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「メリーの居る生活 クリスマス特別編3後編」(2008/12/24 (水) 23:41:41) の最新版変更点
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*メリーの居る生活 クリスマス特別編3後編
>[[メリーの居る生活 クリスマス特別編3前編]]からの続き
HRが終わり、帰り支度をしていると、帰り支度の済んだ咲と横島が僕の机の前に立ちふさがった。
「ふあぁ~…。何のようだいお二人さん?」
「メリーの風邪、どうなった?」
「食欲は今のところあるみたいだけど、熱は下がってない。しばらく様子見かな」
「…お見舞いは…行ってもいい?」
「あぁ、大丈夫だ。あいつも喜んでるから、行ってやってくれ」
「ん、どうしたお前たち?」
二人と話していると、今回初登場となる俊二が会話に混ざってきた。
「今日メリーのお見舞い行くの。私と横島さんで」
「お見舞いって言っても、ただの風邪なんだけどな」
「む?恒例のクリパは明日だったはずだが…。大丈夫なのか?」
「なんとも言えないな。メリー次第だ」
「そうか。どちらにしと俺は明日行くから、その時まで拗らせてるなら、見舞いとさせて貰おう」
「そうならないように、僕が全力でバックアップする」
そうか、クリパはこいつらが来るんだったな。
風邪が治らなきゃ…。最悪クリパは中止になるかもしれない。
そうしたら、メリーは…。
「意外。俊二君も一緒に来るって言い出すかと思った」
「む。女子三人の会話に俺が入れると思ったか?否、入って欲しいのか?」
「…それはない」
「うむ。その通りだ。…即答されると聊か傷つくな」
「で、二人とも何時に来るんだ?このまま直行?」
「うーん…。お昼食べてからでいいかな?」
「…その方がいいと思う。メリーも準備がいると思うし」
横島が、意味深な言葉を吐いた。メリーも準備って…。なんだ?
横島の言う事は、的を外れた事はほとんどない、確かに僕も部屋を片付けておくくらいの時間も欲しいし。
「そうか、じゃあ来る時にでも電話寄こしてくれ」
「あい、了解」
「…わかった」
二人を教室から見送り、僕も家路に着いた。
へもへも歩いていると、いつの間にか俊二のヤツが横を並行して歩いていた。
「お前も大変だな。クリパ前なのに看病続きだろ?」
「メリーの辛さに比べれば、どうってことないさ。それに準備はお前に全部任せたじゃないか」
「やれやれなヤツだな。クリパまでに完全復活、期待しているぞ?」
「任せとけ。お前も準備サボったりするなよ?山やんに連絡とか」
「抜かりない。全て俺に任せるがいい。今の山崎への連絡は言われなければ忘れる所だったがな」
クリパの準備も、着々と進んでいるようだ。
あとはメリーの頑張り次第だな…。
「ただいまー。あぁ、腹減ったー」
家に入ってすぐにメリーの待つ僕の部屋に向かう。
「ちゃんと安静にしてるかー」
扉のノブに手をかけ、ノブを捻ろうと力を込めた瞬間、扉の向こうにいるメリーの声がそれを制止した。
「…!?待って!!」
「――――おっと!?」
いつもより大きな声で止められたので、僕も何事かとショックで動けなくなった。
「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」
「な、何でもないの!いいからそのまま待ってて!」
「…?」
…まぁ、声を聞く限り、とりあえず元気なようだ。
「なんでもないなら開けるぞ?」
「あ、開けないでそのまま待ってなさい!バカ!!」
バカとまで言われてしまった。
メリーは扉の中で慌しくドタバタしている。
それから一分も立たずに、部屋の中は静まり返り、すぐに「いいわよ」というメリーの声が聞こえた。
扉を開けると、メリーは何事もなかったかのように布団の上で座っていた。
「一体何やってたんだ?」
部屋は散らかっているわけでもなく、朝に出たときとなんら様子は変わらない。
「別に…何もしてないわよ…」
「さっき明らかに慌ててたじゃないか…」
何故か肩で息をしているメリー。
髪も少しばらけていて、額には汗がにじんでいた。
