メリーの居る生活
メリーさんと一緒!!

絵保管庫
絵保管庫




※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

メリーの居る生活 特別編『Trick or Treat』後編




10月31日 朝

朝食を済ませて部屋に戻ってきた僕は、椅子に腰掛け、昨日教わったメモを改めて読み返していた。
今日は昼からお菓子を作る予定だ。
おばあちゃんは丁度その頃に出かけるから、キッチンは夕方まで貸切に出来る。

ピピピピピピピピピピピ

「ん、メリーのか?」

部屋の片隅で、いつもメリーが使っている携帯が鳴っていた。
あいつ、携帯持ち歩かないのか…って、そうか。寝ぼけてる所を僕がリビングまで引きずって行ったんだっけ。

「やれやれ。…メリー。お前の携帯鳴ってるぞー」

部屋から顔を出し、リビングで朝食を摂っているメリーに、大きめな声で呼びかける。
するとすぐにリビングからメリーが出てきた。

「電話って?」
「相手は知らん。ホレ」

階段を上った先でメリーに携帯を渡す。
メリーは渡された携帯のディスプレイを見て、…首をかしげた。

「ん?誰だろ。これ」
「何だ、知り合いじゃないのか?」
「咲かロザリーだと思ったんだけど…」

ピピピピピピピピピピ

「とりあえず出てみたらどうだ?」
「そうね」

ピ

メリーは躊躇いも無く電話に出る。
悪徳業者だとか詐欺だとか警戒しないあたり、やっぱ度胸あるな。

「私メリー。あなたは誰…?」

あぁ、こいつ着信だとそんな受け答えするんだ。
僕の場合は「何?」とかだからな…。

「…………………」
「…誰だって?」
「変ね。何も聞こえないわよ?」
「お菓子を要求しない新手のイタズラか?」
「ん、静かに。何か聞こえる……。その声は…ネクロ…じゃなくて、瞳?」
「横島か。あいつが用事なんて…なんだろうな?」

うかつだったな。横島の奴メリーの電話の番号聞いて無いのかよ。
さて…、どうフォロー入れるのか…。

「急にどうしたの?うん。うん。…今日?うん、別にいいけど。…お昼ね。わかった。うん、それじゃ駅前で」

『うん』って返事多かったな。
横島ってば電話だと結構喋るのか?
いや、そんなことはどうでもいい。

とりあえず予定通り。
今のは横島がメリーを外に誘い出してくれるように仕込んでくれたのだ。
これでメリーの事を気にせずに、お菓子作りに専念できる。

「横島か?」
「えぇ、咲に番号教わったんですって」
「なるほど。んで、出かけるのか?」
「そ。話したいことがあるって言ってたわ」
「ふーん」
「そうと決まったら、シャワー浴びてこなくちゃ…。覗かないでよ?」
「はいはい…」

メリーは専用衣装ケースから自分の着替えを取り出し、部屋を出て行った。
僕も、準備だけしておくか…。


同日 昼

「いってきまーす!」
「いってらっさい」

横島に会いに行くメリーを送り出して、やっと家の中が静かになった。
これで菓子作りも始められるな。

「男、隆一。一世一代の大勝負。やらせていただきます。ってな」



電話には戸惑ったけれど、なんとか用件を伝える事はできた。
あとはメリーが来るのを待つだけだ。

…やはり外は、特に人通りが多い場所は嫌いだ。
何故道行く人間達は、私をじろじろと見ていくのだろう。
ここに来る前に、ちゃんと姿は模したはずなのに。

『僕ら人間が見ると、横島は美人の部類に入るからだろ。それも上位の』

昨日からあの言葉が頭から離れない。
あれは彼なりのフォローのつもりなのだろうか。
外見なんて無意味。知識に勝る物は無いと思っていた私の中に生まれた変化…。

隆一は私のことを美しいと言った。昔の私なら相手にもしなかっただろう。
でも今は何故。何故その言葉が頭から離れない。

今この時だって…。
彼の依頼はハロウィンの知識という情報を渡すだけで終わったはずなのに。
私はこうやって、自分から出した提案でメリーを待っている。
あそこで何も言わずに、買い物を済ませていれば…。
いや、買い物もそうだ。
彼も言ったが、買い物なんて一緒に行く必要も無かった。

何故だ…。私は彼と共にいる事を望んでいた?
いつから?
…頭が混乱する。

理解できない事が多すぎる。彼は何なんだ。
私は…何を望んでいる…?

