メリーの居る生活
メリーさんと一緒!!

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メリーの居る生活 クリスマス特別編3前編


作:◆Rei..HLfH.

何のことは無い、いつもと変わらない、土曜日。

場所はリビング。時は昼の少し前。
僕が紅茶を飲みながら、コタツに入って暖をとっていると、ドタドタとメリーが満面の笑みでリビングに入ってきた。

「隆一、積もったわよ!」
「知ってるよ。朝起きて最初の言葉がそれかよ…」

いつもと変わらない日常。変わったところと言えば、家に居ても身震い出来る、この凍てつくような寒さと…。
窓の外の一面の銀世界。
前日に張り切った雪雲の置き土産が積もりに積もった庭を見て、メリーは目を輝かせている。

「雪なんていいもんじゃないぞ…。寒いし滑るし白いし雨よりタチが悪い」
「まったく、夢の無いこと言うわねぇ。この景色見て、何も感じないの?」

メリーが雪の敷き詰まった庭を指差す。
足跡一つ着いていない雪のカーペットは、子供の頃の僕なら、我慢できずに飛び込んでいたことだろう。

「いや、特に何も」
「いつも子供みたいな事言ってるのに、こんな時だけ爺臭いんだから…」
「そういわれると思って、今日は玉露茶じゃなく、紅茶をチョイスした。爺臭いとは言わせないぜ」
「紅茶なら私も飲むわ。淹れてくれる?」
「コタツ出たくないんだけど?」
「あら、爺臭い」
「くそー…」

まんまと言い包められ、いいようにメリーに使われるハメになってしまった。

「私の専用のカップねー」
「やれやれ…。今日一日こんな調子じゃ、休みもできないな」

聞こえるように愚痴を言ってやる。
もちろんメリーは聞く耳を持たない。
…というより、何か考え事をしているようだ。

「折角雪が積もってるのに、何もしないって勿体無いわね…」

ボソッと窓の外を見ていたメリーが呟いた。




「さあ、始めるわよ!!」
「本当にやるの?ねえ、寒くて鳥肌が立ってるんだけどさ」

出された紅茶を早々に飲み干したメリーは、突然「特訓するわよ」と言い出した。
どうやら、以前河原でやった雪合戦をモチーフにした特訓を思いついたらしい。
反対の声はまったく聞き入れられることはなく、敢え無く僕は庭に放り出されてしまった。

「体動かしてれば暑くなるわよ!」
「せめて上に何か羽織るものを」
「動きにくくなるでしょ。ダメよ」

メリーは僕の提案をピシャリと払い、せっせと足元に雪玉を作っている。
自分は温かい格好して手袋までしてるってのに、僕の防具はトレーナーと肌着の二枚だ。

「うぅぅ…寒い…。風邪引いちまうぞ…」
「うん、これくらいでいいでしょ。いい、今から雪玉をどんどん投げるから、それを避けるのよ」
「わかったわかった。いいからさっさと始めよう」
「ただし、前みたいに軽い投げ方じゃないわよ。当たったら怪我する覚悟でね」
「…何?」

そういうとメリーは、僕の後ろの塀を指差し、そこに拾い上げた雪玉を投げつけた。

雪玉ってさ、よほどサラサラな雪じゃなきゃ、壁にぶつかるとベチャって雪が半分くらい壁に張り付く物だよな?
でも、メリーの投げた雪玉がさ、塀にぶつかった瞬間に見事に飛散して、塀には雪のぶつかった跡が残ってなかったんだ。
これって、威力何キロあるんだろう。万が一ぶつかったらどれくらいの怪我ですむのかな。

「それじゃ、行くわよー」
「え!?まだ心の準備が」
「そぉれい!!」
「ぃい―――!?」

あの剛速球が僕めがけて飛んでくる!!
とっさに姿勢を低くしてそれを避けると、雪玉は塀にぶつかり、跡形もなく砕けた。

「その調子、どんどん行くわよー」
「ひいいいいい!?」

情け容赦の無く、僕に降り注ぐ雪玉の雨あられ。
いつになく楽しそうなメリーは、僕を休ませる間もなく次々に雪玉を繰り出してくる。
投げられる雪玉のストックはメリーの足元に山ほどこしらえていて、あれが全部投げ終わらなければ、休憩は許されないだろう。