「ん?」
「…何よ、そんなにジロジロみないでくれる?」
よく見ると、メリーが着ていたパジャマが昨日のものと変わっている。
…布団の隅には昨日着ていたパジャマが簡単に畳んで置かれていた。
「…あぁ、もしかして着替えてる途中だったのか?」
僕の言葉を聞いたメリーは、意外と簡単に白状した。
「………咲と瞳が来るんでしょ?汗臭いと嫌だから…」
「なるほどね。どうせなら汗拭いといたらどうだ?」
「お風呂入りたいなぁ…せめてシャワーでも…」
「ダメだ。風呂は熱がぶり返す。シャワーは逆に体が冷える」
「うぅ…」
メリーも女性だ、体が汚いまま人に会うのは許せないんだろう。
気持ちはわかるが、ここで風邪を拗らされたら目も当てられない。
「タオルとお湯汲んでくるから、その洗濯物よこしな」
「え…?これはいいわよ。自分で何とかするから」
「アホ。汗臭いから脱いだんだろ。そこに置いてちゃ着替えた意味もない」
「隆一のくせに…。はい、絶対に途中で広げないこと!広げたらただじゃ済まさないわよ!!」
僕にアホなど言われたのがよほど悔しいのか、メリーは脱ぎ捨てたパジャマを丸めて寄こした。
「広げるなって?」
「いいから、もう行きなさい!」
「やれやれ」
何が気に入らないのか、メリーは今日も不機嫌だ。
昨日の大人しいメリーが懐かしいぜ。
洗面台に行き、洗濯籠にメリーの服を入れる。
しかし、このまま丸めた状態じゃ、おばあちゃんが手こずってしまう。やっぱり広げていこう。
洗濯籠に入れてしまえば、後は広げても分からないだろ。
「ん?」
メリーのパジャマを広げる。すると、ズボンと上着の間から、何かが落ちた。
手にとってそれも広げてみると。
「こりゃ、スポーツブラか…」
メリーがこの洗濯物を見られたくなかった理由が分かった気がした。
ちなみに僕の名誉のために弁解しておくが、そのスポーツブラには何もしないで洗濯籠に入れた。
…少しドキドキはしたけど。
洗濯物を片付けた僕は、水道からのお湯に加え電気ポットの熱湯を少し注いで、熱めのお湯の張った洗面器とタオルを持って、再び二階に上がった。
「何も見なかったでしょうね!!」
部屋に入るなりメリーが顔を赤らめて聞いてくる。
「何がだ。ほらお湯持ってきたから体拭け」
そんなカマかけも避けるのが僕の特技だ。
…そういやパンツがなかったな。下は換えなかったのか?
そんなことを考えながら、洗面器を布団の横に置く。
「あぁ、そうだ。二人が来る前に布団の位置変えておこう」
「何で?ここでいいじゃないの」
メリーが顔を拭きながら疑問を聞いた。
ここ。というのは部屋の壁際だ。
部屋の一角はメリーの私物で占領されているので、メリーがそこでいいと言ったのだが、二人…つまり三人が壁際で話すには少しスペースが狭い。
どうせなら部屋の中心で持て成したい。というのが部屋の持ち主である僕の考えだ。
「もっと真ん中寄りに移動しておこう。テーブルも近いし、部屋の隅で三人で話すってのも変だろ?」
「そうかしら…。まあいいわ。ほら、さっさと動かして」
「自分で動かそうという考えは微塵も起きないのか」
「言い出したのは隆一でしょ?」
「わかりましたよっと…」
メリーの許可を得て、布団をずるずると中央に引きずっていく。
すると、布団の端から、一枚布切れが落ちた。
「ん?」
「あら?――――――!?」
何が落ちたのかと確認する前に、病人であるはずのメリーが、目にも留まらぬ速さでそれを回収した。
そして回収したそれを後ろ手に隠し、赤面して僕を睨み付けた。
「今…何か落とし―――――」
「い、いい、今の見た!?」
「いや、何だか分からんかった。なんだ今の?」
「わ、分からないなら何でもいいわ、早く布団動かしてどこか行って!」
「何だ何だ?」
布団を動かし終えると僕はメリーに押し出されるようにして部屋から追い出されてしまった。
今日のメリーは忙しいな…。
扉越しに昼食の献立…というより粥で良いか確認をとる。
「おーい、昼飯はどうする?」
「お粥がいいわ。…早く下に行ってくれない?」
「はいはい…出来たら持ってくからな」
「おねがい」
何だか、今日のメリーはいつもより数倍疲れる…。
これが看病の難しさってヤツか?
