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「メリーの居る生活 特別編『Trick or Treat』 前編」(2008/10/31 (金) 02:02:52) の最新版変更点
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*メリーの居る生活 特別編『Trick or Treat』
作: ◆Rei..HLfH.
-まえがき
ハロウィンという事で、久しぶりに短期集中執筆に挑戦させていただきました。
今回は効果音の削除、フラグ散布など、様々な試みを試しております。
後半は視点がホイホイ変わる部分。よく分からないネタの混入など。そのせいで色々と読みにくくなっています。
すいません。ごめんなさい。
今回初登場となる新キャラですが、7話に登場するキャラクターです。
彼女の詳しい情報は、もうしばらくお待ちください。
そして、今回もエピローグ後載せの方法でお送りします。
あ、
>この枠って要らないですよね?
一行一行、頭に「>」ってつける作業って、結構しんどいんです。勘弁してください。
それでは前置きが長くなってしまいましたが、本編に参りましょう。
時間の空いている方のみにお届けする、ある平凡なハロウィンの風景です。
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10月29日
「隆一、明後日は何の日か知ってる?」
カレンダーを眺めていたメリーは、不意に僕に訊いてきた。
全滅した数学の小テストを眺めていた僕も、カレンダーを見る。
カレンダーにプリントされた31という文字の周りには、これといったイベントの名前はかかれていない。
祭日というわけじゃないらしい。
「10月31日か。…知らんなぁ。メリーの誕生日とか?」
「違うわよ。よく考えなさい」
クッションを抱えゴロゴロとくつろいでいるメリーは、何かもどかしそうな態度で返す。
どうやらこいつは答えを知っているらしい。
「10月31日…10月最後の日だろ?……ダメだな。さっぱりだ」
「はぁ…トリックアトリートと言えば?」
早く答えて欲しいメリーは、僕が答えられないことは我慢できなかったらしい。
あっさりと、だが呆れた様子でヒントを出した。
「ハロウィンか?」
「そう。まったく、それくらい知ってなさいよ」
「無理言うなって。で、ハロウィンがどうしたんだ?」
メリーがこんな回りくどい前フリで話しかけてきたということは、何か企んでいるに違いない。
無視するのも手だが、聞かないと後が面倒だから一応聞いておく。
「トリックアトリートよ!」
「『お菓子を寄こせ、さもなくば死あるのみ!』だっけ」
「そんな怖いお祭りじゃないでしょ。『悪戯するぞ』でしょ?」
「今のはメリーなりの解釈。実際は脅迫じゃなくて『トリックオアトリート(Trick or Treat)=悪戯か、お菓子か、どっちがいい?』って選ばせてるんだぞ?」
「じゃあ選ばせるわ。大人しくお菓子を寄こすか、私に悪戯されるか。どっちがいい?」
「…立派な脅迫じゃないか」
10月30日
一晩経って、学校in朝のHR後の自由時間。
あれからハロウィンのことを調べていたが、ついつい深入りしすぎてしまった。
睡眠不足に堪える授業を前に、せめて開始までの15分でも寝ようと試みる。
「おっす、隆一。元気そうだな!」
「そうだな。今日僕があと1時間も寝てなかったら、お前の顔に型抜きを押し付けてる所だった」
こういうときに限って、元気一杯の馬鹿が寄ってくる。
こいつの事だ、眠そうな時を狙って話しかけて来るんだろうな。
「はっはっは。そう邪険にするな。…しかし何だ、型抜きって?」
「…お前10月31日は何の日か知ってるか?」
陽気に笑うこの馬鹿に、昨日僕がメリーにぶつけられた質問を投げかけてみる。
「31日か…。ガス記念日か?」
「いや、僕が聞きたい答えは別だ。ガス記念日とか興味ないから」
「うん?ガスじゃないとなると、ハロウィンか」
「正解」
「ん、ハロウィンがどうかしたのか?」
「メリーに、『トリックオアトリート』って言われる事になった」
「ほほう。それでそれで?」
この野郎、ニヤニヤして聞いてやがる。
「…昨日そのお菓子に何を用意すればいいか考えてたら、寝る時間が無くなった」
「で、結局何作るか決まったのか?」
「さっぱり。…メリーのことだ、そこらで売ってるお菓子じゃ『期待はずれだー』とか言って暴れるかもしれない」
「ふむ。クッキー辺りでも焼けばいい」
「僕もそれを考えたんだけどさ…。作った事がないし、失敗なんかしたら、それこそ渡す物が無くて悪戯される」
「それで『型抜き押し付けるぞ』か。今日帰った後に試しに焼けばいいじゃないか。なんなら俺も手伝うぞ?」
「帰る頃には、おばあちゃんがキッチン使ってるからなぁ。焼くとすると都合よく学校が休みな当日しかない」
「難儀なやつだな。しかし、ハロウィンに渡す菓子か…。ん?」
「…どうした?」
俊二がクラス全体を見渡していると、うってつけな人物を見つけたと言わんばかりに、チョンチョンと一人のクラスメイトを指差した。
その先には、いつの間にかこのクラスに紛れ、そして馴染んでいた横島が眠っていた。
「横島?お菓子ならあいつより詳しそうな女子いるだろ。咲とかさ」
「菓子より今回はハロウィンのイベントに詳しい奴に聞いたほうがいいと思うぞ。普通の菓子ならいつでも作れるからな」
「そうかぁ?それにあいつがハロウィンに詳しいなんて、何で解るんだ?」
「ん?…雰囲気で。…だな」
「偏見だぞそりゃ」
彼女は口数は極端に少なく、クラスメイトと話をしている所も見たことはない。むしろ『話しかけるな』というオーラが出ているような気がする。
着崩さずに制服は着ているが、伸ばし放題に伸ばした髪は、椅子に腰掛けると床に触れてしまいそうなほどだ。
こう言うと勘違いされそうだが、不潔ってわけじゃない。…ただ極稀に、彼女から気分が悪くなるほどの薬品のような臭いがするので、うかつに近寄れない。
外見と性格(と臭い)のせいか、あの咲でさえ話しかけることが出来ない。…いや、咲が話しかけたところで無視されるだろう。
授業中は主に持参した携帯ゲーム機と睨み合い、バッテリーが切れたか、やる事がないとこうやって眠っている。
どういうわけか、その授業態度を咎めたりする者はおらず、初めは周りの人間には彼女が見えていないのかと錯覚すら覚えたほどだ。
周りから見れば少し変わった、そんな女子生徒なんだが…。
彼女は俊二たちとは違う意味で「クセのあるやつ」で、僕は彼女と知り合いだ。
横島はあの日から、僕…というかメリーを見張るかのように、こうやって現れた。
初めは何が目的か注意していたが、何をするでもなく、こうやって学校生活を送っている。
「聞いてみなきゃわからんだろう?ほれ、行くぞ」
「お前は寝てる奴を起こしたいだけなんじゃないのか…?」
「そんな意地悪な人間に見えるか?」
「悪魔には見えるが」
「ありがとよ」
寝ている横島は寝息どころかピクリともせず、寝てるというより死んでいるようだった。
僕の「『起こす』より『蘇生する』のほうが正しいんじゃないか?」という問に、俊二も「俺もそう思う」と答えて、俊二は横島の肩を優しく叩いた。
「……ん………?」
横島は微かな反応を示した。が、顔を開けようとはせず、うつ伏せたまま止まってしまった。
「これは…起きてるのか?」
「多分。聞いてみれば?」
起こした張本人である俊二は咳払いをし、声をかけた。
「なあ、聞きたい事があるんだが…」
「…………………………」
「あー…、もし?横島や?」
「…………………………」
「だ、ダメだ…」
解ってた事だがな。
彼女は『話しかけられたこと』に対して興味は持たない。
他人に興味がないから尚更だ。
「まったく…」
彼女と話すには、少しコツ…というより条件がある。
肩を落とす俊二を横に退けて、僕が話しかける。
「悪いな、起こして。お前に頼みがあるんだ」
「…………………………」
「ハロウィンで渡すお菓子についてなんだが、何か知らないか?」
「……………」
すると、うつ伏せていた横島はむくりと起き上がり、おもむろに自分のカバンの中身を探った。
間もなく彼女が小さなポシェットのような物を取り出すと、それから携帯ゲームを取り出した。
「PSPか…?」
「何だ何だ?」
その様子を見ていた僕と俊二に、彼女はそのPSPの画面をグッ押し付けた。
「お、モンスターハントか。…ずいぶんやりこんでるな」
「ふむ?だがマルチモードクエストが全然埋まってないな」
どうやら、一人では埋めれない多人数プレイのモードのクリア…つまり、このゲームの進行を手伝えという事らしい。
「よし、これが報酬だな。僕もこれ手伝うから、今言ったハロウィンのお菓子のこと教えて欲しい」
「む、知ってるのか横島?」
「ああ、知ってるからこうやって、伝えてるんだろ?」
「………」
PSPを受け取った横島がコクリと頷く。
「よし、ならば俺も手伝おう。俺がいればどんな奴もイチコロだぞ」
俊二は胸を張って自評する。
「…………いらない…」
そんな俊二を、横島は一言で切り捨てる。
「うお、声初めて聞いたが…うぅむ…。俺を用無しと申すか」
「横島、こいつもいた方がいいぞ。埋まってないクエストには三人以上いないと都合の悪いのもあるし」
「でも…」
「こいつも一応やりこんでるから、邪魔にはならないって。な?」
「うむ、今まで培ってきたプレイに恥じない動きをお見せしよう」
