ロザリー After story
作: ◆Rei..HLfH.
「睦月ー待ってよー!」
「ばかもん、お前が帰ってくる前にちゃんと連絡よこさないからだ」
俺とロザリーは、今とある駅のホームを走って移動している。
ロザリーには悪いが、最悪のパターンを回避するためには仕方の無い事なんだ。
このままだと、実家に着くのは夜中になってしまう。
実家のある地方には、街灯という小洒落た物は無い。
オマケに5年間帰ってなかったせいで、道なんてそこに行って見なきゃ分らない。
そして、そこに行っても真っ暗だとどうにもならない。
これが最悪のパターンだ。
次はあの電車だ。
ピルルルルルルルルルル!!
やべえ、発車する!!
「ロザリー、あの電車に飛び乗るぞ!」
「え?う、うん!」
ダダダダダダ!!
シュー…バタン
何とか駆け込み乗車で電車に乗り込む。
「ふぃ~、何とか間に合ったか…」
「はぁ……はぁ…」
「ロザリー、大丈夫か?」
俺と違って、ロザリーは全力で走ったおかげでクタクタになっていた。
「い…一応…」
「そうか。…にしても悪いな、帰ってきたばっかりなのに」
「ははは…いいですよ。私は睦月に着いて行くだけですから…」
「んなこと言われてもな…。とにかく、スマン」
「んー…………」
ロザリーはどうしたものかと首をかしげる。
ハッっと、何かを思いつくと、すぐその後に笑顔で俺に言った。
「分りました。許しますね」
「っぷ…」
可笑しな返事は、俺の笑いを誘った。
「笑うなんて、ひどいです」
「スマンスマン。さて、座るか」
俺とロザリーは、貸し切り状態の車両を見つけ、座ることにした。
「やっぱこう座らなきゃ、雰囲気出ないよな」
向かい合った椅子に、ロザリーと向かい合って俺が座る。
「うーむ…。あっちから来る時、この景色を見たはずなんだが、まったく覚えてねえ」
窓の外の風景を見ながら、つぶやく。
「それは5年も経ってれば、誰だって忘れますよ」
「感傷にふけようと思ったんだけどなぁ…」
「私を置いてけぼりで…ですか?」
「一緒に感傷にふけようぜ」
「ははは。バカ言わないでくださいよ」
「む、バカとは何だ。はははは」
「少し長旅になる。次降りる駅で駅弁買って食おう」
俺は横に置いたボストンバックから、カメリーメイトを取り出して、ロザリーに1ブロック渡した。
「それまでは、コレで空腹紛らわしてくれ」
ロザリーは受け取ったカメリーメイトを見つめる。
「これは…睦月がよく食べてる物ですか?」
「そうだ。結構美味い物だぞ」
「…実家に着いたら、栄養管理が必要ですね」
言いながらパクッと一口齧る。
俺も慣れ親しんだ味を楽しむ。
「ングングング…」
「…そんなに噛まなくてもいいんじゃないか?」
必要以上に咀嚼するロザリーに、ツッコミを入れる。
「…コクン…。不味くはない…かな?」
「大人の味が分ってきたじゃないの」
「美味しくもありませんが」
ピシャリと否定される。
「厳しいねぇ…」
「当然です。実家ではちゃんとした食事を取ってもらいますからね」
「言われなくとも」
「…そういえば睦月。実家と言うと、睦月のご両親と同居と言う事になるんですか?」
「そこら辺は手を打っている。いきなり幼女を連れて実家に帰るような人間じゃないからな」
幼女を彼女です。とかいった日には、警察か病院、最悪獄中だ。
「とりあえず、近所のアパートを取ってもらったよ」
「はぁ…よかった」
「ロザリーが成長したら、一緒に挨拶しに行こう」
「はい!」
「うむ、いい返事だ」
「ふふ…」
「ははははは」
その後、俺はロザリーに、地元で行われる行事や伝統などを覚えている限り教えた。
ロザリーは熱心にそれを聞き、笑顔を絶やす事は無かった。
窓の外を見る。
傾き始めた太陽が眩しいくらい光っている。
実家に着く頃には夕暮れか。
「ロザリー、着くまで休んでていいぞ?」
「…スゥ…スゥ…」
「言われなくとも…か」
俺の上着をロザリーにかける。
「あのときの寝顔と変わらないな、言っちゃあ何だが幸せそうだ」
変わらない…か。
俺はこの5年間で何か変われたのか?
右手の能力を失っただけで、戻ってきただけなんじゃないのか…?
ゴトン!!
「ンン…」
電車の振動でロザリーが起き掛ける。
だが、すぐに眠りに落ちてしまう。
「ははは…バカだな…俺」
思わず自嘲してしまう。
5年前の俺は一人だったが、今は隣に自分のことを好きでいてくれる人がいる。
それで十分じゃないか。
これから変わって行っても遅くは無い。
自分のためにも。他ならぬロザリーのためにも。
「そうだな。まずは親父に自家栽培のノウハウを教えてもらうか」
「それからお袋に、…まずは料理を習うか。いや、家事全般かな」
「あいつには…、デッサンの仕方教えてやるか…」
俺のやるべき事、ロザリーのために変わる事。
そして、ロザリーと変わらない時間を過ごす事。
まだ青い空を見ながら、俺は胸に誓う事にした。