昼食が終わり、しばらくして玄関の呼び鈴が鳴った。
玄関に向かうと、約束どおり、咲と横島が訪問しに来た。
「こんにちはー。メリーのお見舞いに来ました」
「はいよ、いらっしゃい。とりあえず上がりな」
「お邪魔しまーす」
「…おじゃまします」
あらかじめ、酷い風邪じゃないから、見舞いの品は断っておいた。
それでも咲は気を利かせて持ってきそうだったが、要らない心配だったようだ。
「部屋まで案内しよう。こっちだ」
「メリーってどこで寝てるの?メリーの部屋?」
咲が靴を脱ぎながら、答え辛い質問top3に入る質問を早速聞いてきた。
クラスメイトの女子に同室で寝ているとは、さすがに言いづらい。
「あー…。僕の部屋で寝てるよ。看病もしやすいしさ」
「………」
とっさに思いついた苦し紛れな答えで誤魔化す。
咲はそれ以上問い詰めることはなかったが、そんな僕を横島が何か言いたそうな顔で見ていた。
しかし無口な横島は余計な事を喋ることもなく、ブーツを脱いで家に上がりこんだ。
二人を部屋の前まで案内して、扉をノックする。
「メリー、二人とも来たぞ」
「上げて頂戴」
二人を部屋に招き入れ、僕も続いて部屋に入ろうとすると…。
「隆一、あなたはダメよ。ここは今から女性の領域となったのよ」
「ここ僕の部屋なんだけど」
「関係ないわ。咲、摘み出しなさい!」
「うん、いいよ。ゴメンね隆一君」
「…じゃ」
「男女差別だ…」
抵抗する事もなく、デジャヴなこの流れに身を任せる。
なんかもう疲れた…。
二人はメリーのお見舞いにきたんだ。僕がいるのは確かに場違いだな…。
そう無理矢理納得し、自分を励ます。
「テレビでも見るか…」
部屋から聞こえてくる咲とメリーの笑い声を背中に受け、僕はトボトボとリビングに戻っていった。
『長く居るとメリーの体に障るから』と言う事で、お見舞いは2時間程度で終わってしまった。
紅茶でも差し入れに持っていってやろうと思った矢先の出来事だった。
「それじゃ、お邪魔しました」
「…お邪魔しました」
「おう、またな」
僕は部屋から出られないメリーの代わりに外まで出て見送ることにした。
「悪いな、紅茶でも出そうと思ったんだが…」
「ううん、こっちこそもっと早くお暇しようと思ったんだけど、話し込んじゃって」
「…予定より1時間オーバー」
「笑い声が絶えなかったからな。何話してたんだか気になったぜ」
「ん、聞きたい?」
「…回りくどい訊き方」
「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないぞ。聞きたいけど」
「正直な隆一君には教えてあげようかな。大丈夫かな?横島さん」
横島は、二階の僕の部屋のカーテンの閉まった窓を見て、答えた。
「…多分、大丈夫」
「そか、それじゃあ、教えたげる――――」
咲は、もったいぶる様に言葉に間を置き、そして続けた。
「―――メリーはね。君に感謝してたよ」
「37度8分…」
「まだ高いな…。一晩寝て明日熱が下がるかどうかだな」
夕食が終わり、検温の時間。
結果はいいものとはならなかった。
「下がるかしら…」
「そのためには温かくして寝るのが一番だ」
「…眠くないわ。それにもう一度体を拭きたいわ」
「少し前に拭いたばっかりじゃないか」
「眠る前なんだからいいじゃない」
「…ん、確かに」
そう言われると何も言い返せないので、僕はそれ以上何も言わずにお湯を汲んで持ってきた。
「それじゃ、拭き終わったら呼んでくれ」
「ええ、わかったわ」
僕はメリーをその場に残し、部屋を出た。
リビングで新聞の一面を眺めていると、思っていたより早く呼び出しの電話が来た。
いや、さすがに早すぎる。何かあったのだろうか。
心配になって階段を上り、部屋の扉をノックする。
「入っていいか?」
「……い、いいわよ」
返事を確認し、部屋に入った。
「――――――!?」
部屋に入って目に入ったのは、まだパジャマのボタンが全部付けられていないで、手で衣服の胸元を押さえているメリーだった。
「…ゴメン。入ってくるの早かった」
そう言って、部屋から出ようとする僕を、メリーが止めた。
「待って。お願いがあるの…」
「え?」
メリーの姿を直視できずに、何ともない部屋の壁を見ながら僕は話を聞いた。
「その…せ、背中を…拭いて…欲しいの」
「背中?」
僕の聞きなおす声に、メリーは首を縦に振る。
「自分で何度もやってるんだけど…拭いてる気がしなくて、気持ち悪いから…」
メリーの背中を僕が拭く!?
想像しただけで頭がクラクラしそうだ。
「わ、わかった。背中を拭くだけでいいんだな?」
「――ッ!?他の場所は触らせないわよ!?変なことしたら許さないんだから!!」
「そういう意味じゃないってば。…よし」
ゆっくりと近づき、メリーの傍に座る。
し、心臓が飛び出そうだ。落ち着け、落ち着け…。背中を拭くだけだ。やましい事するわけじゃないんだ…。
「…ぬ、脱ぐわよ?…変なことしたら本当に許さないから…」
「わかってるってば」
最後の確認のあと、メリーはスルスルと、上着を脱ぎ、綺麗な白くて小さい背中が露になる。
…あれ?待て。こいつ…ブラはしていないのか?
「…早くしなさい。寒いわ。」
メリーは胸の部分で腕を交差し、胸を隠している。
「お、おう。力加減はこれくらいでいいか?」
「…もう少し優しくして」
「あ、ごめん…」
汚れが取れるように、それでいて優しく、小さな背中を慎重に拭いていく。
「………」
「………」
メリーも喋らなければ、僕も喋らない。
何を喋っていいのかも分からない。
ただひたすら、お湯をつけて絞って、背中を拭く作業を繰り返した。
「ありがとう。もういいわよ」
「…おう」
すごく長い時間、メリーの背中と向き合っていたような気がした。
時間は3分にも満たなかったが、メリーの背中の汚れは十分に取れたはずだ。
「じゃあ、僕はお湯を捨ててくるよ」
「…ねえ、隆一」
「ん?」
メリーは立ち上がった僕を呼び止めると、何かを伝えようとしたようだが、迷った挙句。
「ううん、何でもないわ…」
僕は返事の代わりに笑顔を浮かべ、部屋を出た。
――――――
「はぁ、言いそびれた…」
隆一には昨日から良くしてもらっている。
お礼を言いたいのに、急に恥ずかしくなって言いそびれてしまうのだ。
メリーは考える。
この体の火照りは何なんだろうと。
「きっと風邪のせいよね…」
だとすると、何て厄介な風邪なんだろう。
汗が止まらなくなるなら、また体を拭く必要が出てくる。
それはつまり…。
こんな風邪、早く眠って治してしまおう。
そう結論付けると、メリーは早々に布団にもぐりこんだ。
しばらくすると、隆一が部屋に戻ってきた。
ここでメリーの体がまた少し火照り始める。
「あれ、もう寝てるのか…」
隆一の足音が近づいてくる。
メリーの鼓動は、少しずつ速さを増していった。
「最初からこれしとけばよかったな…ごめんな」
隆一の言葉の後、メリーの額に、ひんやりとしたタオルが置かれた。
そのタオルはのぼせた頭を冷却し、メリーの火照った体は落ち着きを取り戻したような気がした。
「ありがとう…」
知らず知らずのうちに、メリーはお礼の言葉を発していた。
意識があったのか、もしかしたらすでに夢の中だったのかもしれない。
ただ、その言葉は間違いなく、隆一の耳には届いていた。
――――――――――――
「ん…んん…うう…」
「ん、どうした?」
メリーが眠りから覚め、上半身を起こす。
「…今何時?」
「3時半。水飲むか?」
「うん…、暗いわ…」
メリーは手に渡されたコップを呷る。
「ん、明かりつけるか」
僕は手元の照明のリモコンを操作し、豆電球から弱い照明に変更した。
「…あれ、隆一…寝てないの?」
明かりがついたことで、メリーは僕が近くにいることに気がつく。
まぁ…、水を手渡した時点で気づくべきだろうが、寝ぼけてたんだろう。
「ん、寝てるよ。元々座りながら寝るのが趣味なんだけど?」
「…嘘ばっかり。…あなた、何でそんなに私に尽くしてくれているの?」
「んー…。メリーだからかな」
「え…?」
「だってさ、メリーが辛そうにしているのに。ほっとけないじゃないか」
…そりゃ、メリーの風邪引いた原因は僕のせいだろうし、ほっとくわけいかないよ。
「な、何をバカな事言ってるのよ…。私が言うのもなんだけど、風邪移ってもいいの?」
「いいよ。それでメリーの風邪が治るなら、安いもんさ」
風邪引いてクリパに出られなくなって、年明けまで機嫌の悪いメリーの面倒は見たくないからね…。
「な…!?ななな、何言ってるのよ、ほんとにバカなんじゃないの?バカも休み休み言いなさいよ!このバカ」
「ははは、メリーにそれだけバカバカ言われるほどバカなら、風邪も引かないと思うぞ?バカは風邪引かないっていうじゃん」
「あーもう!あんたも寝なさい、気になって私も寝られないじゃないの!」
「あぁ、ごめん。もう少し向こうで座ってるよ」
「――――――ッ!!おやすみなさい!!ふんだ!!」
「はいよ。何かあったら遠慮なく呼んでな」
照明を豆電球に切り替えて、僕も仮眠を取る体勢に戻った。
――――――――――――
『ああああああ!!もう!!何なのよ、今日の隆一は!!』
メリーは布団の中で、心の中のモヤモヤが最高潮に達していた。
何でこんなにイライラしているのか、自分でも解らなかった。
早く眠って、このことを忘れたい。そう考えれば考えるほど、眠気は遠ざかって行くのだった。
――――――――――――
「…ねえ、隆一?」
「ん?今度はどうした?」
「眠れないから、そっちに行っていい?」
「…別にいいけど。待ってな明かりをつける」
「ううん、このままでいい」
暗い部屋の中、メリーがもぞもぞと布団から抜け出す気配がした。
はっきりとは見えないが、人影が動き、壁に寄りかかって座っている僕の隣に腰を下ろした。
「…そういえば、前も私この時期に風邪引いてたわね」
「雪合戦した日だな。僕も一緒に倒れて、大変だったっけ」
「あの時、風邪を引いてずっと寝込んでて。これがもし一人ぼっちで誰も看てくれる人がいなかったら…って考えたの」
「頼れる人が誰もいないからな。辛いだろうね」
「ええ。前は同じ部屋で寝込んでたあなたもいたし、おばあちゃんが看病してくれたから安心したけど、今回は私一人でしょ?」
「うん」
「ああ、私一人でずっと横になってなきゃいけないんだって気づいてさ。一人ぼっちで部屋にいなきゃいけないって」
「………」
「でも、隆一。あなたは風邪を引いてないのに、こまめに私の世話を焼いてくれた。今だって…、きっと昨日の夜もこうしてくれていたのよね?」
「うん。…心配でさ。僕も眠れなかった。でも、メリーの寝息を聞いてたら安心できそうだったから、それならここで座って寝ていようって」
「まるで主人に仕える忠犬ね」
「それって褒めてる?」
「もちろんよ」
微かな明かりの中、僕とメリーは笑いあった。
そして、一呼吸置くと、僕の肩をメリーが叩いた。
「…隆一。照明のリモコンを頂戴」
「ほい。明かり点けるのか?」
「逆よ」
肩を叩く手にリモコンを渡すと、メリーは部屋の微かな明かりさえも消した。
「…何も見えないぞ」
「いいのよ。……隆一。私は、あなたにとても感謝しているわ」
「何だよ改まって…」
「明かりが少しでも点いていると言えないから…。…恥ずかしくて。…ごめんなさい」
「いいよ。僕もそう言ってもらえて嬉しい」
「それでね…。…今回だけ、今回だけよ?隆一に、その…」
「……?」
メリーは暗闇の中でも、恥ずかしがって言葉を詰まらせている。
何を言われるのかドキドキして待っていると、メリーが僕の腕をむんずと掴んできた。
「――――手…出しなさいッ!!」
「お、おう」
僕の左手がメリーによって誘われる。
その手が到着した場所は…。
「…私の…あ、頭…。撫でさせて上げるわ…」
「へ?」
予想外すぎる場所に誘導された手は、どう動かしていいかわからず僕の思考ごと硬直した。
「忘れたの?髪は認めた人にしか触らせないのよ?」
「あ…。…ははは。そうか。身に余る待遇、恐れ入ります。姫」
僕はそういうと、メリーの頭を…髪を優しく撫でた。
ただひたすら、同じ動作を、二人は何も喋らずに繰り返した。
どれだけの時間、そうしていたのか。暗闇の中でそれを知ることは出来なかったが、いつの間にかメリーは眠っていた。
「……スゥ…」
メリーの髪から手を離し、額を触れる。
「…熱、下がったみたいだな」
「…ん…んん…」
僕はメリーを持ち上げ、布団にそっと寝かせた。
起きる気配はない。ずいぶんと深い眠りについているようだ。
「おつかれさま。明日の…じゃないか。今日のクリパは思いっきり楽しもうな?」
「……スゥ…スゥ……」
エピローグ
「昨日は稀に見る祭典だったな。友よ!!」
「どこがだ!やっぱお前に任せるのは間違いだったな…」
終業式が終わり、この後は通知表を渡されるのを待つばかりとなった。
「しかし何故山崎は遅れてきたのか。まったく、とんでもないやつだな」
「お前、絶対山やんに偽情報教えたろ?」
「は!俺がそんな姑息な真似すると思うか?この俺が」
「すると思ってるから、こうやって問い詰めているんだ。さあ吐きやがれ!!」
「…うっぷ…」
騒がしい教室の中、聞きたくない声top10くらいには入りそうな声が聞こえてきた。
何故か僕らにしか聞こえていなかったようだ。
「ぬ?何だ。今にも直下型ボムが落ちそうな声だしたの」
「……まさか」
僕は、俊二を突き飛ばし、そーっと机に屈っぷしている横島に近づいた。
「もしかして、今の声…横島か?」
「…そう。…吐きそう」
いつもより別の意味で近寄りがたさが出ている。
いつボムが発動分からないから怖い。
「FPS酔い?」
「…それとは原因の違う、体調不良」
「そ、そうか…。家に帰ったら養生しろよ?…寝ながらゲームとかするなよ?」
「…それは耐え切れない」
「家まで送っていこうか?…家知らないけど」
「…必要ない。…このことはメリーには喋らないでくれると助かる」
「わかった。だから早く治せよ。その風邪は多分厄介だぞ」
「…善処する」
それきり横島は、反応しなくなってしまった。省エネモードに入ったらしい。
僕は横島の席を離れる前に、小さな紙に僕の携帯の電話番号に「困った事があったら連絡しろ」と一言添えて置いておいた。
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