く子供たち。狭いスペースで座っている中でも真剣そのもの。最後までしっかり聞いてくれていたのがこちらとしてもしっかり伝わってきた授業であり、非常に嬉しかった。

<授業についてのコメント>
 1つの教室にかなり多くの子供たちが集まったこともあり、途中で騒がしくなりすぎたりしないかという不安も多少あったが、反応は非常に良く、ほとんどの子供が興味しめし、最初から最後まで真剣に授業聞いてくれていた。
 各パートについては、メカニズム、対処法、クイズについては第3回の授業と同様、理解度、反応ともに良く、積極的な態度で臨んでくれた。アンケートもしっかり答えてくれ、また、ここでは紙芝居が、他の学校に比べても関心を非常によく引いていた。

第5回 バンダアチェ・SDN 2 Peukan Bada(国立第2小学校)


<授業風景などの紹介>


 津波の発生時の対応について説明を行っているシーン。授業も中盤から後半に差し掛かるところだが、低学年の子も含めて真剣に聞いてくれている様子が伝わってくる。
 ここではメカニズムのパートでも話した津波の速さに再度触れ、津波が到達する地域では津波が到達してからの避難は難しいので、早め早めの避難行動が大事であることを強調した。


 授業内容が一通り終わり、アンケートを実施している中での1コマ。やや低学年の子供にはアンケートの趣旨や質問が難しかったようで、ドラえもんが質問攻めに会う姿も見受けられたが、同時に、昨年以上に子供と近い距離での授業が実現したことを示す1コマでもある。

<授業についてのコメント>
 子供たちの人数に対し教室が十分な広さがあるという意味では授業はしやすかった。全校生徒が1つのクラスに会し、授業に参加してくれたのが嬉しかった。子供たちの年齢の幅がちょっと広すぎたが、反応は非常によく、集中して聞いてくれていた。
 各パートについては、メカニズムは、4年生以上に関しては、内容を理解するのに特に問題はなかったと思われるが、3年生以下の子供にとっては、大分難しかったかもしれない。対処法に関しては、地震災害について何らかの知識を得たことがある子供も多数おり、基本的な対応についてすでに知っている子供も見受けられた。クイズへの反応も積極的であった。アンケートは、やはり3年生以下の子供が質問を繰り返す姿が見られ、大分難しかったようである。それが紙芝居にも影響する形となってしまった。

第6回 バンダアチェ・SMP Peukan Bada(中学校)


<授業風景などの紹介>


 この学校では、インドネシア語、英語以外に日本語も教えられており、対象人数もそれほど多くなかったことから、その場での発案で我々のメンバーの自己紹介だけでなく、子供たちにも日本語で自己紹介をしてもらい、授業前のアイスブレイキングを行った。


 この学校は視聴覚教室があったため、DVDでアニメを見せることにした。津波の経験を思い起こさせる内容ではあるが、前向きに関心を示す子供が多く見受けられ、それはアンケート結果からも確認できた。


 本年度最後の学校での最後の記念撮影。今年も終わってみるとあっという間で、1週間ほどの限られた期間で出来ることは限られているという印象。だからこそ、日本での準備期間でも「継続性」についてもっと考え、防災教育を作り上げていく必要性を改めて感じた。

<授業についてのコメント>
 すでに中学生になっている子供たちが大半であり、地震について勉強した経験のある子供もおり、授業を大変よく理解しているようで反応もよかった。ただ、一部ですでに知っている内容であるから、とあまり授業に集中できていない子供も見受けられた。
 各パートについては、メカニズム及びレスポンスは、よく理解しているようであった。もう少し低い年齢層の子供を対象に想定して考えた内容であるため、クイズは簡単すぎたように思う。
 稲むらの火のDVD上映は、皆食い入るようにして見ており、大変関心を引いていた。当時の記憶に駆られるようにみえる子供たちも多く見受けられたが、前向きに「関心を引かれた」というアンケートの回答が多かった。