「瞳ー?…あれ、立ったまま寝てる?」
「……………メリー?」

いけない…。深く考えすぎてしまった。

「お待たせ。今日はどうしたの?」
「……別に。たまには…いいかなって」
「あなたにしちゃ、珍しいわね…。私は別にいいけど」
「………………………」
「にしても…、あなたすごい注目されてるわよ?何かしたの?」

まだ周りの人間は…。男も、女も私のことをじろじろ見ている。
…そうだ。メリーにも訊いてみよう。
女性の彼女なら、別の答えを持っているかもしれない。

「……メリー。私って…目立ってる?」
「うん。かなり目立ってる」
「……何故?この格好は不相応か?」
「格好じゃなくて…。その…外見が。…ね」

驚いた。
メリーまで隆一と同じことを言うのか?

「そんな事…」
「あー。もしかして私に相談って、そんなこと?」
「…え、あ。違…」
「それって、遠まわしな自慢だよね。むー…」

なんて事だ。あろうことか私の相談は、他人に…女性にとっては不快な問題だった。
当たり前だ…。どうして気づけなかったんだ。こんな簡単な事が…。

「……ごめん。そんなつもりじゃなかった」
「あ。そうだ」
「……え?」
「とりあえず顔を隠してみようか」
「………?」

何の話をしているのか、混乱していた私にはすぐ理解できなかった。

「だから、見られるのが嫌なら、顔を隠せばいいの」
「…顔…隠す」
「どうせこれから冬だし、ちょっと厚着すれば、その体系なら隠せるわ」
「………………」
「そうと決まれば、行きましょ」
「……うん」

私はメリーに連れられ、駅前から商店街に続く歩道を歩いていった。

「うーん。口元はマフラーで隠して、帽子を深く被れば…あれ?この組み合わせは」
「………それ、普段の私の格好に似てる」
「んー。明るい色にすれば雰囲気変わるかな?」
「………あまり、想像できない」
「私に任せておきなさいな。暇な昼下がり、○ーコファッションチェックを何度も見てる私にね」
「…………………」

…不安だ。



「そろそろ三十分か。どうなってるかなーって、あんれぇ!?」

冷蔵庫で寝かせておいたクッキーの生地は、予想通りボロボロと崩壊を初めていた。

「やっぱ崩れたか…。水分が足らないのか?…いや、調子乗ってかぼちゃペースト混ぜすぎたのがマズかったかな?」

どちらにしろ、これではやり直しだ。
時間はまだ十分にあるものの、あまり失敗は出来ない。

「横島のメモ通りにやってるんだけどなぁ…。難しいぞ…これ」

つまむだけで簡単に崩れてしまう生地を捨て、僕はまた新しい生地を作り始めた。



「わぁ。似合う似合う!」

私はメリーに連れられ、女霊洋服店という店に入った。
メリーは私に次々にマフラーや帽子を付けさせて、納得できる組み合わせを探していた。

「……そんなに騒がないで…。周りの人間がこっち見てる」
「あぅ。ごめん…。でも、そのストールすごく似合うよ」
「………あまり擬装効果は感じられない」
「それロングストールだし顔半分くらいなら隠せるんじゃない?」
「…………ん…こう?」
「そうそう。それにこのつば付きニット帽子を深めに被って。はい。鏡見てみてー」
「……………」
「どう?これなら、そんなにジロジロ見られないでしょ?」
「……予測は出来ない。けど…」

確かに鏡の向こうの自分は、誰にも注目されないし、話しかけられることすらないだろう。
顔がまったく見えなければ、私が男か女かも判別できない。

私は帽子を浅く被り直し、隣のコーディネーターに微笑んだ。

「悪く…ない」
「でしょ?」

私の微笑みはストールに隠れて、メリーには見えなかったはずだった。
なのに、メリーは無邪気に笑い返してくれた。
偶然なのか…必然なのか…。その時、私には『どちらでも構わない』という答えが導き出された。