これじゃ全部投げ終わる前に僕が風邪を引いてしまう。
もうすぐクリパがあるってのに、そんなのはごめんだ。
何とかしないと、何とかしないと。
しかし頭で考えている余裕もなく、飛んでくる雪玉を避けるだけで精一杯だ。

雪玉を避けながら雪玉を作って反撃?いや無理だ。考えるだけで精一杯なのに、余計な行動は取れない。
隙を見て家に逃げ込む?捕まって外に投げ出されるのがオチだ。
説得?特訓中にそんなことしたら、さらにしごかれるな。

必死にいくつか作戦を並べてみたが、どれもアテには出来ない。
こうなったら風邪引かないように祈るだけか。

「って、うお!?」

しまった!!
考える事に気を取られて、僕は足を滑らせてしまった。
すっ転んでいる所を待ってくれるメリーではない。
メリーは動けない僕に更なる追い討ちをかけるだろう。
あいつの事だ。この機に乗じて、何個もの雪玉を一斉に投げつけてくるだろう。

「チャンス!!食らいなさい!!」
「…ッ!!」

動きを。

考えを。

――――――――予測しろ。

ザザッ!!

「え!?あの状態から避けた!?」
「………」
「…隆一?どうかしたの?」
「………」
「まさか…、防衛システム作動しちゃった…とか?」
「………」
「そうみたいね。あの時以来か…。あなたの直感力と動体視力の限界、試させてもらうわよ」
「………」
「…まったく、何か喋ったらどうなの…よ!!」

ヒュン!

「………」
「…これならどう!」

ヒュン!ヒュン!

「………」
「まだよ!!」

ビュン!!

「っく、小憎たらしい!!……何よ、急にしゃがみ込んで。どこか怪我でもしたの?」
「………」

サクサク

「…雪玉なんか作って、私に反撃でもするつもり?」
「………」
「そんな余裕なんて与えないわよ!」

ビュン!!

「………ッ」

ヒュン

「キャ…!!…って、どこ投げてるのよ?私はもっと下よ!」

ビュン!!

「………」
「動きが大味になってるわよ!!」
「………」
「嘘!?いつの間に雪玉を!!」

ヒュン!

「…一体どこに投げてるって言…」
「――やべえ!?メリー!危ない!!」
「…え?え!?」


ドサッ!!ドサドサ…。


完全に僕の思慮が足らなかった。
防衛システム…。余計な考えの一切を捨て、相手を無力化させる事を最優先し実行する状態。
それがメリーの追い討ちを避けようとした拍子に働いてしまった。
メリーが屋根下に陣取っていたのをいいことに、屋根に積もっている雪を落として被らせれば頭も冷えると考えた。
しかし、衝撃を与えた雪は僕の予想よりずっと多い量がずり落ちてきた。

屋根から落ちてきた大量の雪は、人間の首も簡単にへし折る。
雪の落ちてくる量なんて、調節できるわけが無い。なんて愚かな考えだったんだ。

屋根から雪がずり落ち始めた瞬間、僕は我に返った。
僕は叫びながらメリーに駆け寄り、覆いかぶさるようにメリーを庇った。


「り、隆一…?」
「わりぃ…、大丈夫か?怪我はないか?」
「う…、うん。大丈夫」
「よかった…」
「は、早くどきなさいよ!背中の雪…」
「あぁ、そうか。よ…っと」

僕の背中の雪がメリーにかからないように、ゆっくり立ち上がる。

「まったく、無茶するわね…」
「あぁ、ちょっとやりすぎた。ごめんな」
「もういいわよ…。ん…」

立ち上がるメリーに手を差し伸べる。
メリーは手を取り、立ち上がると、雪にまみれた背中を軽く掃った。

「私の背中もびしょびしょに濡れちゃったし、特訓は終わりね」
「え、もういいのか?」
「仕方ないわよ。やっぱり寒いし、あんたの特訓の成果も見れたことだしね」
「成果…か。次から気をつけなきゃな」
「寒いわ…。シャワー浴びて温まらないと…」
「風呂が温まってるはずだ。すぐには入れるぞ」
「そう、用意がいいわね」
「メリーが起きてくる前に僕が入ろうとしたんだが…、僕は大丈夫だから先に入りなよ」
「悪いわね。そうさせてもら…クシュッ!!」

玄関に向かう途中、メリーは実に可愛らしいクシャミをした。
背中が濡れてるおかげで体が冷えてしまったようだ。

「おいおい、風邪引くなよ?」
「…大丈夫よ。それより、お風呂覗いたら――――」
「解ってるって。早く入ってこい。着替え用意しておくから」
「…下着はどうするつもりなの?」
「…指示してくれれば持ってくる」
「余計な事はしないでリビングにいなさい。いいわね?」
「御意」

何はともあれ、なんとか体が冷え切る前に家に戻ってこれた。
メリーはしばらく風呂から出てこないし、こっちは紅茶でも飲みながらコタツで暖を取るとしよう。
あ、メリーが出てくるタイミングにあわせて紅茶を淹れてやろう。
中と外から暖めてやれば、全身ポカポカで風邪も引かないだろう。


「…ん?」

しばらくして、ジャパネットタナカのよく喋る社長を観察していると、廊下をパタパタ走る音がした。
怪奇現象!?…というわけでもなく、着替えも持たずに風呂場に入ったメリーが、タオル一枚で僕の部屋から着替えを持って風呂場に戻ったところだろう。
都市伝説の看板であるメリーさんが、タオル一枚だけを羽織って廊下を走ってると考えれば、十分怪奇現象だが…。
だから僕はこうやって、自分の部屋に戻る事は許されずリビングにいることを強要され、暇な休日のテレビを眺めていたのだ。

しばらくすると、更衣室の扉が開く音がした。メリーの着替えが終わったようだ。
僕はメリーに紅茶を入れた旨を伝えようと、廊下に出た。

「う…!な、何よ!!」
「…?いや、紅茶入れといたぞ…って」

メリーは服さえ着ているが、何故か体を抱えるように、胸の部分を隠している。
はて?今更メリーの胸を意識はしていないんだが。そんなに立派な物でもないし。

「どうかしたのか?」
「なんでもないわよ!早くリビングに戻ってなさい!!早く!」
「え?あ、あぁ…」



わけもわからないまま、僕はリビングに押し戻された。
何なんだ?一体。
当のメリーは、さっさと僕の部屋に入っていった。
後をつけて様子を見に行きたい所だが、何故か物凄く死亡フラグ…いや、その場でBADENDな予感がするので、もう少し社長を観察する事にした。


その日の夜。
知っての通り、僕とメリーは同じ部屋で寝ている(布団を敷くが、お互いが離れた所に。だ)。
いつもの位置に布団を敷き、ごろんと横になると、

「クシュン…!!」

部屋の隅で布団を敷いていたメリーが、今日何度目か知らないクシャミをした。

「…なぁ、それ風邪引いてるんじゃないのか?」
「違うわ。風邪なんて引いてられないわ」
「…まぁ、認めたくないのも解るが、とりあえず温かくして寝ておけ」
「そうする。掛け布団出して」
「自分で出せっての」
「爺臭い」
「…それ、今回で最後な」