「………わかった」
「サンキュ。それじゃ、昼休みにでも詳しい話聞いていいか?」
「…わかった」
「んじゃ、よろしくな」
「……ん」
そう言って、僕らは横島の席を離れた。
席に戻った頃には横島はまた机にうつ伏せになっていた。
「しかし、隆一よく会話できたな…。俺は初めて声を聞いたぞ」
「そっか、お前は話したことなかったもんな」
「ううむ…。貴様女のたぶらかし方、解っているな」
「滅多な事言うな。横島は特別なパターンだ」
「どうだかな。何はともあれ、昼休みか。昼飯でも一緒に食う気か?」
「横島って飯食うのかな…」
「いや、食うだろ。昼は飯を食う。人間なら当たり前の行動だ」
「まぁ、そうなんだけどな」
キーンコーンカーンコーン
「む、授業が始まるな」
「はあ…結局寝れなかったか…」
「昼も寝れそうに無いな。ま、頑張れ青年!」
「あー…かったるい…」
重たいまぶたを擦り、僕は机の中に詰め込んである数学の教科書を引っ張り出した。
ふと、横島の方を見ると。
…やっぱり寝ていた。
夢と現の狭間で何を学んだのかも覚えていないまま、待ちに待った昼休みに突入した。
いつもなら昼飯を食うか、このまま寝るかの二択問題で悩む所だが、約束があるのでどうにも起きていなければならない。
この後に控えている午後の授業を想像して、憂鬱なため息を吐いた。
「青年よ、勉学に精を出した後の気分はどうだ?」
「めちゃくちゃ眠い。あと腹減った」
そこにタイミングよく水を差しに来る馬鹿野郎がやってくる。
「だらしねえこった。飯、食いに行くんだろ?……横島と」
俊二は周りに聞こえないように、横島の名前を出した。
気を使っているつもりなのか。余計なお世話だと言ってやりたい。
「お前も来るか?」
「そんな野暮な真似するかよ。二人でじっくり話し合ってこい」
「僕はお前が何をしたいのか解らん…」
「俊二様はクールに去るぜ」
「………………………」
何だか知らんが、今日の俊二はいつもより3割り増しでおかしくなっている。
まぁ、あいつがどうなろうと知ったことでもないし、ほうっておいても問題ないだろう。
「さてと…」
馬鹿の背中を見送って、僕は席を立った。
向かう先は、もちろん横島の席だ。
「…まだ寝てるのか」
1時間目から昼休みまで、何度か横島の動向を横目でチラチラ確認していたが、とうとう彼女は顔を上げることは無かった。
この非常に長いシエスタタイムを遮っていいものか、そしてどう声を掛ければいいのか分からず、とりあえず名前を呼んでみることにした。
「おーい、横島ー起きてるかー?」
「………………起きてる」
「ん、今から食堂に飯食いに行くんだが、一緒に行くか?」
うつ伏せたまま返事をする横山に驚きつつ、なるべく自然な言葉を選び横島を食堂に誘う。
何だかナンパしてるような気がして、恥ずかしい。
「………」
「………」
横島はゆっくりと顔を上げると、座ったままの姿勢で僕を見つめてきた。
「…な、何だ?」
「…用件だけ話に来たわけじゃないの?」
「あ、ああ。食いながらでも話したほうが、落ち着いて話せるかなって思ったんだけど…」
「…わかった。行きましょ」
「へ?あ、おう…」
意外とすんなり受け入れてくれたことに、心の中で感謝して、僕と横島は食堂に向かった。
食堂へ向かう途中、僕と横島はお互いしか知らない事を話をしていた。
「ところで、お前は食事とか摂るのか?」
「必要ない。でも人間の食べ物は嫌いじゃない。…何故そんな質問を?」
「食べれないのに誘ってたら悪いなって思ってさ」
「……同情はいらない。…メリーの様子は?」
「上々。ブレーキでも付けて欲しいもんだ」
「………そう」
そこで会話が終わってしまい、後は二人無言のまま食堂にやってきた。
「食堂は使ったことあるか?」
「……無い」
横島は賑わう食堂を、物珍しそうに端から端まで見渡している。
そんなに珍しいのか。
「こっち来てみ」
「…………」
僕は横島を手招いて、日替わり定食の展示されたショーケースの前に立たせた。
のんびり歩いたせいで、ショーケース前の人口はまばらだ。
「………?」
ショーケースを覗き込む横島は、ただジッと数種類ある定食に目移りさせていた。
人間の食べ物は嫌いじゃないというが、結構好きなんじゃないのか?
「…………うぅん…」
悩み疲れたのか、一度ショーケースから離れて、何かを考え始めた。
そっけない態度をとっている彼女だが、今の彼女は十分人間臭さが溢れている。
見ていて実に楽しい。
「日替わり定食って奴だ。Cのから揚げ定食なんかオススメだぞ」
「……なら私もそれ」
意外にも彼女は、あっさりと僕の薦めを聞き入れ、から揚げ定食に決めた。
自動販売機は普段から使っているという横島は、食券の自販機では戸惑うことなく券を購入した。
「今買った食券を、おばちゃんに渡して少し待つんだ」
「…そう」
「おばちゃーん、C定食二枚ねー」
中で忙しなく動き回る調理のおばちゃん達に、声を大きめに注文する。
すると、その中の一人のおばちゃんが愛想良くこちらに寄ってきた。
このおばちゃんと僕は、ちょっとした知り合いだ。
どんな知り合いかというと、またクセのある人物で、メリーと深い係わり合いのある人物でもある。
普段はバザーで怪しげなものを売ってたり、かと思えば不思議空間で若返って暴れてたり、そして学食のおばちゃんをやってたり。
とにかく謎の人物という事だけは確かだ。
「あら、隆ちゃん。そちらのお嬢さんは?おばちゃん初めて見るわねえ」
「僕のクラスメイトの横島。今日が学食初体験なんだ」
「という事は…、いやだわこの子、学校で逢引きなんて」
「表現古いし、違うから。相談事ついでに飯でも食おうって、誘ったの」
「あんまり変わらないんじゃなあい?」
「そ…そうかな?そんな気もしてきた」
「その子がどう思ってるか次第よ。……ところであなた」
「…………何か?」
調子よく僕をからかって気が済んだのか、おばちゃんが横島を見つめた。
その目は『おばちゃん』の顔には似つかわしくない、鋭い目をしていた。
「人間の形をしているようだけど、何者かしら?おばちゃんは人間の食べ物しか作れないわよ?」
「確かに私は人間ではありません。…ですが、ご心配なく。問題を起こす気も無ければ、人間の食べ物も食べれます」
横島はおばちゃんの目に怯むことなく、珍しくはっきりした口調で答えた。
その態度を見ておばちゃんは、コロリと表情を変えて話を続けた。
「いやだわぁ。おばちゃんてっきり、隆ちゃんを誑かせて色んなことしてるんじゃないかって」
「たっ、たぶ―――…!?」
お、横島が珍しく焦ってる。
うーむ、新鮮だ。
「おばちゃん、学校で変な事言わないように」
「あら、おばちゃんつい口が滑っちゃった。ごめんなさいね?」
「……いえ」
「それで、注文は…Cを2つね。二人ともちょっっとだけ待っててね?」
そう言うと、おばちゃんは返事を待たずに厨房に入っていってしまった。
「……あれほどの人物がこんな所に」
「ん?無口なお前が独り言なんて珍しいな」
「…うるさい」
「ん」
おばちゃんの存在がよっぽどショックだったのか、とりあえず横島には定食が出来上がるまで話しかけないことにした。
「はい、お待ちどうさま。から揚げ定食ね」
すぐに定食は出来上がった。
おばちゃんが定食を渡し口まで持ってくる。
「…来た来た。…横島、どうかしたのか?」
横島は同時に渡されたから揚げ定食を見て、困惑していた。
「…多い。……量が」
「本当だ。頼んだの大盛りだったっけ?」
横島は首を横に振る。
実際にはこの量は大盛りどころじゃない。
横島に渡された定食は、僕の定食より1.5倍の量はある。
これを食べろとは、量的にもカロリー的にも酷な話だ。
「おばちゃん、これ何?」
この特盛り仕様の定食は何なのか、と盛り付けた張本人に訊く。
「サービスよ。サービス。これからも学食来てねって」
女子にするサービスじゃないだろ。
他の生徒も利用する事もあり、渡し口からすぐに離れる事になり、今度は座れる場所を探す。
しかし、隣で特盛り定食を持った横島には同情する。
周りにはあまり気づかれていないようだが、さすがに居た堪れないようだ。
男の僕でも、これは羞恥プレイとしか…。
「……どうしよう」
その特盛り定食に困惑している横島を、気の毒に思った僕は、彼女に提案をした。
「僕のと交換しよう。こっちは普通の量だし」
「…………え?」
「ほい、目立たないうちに、さっさと交換だ」
「……うん」
戸惑う横島から、特盛り定食を奪い、代わりに僕の定食を渡す。
「結構…重いな。食うだけで昼休み消費しそうだ」
「………いいの?」
「むしろ特盛り食えてラッキーって思ってる」
「…………助かる」
少しでも横島を安心させようと、僕はバレバレでも強がりを見せた。
普段からそんなに喋らない奴だけど、横島とは仲良くなりたい。
今まで色々助けてもらってるし。これくらいで恩返しなんて思ったら逆に罰が当たるだろう。
「次は、席を探すんだが…。もしかすると…」
「……………?」
この学校の食堂は、他と比べると広いそうだが、ほぼ全校生徒が集まるこの時間は満席になる事も珍しくない。
賑わった食堂の席一つ一つを確認する。
あまり見たくない顔だが、あいつのことだ。多分…いや、絶対いる。
「いた。やっぱりあいつ3人分の席キープしてやがる」
「………?」
俊二は、満席スレスレの食堂で四人用の丸テーブルを一人で占領していた。
こんな無茶できるのは、この学校でコイツと数名だけだろう。
名誉と悪名を兼ね備えた変態…もといクラス委員長。
委員長ってそんなに権力あったか?