「やっべ、バター切れた」

あれから何度も失敗を繰り返した結果、とうとう家にあったバターが尽きた。
まずいよなぁ。ご近所に借りれるようなもんじゃないし。

「…仕方ない。スーパーまで買いに行くか」

パッと買ってサッと帰ろう。
めんどう臭くなくていい。

「あー。どこが安いだろう。駅前避けりゃどこでもいいか…」



「効果バッチシだね。全然見られないよ?」
「……うん。ありがとう」

洋服店を出てすぐに、効果は現れた。
道行く人間達は、今の格好をした私には見向きもしなくなった。

「えへへへ。ねえ、この後どこか行くの?」
「……まだ決めてない。…自販機で何か買って飲もう。そこのベンチで待ってて」
「うん、温かいのお願い」
「わかってる…」

私はメリーをベンチに残し、自販機に向かった。

「懐かしいなぁ。こぃと初めて会った場所だ…」


「…お待たせ。コーヒー。微糖でよかった…?」
「う…。実はコーヒーあんまり飲めなかったり…」

…いけない。メリーはコーヒーが苦手だったのか。
温かい物と言われて、コーヒーだと予測したが外れてしまった。

「…ごめん。別のを買ってくる…」
「ううん。それでも微糖なら大丈夫。ありがとう」
「そう…。次から記憶しておく」
「じゃあ、次はおしるこ缶ね?」
「おしるこ…?わかった。覚えておく……」

『ところで、お前は食事とか摂るのか?』
『必要ない。でも人間の食べ物は嫌いじゃない。…何故そんな質問を?』
『食べれないのに誘ってたら悪いなって思ってさ』

ふと、脳裏に昨日の会話が再生される。
これは、隆一が私を同情…違う。配慮してくれたときの会話…。
相手の事を配慮する重要さ…。そうか…理解できた気がする。

「瞳?どうかしたの?」
「…いや、なんでもない」
「…それならいいけど。それで、次どうしようか?」
「……メリーは、ゲームセンターには行ったことある?」
「ううん。無い。でも行ってみたい」
「……うるさい場所だけど…大丈夫?」
「平気よ!行ってみましょう。隆一に自慢してあげるんだから」
「……目指せ、スコアランキング1位ね」
「ん?何ランキング?」
「……向こうで説明するわ」

これで私にも配慮というものが、出来ただろうか…?



スーパーに行くと、つい無駄な買い物までしてしまうぜ。
とりあえずバターは手に入ったな。これで再開できる。

「さっさと帰らなきゃな。商店街でばったりとか、笑えな――――」
「あれ?隆一?」
「……………」

何で二人がここにいるんだ。

「よう。駅前に行ったんじゃなかったのか?」
「用事は全部済んだわ。見なさい、この瞳の勇姿!!」

メリーは横島の後ろに回りこみ、僕の前に押し出した。
僕と横島の距離が目の前までグィッっと縮まる。

「……!?ちょっと、メリー…」
「ほら、まるで別人でしょ?」

横島は、まるで変装でもしているかのように、マフラー?のような物で口元を隠し、目が見えるか見えないかの深さで帽子を被っていた。

「何やってんだい。まだこっちはまともな食べ物が出来てないんだぞ」
「……あなたがここに来るなんて、想定外だった」

メリーに聞かれないように、なるべく小声で話をした。
確かに僕もバターが足りなくなるなんて考えてもいなかったが。

「このまま買い物を続けるとか、出来るか?」
「…難しい。丁度メリーが帰ろうと言い出していたところ」
「マジかい…」

「どう?誰だか分からないでしょ?」

メリーがニヤニヤしながら寄ってくる。

「別人ってより、変装だろこりゃ。…真っ黒なサングラスとかするよりマシだろうが」
「そっか、サングラスもあったわね…」
「これはアレか?横島が目立つから、この格好をさせたのか?」
「そう。よく分かったわね?クラスでも人気なの?」
「あぁ、まあ、そんな所だ。クラス同じだから知ってても変じゃないだろ」
「……余計な話題は避けたほうが無難」