メリーはいつもの布団にさらに二枚多めに布団を羽織らせた。
重くないのかと思ったが、当の本人はすぐに寝息を立てていた。



「おはよー…ゴホ…」
「…おはようさん」

昼少し前。
リビングでマンガを読み返していると、見るからに体調の悪そうなメリーが部屋に入ってきた。

「うゔ…頭痛い…。何かだるいし…」
「あちゃ。完全な風邪だな。そりゃ」
「最悪ー…」
「食欲はあるか?」
「ない…。喉は渇いた…」

そう言ってメリーはソファにヘタヘタと倒れこんだ。
珍しいな。こんなメリーは。

「確か500mlのスポーツドリンクが冷蔵庫に入ってたな」

冷たい物は飲ませていいものか迷ったが、とりあえず水分は取らせて布団に戻そう。

「ほれ。あと汗を拭いて、とりあえず昼飯は粥にするぞ」
「食欲無いってば…」

メリーはスポーツドリンクを飲みながら不機嫌に答える。

「風邪は引き始めが肝心って言うだろ。少しでもいいから栄養とっとくの」
「わかったわよ…」

粥か。久しぶりに作るが、上手く出来るだろうか。
卵のストックは…十分だな。よし。

「出来たら持ってくから、布団の中でゆっくりしてな」
「…すぐに作りなさいよ」
「任せとけ」

メリーはそういい残して、フラフラと部屋に戻っていった。
階段で転げ落ちないか心配だったが、さすがにそんなことはなかった。

…メリーの楽しみにしているクリスマスパーティは明後日。
それまでに熱が下がってくれればいいんだが。


「よし、こんな物か。…味は薄めの方がいいよな?」

水っぽくもなく硬くもなく、丁度いいとろみに仕上がった卵粥が出来た。
あとは水とタオルと茶碗…。あぁ、レンゲが無いと食べれないな。これでよし。
早速僕はこの粥を、メリーのもとに運んだ。

「メリー、粥作ってきたぞー」
「うん、ありがとう…コホ…」

部屋に入ると、メリーは大人しく布団の中に入っていた。
メリーは上半身を起こすと、そばにあった空のペットボトルを差し出した。

「スポーツドリンク…全部飲んでしまったわ…」
「あぁ、飲んだ水は汗なりトイレなりでどんどん巡回させるんだ。ガンガン飲め」

土鍋の乗ったお盆を傍に置くと、コップに水を注ぎメリーに手渡した。
メリーは何も言わずコクコクとその水を飲み干す。

「汗拭き用のタオル、枕の横に置いとくぞ。汗まみれじゃ気持ち悪いだろ」
「服の中も…気持ち悪いわ」

粥を茶碗に少なめに盛り移し、メリーに手渡す。

「何なら濡れタオルで体拭いてやろうか?」
「バカいわないでよ。そんなに弱っていないわ…」
「そりゃ残念。おっと、熱いから舌を火傷しないようにな」
「ん…、ふー…ふーコホッ!!ケホッ!」

メリーは粥を冷ますために息を吹きかけていたが、むせ返って咳き込んでしまった。

「おぉ、大丈夫か?」
「ケホ…、だ、大丈夫…コホ…」
「僕がふーふーしてやろうか?」
「もう、病人扱いして…。落ち着いて食べれないからどこか行っててよ…」
「あ、ごめん…。何かあったら携帯に連絡寄こしてくれ。すぐに行くから」
「………」

そう言い残すと、僕はメリーを残して部屋から出ることにした。
酷く不満そうな顔で言われたもんだから、退散せざるを得なかった。
別にからかってた訳じゃなかったんだが…。悪いことしたな…。

リビングに戻ると、僕は気を取りなおして次にメリーが望みそうな物を考えた。

風邪の引いた原因は、九割方僕のせいだろうし、日曜日だから時間も取れる。
今日と言う日曜日は、メリーのために費やそう。
それがメリーに対する償いだ。

「とりあえず、寝てるだけってのも退屈だし、何か雑誌でも買ってきて…」

確か今週は合併号で日曜日…今日発売だったな。丁度良いタイミングだ。

「あと、体の温まる物を飲ませるか。今作れるのはっと…」

簡単に作れる風邪用飲み物を脳内にリストアップしてから、冷蔵庫の中を探る。
生姜かレモンがあればベストなんだが…。

「まいったなぁ。卵酒くらいしか作れないか…」

雑誌買いに行くついでに、スーパーにでも寄っていくか。
しかし風邪のメリーを置いて家を出るのも、心配だな…。
おじいちゃんおばあちゃんは町内会の年末の集まりとかでいないし…。
メリーがまた眠ったら、買いに行くとしよう。


粥が冷めるくらい時間を置いて、再度メリーの様子を見にいった。

「どうだ、粥食えたか?」
「少し残しちゃったわ…」

横になっていたメリーは体を起こすと、傍に置いてある粥の残った茶碗と、空になった土鍋を指差した。

「上等上等。これだけ食えれば十分だ。頑張ったな」
「わざわざ作って貰ったんだもの。当然よ」
「気持ちは嬉しいが、無理してまで食べてなくてもいいんだぞ。逆に消化不良起こして体に悪い」
「む、無理してなんかないわよ…」
「それならいいんだが…。栄養も取ったことだし、とりあえず薬飲んで寝とけ」
「うん…」

風邪薬を飲んだメリーは布団に潜り、しばらくしてスゥスゥと寝息を立て始めた。

部屋の外から様子を窺っていた僕(眠るのに邪魔だと追い出された)は、メリーが眠った事を確認して、買い物に出た。


雪の積もった商店街は、いつもとは少し違った風景で、もう少しゆっくりと景色を楽しみたかったが、今回はそうは行かない。
まずはコンビニで雑誌をGETだ。

「いらっしゃいませー」

コンビニに入ると、他の売物棚には目もくれずに雑誌コーナーに向かう。
多くの立ち読み客の壁から、目的の物を見つけ手にとる。

『よし、これで雑誌は手に入ったな。あとはスーパーに行くだけだ』

「ありがとうございましたー」
「隆一くーん!」

さっさとレジで会計を済ませ、コンビニからスーパーに向かう途中、誰かが僕を呼び止めた。

「ん?…あ、咲か」
「こんにちわ!お買い物?」

後ろから追ってきた咲と会話をしながら歩く。

「よっす。ま、そんなところ。咲も買い物か?」
「うん、スーパーまで行くところ」
「それじゃ一緒に行こうや。僕もそこに用事があるんだ」
「うん、行こう行こう。あ、手でも繋いで行く?」
「お誘いは嬉しいが遠慮しておく。アイツに見られたら何言われるか解らんからな」
「ははは。あ、そういえば今日はメリーが一緒じゃないんだね?」
「あいつは今風邪で寝込んでるぜ?」
「ええ!?大丈夫なの?」

咲が人目を気にせず大げさに驚く。

「どうだろうな。一応、粥作って食わせて薬飲ませて寝付かせた」
「手作りのお粥を食べさせたげるなんて、さすが隆一君、良いお婿さんになるよ」
「粥ぐらい簡単だろ?」
「違う違う、何を作るかじゃなくて、作ってあげる事が大事なのよ」
「家族が風邪引いてるなら、当然だと思うがなぁ…」

おばあちゃんも、僕が風邪引いた時はいつも出来立てのお粥を持ってきてくれたな。
よく考えれば風邪引いて一人で養生するなんて、経験したことも無いし考えた事も無い。

「当然って思えてるところが、またカッコイイよ!」
「何ださっきから、褒め殺しか?まぁ、悪い気はしないが」
「ははは。あ、と言う事は、スーパーでの買い物も、メリーのため?」
「勘が良いな。ホットレモネードと生姜湯に使うレモンと生姜を買いに行くんだ」
「へぇー。風邪の定番だね。そんなのも作れるんだ」
「ホットレモネードなら普段からたまに作ってるからな。生姜湯は良い機会だからレシピ見て作るつもりだ」
「生姜紅茶もいいよ。蜂蜜足すと甘くて飲みやすいし」
「あぁ、そうか。蜂蜜も一応買っておかなきゃな」
「小分けできるチューブパックのヤツがいいよ。使いやすいし」
「そうだな。大きいの買っても使いきれないし……ん?」
「どしたの?」

いつもなら寄り道をしていくゲームセンターの前を通り過ぎようとすると、見覚えのある後姿を見かけた。

「あれ、横島じゃないか?」
「え、どれ?」

横島を見つけられない咲に、指をさして教える。

「あ、本当だ」
「あいつ、普段からゲーセン通ってるのか?」
「ちょっと捕まえてくるよ」
「え?お、おい!用もないのに…って、行っちまったよ」

何を考えてるのか、咲は横島を追ってゲームセンターの中に消えていった。

「捕まえてきたよー」

僕がため息をつく間もなく、咲が横島を表に引きずり出した。

「ずいぶん早いな…」
「……………」

咲は誇らしげな顔しているが、いきなり連れてこられた横島は無表情だが、なんとなく不満そうだ。

「うっす。…元気か?」
「…何の用?」

横島がジト目で僕を見つめる。
そこに咲は割って入り、横島に話しかけた。

「横島さん、メリーが風邪引いちゃったんだってさ」
「…それで?」
「これからお見舞いに行こうと思うの。一緒に行かない?」

やれやれ…。
やけに積極的だと思ったら、横島も連れて行きたかったのか。
しかし、お見舞いなんて話初めて聞いたぞ。

横島は、大体の話を察すると、僕に確認をとるような事を聞いてきた。


「…隆一、メリーの容態は?」
「ん?今日風邪引いたばっかりだからな。あんまり良くない」
「…咲はそれでも行くつもり?」
「あ、今日引いたの?…それじゃあ行かないほうがいいのかな?」
「…そのほうがいいと思う。…行くならせめて明日」
「そうだな。僕もそうして欲しい」

横島の冷静な会話の運びで、咲は落ち着きを取り戻した。

「ごめんね、隆一君、私、早とちりしてたみたい」
「いや、あいつも喜ぶと思うよ。明日学校終わったら顔見せてやってくれないか?」
「うん!横島さんも来るよね?」
「…え?私は……迷惑じゃなければ…行ってもいい」

横島は顔を背けながら、お見舞いに来る約束を取り付けてくれた。


「ただいまー…っと、まだ起きてないかな?」

予定通り、生姜とレモンと蜂蜜と雑誌を買ってきた僕は、こっそりとリビングに直行した。
メリーを悪戯に起こすもんじゃないからな。
起きたら携帯に電話をよこすだろ。

「さて、ホットレモネードでも作るか…」

練習に自分用のレモネードを作ろうと、買い物袋からレモンを取り出していると、僕の携帯が鳴り出した。
どうやら起きていたか、帰ってきた時の音で起こしてしまったようだ。

「はいよ、もしもし?」
「私メリー…。あなたのお部屋にいるの…」
「知ってる。どうかしたのか?」
「別に…なんでもないけど…。何か飲みたいわ…」
「水なくなったのか?」

あのポットは2Lくらい入るはずだぞ…。

「ううん、水以外のものを飲みたいの」
「あぁ、そういうことか。なら今作って持ってくよ。温かい飲み物だけど、いい?」
「うん、おねがい」
「あいよ。また何かあったら電話くれな」

丁度いい。二人分作って持って行こう。


粥よりか、幾分か作り慣れたホットレモネードを二人分持って、メリーの休んでいる部屋に戻ってきた。
メリーは布団から起きて座っていた。横になっているのにも飽きたようだ。

「おまたせ。ホットレモネード。飲めば体が温まるぜ?」
「初めて飲むわね…」
「熱いから気をつけろよ?」

カップを渡すと、メリーは水面に息を吹きかけ、口をつけた。

「ん…おいしい…」
「蜂蜜加えると、さらに甘くなるぜ?」
「甘くなるなら入れてきてよ」
「自分で入れろよ…。ほれ、使いきりのチューブタイプのやるから」

メリーはチューブを受け取ると、躊躇いもなく蜂蜜を全部入れやがった。

「うわ、それ入れすぎだろ。甘すぎないか?」

僕の心配をよそに、メリーはスプーンでレモネードをかき混ぜ、一口飲んだ。
しばらくの静止の後…。

「…甘い」
「言わんこっちゃない…。僕のと取り替えるか?」
「え、隆一の分は?」
「メリーに飲ませるために作ったんだから、メリーが飲まないでどうするんだって」

そう言って、蜂蜜入りレモネードを奪い取り、僕のレモネードを渡した。

「えっと…ありがとう」
「別にいいよ。…いつもメリーが読んでる雑誌買ってきたから、置いとくぞ。もう寝すぎて眠気もないだろ?」
「うん、眠くない。夜眠れるかな…」

ただでさえ生活リズムが狂っているメリーは、ため息をつく。
どうせ浅い眠りになるんだから早く起きて、朝日でも浴びてみたらどうだと言ってやりたい。

「寝れなかったら、眠くなるまで僕が話し相手にでもなるよ」
「…………うん」
「んじゃ、リビングにいるから、何かあったら電話な」
「待って…」

立ち上がり、部屋を出ようとした僕を、メリーが呼び止めた。

「ん、まだ何か欲しい物でもあるのか?」
「ううん。その…」

メリーは急にもじもじと言葉を詰まらせた。
少し間を置き、搾り出すかのように小さな声で、言葉を続けた。

「今、話し相手に…」

それ以上メリーは何も喋らなかった。
照れているのか、恥ずかしがっているのか。
僕は、途中までしか喋らなかった用件の最後までを悟り、その願いに応じた。

「……オッケー。僕でよければ、相手になるよ」
「あなたくらいにか、頼めないのよ…」

メリーは顔を俯かせて、ボソボソと喋る。

「僕くらいって…。咲とかいるじゃないか」
「風邪うつしたらいけないし…」
「あぁ、そっか。…といっても、あいつら明日お見舞いに来るぞ?」
「え!?いつの間に…」

レモネードをこぼしそうな勢いで驚くメリー。
なんだ、元気そうじゃないか。

「さっき商店街に買い物行ったときに」
「あいつらって事は、咲だけじゃないのよね…?」
「あぁ、横島も来るって言ってた。正直意外だ」
「うー…。こんなみっともない姿見せられない…」

『みっともない』ねぇ…。
着崩れたパジャマが、熱かったのか胸元がちょっとワイドに開いている。
さっきから目のやり場に困ってるんだが、早く気づいてくれないか。
そのふにゃふにゃなドリルのような髪先もだ。ドリルと言うか、バネだ。もしくはコイル。
せめて梳いて結わいたりしてくれないか。おまえの髪質はストレートだろうが。
…他にも指摘する部分もあるが、確かにみっともないな。

「始終布団を被っていればいい」
「嫌よそんなの…」
「じゃあせめて髪を何とかしとけ。あとはどうにでもなるが、髪だけはクセになったら厄介だぞ」

僕の指摘されてようやく、コイルロールになっている髪の状態を知ったようだ。

「…あ、ロール巻いたままだったんだ…」
「結わくなりしとけばいいんじゃないか。無難にポニテとか」
「何でポニーテールなのよ。寝にくいじゃない」

調子が出てきたのか、早速櫛を取り出して、髪の毛を梳きはじめた。

「あれ、ヘアアイロンじゃないのか?」
「髪洗ってないから、痛んじゃうわ。こういう時は櫛なの」
「ほぉ。…前から思ってたんだけど、メリーって綺麗な髪してるよな」
「…あ、ありがと」
「触ってみていい?」
「ダメよ。女の髪は、認めた人にしか触らせない物なのよ」
「そうなのか…。気をつけよう」

メリーとの会話は長く続いた。結局髪を結わく事はなかったが、今度起きているときはポニーテールも試してみると約束してくれた。
その日の夜はメリーも喋り疲れたのか、雑誌を読みながら眠っていた。





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