誰がいたのかまだ分からない横島に、中指で奴を指さした。
もちろん恥ずかしいので、目立たないように腕は伸ばさず、だ。
横島はその指先を目で追って何かを見つけると、今度は僕を見た。
クールに去るぜとか言っておきながら、会話に混ざる気満々だったんだな。
気が利くというか、うざったいというか。
あいつがいるとなると、横島との話がうまく進まないかもしれないな。
横島はどう思ってるんだろう。聞いてみるか。
「あいつも会話に混ざるかもしれないけど、いいか?」
「…構わない。……余計な事を話すつもりは無い」
「スマンね」
「…構わない」
僕と横島は、俊二が一人でうどんを啜っている席に歩き出した。
「む、来たか。遅かったじゃないか」
僕らが席の前に立つと、うどんに夢中になっていた俊二が、ようやく僕らに気がつく。
気が変わった、やっぱり邪魔だ。
横島は気にも留めていないようだが、こいつがいると僕が横島から話を訊きにくくなる。
「すまん。横島、やっぱ他で食おうか」
「私はどこでも構わない」
「待て待て待て。せっかく気を利かせて場所取りしておいたってのに、その扱いはないだろ」
「や、頼んでないから」
「…気遣いは必要ない」
「ぐ…。わかったわかった。うどん食ったらいなくなる。だからそんな事言ってくれるな」
「仕方ないな、一緒に食うか。横島、いいか?」
「……どこでもいいわ」
「さあ、そんなとこで突っ立ってないで座って食え」
俊二に急かされ、僕と横島は隣同士の席に座った。先に座っていた俊二とは対面した位置だ。
とにかく、飯を平らげて俊二をどかしてからじゃないと、落ち着いて話が出来ない。
今は飯を食う。この山盛りになった米と、おかずとしては大げさな量のから揚げを平らげる。
「さて、いっただきますよっと」
「…いただきます」
両手を合わせ、箸を持つ。
改めて見ると凄い量だ。午後は胸焼けしなきゃいいけど。
心の片隅で心配しながら、から揚げを一つ口に運ぶ。
うん、うまい。量は多すぎるけど、とりあえず美味しいぞ。
カラッと揚がっててあたたかい。
「何だ?そのギガ定食は」
うどんの麺を口に入れようとした俊二が、呆気に取られた様子で聞いてきた。
そりゃ、この量だからな。驚かないほうが難しいってもんだ。
「おばちゃんの気まぐれが、いけない方向に向けられた」
「それがこの気まぐれ定食か」
「から揚げ食うか?よし、食え」
「まだ何も言ってな――待て待て、せめて受け皿に寄こせ。から揚げうどんは趣味じゃない」
多すぎるおかずを、無理やり俊二にお裾分けする。
友情って、こんなやり取りで育まれるんだよな。
「おかずだけでは物足りぬだろう。米も分けてやる。何、遠慮するな」
「だから待て、うどんに入れようとするな。受け皿出してるだろ。こら、話を聞け」
よし、これで定食の量は普通盛りになった。
問題は俊二に定食を分けた分、食い終わるまで、こいつがこの席に長くとどまる事になるな。
「さぁ、さっさとそれを食ってこの席を明け渡せ」
「何と暴虐な…。こんな事が許されると思うな!」
と言いながら、むしゃむしゃとから揚げをほおばる俊二。
「そば茶がうめえ…」
「けっこう美味いな。たまにはから揚げもいいもんだ」
「…………」
昼休みが中ほどまで来た頃、丁度三人は同じタイミングで食事を終えた。
僕と俊二は食べ始めるのが遅かったからだろう。黙々と口に食べ物を運んでいた横島が一人食べ終わっていないという状況にはならなかった。
「結構食ったな。さて、俊二。お前はどっか行け」
「ふむ…。残念だ。俺もハローウィンとやらの事を聞きたかったんだがな」
「お前がいると落ち着いて話も出来ないだ―――」
「……別にいても構わない」
「え?」
意外だ…。
横島が僕の言葉を遮って、小さくだがハッキリした声で喋った。
俊二をこの場から追い出したいのは、僕のわがままだ。
横島にそう言われて、僕のわがままを無理に押し通す気はない。
「…仕方ないな、横島がそう言うなら」
「む、いていいのか?内心涙ぐんでたんだぜ俺?」
「…………………」
横島がコクリと頷く。
しかし何故急に?
「うむ、やはりお前達は見所がある。お前らの分の食器を片付けてきてやろう」
俊二は僕らの食器を取り、揚々と席を立ち返却口に歩いていった。
「よっぽど嬉しかったのか…。スキップでもして帰ってきそうだな」
「…………」
「別に不満に思ってるわけじゃないが、何であいつを?」
「…今回の件の報酬は、隆一と俊二の協力。そうすると俊二の願いも聞き入れなければ等価条件とならない」
「不公平ってわけか。でもどうするんだ?もし、あいつがいたおかげで昼休み中に僕の質問が終わらなかったら、いつ聞けばいい?」
「……放課後」
「放課後って…。横島って、いつも放課後は真っ先に帰ってるよな。あれって何か用事があって急いでるわけじゃないのか?」
「………理由を話す必要は無い」
「そうか。それでも出来るだけ手短に終わらせるよ」
横島には横島の考え方がある。か。
ここは横島のペースに合わせたほうがいいかもしれないな。
さっきみたいな僕のわがままで横島に迷惑かけるわけにも行かない。
「心の友よ。茶を淹れてきてやったぞ」
俊二が満面の笑みで緑茶を配膳する。
配り終えると、俊二は席に着いて、緑茶を静かにすすった。
こいつは何を話すわけでもなく、僕らが喋りだすのを待っているようだ。
「…さて、まず今回の話は『ハロウィンに渡すお菓子について』だが、まずはハロウィンについて訊きたい」
「………例えば?」
「そうだな…。元々ハロウィンって、何のためのイベントなんだ?」
元々僕は、ハロウィンを仮装してお菓子をねだるというイベントとしか認知していない。
何の意味があってのイベントなのか聞いておけば、用意するお菓子のヒントになるかもしれない。
「…昔、ある一部の人間たちは10月31日を1年で最後の日としていた…。その日の夜は、死者の霊や魔女が出没すると信じられていた」
「11月で一年か…。何だか変な感じだな」
「ふむ。大晦日にこの世の者ではない者がやってくるってことだな」
「…その霊や魔女から身を守るために、人間は仮面を被るなど行った」
「それが今で言う仮装大会に繋がるのか」
「しかし、何故その身を守る為の仮装が、自ら化け物になりお菓子を要求するようになったのか…」
俊二の言う事に、僕も相槌を打つ。
「…そこまでは私も知らない。お菓子は『親類の魂を天国へ導くためのものとして使われた』というのが起源」
お菓子が道しるべか。
ファンタジー…と言っては失礼だな。昔の人の考えは僕にはよく分からない。
「へぇ、どこかのお菓子が欲しい子供が、幽霊に変装すればお菓子を沢山もらえると考えたんだろうな」
「もしそうなら稀に見る秀才と見た」
イベントを自分の食欲のために利用して、それが後世まで受け継がれるんだ。
もしかしたらの話だが、そうだとすると面白い習慣だな。
「横島、昔はお菓子って何が作られてたんだ?」
「…言い伝えでは、干し葡萄のパンだった」
「パンは流石に難しいな。手間が掛かりすぎる。それならハロウィンで定番のお菓子とかって無い?」
「…定番とは言えないが、カボチャを使ったお菓子が多い」
「ふむ。ハロウィンといえば、カボチャだからな」
「カボチャか…。いいかもしれない。レシピとか知ってたりしないか?」
「……少しなら教えれる」
「何!?是非教えてくれ!」
「うぉっと!」
「―――――」
僕はつい、声を上げてしまった。
俊二は椅子から転げ落ちそうになり。
周りの生徒は、ちらほらとこちらを見る。
だが、俊二がここに居てくれたおかげで、次々と『なんだ、こいつらか』といった反応をして戻っていく。
横島は、目を見開いて固まっている。驚かせてしまったようだ。
「すまん。つい必死になった」
「…構わない」
「悪いな。で、そのお菓子の作り方なんだが…」
「材料も調理手順も覚えている。放課後に…」
「え…?それって」
「…私は構わないと言った」
「助かる。よろしく頼む!」
僕はつい横島の手を取って、握っていた。
「……………」
「…あ。悪い」
すぐに横島の手を放して謝罪した。
さっきから謝ってばっかりだ。
「…別に」
「……………」
少し調子に乗りすぎた。
聞くことも無くなって気まずい空気が流れてきた。
「ふむ。今日の収穫はこんな所か。横島よ。貴重な話を聞けた礼を言おう」
「…そう」
「約束だからな。俺はもう行く。あとは二人でよろしくやってくれ」
「あ、おい!…行っちまいやがった」
こんな時に限って、あいつはスタコラとこの場を去っていった。
二人になることを望んでいたのは確かだが、この状況は耐え切れない。
何か話題を出したいが、何を離せばいいか浮かんでこない。
困ったな…。
「……手」
「…手?」
不意に、横島の方から話しかけてきた。
横島は自分の手をジッと見つめてる。
「……何故そんなに温かいの?」
「へ?…あぁ、僕の手?んー…健康だからじゃないか?」
「…その手の温もりは、私には必要ない」
「ん?」
「………」
「あ、あぁ。わかった…」
「……………」
横島はそれから何も喋らず緑茶をすすった。
僕は横島の言葉が、自分には何も必要無い。私には触れないでくれ。と言ってるように感じた。
重かった空気がさらに重くなった気がして、とにかく話をして紛らわそうと、それから昼休みの終わるチャイムが鳴るまでは、作るお菓子について聞いていた。
『どんなお菓子なのか』『僕にも作れるのか』…そして忘れてはいけない、『そのお菓子は甘くて美味いのか』。
細かい質問にも、横島は淡々と答えてくれた。
大体のイメージが掴めてきたところで、チャイムが鳴った。
次は放課後。材料を買いに行って、当日の最終調整だ。
「青年よ、二人きりの会話、どうだった?」
教室に戻り、席につくと早速、俊二が寄ってきた。
「さてはお前、話す事がなくなるタイミングでわざとあの場を離れたな?」
「何を馬鹿な。お前らがいい雰囲気だから空気を読んでやっただけだ。で、どうなんだ?」
興味津々の悪趣味丸出しの馬鹿が、目を輝かせている。
殴ってやろうか。
「放課後にお菓子の材料を買いに行く。…横島と」
「貴様それは―――…」
「それ以上言うな。他の奴らに聞かれたら…」
「聞かれたら、何?」
「うわ!!」
「む、咲か。久しぶりだな」
ひそひそと男二人で話しこんでいるところに、咲が現れた。
今の聞かれたか?