横島が耳元でボソッと忠告する。
メリーに昨日一緒に下校したとかばれたら、機嫌悪くするだろうか。
どちらにしろ余計な事は言わないに限る。

「隆一もいた事だし、帰りましょ。瞳も来る?」
「…え?いえ、私は…」
「どうせだからお前も来なよ。家帰っても夕方まで僕とメリーだけだし」

ここでもし、メリーと二人きりで帰れば、「何も用意していませんでした」とバレた途端に、瞬獄殺でK.Oされそうだ。
こうなったら道連れよろしく、横島を誘ってやる。

「そうそう。遠慮しないでいいよ」
「……うん。お言葉に甘える…」

計画通り…。

メリー達と合流した僕は、三人で家に戻る事になった。
家に帰っても内緒でクッキー作りは、もう無理だな。

帰り道、メリーが先走って信号を渡ってしまい、僕と横島が赤信号で足止めされた。
この時を狙っていたのか、横島が話しかけてきた。

「……話がある」
「なんだ?」
「……メリーの望んでいる物…お菓子のこと」
「まさか…。かぼちゃ嫌いとか言ってたか?」
「…違う。メリーの望んでいる物は、…手作りでは無い」
「ん、なんだって?」
「……メリーは市販されている特定のお菓子を、あなたが持ってくるかを期待していた」
「なんてこった。…どうするんだ。このバター」
「……………」

どうやら、ここ3日間の悩みは全て無駄だったようだ。
そうか、手作りなんて最初から望んじゃいなかった…。そこらに売ってるお菓子でよかったのか。

「その特定のお菓子ってのは?」
「…信号。青」
「空気読めや、信号機め」

手作りクッキーが望まれていない上に、完成どころかまだ作ってる最中なんて。
何とも情けない…。

「二人とも、何話してたの?」

信号を渡ると、僕らを観察していたメリーが、聞いてきた。

「いや、別に大したことじゃない」
「む。怪しい。男って聞かれたくないこと訊かれたとき、そうやって「はぐらす」ってテレビでやってたわよ」

メディアめ…!!危険な奴に余計な知識植え込みやがって。

「…今日はメリーの機嫌がいいから」
「え?」
「彼に…理由を聞いていたの」

さすが横島。ナイスフォローだ。

「あんた、何か言った?」
「いや。まだ何も」
「そう。瞳、今日何の日か知ってる?」

こいつは…また、勿体つけて答えを聞き出そうとしてる。
さて、答えは散々昨日おさらいしてるんだ。横島はどう答える?

「…ファミコン、スーファミ、64の修理受付が終了した日」
「ふぇ!?」

さすがだ。さすがだよ横島。ゲーマーの鏡だよ。
お前なりの冗談か?そうなのか?

「違うー。聞きたいのはそれじゃなくて…」
「…スレイヤーの誕生日」
「誰よ。それ…」
「マッハパンチの人か?」
「………」

横島は僕の言葉に横に首を振る。

「…マッパハンチ」
「参った。僕の負けだ」
「もー。何の話してるのよー」

それからは、メリーがピッタリとくっついて離れなかったおかげで、横島と会話はできなかった。
今更お菓子の名前聞いてもしょうがないとは思うが、何が欲しかったのかくらいは聞いておきたかった。


「ただいまー。あれ?何だかいいにおい?」
「よし、全員、手を洗ってキッチンに集結せよ」
「……私も?」
「はい、横島はやり直し。お邪魔しますくらい言えってのー」
「え?あ…」

僕は玄関に入ってきた横島を回れ右させて、外に連れ出す。
メリーを玄関に残し、ドアを閉め、すぐに小声で横島に相談する。

「こうなったら三人でお菓子を作る。今更僕一人で作っても成功しそうにないから」
「…私にも作れる確証はない」
「作ろうとする事に意味があるんだって。さ、戻るぞ」

「ただいまー。ほら。横島!」
「…お、お邪魔…します」

「隆一、キッチンがゴチャゴチャしてるけど、何か作ってるの?」
「今行く。触るなよ!絶対に触るなよ!」
「どれどれ…」
「あ、コラ!今の振りじゃないから!お願い本当に触らないで!!」
「………」
「横島、洗面所はあっち。手を洗っといてくれ」
「……わかった」
「わ、何この粉!」
「触るなって言ってるだろうがー!」

洗面所に入っていった横島を見送って、作る前に破壊しそうなメリーを止めにキッチンに走った。


キッチンに置いてあった材料をいじくり回しそうなメリーを何とか静止し、横島が来るのを待って、これから何をするか説明した。
上手く誤魔化しつつ、ここにある材料は、あたかも今から作るために用意しておいたような説明のしかたをする。