良かった点、成果、子供たちの反響など


  • 授業スタイルとインドネシア語での授業に関して
 昨年同様、劇というスタイルはアイスブレイキングには最適であり、子供達の興味を引く意味でも非常に効果的だった。劇中はどうしても台本に沿った内容にはなってしまうが、何校かでは、自発的に質問をしてくれた児童もおり、彼らの中で問題意識を発芽させられた事を大変嬉しく感じた。また、完全に台本に頼りきりの授業だった去年に比べれば、インドネシアからの留学生が現地での活動に参加してくれた今回は、子供たちとより近い距離感での授業になっていたように思う。メインで説明を行うキャラ(ドラえもん、博士)をインドネシアからの留学生の2人に演じてもらったのだが、授業の流れが前回に比べて格段にスムーズになった点、強調したい重要なポイントがしっかり強調できた点、子供たちとの掛け合い、対話の中で授業内容を伝えるという日本での活動でも意識している目標に近づけた点など、改良された点は非常に多かったように思う。日本人メンバーも、個々で感じている語学力に関する課題はまだまだあるものの、昨年から上達しているという意見を頂けた。

  • 昨年以降改善を試みた点、授業内容の新たな試みに関して
 昨年度の活動以降に授業を改良した点、新たな試みをした点についてであるが、まず、プレートの模型や津波の模型が、セット数を増やしたことで大規模なクラスでの授業にも対応が出来、子供たちにもしっかり見せることが出来たと思う。また、新しく行った紙芝居も特にアチェの小学生には好評であった。
 次に、地域性を反映した授業ということで、補足説明として、インドネシアでは特定の避難場所に逃げる習慣がないことから、具体的な避難場所としてプカランガンや学校やモスクを提示、強調した。また、インドネシアでは家屋の耐震性が低く、また、日本に比べ家具が少ないことから、家の中での災害対応のウェートを下げ、家屋から出て広い所へという避難行動についてのウェートを上げた。さらに、ジョグジャカルタではジャワ島中部地震の際に津波の発生が危惧されパニックになったことから、メカニズムで説明したのはプレート境界地震であり、直下型地震では津波が発生しないことを補足し、地域性の言及についても昨年より進展が見られた。
 さらに、授業終了後のアンケートにより得られた情報も多かった。子供たちの理解度や災害観といった来年以降の授業内容を練っていく上で大いに参考になる情報に加え、例えばゲシアン村では、中間層の20代・30代が少ないこと、児童・年配者が圧倒的多数なことなども判明し(この意味でもアンケートは非常に大切だと感じた)、村全体で授業を見学してくれたために、こちらとしても各集団の役割的なものを見れて有意義だったと思う。また、ゲシアン村では、フィードバックも行い、村の大人の方々を中心にたくさんの質問や意見を頂く機会があった。引率を頂いた清野先生がその質問に対し解答を行うことで、より一歩進んだ知識の提供にも貢献できたと考える。最後に、防災教育の継続性を高めるためのアプローチとして、授業内容をまとめたパンフレットを配り、教材を少しでも残して来れた点は昨年からの改善点であると思う。もちろん、継続性を考える上ではさらにそれを高めるうえで考えねばならないことはたくさんあるが、今回残してきた教材やプリントが、防災についての知識の定着とさらなる広がりに少しでも貢献してくれることを願う。

  • 多くの人々とのつながりについて
 今年も現地での活動をサポートしてくださった多くの人々とこの活動を作り上げられたことが非常に嬉しかった。昨年から引き続き活動準備から現地のコーディネートまで大変お世話になっている東南研の皆様を初めとして、今年もまたアチェでの昨年とはまた違うあしなが育英会の現地で様々な活動を行っているメンバーとの繋がりが出来、活動をより多くの人々に知っていただくことが出来たのが非常によかった。

反省点、次回以降の活動へ向けて

 本年度の活動で行った新たな試みについても、また昨年から引き続き行っている内容についても、反省点や次回以降さらに改善したい点が多数挙げられたので、以下に述べる。

  • 語学力の更なる向上
 昨年に比べれば大分インドネシア語が上達したという評価は頂いたが、日本人メンバーのスキルはごく基本的な自己紹介レベルであり、どうしても台本だよりになり、インドネシア人メンバーの柔軟なアドリブに対応できないことや、授業で双方向性が保ちにくいことなど、いくつかの問題も見られたため、個人個人でのさらなるレベルアップが必要であると思う。

  • 更に地域地域に即した授業を
 前回の反省を踏まえ、地域研究を行う方々の研究会に参加するなどして、授業を行う地域に関する知識を得る機会があり、昨年に比べればインドネシア向けの災害対応に関する言及はできたかと思う。だが、授業を行う地域ごとに特有な災害時の危険などもっと踏み込んで言及できるような柔軟性が求められており、今後さらに地域に密着した内容を反映できるようにしていきたい。

  • フィードバックの得方についての課題
 今年から授業についてのアンケートを行い、これからの授業内容を考えていく上で有意義な情報を得られたが、その行い方はもっと考えていくべきであると思う。今回は配るタイミングを明確には決めないまま望んだが、レスポンスの説明が終わって紙芝居の準備中に配りはじめた学校では、紙芝居中もアンケートに気を取られていたという意見が出たので、授業の中でどのようにアンケートを組み込むかをもっと詰めて考える必要がある。また、1年生から3年生ぐらいまでの子供たちは何をどう答えていいか分からず質問を繰り返す姿も見られたので、質問内容も小さい子供は別にするぐらいの配慮が必要かもしれない。

  • 幅広い年齢層に対応できる柔軟性
 基本的に我々の授業は小学校の高学年ぐらいの年齢層向けの内容を、ということで考えている。だが、実際はインドネシアでの活動においては、もっと幅広い年齢層の方々が授業を見学に来る。小さい子供にはやや長くて難しい授業になり、中学生にはやや簡単すぎた印象がある。そのあたり、教材の多様性をもっと増やし、現地で内容を対象年齢に合わせて組み合わせるぐらいの柔軟性が理想である。今回アンケートを実施した中で、小学生には紙芝居が人気だったが、中学校ではDVD上映にしたのが功を奏した感じであった。我々としては手作りの教材に対するこだわりもあるが、中学生ぐらいの年齢層に対しては、もう少し他の他メディア(写真や統計的情報)からも情報や画像を取り入れても良い気はした。

  • 現地の先生を初めとする大人の方々との連携
 メンバーの多くから上がったのが、この意見であった。準備段階から早めに先生を初めとする現地の方々とコンタクトを取って情報交換を行うことにより、その地域地域で授業に参加する人々が知りたいと思っていることを知って授業に反映し、授業にを行う学校の周辺の状況や授業に参加する年齢層などについても事前に知ることが出来、よりその学校、その地域のニーズにあった授業内容を練っていけるのではないかと考える。さらに、準備段階から授業本番にまで、先生を初めとする現地の大人の方々を巻き込むことにより、継続的な防災教育の必要性とそのノウハウについても伝え、我々が現地での活動を行わない期間中も現地の人々が自ら定期的に防災教育活動を行う習慣につなげることができれば、我々だけで行うよりももっと多くの人々に知識を伝える機会ができるものと考える。

感想

<堤内>
 今回インドネシアに渡航したメンバーの中では、私が唯一昨年の活動を現地で経験していた。昨年との比較でいえば、インドネシアからの留学生が渡航メンバーとして参加してくれ、授業を引っ張ってくれたおかげで、昨年より子供との距離がさらに縮まった印象がある。私自身も十分なコミュニケーションが取れるレベルにはまだまだ達していないが、今年はインドネシア語での自己紹介を行い、それによっても距離感を少し縮められたように思う。昨年に引き続き、活動を通して語学の重要さを実感したので、来年に向けてさらにインドネシア語を勉強したいというモチベーションを再度高める機会にもなった。
 また、今回は授業をただ行うだけでなく、アンケートにより授業に参加した方々の声を聞き、また、現地に教材も残してきた。今回初めての試みであり、もちろんアンケートの行い方にもまだまだ課題はあり、教材の渡し方も十分教材にこめた思いが伝わるような渡し方であったかには不安が残るが、ひとまず昨年の一過性の授業からは一歩進展したと思う。あとは、それが実際に使われているか、期間をあけて再度調査してみるアプローチを行ってみたい。
 そして、今回の活動を通して、非常に印象に残っている言葉がある。アチェで活動を行っているあしなが育英会のメンバーの1人の言葉であるが、「1年間でも短い」という言葉であった。1年のうちの約1週間という短い期間でできる活動は、非常に限られたものであるということを実感した。今年活動を行った6箇所は、いずれも去年活動した場所とは違う所であり、相手の学校からしてみれば1回限りとなっており、その後の継続的な防災教育に結びついているかは確認できていないのが現状である。そうした視点にたったときに、授業内容を考える上で、授業が終わった後も防災教育を続けていく必要性を皆が感じてもらえるような「インパクト」を与え、また授業中に現地の大人の人々をもっと巻き込んで防災教育のノウハウとその必要性を伝えることで、現地の人々の手で防災教育を続けていってもらえるような働きかけが必要なのではないかと感じた。昨年の活動後以上に大きなビジョンでの今後の目標がもてたという意味でも、今年の活動の意義は非常に大きかったと思う。

<為季>
 今回の活動が、私にとっては最初のものとなった。現地視察を通して改めて、想像していた以上の被害だったことを肌で感じた。全体的な作りはもろいのに屋根が重いなどの住居の作り自体を変えなければ、また同じ被害を受けてしまうように感じたが、政府から資金は出ても知識的な枠組み規定などは浸透していないなど、政府的な活動の必要性も感じられ、渡航前よりもより広い視点で、減災を考えるきっかけにもなった。外部からのカタリストとして活動するのが自分達の役割であることも、充分に実感できた。あくまでもインドネシアを担っていくのは、今回であった子供達の世代であり、彼らの問題意識や希望、興味のきっかけとなる基礎知識などを誘発できる授業を完成できたことは、大変嬉しく思う。授業後会話した子供の中には、将来政府に入って防災の研究をするんだと語ってくれた子もおり、又、同行したインドネシア人留学生の姿が良いロールモデルとして映っていることもわかり、希望を見た。
 物資を援助する形ではなく、知識的な援助という形をとっている我々の活動は、まだまだ需要があるように感じた。勿論、現地の文化背景を破壊するような形での知識の押し付け(ゲシアン村では、地震は神の罰だと信じている人が年配者に多いなど)は避けられたいが、基本的に守られる命がまだあることなどを知ってもらうこと、とっさの行動に結び付けてもらうこと、神戸の写真などを見てもらって、復興は人の力によって成し得ることなのだと将来の展望につなげてもらうことなど、大事なことは伝えていくべきだろうと感じた。それが日本の学生である自分としての貢献の形なのだと、この活動を通じて再確認できることとなり、感動を覚えた。
 個人的には、語学があまりにも未熟であったこと、準備にあまり参加できなかったことなど、根本的な反省が多い。初回の反省を活かして、次回につなげていきたい。

<Iche>
 Movie seems to be more interesting for them than kamishibai. Maybe the kamishibai’s text should have been shorter.
Most of the students/community were so responsive/enthusiastic. But, for junior high school students, maybe some of our approaches were not appropriate for them(some were maybe too easy for them.) Some of them expects us to come back・・・ of course if we go back to the some place, they are expecting us to do more! In Gesikan, the ladies were more active and curious of ask about disaster than the men.

<Fitra>
 Over all, I think all the classes (in Aceh) run smoothly, although there were lots of things need to be improved. The kids were very enthusiastic with the class. I also think we have to reconsider another place beside Aceh and Yogyakarta, because there aren’t many disaster information in Indonesia. Rather than kamishibai, I’d prefer movie because it’s more understandable and more interesting.
最終更新:2007年10月12日 02:50