「ふーん、隆一君ったら…」
咲はそこで一旦区切り、周りを確認した後、近くによってきて…
「…横島さんとデート?」
とニコニコしながら小声で聞いてきた。
どうやら聞かれていたようだ。くそ、油断した。
「違う!断じて違うぞ!!」
「えー。だって二人で買い物ってまるきり…ねえ?」
「うむ。お前が違うと言っても、周りの人間から見ればな…」
「うぅ…。なんか急に気が重くなってきた…。どうしよう」
とんでもない方向に状況が進んでいた事に気づき、机の上にうなだれる。
クラスで噂にでもなったら最悪だ…。
横島はどう思ってるんだろう、そんな事になった時のことも考えて提案してくれたんじゃ…。
寝てるってことは、何にも考えてないんだろうね…。
嗚呼…もう、どうすりゃいいんだ…。
来てほしく無い放課後なんて、初めて体験する。
いつも長く感じる授業が、あっという間に過ぎ去り、気が付けばもう放課後だ。
「はぁ~…」
クラスメイトが次々と席を立つ中、僕は一人だけ、机にぐったりとうなだれ、ため息をついていた。
何、クラスメイトに見つからないように買い物すればいい。目立たなければいいんだ。
買い物に行く商店街を通学路にしているクラスメイトは山ほどいるし、横島の外見(長い髪とかな)はかなり目立つが…。
腹を決め、ゆっくり顔を上げる
「……………」
「…よう」
目の前に、帰る仕度が済んだ横島が音も立てずに立っていた。
「………………」
何も喋らず、横島は僕を見下ろしている。
僕のことを待っているようだ。
「悪い、すぐ仕度する」
「……校門で待ってる」
「わかった」
そう伝えて、横島はさっさと教室から出て行ってしまった。
「はぁ…。かったるいな」
横島は怒っていたのだろうか、あとで謝っておこう。
僕はカバンに数学の教科書を放り、横島の後を追って教室を出た。
すでに教室には、俊二と咲の姿がなかったのが気がかりだったが、横島を待たせるわけにはいかないと思い、あまり深く考えないようにした。
急いで玄関口からでると、校門に気持ち早めに歩いた。
走って横島の元まで行ってみろ。まるでデートの待ち合わせじゃないか。
校庭の横を歩いていると、学年違いの女子達が、会話でなにやら盛り上がっていた。
「ねえねえ、今校門の前にすごい人立ってるよ!」
「すごいってどんな人?」
「なんかねぇ、すごい身体がスラッとしてて、背も高くて、すごい髪も長くて、すごいモデル体系なの!」
「え、見にいこ見にいこ!」
「写真撮らせてくれるかなぁ!?」
「ねえねえ、美帆も呼んでこようよ!」
嫌、聞きたくない。
もうそのモデル体系の人スルーして帰りたい。
校門につくと、そこで待つ横島を見つけるのは難しくなかった。
ただ問題は、校門を通る生徒の大半が横島を見て驚いている。
声さえ掛けられていないものの、注目の的なのは間違いない。
今、横島の元に向かえば、明日の僕は人気者だ。そんな面倒は御免こうむりたい。
「変装でもしていくか…。うちって演劇部とか無かったかな…」
ハロウィンにはまだ早いぞ、青年!
…とか言って、俊二が来てくれれば、どれだけ助かった事だろう。
神出鬼没なあいつも、今回は近くにいないらしい。
行くしかないか。なるべく普通に…、普通に…。
僕はなるべく平然を装って、横島に近づく。
周りで横島を見ていた奴らも、僕を見る。
「悪い、待たせた」
「……………」
横島はコクリと頷く。
「商店街…でいいんだよな?」
「………………」
またも頷く。
「よし、行こう。今日はよろしく」
「…………」
僕はその場から歩き出すと、横島も横を歩き出す。
どうだ?なるべく普通に接したはずだ。
「あれ誰だろ?」
「彼氏かな?」
「あの人って、文化祭で窓から飛んできた人じゃない?」
去り際、女子生徒たちの声が耳に届いた。
あかん。これで明日は完全にクラスで話題になる。
「…何やってたの」
不意に小声で、横島が文句を言った。
「声掛けるのに二の足踏んでたんだ。横島こそ何であんなに注目集めてるんだ?」
「……理解できない。人間は何故、私なんかをあんなに見る?」
「僕ら人間が見ると、横島は美人の部類に入るからだろ。それも上位の」
「……理解できない」
こいつはこいつで自覚していないと来た。
学校が終わればすぐに下校。
その時間帯なら他の下校生徒も少ないから、学校ではクラスメイト以外の生徒には目撃もされないし。無理も無いか。
「…何故お菓子を作るなんて?」
「ん?…あぁ」
横島が聞き逃してしまいそうな小さな声で聞いてきた。
いきなり小さな声で話しかけられるから、油断できない。
自分から話を持ちかけるのは苦手なんだろう。
「そういえば話してなかったな。メリーのリクエスト」
「…メリーが?」
「そう。あいつお菓子…というか甘いのが好きだからな」
「……そういうこと」
「悪いな。あいつのわがままに付き合わせることになって」
「……別にいい」
横島は軽く首を横に振って迷惑を否定した。
「商店街に着いたら何を買うんだ?」
「…かぼちゃ」
「……………」
「………………」
「…かぼちゃだけ?」
「…あとは調味料。砂糖。バター。薄力粉…」
「それなら、わざわざ一緒に買い物なんて…」
「………………………」
「あ、いや…、一緒に買い物するのが嫌ってわけじゃなくて…」
「……これは私の望んだ事。…気にしないでいい」
「あ、あぁ。うん。…ありがとう」
何だかよく分からなくなってきた。
かぼちゃを買うだけか…。なら今のうちに詳しいレシピを教えてもらった方がいいな。
「確か、かぼちゃのクッキーだったよな。作り方ってどうなってるんだ?」
「……クッキーを作った事は?」
「無い。お菓子自体、作るの初めてだ」
「……………」
「驚いた顔してるな」
「……何故そう思ったの?」
「カマをかけた」
ご存知の通り、横島は無表情だ。
表情なんてさっきから変わっていない。
目の動きと、喋るタイミングで心理状態を読み取ることが出来ないと、横島とのコミュニケーションを取るには難しい。
「……自信はあるの?」
「これっぽっちもない。焦がしたりなんかしたらメリーに笑われるかな」
「……それなら―――――」
「ただいまー…って、あれ、おばあちゃんとおじいちゃんは?」
買い物を終え、家に帰ってきた。
リビングに行くと、ソファにうつ伏せになり、退屈そうにテレビに映るニュースを見てるメリーしかいなかった。
「おかえりなさい。二人なら出かけてるわよ」
「そっか。晩飯どうするよ?」
「早く帰ってくるって言ってたわよ。遅くなるようなら電話もするって」
「ふーん」
会話を投げかけて普通に投げ返してくれる相手って、素晴らしいな…。
当たり前な事に感動を覚えて、僕はキッチンに袋を置きに行く。
『行方不明の少女は今どこに!?そして超能力者が集結!果たして少女は見つかるのか!!』
ニュースはCMに入り、いかにもな番組の宣伝が流れる。
メリーはゆっくり身体を起こし、テーブルに置いてあった湯飲みに口をつけた。
「ねえ、さっきの袋はなに?」
制服を脱ぐのに部屋に戻ろうとした僕を、メリーが呼び止める。
「…明日使う物。見たら明日のお菓子抜きな」
「そ、そんなことしないわよ…」
「はいはい。着替えてくるわ」
「んー」
メリーの返事を聞いてから、僕は階段に向かった。
…階段を上るフリをして、メリーの様子を窺ってみた。
「――――――――――――」
ソファーに顔を埋めて足を勢い良くバタバタしていた。
そんなに楽しみなんだろうか…。
こりゃプレッシャーだ…。
*メリーの居る生活 特別編『Trick or Treat』前編
作: ◆Rei..HLfH.