「今からお菓子を作る。オーダーはかぼちゃのクッキー…。メリーはかぼちゃの味とか平気か?」
「大丈夫だけど?何でクッキー?」
「魔法使いがお菓子寄こせとか言いだしたから、作ることにした」
「魔法使いって、…それ私じゃない!」
「そこらに売ってるお菓子より、焼き立てクッキーの方がいいかなって。男心なりに考えてみたんだが」

少しカマをかけてみる。気休め程度の保険がわりだ。

「別に私は売ってるお菓子でも良かったのに。…でも。こっちの方がいいかな」
「いいのか…?別に気を使わなくてもいいぞ」
「こ、れ、で、いいの!瞳も一緒に作るんでしょ?」
「………」

横島は首を縦に振る。

「うーむ…。よし、始めよう。…あ、メリーは言われた事以外、手を出さない事」
「うるさいわね…」
「……メリーは料理苦手?」
「そんな事無いわよ?」
「そうだな。メリーの場合、独自性がオリジナルを凌駕して、まったく別のものが生まれる」
「後で覚えときなさいよ…!」

横島がここにいる限り、僕の身の安全は保障されている。
横島が思いがけないブレーキになっているな。いいコンビだ。

「……メリー。私と一緒に作ろう」
「失敗するかもしれないけど、いいの?」
「……失敗することを考えない。…上達するコツ」
「…がんばる!」
「……がんばって」

僕らは3人キッチンに並びクッキー作りを始めた。
僕はかぼちゃを2人分追加でペースト状に。
メリーと横島は生地の下ごしらえだ。

横島がバターを少しばかり掬い取り、ボールに移す。

「なあ、横島。バターってそんなもんでいいのか?」
「…これで3人分」
「げ、マジかよ」

僕は一人分でその量を入れていた。
そうか、崩れやすかったのはコイツのせいか…。

「…メリー。卵」

ボールを持った横島は、それに卵を入れるようにメリーに指示する。

「い、いくわよ…」

今にも手に持った卵を握りつぶしそうなメリーは、恐る恐るボールのカドでコンコンと卵を叩く。

そんな軽くじゃ割れない。
もう少し力を強めて―――。

「……もうちょっと強く」
「…こう?」

力の加減がいまいち苦手なメリーは、力の加減のギアを低速から3速まで一気に上げた。
あ、割れる。

「……!!」

一寸、メリーの力の入れ具合を先に察知した横島は、ボールを手前に少し引き落とた。
コン!と、小気味いい音が鳴り、卵には綺麗なひびが入った。

「あ!…あれ?ちゃんと割れてる」
「……よくできました」
「すげ…」

ボールを手前に引くことで、卵が割れない程度に衝撃を調節したわけか。

「…私がかき混ぜるから、卵をあと2個。…力み過ぎないように」
「うん」

なんとか、メリーも横島のことをちゃんと手伝えてる。
これなら満足してくれるかな…。

「……次、かぼちゃペースト」
「隆一、それ寄こしなさい」
「ほれ」

メリーにペースト状のかぼちゃが入ったボールを渡す。

「……かぼちゃは冷めてる?」
「うん、冷たい」
「買い物に来る前に冷蔵庫で冷やしておいた。メモ読んでたから抜かりは無いぜ」
「……少しずつこの中に入れて」

「……次は小麦粉」
「メリー。小麦粉入れたらこねる作業だ。こねるだけなら出来るだろ?」
「……やってみる?」
「うん、やってみる」

横島はメリーをボールの前に立たせ、こね方を一通り教えると、メリーはそれに習って懸命に生地をこね始めた。
メリーがこねている間、ボールが動かないように横島がしっかりとそれを押さえている。

「まるで姉妹だな…」

二人に聞こえないような小声で、僕は呟いた。
横島には聞こえたのか、ボールを押さえている彼女と目があった。

「……………」

横島は何も言わず、すぐにボールを押さえる事に集中した。


固まった生地をラップで包み、生地を数分寝かし、それを厚切りする。
ここら辺は全部僕が担当した。
流石にメリーに鎌以外の刃物は持たせられないからな。

「あとは焼き上げるだけか…。上手く焼ければいいが」
「瞳、何分焼くの?」
「……170℃のオーブンで20分」
「…よし、セット完了。あとは待つだけだ」
「20分か…待ち遠しいなぁ」