-まえがき
ハロウィンという事で、久しぶりに短期集中執筆に挑戦させていただきました。
今回は効果音の削除、フラグ散布など、様々な試みを試しております。
後半は視点がホイホイ変わる部分。よく分からないネタの混入など。そのせいで色々と読みにくくなっています。
すいません。ごめんなさい。
今回初登場となる新キャラですが、7話に登場するキャラクターです。
彼女の詳しい情報は、もうしばらくお待ちください。
そして、今回もエピローグ後載せの方法でお送りします。
あ、
>この枠って要らないですよね?
一行一行、頭に「>」ってつける作業って、結構しんどいんです。勘弁してください。
それでは前置きが長くなってしまいましたが、本編に参りましょう。
時間の空いている方のみにお届けする、ある平凡なハロウィンの風景です。
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10月29日
「隆一、明後日は何の日か知ってる?」
カレンダーを眺めていたメリーは、不意に僕に訊いてきた。
全滅した数学の小テストを眺めていた僕も、カレンダーを見る。
カレンダーにプリントされた31という文字の周りには、これといったイベントの名前はかかれていない。
祭日というわけじゃないらしい。
「10月31日か。…知らんなぁ。メリーの誕生日とか?」
「違うわよ。よく考えなさい」
クッションを抱えゴロゴロとくつろいでいるメリーは、何かもどかしそうな態度で返す。
どうやらこいつは答えを知っているらしい。
「10月31日…10月最後の日だろ?……ダメだな。さっぱりだ」
「はぁ…トリックアトリートと言えば?」
早く答えて欲しいメリーは、僕が答えられないことは我慢できなかったらしい。
あっさりと、だが呆れた様子でヒントを出した。
「ハロウィンか?」
「そう。まったく、それくらい知ってなさいよ」
「無理言うなって。で、ハロウィンがどうしたんだ?」
メリーがこんな回りくどい前フリで話しかけてきたということは、何か企んでいるに違いない。
無視するのも手だが、聞かないと後が面倒だから一応聞いておく。
「トリックアトリートよ!」
「『お菓子を寄こせ、さもなくば死あるのみ!』だっけ」
「そんな怖いお祭りじゃないでしょ。『悪戯するぞ』でしょ?」
「今のはメリーなりの解釈。実際は脅迫じゃなくて『トリックオアトリート(Trick or Treat)=悪戯か、お菓子か、どっちがいい?』って選ばせてるんだぞ?」
「じゃあ選ばせるわ。大人しくお菓子を寄こすか、私に悪戯されるか。どっちがいい?」
「…立派な脅迫じゃないか」
10月30日
一晩経って、学校in朝のHR後の自由時間。
あれからハロウィンのことを調べていたが、ついつい深入りしすぎてしまった。
睡眠不足に堪える授業を前に、せめて開始までの15分でも寝ようと試みる。
「おっす、隆一。元気そうだな!」
「そうだな。今日僕があと1時間も寝てなかったら、お前の顔に型抜きを押し付けてる所だった」
こういうときに限って、元気一杯の馬鹿が寄ってくる。
こいつの事だ、眠そうな時を狙って話しかけて来るんだろうな。
「はっはっは。そう邪険にするな。…しかし何だ、型抜きって?」
「…お前10月31日は何の日か知ってるか?」
陽気に笑うこの馬鹿に、昨日僕がメリーにぶつけられた質問を投げかけてみる。
「31日か…。ガス記念日か?」
「いや、僕が聞きたい答えは別だ。ガス記念日とか興味ないから」
「うん?ガスじゃないとなると、ハロウィンか」
「正解」
「ん、ハロウィンがどうかしたのか?」
「メリーに、『トリックオアトリート』って言われる事になった」
「ほほう。それでそれで?」
この野郎、ニヤニヤして聞いてやがる。
「…昨日そのお菓子に何を用意すればいいか考えてたら、寝る時間が無くなった」
「で、結局何作るか決まったのか?」
「さっぱり。…メリーのことだ、そこらで売ってるお菓子じゃ『期待はずれだー』とか言って暴れるかもしれない」
「ふむ。クッキー辺りでも焼けばいい」
「僕もそれを考えたんだけどさ…。作った事がないし、失敗なんかしたら、それこそ渡す物が無くて悪戯される」
「それで『型抜き押し付けるぞ』か。今日帰った後に試しに焼けばいいじゃないか。なんなら俺も手伝うぞ?」
「帰る頃には、おばあちゃんがキッチン使ってるからなぁ。焼くとすると都合よく学校が休みな当日しかない」
「難儀なやつだな。しかし、ハロウィンに渡す菓子か…。ん?」
「…どうした?」
俊二がクラス全体を見渡していると、うってつけな人物を見つけたと言わんばかりに、チョンチョンと一人のクラスメイトを指差した。
その先には、いつの間にかこのクラスに紛れ、そして馴染んでいた横島が眠っていた。
「横島?お菓子ならあいつより詳しそうな女子いるだろ。咲とかさ」
「菓子より今回はハロウィンのイベントに詳しい奴に聞いたほうがいいと思うぞ。普通の菓子ならいつでも作れるからな」
「そうかぁ?それにあいつがハロウィンに詳しいなんて、何で解るんだ?」
「ん?…雰囲気で。…だな」
「偏見だぞそりゃ」
彼女は口数は極端に少なく、クラスメイトと話をしている所も見たことはない。むしろ『話しかけるな』というオーラが出ているような気がする。
着崩さずに制服は着ているが、伸ばし放題に伸ばした髪は、椅子に腰掛けると床に触れてしまいそうなほどだ。
こう言うと勘違いされそうだが、不潔ってわけじゃない。…ただ極稀に、彼女から気分が悪くなるほどの薬品のような臭いがするので、うかつに近寄れない。
外見と性格(と臭い)のせいか、あの咲でさえ話しかけることが出来ない。…いや、咲が話しかけたところで無視されるだろう。
授業中は主に持参した携帯ゲーム機と睨み合い、バッテリーが切れたか、やる事がないとこうやって眠っている。
どういうわけか、その授業態度を咎めたりする者はおらず、初めは周りの人間には彼女が見えていないのかと錯覚すら覚えたほどだ。
周りから見れば少し変わった、そんな女子生徒なんだが…。
彼女は俊二たちとは違う意味で「クセのあるやつ」で、僕は彼女と知り合いだ。
横島はあの日から、僕…というかメリーを見張るかのように、こうやって現れた。
初めは何が目的か注意していたが、何をするでもなく、こうやって学校生活を送っている。
「聞いてみなきゃわからんだろう?ほれ、行くぞ」
「お前は寝てる奴を起こしたいだけなんじゃないのか…?」
「そんな意地悪な人間に見えるか?」
「悪魔には見えるが」
「ありがとよ」
寝ている横島は寝息どころかピクリともせず、寝てるというより死んでいるようだった。
僕の「『起こす』より『蘇生する』のほうが正しいんじゃないか?」という問に、俊二も「俺もそう思う」と答えて、俊二は横島の肩を優しく叩いた。
「……ん………?」
横島は微かな反応を示した。が、顔を開けようとはせず、うつ伏せたまま止まってしまった。
「これは…起きてるのか?」
「多分。聞いてみれば?」
起こした張本人である俊二は咳払いをし、声をかけた。
「なあ、聞きたい事があるんだが…」
「…………………………」
「あー…、もし?横島や?」
「…………………………」
「だ、ダメだ…」
解ってた事だがな。
彼女は『話しかけられたこと』に対して興味は持たない。
他人に興味がないから尚更だ。
「まったく…」
彼女と話すには、少しコツ…というより条件がある。
肩を落とす俊二を横に退けて、僕が話しかける。
「悪いな、起こして。お前に頼みがあるんだ」
「…………………………」
「ハロウィンで渡すお菓子についてなんだが、何か知らないか?」
「……………」
すると、うつ伏せていた横島はむくりと起き上がり、おもむろに自分のカバンの中身を探った。
間もなく彼女が小さなポシェットのような物を取り出すと、それから携帯ゲームを取り出した。
「PSPか…?」
「何だ何だ?」
その様子を見ていた僕と俊二に、彼女はそのPSPの画面をグッ押し付けた。
「お、モンスターハントか。…ずいぶんやりこんでるな」
「ふむ?だがマルチモードクエストが全然埋まってないな」
どうやら、一人では埋めれない多人数プレイのモードのクリア…つまり、このゲームの進行を手伝えという事らしい。
「よし、これが報酬だな。僕もこれ手伝うから、今言ったハロウィンのお菓子のこと教えて欲しい」
「む、知ってるのか横島?」
「ああ、知ってるからこうやって、伝えてるんだろ?」
「………」
PSPを受け取った横島がコクリと頷く。
「よし、ならば俺も手伝おう。俺がいればどんな奴もイチコロだぞ」
俊二は胸を張って自評する。
「…………いらない…」
そんな俊二を、横島は一言で切り捨てる。
「うお、声初めて聞いたが…うぅむ…。俺を用無しと申すか」
「横島、こいつもいた方がいいぞ。埋まってないクエストには三人以上いないと都合の悪いのもあるし」
「でも…」
「こいつも一応やりこんでるから、邪魔にはならないって。な?」
「うむ、今まで培ってきたプレイに恥じない動きをお見せしよう」
「………わかった」
「サンキュ。それじゃ、昼休みにでも詳しい話聞いていいか?」
「…わかった」
「んじゃ、よろしくな」
「……ん」
そう言って、僕らは横島の席を離れた。
席に戻った頃には横島はまた机にうつ伏せになっていた。