メリーはキッチンを出て大きく伸びをする。
そして、そのままソファにもたれかかる。

「テレビでも見てるか?……あ、ゲームでもやるか」

僕は鉄板に着いてた油を直で触ってしまって、手を洗っていた。

「何がある?」

メリーの隣に座った横島が、間髪いれずに質問してくる。

「ゲームの事になると食いつきいいな…」
「…………」

横島は持ってきたマフラー?で顔を隠した。
思わず反応してしまったらしい。難儀な奴。

「箱360はすぐに用意できる。すぐ終わるのがいいよなぁ」

テレビの横のラックから、それらしいゲームを探してみる。

「あ、宇宙防衛軍があるぞ。これならメリーもできるだろ」
「……じゃあそれで」

『ピンポーン』

家の呼び鈴がなった。
来客か?宅急便か?

「ん?誰だろ。悪いメリー、用意しておいてくれ」
「はーい」
「……手伝う」

二人に後を任せて、玄関に向かう。
ここで玄関を明けて強盗だったら、何てこともある。
入られてもリビングの二人が何とかしてくれそうだが。

「はーい。どちらさーん?」

ドアチェーンをかけて玄関扉を開ける。

ドアの隙間からは、二人の…人間?が見えた。
漆黒のベストに、裏地が赤い、黒のマントを纏った見覚えのある馬鹿に似た馬鹿野郎と。
黒いフードマントを被ってニコニコした死神さん。というか咲。

「………どちらさんで?」

「ふふふ…、夜の帝王。ドラキュラだ!」
「こんちわ。死神です」

夜の帝王が昼間から外を出歩くなよ。

「何の御用で?」

僕が用件を尋ねると、二人は待ってましたといわんばかりに、声を並べて言い出した。

「「Trick or Treat!!」」

「おーい、メリー。塩もってきてー」
「貴様、西洋の妖怪に塩とは、なんと罰当たりな!!」
「あ、あとついでに110番通報よろしくー」
「警察まで!?俊二君、逃げよう!」

ドアの外がやかましくなると、メリーたちが何事かと様子を見に来た。

「あれ、咲?何その格好」
「やっほー。メリー。お菓子貰いに来たよー…、ってあれ?隣にいるの横島さん?」
「……こんにちは」

一応顔見知りである横島は、先に対して軽く挨拶を交わした。
学校では声を掛けられても無視していたが、場所が場所だからか?

「ねえ、咲なら入れて上げようよ。せっかく来てくれたんだし」
「そうは言うがな。ドラキュラも一緒だぞ?」
「ドラキュラ?」

僕はメリーたちの立っている場所から死角に立っていたドラキュラを呼ぶ。

「これ。入れるのか?」
「塩持って来る。食塩でもいいのかな?」
「いいんじゃないか?この際何でも」

「お、お前ら人間じゃねぇ!!」

どこで覚えた、そんなネタ。

「お前らに言われたくない。…ほれ、さっさと入れ」

メリーの言い分ももっともなので、咲のついでにドラキュラ伯爵も入れてやることにした。

「ふぅ…。うむ、邪魔をするぞ」
「おじゃましまーす。あれ?なんかいい匂いがする」

廊下で咲が鼻をぴくぴく動かし、辺りを探る。

「今クッキーを焼いてるんだ。もう少し待ってれば食わせてやる」
「ほう、クッキーか。頂こう」
「わぁ。楽しみー」

「やれやれ。今二人がゲームやってるから、観戦してなさい」
「よかろう」
「はーい」

まったく…。呼んでもいないのに…。
キッチンに戻り、オーブンレンジの残り時間表示を見る。

「後6分か。もうちょいかかるな」

皿も出してあるし、飲み物は…。
パックの紅茶でも出すか。

「隆一…」
「ん?どうした、メリー。…ゲームは?」

紅茶用のティーカップを出していると、メリーがやってきた。
カップでも割りに来たか?と軽口でも叩こうと思ったが、ちゃんと手伝ったメリーにかける言葉じゃないので、止めておいた。

「今、瞳と俊二がやってる」
「あいつ、あれ上手いからな…」
「何か手伝う事はある?」

メリーはキッチンに入ると、周りをキョロキョロ見回してやれることが無いか探し始めた。

「そうだな。クッキーが焼きあがったらリビングに運んで欲しい。僕はティーセット持ってくから」
「もう焼けるの?」

メリーがオーブンの中の加熱されるクッキーを眺める。

「もうちょっとね」
「そうだな。うまく焼けてればいいが。これで僕は悪戯されなくて済むか?」
「味次第ね。私が満足しなかったら、そのときは覚悟しておきなさい」

とメリーは不敵な笑みで僕を見る。

「おぉ、怖い怖い。リビングのテーブル片付けてきてくれ。あそこで食うから」
「うん、おっけー」

メリーがキッチンから出て行くと、今度は入れ替わりで横島が入ってきた。

「今度は横島か。手伝う事なら無いぞ?」
「……そう」
「………………」
「………………」
「何も喋らないで立っていられても、緊張するんだが…。何か話でもあるんじゃないのか?」
「……メリーの欲しがっていたお菓子の名前のこと」
「それなら、もういいみたいだ。横島とお菓子を作った事で満足したみたいだし」
「……そう。あと約束の報酬…」
「あぁ、そっか。今、俊二いるし、集まる日時はあいつに聞いてくれ。僕はそっちにあわせるから」
「……そう」

それだけ聞くと、横島はキッチンから出て行った。

「…オーブンは、終わってるな。どれどれ」
「焼けた?」

今度はメリーがやってくる。
今日のキッチンは騒がしいな。

「今オーブン開けるところ。来てみ」
「焼けてるかな…?」
「焦げてはいないと思う。おぉ!!」
「わあ!!綺麗な色になってる!!」

僕は慎重にオーブンからクッキーを取り出し、さらに盛り付ける。
クッキーは素人目から見ても成功とわかるほど、黄色に焼けていた。
匂いも食欲をそそる甘い匂い。どこをとっても上出来だ。

「こりゃ成功だな。メリー一枚とって食ってみ。火傷しないようにな」
「うん」

メリーが一枚、クッキーを口に運ぶと、すぐに笑顔で首を縦に振った。

「よし、メリーはこの皿を持ってリビングに。僕もすぐ行く」
「うん、ふぁかった」
「ちゃんと口の中の物を飲み込んでから行きなさい」
「ンク。はーい」

転ばないように祈りつつ、メリーの背中を見送った。
それからすぐにキッチンからは歓声が沸き起こる。

「少し遅いアフターヌーンティーと洒落込みますか」

僕はティーセットを両手にもち、活気溢れるリビングに向かった。


――――結局半ばゲーム大会のようなハロウィンパーティは、夜になるまで続いた。
夜になると咲が用事があると言い出し、「それじゃあ俺も」と俊二。何も言わなかったが、横島も席を立った。
僕とメリーも見送りをしに玄関前まで出てきた。

「では、我は我の世界へと帰るとしよう!おお…!素晴らしき闇夜の世界よ!!」
「帰りに職質掛けられてしまえ」

家の前ではしゃぐドラキュラの格好した馬鹿に毒づく。
その様子を見ていた咲とメリーが二人して笑っていた。

「あはは。あ、突然上がりこんでゴメンね」
「ううん、咲なら大歓迎。いつでも来てよ」
「ありがとう。今度から電話するね?」
「うん。待ってる」
「よし、俺も」

そこによせばいいのに、俊二が会話に割り込んでくる。

「あんたはいい。銀の杭打ち込むわよ」
「にんにく食べさせちゃうぞー」
「それは人でもキツイ仕打ちだぞ。だがメリー。杭は銀じゃなくて白木だ」
「うるさいわね!本当に打ち込むわよ!」

やれやれ。すっかり友達同士だな。

「…………あの…」
「ん?」

横島が恐る恐る僕を呼んだ。

「………」
「………」

横島は、何も言わずそのまま僕から目をそらして、落ち着かないようにもじもじしている。
僕は横島が何か喋リ出すまで、次の言葉を待つことにした。
すると、横島はうつむき、聞こえるか聞こえないかの大きさで、話を続けた。