「しかし、隆一よく会話できたな…。俺は初めて声を聞いたぞ」
「そっか、お前は話したことなかったもんな」
「ううむ…。貴様女のたぶらかし方、解っているな」
「滅多な事言うな。横島は特別なパターンだ」
「どうだかな。何はともあれ、昼休みか。昼飯でも一緒に食う気か?」
「横島って飯食うのかな…」
「いや、食うだろ。昼は飯を食う。人間なら当たり前の行動だ」
「まぁ、そうなんだけどな」
キーンコーンカーンコーン
「む、授業が始まるな」
「はあ…結局寝れなかったか…」
「昼も寝れそうに無いな。ま、頑張れ青年!」
「あー…かったるい…」
重たいまぶたを擦り、僕は机の中に詰め込んである数学の教科書を引っ張り出した。
ふと、横島の方を見ると。
…やっぱり寝ていた。
夢と現の狭間で何を学んだのかも覚えていないまま、待ちに待った昼休みに突入した。
いつもなら昼飯を食うか、このまま寝るかの二択問題で悩む所だが、約束があるのでどうにも起きていなければならない。
この後に控えている午後の授業を想像して、憂鬱なため息を吐いた。
「青年よ、勉学に精を出した後の気分はどうだ?」
「めちゃくちゃ眠い。あと腹減った」
そこにタイミングよく水を差しに来る馬鹿野郎がやってくる。
「だらしねえこった。飯、食いに行くんだろ?……横島と」
俊二は周りに聞こえないように、横島の名前を出した。
気を使っているつもりなのか。余計なお世話だと言ってやりたい。
「お前も来るか?」
「そんな野暮な真似するかよ。二人でじっくり話し合ってこい」
「僕はお前が何をしたいのか解らん…」
「俊二様はクールに去るぜ」
「………………………」
何だか知らんが、今日の俊二はいつもより3割り増しでおかしくなっている。
まぁ、あいつがどうなろうと知ったことでもないし、ほうっておいても問題ないだろう。
「さてと…」
馬鹿の背中を見送って、僕は席を立った。
向かう先は、もちろん横島の席だ。
「…まだ寝てるのか」
1時間目から昼休みまで、何度か横島の動向を横目でチラチラ確認していたが、とうとう彼女は顔を上げることは無かった。
この非常に長いシエスタタイムを遮っていいものか、そしてどう声を掛ければいいのか分からず、とりあえず名前を呼んでみることにした。
「おーい、横島ー起きてるかー?」
「………………起きてる」
「ん、今から食堂に飯食いに行くんだが、一緒に行くか?」
うつ伏せたまま返事をする横山に驚きつつ、なるべく自然な言葉を選び横島を食堂に誘う。
何だかナンパしてるような気がして、恥ずかしい。
「………」
「………」
横島はゆっくりと顔を上げると、座ったままの姿勢で僕を見つめてきた。
「…な、何だ?」
「…用件だけ話に来たわけじゃないの?」
「あ、ああ。食いながらでも話したほうが、落ち着いて話せるかなって思ったんだけど…」
「…わかった。行きましょ」
「へ?あ、おう…」
意外とすんなり受け入れてくれたことに、心の中で感謝して、僕と横島は食堂に向かった。
食堂へ向かう途中、僕と横島はお互いしか知らない事を話をしていた。
「ところで、お前は食事とか摂るのか?」
「必要ない。でも人間の食べ物は嫌いじゃない。…何故そんな質問を?」
「食べれないのに誘ってたら悪いなって思ってさ」
「……同情はいらない。…メリーの様子は?」
「上々。ブレーキでも付けて欲しいもんだ」
「………そう」
そこで会話が終わってしまい、後は二人無言のまま食堂にやってきた。
「食堂は使ったことあるか?」
「……無い」
横島は賑わう食堂を、物珍しそうに端から端まで見渡している。
そんなに珍しいのか。
「こっち来てみ」
「…………」
僕は横島を手招いて、日替わり定食の展示されたショーケースの前に立たせた。
のんびり歩いたせいで、ショーケース前の人口はまばらだ。
「………?」
ショーケースを覗き込む横島は、ただジッと数種類ある定食に目移りさせていた。
人間の食べ物は嫌いじゃないというが、結構好きなんじゃないのか?
「…………うぅん…」
悩み疲れたのか、一度ショーケースから離れて、何かを考え始めた。
そっけない態度をとっている彼女だが、今の彼女は十分人間臭さが溢れている。
見ていて実に楽しい。
「日替わり定食って奴だ。Cのから揚げ定食なんかオススメだぞ」
「……なら私もそれ」
意外にも彼女は、あっさりと僕の薦めを聞き入れ、から揚げ定食に決めた。
自動販売機は普段から使っているという横島は、食券の自販機では戸惑うことなく券を購入した。
「今買った食券を、おばちゃんに渡して少し待つんだ」
「…そう」
「おばちゃーん、C定食二枚ねー」
中で忙しなく動き回る調理のおばちゃん達に、声を大きめに注文する。
すると、その中の一人のおばちゃんが愛想良くこちらに寄ってきた。
このおばちゃんと僕は、ちょっとした知り合いだ。
どんな知り合いかというと、またクセのある人物で、メリーと深い係わり合いのある人物でもある。
普段はバザーで怪しげなものを売ってたり、かと思えば不思議空間で若返って暴れてたり、そして学食のおばちゃんをやってたり。
とにかく謎の人物という事だけは確かだ。
「あら、隆ちゃん。そちらのお嬢さんは?おばちゃん初めて見るわねえ」
「僕のクラスメイトの横島。今日が学食初体験なんだ」
「という事は…、いやだわこの子、学校で逢引きなんて」
「表現古いし、違うから。相談事ついでに飯でも食おうって、誘ったの」
「あんまり変わらないんじゃなあい?」
「そ…そうかな?そんな気もしてきた」
「その子がどう思ってるか次第よ。……ところであなた」
「…………何か?」
調子よく僕をからかって気が済んだのか、おばちゃんが横島を見つめた。
その目は『おばちゃん』の顔には似つかわしくない、鋭い目をしていた。
「人間の形をしているようだけど、何者かしら?おばちゃんは人間の食べ物しか作れないわよ?」
「確かに私は人間ではありません。…ですが、ご心配なく。問題を起こす気も無ければ、人間の食べ物も食べれます」
横島はおばちゃんの目に怯むことなく、珍しくはっきりした口調で答えた。
その態度を見ておばちゃんは、コロリと表情を変えて話を続けた。
「いやだわぁ。おばちゃんてっきり、隆ちゃんを誑かせて色んなことしてるんじゃないかって」
「たっ、たぶ―――…!?」
お、横島が珍しく焦ってる。
うーむ、新鮮だ。
「おばちゃん、学校で変な事言わないように」
「あら、おばちゃんつい口が滑っちゃった。ごめんなさいね?」
「……いえ」
「それで、注文は…Cを2つね。二人ともちょっっとだけ待っててね?」
そう言うと、おばちゃんは返事を待たずに厨房に入っていってしまった。
「……あれほどの人物がこんな所に」
「ん?無口なお前が独り言なんて珍しいな」
「…うるさい」
「ん」
おばちゃんの存在がよっぽどショックだったのか、とりあえず横島には定食が出来上がるまで話しかけないことにした。
「はい、お待ちどうさま。から揚げ定食ね」
すぐに定食は出来上がった。
おばちゃんが定食を渡し口まで持ってくる。
「…来た来た。…横島、どうかしたのか?」
横島は同時に渡されたから揚げ定食を見て、困惑していた。
「…多い。……量が」
「本当だ。頼んだの大盛りだったっけ?」
横島は首を横に振る。
実際にはこの量は大盛りどころじゃない。
横島に渡された定食は、僕の定食より1.5倍の量はある。
これを食べろとは、量的にもカロリー的にも酷な話だ。
「おばちゃん、これ何?」
この特盛り仕様の定食は何なのか、と盛り付けた張本人に訊く。
「サービスよ。サービス。これからも学食来てねって」
女子にするサービスじゃないだろ。
他の生徒も利用する事もあり、渡し口からすぐに離れる事になり、今度は座れる場所を探す。
しかし、隣で特盛り定食を持った横島には同情する。
周りにはあまり気づかれていないようだが、さすがに居た堪れないようだ。
男の僕でも、これは羞恥プレイとしか…。
「……どうしよう」
その特盛り定食に困惑している横島を、気の毒に思った僕は、彼女に提案をした。
「僕のと交換しよう。こっちは普通の量だし」
「…………え?」
「ほい、目立たないうちに、さっさと交換だ」
「……うん」
戸惑う横島から、特盛り定食を奪い、代わりに僕の定食を渡す。
「結構…重いな。食うだけで昼休み消費しそうだ」
「………いいの?」
「むしろ特盛り食えてラッキーって思ってる」
「…………助かる」
少しでも横島を安心させようと、僕はバレバレでも強がりを見せた。
普段からそんなに喋らない奴だけど、横島とは仲良くなりたい。
今まで色々助けてもらってるし。これくらいで恩返しなんて思ったら逆に罰が当たるだろう。
「次は、席を探すんだが…。もしかすると…」
「……………?」
この学校の食堂は、他と比べると広いそうだが、ほぼ全校生徒が集まるこの時間は満席になる事も珍しくない。
賑わった食堂の席一つ一つを確認する。
あまり見たくない顔だが、あいつのことだ。多分…いや、絶対いる。
「いた。やっぱりあいつ3人分の席キープしてやがる」
「………?」
俊二は、満席スレスレの食堂で四人用の丸テーブルを一人で占領していた。
こんな無茶できるのは、この学校でコイツと数名だけだろう。
名誉と悪名を兼ね備えた変態…もといクラス委員長。
委員長ってそんなに権力あったか?
誰がいたのかまだ分からない横島に、中指で奴を指さした。
もちろん恥ずかしいので、目立たないように腕は伸ばさず、だ。
横島はその指先を目で追って何かを見つけると、今度は僕を見た。
クールに去るぜとか言っておきながら、会話に混ざる気満々だったんだな。
気が利くというか、うざったいというか。
あいつがいるとなると、横島との話がうまく進まないかもしれないな。
横島はどう思ってるんだろう。聞いてみるか。
「あいつも会話に混ざるかもしれないけど、いいか?」
「…構わない。……余計な事を話すつもりは無い」
「スマンね」
「…構わない」
僕と横島は、俊二が一人でうどんを啜っている席に歩き出した。
「む、来たか。遅かったじゃないか」
僕らが席の前に立つと、うどんに夢中になっていた俊二が、ようやく僕らに気がつく。
気が変わった、やっぱり邪魔だ。
横島は気にも留めていないようだが、こいつがいると僕が横島から話を訊きにくくなる。
「すまん。横島、やっぱ他で食おうか」
「私はどこでも構わない」
「待て待て待て。せっかく気を利かせて場所取りしておいたってのに、その扱いはないだろ」
「や、頼んでないから」
「…気遣いは必要ない」
「ぐ…。わかったわかった。うどん食ったらいなくなる。だからそんな事言ってくれるな」
「仕方ないな、一緒に食うか。横島、いいか?」
「……どこでもいいわ」
「さあ、そんなとこで突っ立ってないで座って食え」
俊二に急かされ、僕と横島は隣同士の席に座った。先に座っていた俊二とは対面した位置だ。
とにかく、飯を平らげて俊二をどかしてからじゃないと、落ち着いて話が出来ない。
今は飯を食う。この山盛りになった米と、おかずとしては大げさな量のから揚げを平らげる。
「さて、いっただきますよっと」
「…いただきます」
両手を合わせ、箸を持つ。
改めて見ると凄い量だ。午後は胸焼けしなきゃいいけど。
心の片隅で心配しながら、から揚げを一つ口に運ぶ。
うん、うまい。量は多すぎるけど、とりあえず美味しいぞ。
カラッと揚がっててあたたかい。
「何だ?そのギガ定食は」
うどんの麺を口に入れようとした俊二が、呆気に取られた様子で聞いてきた。
そりゃ、この量だからな。驚かないほうが難しいってもんだ。
「おばちゃんの気まぐれが、いけない方向に向けられた」
「それがこの気まぐれ定食か」
「から揚げ食うか?よし、食え」
「まだ何も言ってな――待て待て、せめて受け皿に寄こせ。から揚げうどんは趣味じゃない」
多すぎるおかずを、無理やり俊二にお裾分けする。
友情って、こんなやり取りで育まれるんだよな。
「おかずだけでは物足りぬだろう。米も分けてやる。何、遠慮するな」
「だから待て、うどんに入れようとするな。受け皿出してるだろ。こら、話を聞け」
よし、これで定食の量は普通盛りになった。
問題は俊二に定食を分けた分、食い終わるまで、こいつがこの席に長くとどまる事になるな。
「さぁ、さっさとそれを食ってこの席を明け渡せ」
「何と暴虐な…。こんな事が許されると思うな!」
と言いながら、むしゃむしゃとから揚げをほおばる俊二。
「そば茶がうめえ…」
「けっこう美味いな。たまにはから揚げもいいもんだ」
「…………」
昼休みが中ほどまで来た頃、丁度三人は同じタイミングで食事を終えた。
僕と俊二は食べ始めるのが遅かったからだろう。黙々と口に食べ物を運んでいた横島が一人食べ終わっていないという状況にはならなかった。
「結構食ったな。さて、俊二。お前はどっか行け」
「ふむ…。残念だ。俺もハローウィンとやらの事を聞きたかったんだがな」
「お前がいると落ち着いて話も出来ないだ―――」
「……別にいても構わない」
「え?」
意外だ…。
横島が僕の言葉を遮って、小さくだがハッキリした声で喋った。
俊二をこの場から追い出したいのは、僕のわがままだ。
横島にそう言われて、僕のわがままを無理に押し通す気はない。
「…仕方ないな、横島がそう言うなら」
「む、いていいのか?内心涙ぐんでたんだぜ俺?」
「…………………」
横島がコクリと頷く。
しかし何故急に?
「うむ、やはりお前達は見所がある。お前らの分の食器を片付けてきてやろう」
俊二は僕らの食器を取り、揚々と席を立ち返却口に歩いていった。
「よっぽど嬉しかったのか…。スキップでもして帰ってきそうだな」
「…………」
「別に不満に思ってるわけじゃないが、何であいつを?」
「…今回の件の報酬は、隆一と俊二の協力。そうすると俊二の願いも聞き入れなければ等価条件とならない」
「不公平ってわけか。でもどうするんだ?もし、あいつがいたおかげで昼休み中に僕の質問が終わらなかったら、いつ聞けばいい?」
「……放課後」
「放課後って…。横島って、いつも放課後は真っ先に帰ってるよな。あれって何か用事があって急いでるわけじゃないのか?」
「………理由を話す必要は無い」
「そうか。それでも出来るだけ手短に終わらせるよ」
横島には横島の考え方がある。か。
ここは横島のペースに合わせたほうがいいかもしれないな。
さっきみたいな僕のわがままで横島に迷惑かけるわけにも行かない。
「心の友よ。茶を淹れてきてやったぞ」
俊二が満面の笑みで緑茶を配膳する。
配り終えると、俊二は席に着いて、緑茶を静かにすすった。
こいつは何を話すわけでもなく、僕らが喋りだすのを待っているようだ。
「…さて、まず今回の話は『ハロウィンに渡すお菓子について』だが、まずはハロウィンについて訊きたい」
「………例えば?」
「そうだな…。元々ハロウィンって、何のためのイベントなんだ?」
元々僕は、ハロウィンを仮装してお菓子をねだるというイベントとしか認知していない。
何の意味があってのイベントなのか聞いておけば、用意するお菓子のヒントになるかもしれない。
「…昔、ある一部の人間たちは10月31日を1年で最後の日としていた…。その日の夜は、死者の霊や魔女が出没すると信じられていた」
「11月で一年か…。何だか変な感じだな」
「ふむ。大晦日にこの世の者ではない者がやってくるってことだな」
「…その霊や魔女から身を守るために、人間は仮面を被るなど行った」
「それが今で言う仮装大会に繋がるのか」
「しかし、何故その身を守る為の仮装が、自ら化け物になりお菓子を要求するようになったのか…」
俊二の言う事に、僕も相槌を打つ。
「…そこまでは私も知らない。お菓子は『親類の魂を天国へ導くためのものとして使われた』というのが起源」
お菓子が道しるべか。
ファンタジー…と言っては失礼だな。昔の人の考えは僕にはよく分からない。
「へぇ、どこかのお菓子が欲しい子供が、幽霊に変装すればお菓子を沢山もらえると考えたんだろうな」
「もしそうなら稀に見る秀才と見た」
イベントを自分の食欲のために利用して、それが後世まで受け継がれるんだ。
もしかしたらの話だが、そうだとすると面白い習慣だな。
「横島、昔はお菓子って何が作られてたんだ?」
「…言い伝えでは、干し葡萄のパンだった」
「パンは流石に難しいな。手間が掛かりすぎる。それならハロウィンで定番のお菓子とかって無い?」
「…定番とは言えないが、カボチャを使ったお菓子が多い」
「ふむ。ハロウィンといえば、カボチャだからな」
「カボチャか…。いいかもしれない。レシピとか知ってたりしないか?」
「……少しなら教えれる」
「何!?是非教えてくれ!」
「うぉっと!」
「―――――」
僕はつい、声を上げてしまった。
俊二は椅子から転げ落ちそうになり。
周りの生徒は、ちらほらとこちらを見る。
だが、俊二がここに居てくれたおかげで、次々と『なんだ、こいつらか』といった反応をして戻っていく。
横島は、目を見開いて固まっている。驚かせてしまったようだ。
「すまん。つい必死になった」
「…構わない」
「悪いな。で、そのお菓子の作り方なんだが…」
「材料も調理手順も覚えている。放課後に…」
「え…?それって」
「…私は構わないと言った」
「助かる。よろしく頼む!」
僕はつい横島の手を取って、握っていた。
「……………」
「…あ。悪い」
すぐに横島の手を放して謝罪した。
さっきから謝ってばっかりだ。
「…別に」
「……………」
少し調子に乗りすぎた。
聞くことも無くなって気まずい空気が流れてきた。
「ふむ。今日の収穫はこんな所か。横島よ。貴重な話を聞けた礼を言おう」
「…そう」
「約束だからな。俺はもう行く。あとは二人でよろしくやってくれ」
「あ、おい!…行っちまいやがった」
こんな時に限って、あいつはスタコラとこの場を去っていった。
二人になることを望んでいたのは確かだが、この状況は耐え切れない。
何か話題を出したいが、何を離せばいいか浮かんでこない。
困ったな…。
「……手」
「…手?」
不意に、横島の方から話しかけてきた。
横島は自分の手をジッと見つめてる。
「……何故そんなに温かいの?」
「へ?…あぁ、僕の手?んー…健康だからじゃないか?」
「…その手の温もりは、私には必要ない」
「ん?」
「………」
「あ、あぁ。わかった…」
「……………」
横島はそれから何も喋らず緑茶をすすった。
僕は横島の言葉が、自分には何も必要無い。私には触れないでくれ。と言ってるように感じた。
重かった空気がさらに重くなった気がして、とにかく話をして紛らわそうと、それから昼休みの終わるチャイムが鳴るまでは、作るお菓子について聞いていた。
『どんなお菓子なのか』『僕にも作れるのか』…そして忘れてはいけない、『そのお菓子は甘くて美味いのか』。
細かい質問にも、横島は淡々と答えてくれた。
大体のイメージが掴めてきたところで、チャイムが鳴った。
次は放課後。材料を買いに行って、当日の最終調整だ。
「青年よ、二人きりの会話、どうだった?」
教室に戻り、席につくと早速、俊二が寄ってきた。
「さてはお前、話す事がなくなるタイミングでわざとあの場を離れたな?」
「何を馬鹿な。お前らがいい雰囲気だから空気を読んでやっただけだ。で、どうなんだ?」
興味津々の悪趣味丸出しの馬鹿が、目を輝かせている。
殴ってやろうか。
「放課後にお菓子の材料を買いに行く。…横島と」
「貴様それは―――…」
「それ以上言うな。他の奴らに聞かれたら…」
「聞かれたら、何?」
「うわ!!」
「む、咲か。久しぶりだな」
ひそひそと男二人で話しこんでいるところに、咲が現れた。
今の聞かれたか?
「ふーん、隆一君ったら…」
咲はそこで一旦区切り、周りを確認した後、近くによってきて…
「…横島さんとデート?」
とニコニコしながら小声で聞いてきた。
どうやら聞かれていたようだ。くそ、油断した。
「違う!断じて違うぞ!!」
「えー。だって二人で買い物ってまるきり…ねえ?」
「うむ。お前が違うと言っても、周りの人間から見ればな…」
「うぅ…。なんか急に気が重くなってきた…。どうしよう」
とんでもない方向に状況が進んでいた事に気づき、机の上にうなだれる。
クラスで噂にでもなったら最悪だ…。
横島はどう思ってるんだろう、そんな事になった時のことも考えて提案してくれたんじゃ…。
寝てるってことは、何にも考えてないんだろうね…。
嗚呼…もう、どうすりゃいいんだ…。
来てほしく無い放課後なんて、初めて体験する。
いつも長く感じる授業が、あっという間に過ぎ去り、気が付けばもう放課後だ。
「はぁ~…」
クラスメイトが次々と席を立つ中、僕は一人だけ、机にぐったりとうなだれ、ため息をついていた。
何、クラスメイトに見つからないように買い物すればいい。目立たなければいいんだ。
買い物に行く商店街を通学路にしているクラスメイトは山ほどいるし、横島の外見(長い髪とかな)はかなり目立つが…。
腹を決め、ゆっくり顔を上げる
「……………」
「…よう」
目の前に、帰る仕度が済んだ横島が音も立てずに立っていた。
「………………」
何も喋らず、横島は僕を見下ろしている。
僕のことを待っているようだ。
「悪い、すぐ仕度する」
「……校門で待ってる」
「わかった」
そう伝えて、横島はさっさと教室から出て行ってしまった。
「はぁ…。かったるいな」
横島は怒っていたのだろうか、あとで謝っておこう。
僕はカバンに数学の教科書を放り、横島の後を追って教室を出た。
すでに教室には、俊二と咲の姿がなかったのが気がかりだったが、横島を待たせるわけにはいかないと思い、あまり深く考えないようにした。
急いで玄関口からでると、校門に気持ち早めに歩いた。
走って横島の元まで行ってみろ。まるでデートの待ち合わせじゃないか。
校庭の横を歩いていると、学年違いの女子達が、会話でなにやら盛り上がっていた。
「ねえねえ、今校門の前にすごい人立ってるよ!」
「すごいってどんな人?」
「なんかねぇ、すごい身体がスラッとしてて、背も高くて、すごい髪も長くて、すごいモデル体系なの!」
「え、見にいこ見にいこ!」
「写真撮らせてくれるかなぁ!?」
「ねえねえ、美帆も呼んでこようよ!」
嫌、聞きたくない。
もうそのモデル体系の人スルーして帰りたい。
校門につくと、そこで待つ横島を見つけるのは難しくなかった。
ただ問題は、校門を通る生徒の大半が横島を見て驚いている。
声さえ掛けられていないものの、注目の的なのは間違いない。
今、横島の元に向かえば、明日の僕は人気者だ。そんな面倒は御免こうむりたい。
「変装でもしていくか…。うちって演劇部とか無かったかな…」
ハロウィンにはまだ早いぞ、青年!
…とか言って、俊二が来てくれれば、どれだけ助かった事だろう。
神出鬼没なあいつも、今回は近くにいないらしい。
行くしかないか。なるべく普通に…、普通に…。
僕はなるべく平然を装って、横島に近づく。
周りで横島を見ていた奴らも、僕を見る。
「悪い、待たせた」
「……………」
横島はコクリと頷く。
「商店街…でいいんだよな?」
「………………」
またも頷く。
「よし、行こう。今日はよろしく」
「…………」
僕はその場から歩き出すと、横島も横を歩き出す。
どうだ?なるべく普通に接したはずだ。
「あれ誰だろ?」
「彼氏かな?」
「あの人って、文化祭で窓から飛んできた人じゃない?」
去り際、女子生徒たちの声が耳に届いた。
あかん。これで明日は完全にクラスで話題になる。
「…何やってたの」
不意に小声で、横島が文句を言った。
「声掛けるのに二の足踏んでたんだ。横島こそ何であんなに注目集めてるんだ?」
「……理解できない。人間は何故、私なんかをあんなに見る?」
「僕ら人間が見ると、横島は美人の部類に入るからだろ。それも上位の」
「……理解できない」
こいつはこいつで自覚していないと来た。
学校が終わればすぐに下校。
その時間帯なら他の下校生徒も少ないから、学校ではクラスメイト以外の生徒には目撃もされないし。無理も無いか。
「…何故お菓子を作るなんて?」
「ん?…あぁ」
横島が聞き逃してしまいそうな小さな声で聞いてきた。
いきなり小さな声で話しかけられるから、油断できない。
自分から話を持ちかけるのは苦手なんだろう。
「そういえば話してなかったな。メリーのリクエスト」
「…メリーが?」
「そう。あいつお菓子…というか甘いのが好きだからな」
「……そういうこと」
「悪いな。あいつのわがままに付き合わせることになって」
「……別にいい」
横島は軽く首を横に振って迷惑を否定した。
「商店街に着いたら何を買うんだ?」
「…かぼちゃ」
「……………」
「………………」
「…かぼちゃだけ?」
「…あとは調味料。砂糖。バター。薄力粉…」
「それなら、わざわざ一緒に買い物なんて…」
「………………………」
「あ、いや…、一緒に買い物するのが嫌ってわけじゃなくて…」
「……これは私の望んだ事。…気にしないでいい」
「あ、あぁ。うん。…ありがとう」
何だかよく分からなくなってきた。
かぼちゃを買うだけか…。なら今のうちに詳しいレシピを教えてもらった方がいいな。
「確か、かぼちゃのクッキーだったよな。作り方ってどうなってるんだ?」
「……クッキーを作った事は?」
「無い。お菓子自体、作るの初めてだ」
「……………」
「驚いた顔してるな」
「……何故そう思ったの?」
「カマをかけた」
ご存知の通り、横島は無表情だ。
表情なんてさっきから変わっていない。
目の動きと、喋るタイミングで心理状態を読み取ることが出来ないと、横島とのコミュニケーションを取るには難しい。
「……自信はあるの?」
「これっぽっちもない。焦がしたりなんかしたらメリーに笑われるかな」
「……それなら―――――」
「ただいまー…って、あれ、おばあちゃんとおじいちゃんは?」
買い物を終え、家に帰ってきた。
リビングに行くと、ソファにうつ伏せになり、退屈そうにテレビに映るニュースを見てるメリーしかいなかった。
「おかえりなさい。二人なら出かけてるわよ」
「そっか。晩飯どうするよ?」
「早く帰ってくるって言ってたわよ。遅くなるようなら電話もするって」
「ふーん」
会話を投げかけて普通に投げ返してくれる相手って、素晴らしいな…。
当たり前な事に感動を覚えて、僕はキッチンに袋を置きに行く。
『行方不明の少女は今どこに!?そして超能力者が集結!果たして少女は見つかるのか!!』
ニュースはCMに入り、いかにもな番組の宣伝が流れる。
メリーはゆっくり身体を起こし、テーブルに置いてあった湯飲みに口をつけた。
「ねえ、さっきの袋はなに?」
制服を脱ぐのに部屋に戻ろうとした僕を、メリーが呼び止める。
「…明日使う物。見たら明日のお菓子抜きな」
「そ、そんなことしないわよ…」
「はいはい。着替えてくるわ」
「んー」
メリーの返事を聞いてから、僕は階段に向かった。
…階段を上るフリをして、メリーの様子を窺ってみた。
「――――――――――――」
ソファーに顔を埋めて足を勢い良くバタバタしていた。
そんなに楽しみなんだろうか…。
こりゃプレッシャーだ…。
>[[メリーの居る生活 特別編『Trick or Treat』後編]]へ続く
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