「……楽しかった。ありがとう…」

無口で無表情で無愛想で…。
そんな奴だけど、無感情ってわけじゃないんだな。

「そっか。僕も助かったよ。お前も今度遊びに来きなよ」
「……そうする」
「あぁ、そうそう。次からは気軽に名前で呼んでくれ。「あの…」とかじゃ不便だろ?」

ずっと「あなた」だとか「あの」だとか呼ばれるのは他人行儀でいけない。
友達なら。尚更だ。

「……ありがとう。…隆一」
「どういたしまして。ってな」


その時、横島は、一瞬。
ストールと深くかぶった帽子に隠れた自分の表情が、緩んだような気がした。



三人が帰ったあと、散らかったリビングを眺める二人。

「リビング…片付けるか。メリー」
「そうね。隆一」

そんなに荒れてはいないが、さすがに5人もいれば、テーブルに受け取り皿やコップやら食べかすやらで汚いし、ゲーム機も片付ける必要もある。
キッチンをあらかじめ片付けておいたのは正解だったな。

「メリーはゲーム機を片付けて。僕はテーブルを綺麗にする」
「おっけー」

散らかったリビングを二人で手早く片付ける。
家事手伝いが板についてきたのか、メリーが手際よくゲーム機を収納していく。

食器をキッチンに運び終えた僕は、すぐに食器洗いを開始する。
リビングもそうだが、おばあちゃんが帰ってくる前に、キッチンを片付けなければならない。

食器洗いに取り掛かってすぐに、メリーがキッチンにやってくる。

「リビングは片付いたわ。そっちは?」
「今洗ってる。水滴拭いて食器棚に戻してくれ」
「任せて」
「落として割るとか、お約束なドジはいらないからな」
「もうしないわよ」

もうしたのか?という疑問はさておき、メリーは危なげなく食器を運び、棚に並べて行く。
なるほど、日々の特訓の成果が出ているらしい。


「ん?隆一、この袋は?」

メリーは、僕がキッチンの床に放り投げておいた袋を見つけて、僕に見せた。

「あぁ、夜食にでも食おうかなって」
「夜食?………あー!!」

袋の中を覗くと、メリーは急に大声を出してくれやがった。
危なく皿を落とす所だった。

「な、何だ急に!?」
「これよこれ!!」

メリーが興奮気味に袋の中に入っていたお菓子を取り出して、僕に向ける。

「有袋類の行進曲だろ?」

ちなみにハロウィン限定版で、カボチャ味らしい。

「これが私が欲しかったお菓子なのよ!」
「マジか!?」

バターのついでに買ったお菓子が、今日のキーアイテムだったのか。
運命ってのは恐ろしいな。

「何よもう。分かってたなら先に出してくれればよかったのに。見直したわよ」
「お、おう。そりゃ良かった」

偶然買った…とは言えないな。


夕食後。
カボチャの煮っ転がしを夢に出そうなほど食べさせられた僕は、部屋に戻って胃の中のカボチャの消化を待ち続けていた。

そんな事もお構いなしに、クッションに寄りかかって、幸せそうにご所望のお菓子をパクパクと口に放り込んでいるメリー。

「はぁ~。やっぱり。トリックアトリートって便利な言葉だわー」
「一年で一度きりだけどな」
「でも不思議よねぇ、これ、私のお菓子強奪法と手口が似てるのよ」
「似てるって、どういうことだ?」
「昔…生きてた頃ね?私も、「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ」って近所の人脅かしてお菓子を貰ってたのよ。…もちろんハロウィンの日にね」
「…ほう、悪ガキだな」
「うるさいわね。近所の人も、可愛いって言いながら、たくさんお菓子をくれたのよ。そしたら、周りの友達も真似し始めてね?」
「今のメリーがやったら、間違いなく脅迫だな。もうするなよ?」
「しないわよ。隆一以外にはね?」
「…次は分かりやすいヒントを出してくれよ?」
「考えておくわ」

俊二よ。稀に見る秀才ってのは、案外近くにいるのかもしれないぞ。
食い意地の張った一人の女の子が、秀才と言えるかは、別としてな。




感想など
  • 最後に、不良に向かって「・・・私メリーさん。今あなた達の前にいるの・・・」とか言わせてみたい -- (砂) 2010-02-26 19:45:45
名前:
コメント:

すべてのコメントを見る




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー