メリーの居る生活 クリスマス特別編 (2011年版)
お久しぶりです。年末恒例のアレを書かせていただきました。
いろいろな事情で駆け足で文章におかしな点が多々ありますが、楽しんでいただければ幸いです。
スケジュール的に書ききれませんでしたが、後編なるものもあります。書けたらいいなぁと思ってます。キタイシナイデネ
「アルバイト?」
「そうだ。店の前でクリスマスケーキを売るだけの簡単なお仕事。時給もいいらしいぞ?」
「そうだ。店の前でクリスマスケーキを売るだけの簡単なお仕事。時給もいいらしいぞ?」
クリスマスを目前に控えた夕方、僕はメリーにアルバイトの話を持ちかけた。さっきまでマンガを読んでいたメリーは怪訝な表情をうかべている。
「何で私がそんな事しなきゃいけないのよ。こんな寒い時期に、外に立ってケーキを売るなんて馬鹿げてるわ」
「でもケーキ好きだろ?」
「ケーキを食べるのは好きだけど、売るのはイヤ」
「でもケーキ好きだろ?」
「ケーキを食べるのは好きだけど、売るのはイヤ」
メリーはこれ以上話しかけるなの体で読書を再開した。ただ押すだけでは流石に食いつかないか。だがこれならどうだ。
「ここのお菓子屋は売れ残ったケーキは貰えるって有名なんだぜ?」
「え?」
「ケーキをホールでお持ち帰りなんだけどなー。給料まで貰えてケーキも付いてくるんだけどなー。いい条件だと思ったんだが、メリーがやらないなら他を当たるか……」
「え?」
「ケーキをホールでお持ち帰りなんだけどなー。給料まで貰えてケーキも付いてくるんだけどなー。いい条件だと思ったんだが、メリーがやらないなら他を当たるか……」
わざとらしくため息を付きながら部屋を出ようとすると、メリーは慌てて僕を引き止める。
「ま、待ちなさい!」
振り向くと、心なしか目を輝かせたメリーがすぐ後ろに立っていた。
「そのアルバイト……、考えてあげなくもないわよ?」
翌日。一昨日から続く大寒波が今日も猛威を奮っていた。僕はおばあちゃんに頼まれてメリーをお菓子屋に案内している。
メリーはお菓子屋に着くまで寒そうにしていたが、『ケーキのため』と自分にまるで暗示をかけるように言い聞かせていた。
メリーはお菓子屋に着くまで寒そうにしていたが、『ケーキのため』と自分にまるで暗示をかけるように言い聞かせていた。
「ここがバイト先だ。おばあちゃんはこっちにはあんまり来ないから、ここ入ったことないだろ?」
「そうね。見たところ普通のお菓子屋ね。……あら、中に居るのは瞳?」
「ああ、メリー一人じゃ大変だから瞳にも頼んだんだ。寒いしさっさと入ろう。こんちわー」
「そうね。見たところ普通のお菓子屋ね。……あら、中に居るのは瞳?」
「ああ、メリー一人じゃ大変だから瞳にも頼んだんだ。寒いしさっさと入ろう。こんちわー」
お菓子屋に入り、店の奥に聞こえるように大きめな声で挨拶をする。
「……メリー。おはよう」
「おはよ。意外ね瞳がこういうことするの」
「……時給がいいから」
「おはよ。意外ね瞳がこういうことするの」
「……時給がいいから」
瞳はダメもとで誘っていたんだが、最近発売されたハードのための資金を貯めたいとかで、すんなりと承諾してくれた。
メリーと瞳が話をしてると、厨房から肩幅の広いパティシエがパタパタと小走りでこちらに向かってきた。内股で。
メリーと瞳が話をしてると、厨房から肩幅の広いパティシエがパタパタと小走りでこちらに向かってきた。内股で。
「あらぁん、待ってたわよ! 隆ちゃん! ごめんね~、変なこと頼んじゃって!」
「これくらいお安い御用っすよ三船さん」
「やーね! みっふぃーって呼んでよ! ほーらっ!」
「お断りっす」
「これくらいお安い御用っすよ三船さん」
「やーね! みっふぃーって呼んでよ! ほーらっ!」
「お断りっす」
三船さんはくねくねしながら僕を突付いてくる。この人とは昔短期バイトで世話になって知り合った。
見た目は体育会系のお兄さんだが、心は『僕のお姉さん』らしい。どうにも僕は気に入られているらしく、今でも店が忙しい時期にはたまにヘルプを頼まれたりしている。
見た目は体育会系のお兄さんだが、心は『僕のお姉さん』らしい。どうにも僕は気に入られているらしく、今でも店が忙しい時期にはたまにヘルプを頼まれたりしている。
「あら、冷たい。隆ちゃん冬将軍より冷たい! 私凍えちゃう!」
「是非凍えてください」
「いやぁん、暖めてぇ! 隆ちゃんのぬくもりをちょうだーい!」
「直訴も辞さない」
「是非凍えてください」
「いやぁん、暖めてぇ! 隆ちゃんのぬくもりをちょうだーい!」
「直訴も辞さない」
執拗なセクハラを回避しながら、メリーと瞳に三船さんを紹介する。
紹介している間も三船さんのセクハラ攻撃は続いたが、メリーの特訓の成果が発揮できた。
紹介している間も三船さんのセクハラ攻撃は続いたが、メリーの特訓の成果が発揮できた。
「それじゃあ、僕は行くよ。三船さん、二人をお願いします。メリーも瞳も、三船さんの言う事はきちんと聞くんだぞ?」
「分かってるわよ。さっさと行きなさい」
「分かってるわよ。さっさと行きなさい」
紹介が済んだ頃には開店の時間が近づいていた。もう店の準備に取り掛からないといけないし、邪魔になると悪いから僕は店を出る事にした。
隆一が出て行くと、早速みっふぃーが私たちを店の中に手招いた。瞳と一緒に店の奥に入って行くと、休憩室のような部屋に着いた。
「今日二人にやってもらうお仕事は、もう聞いちゃってると思うけどケーキを売ってもらうことね。でもでも、今貴女たちが着てる服はちょっち暗めだからぁ、……あら、ごめんなさいね。馬鹿にしてるわけじゃないの。私は黒い色も好きよ? 危険なオンナって感じがね?」
ダンボールの山を荒々しくどかして、その中から一着の服を取り出した。
「今の時期は真っ黒より、この色よね。ささ、メリーちゃんはこれに着替えちゃって! きっとサイズもピッタリよ!」
「は、はぁ……」
「それでそれで、瞳ちゃんは……あらやだ、もう一着どこにやったかしら。あ、そうだわ! 瞳ちゃんはスレンダーだし男の子用でも着れるかしら? ねえ?」
「……」
「は、はぁ……」
「それでそれで、瞳ちゃんは……あらやだ、もう一着どこにやったかしら。あ、そうだわ! 瞳ちゃんはスレンダーだし男の子用でも着れるかしら? ねえ?」
「……」
私と瞳は、みっふぃーに赤と白のツートンカラーの服を押し付けられた。
服を渡し終えたみっふぃーは「更衣室は無いからこの部屋で着替えてね」と言い残して出て行ってしまった。
服を渡し終えたみっふぃーは「更衣室は無いからこの部屋で着替えてね」と言い残して出て行ってしまった。
「なんだか、別の意味で疲れそうね……」
隆一の言ったとおり、みっふぃーは悪い人間じゃないというのは何となく理解できた。けど、この調子でいられると疲れてしまいそうだ。
「……メリー、着替えないの?」
瞳のほうを見ると、服を脱ぎ始めていた。私も覚悟を決めてみっふぃーに渡された服に着替える事にした。
「あらん! 似合ってるわよ二人とも! ねえねえ、写真撮っていい?」
「ははは……」
「……」
「ははは……」
「……」
休憩室から出ると、厨房では慌しく内股でキッチンを走り回るみっふぃーがいた。みっふぃーは私たちを見つけるなり感嘆の声を上げて駆け寄ってきた。
私達が今着ているコスチュームは、サンタさんを模した赤と白の衣装だ。みっふぃーいわく『サンタガール』というらしい。
私と瞳とほとんど同じ服だけどボトムスが別々になっていて、私はミニスカートだけど、瞳は男性用の長ズボンだった。瞳は衣類と一緒に付いていた付け髭もしている。アゴから下げた髭が可笑しいけれど、本人は顔が隠れていた方が落ち着くそうだ。
私達が今着ているコスチュームは、サンタさんを模した赤と白の衣装だ。みっふぃーいわく『サンタガール』というらしい。
私と瞳とほとんど同じ服だけどボトムスが別々になっていて、私はミニスカートだけど、瞳は男性用の長ズボンだった。瞳は衣類と一緒に付いていた付け髭もしている。アゴから下げた髭が可笑しいけれど、本人は顔が隠れていた方が落ち着くそうだ。
「素敵なサンタさんが二人も、私のお店の前に居てくれるなんて感激だわ! もうケーキの売り上げなんてどうでもいいっ!」
「え!? でも売らないと……」
「……」
「あらやだ、私ったら! せっかく来てもらったのに売れなきゃ楽しくないわよねー」
「え!? でも売らないと……」
「……」
「あらやだ、私ったら! せっかく来てもらったのに売れなきゃ楽しくないわよねー」
大丈夫かな、この人。
「瞳ちゃんは会計担当で、メリーちゃんはお客さんの呼び込みとケーキ運び係。いいわね?」
「はい」
「お会計はちょっとややこしいから、渡されたお金はお店に持ってきてくれればいいわ。私がお釣りを渡すから、それを瞳ちゃんがお客さんに返すの」
「……はい」
「それじゃ、どんどんケーキを作って、どんどん売るわよ!えいえいおー!」
「お、おー……」
「……おー」
「はい」
「お会計はちょっとややこしいから、渡されたお金はお店に持ってきてくれればいいわ。私がお釣りを渡すから、それを瞳ちゃんがお客さんに返すの」
「……はい」
「それじゃ、どんどんケーキを作って、どんどん売るわよ!えいえいおー!」
「お、おー……」
「……おー」
みっふぃーから説明を受けて店の前で最後の確認を取り終わった。
みっふぃーは「忙しくなるわよー!」と意気込んで店の中に入って行ってしまった。瞳と二人きりになった所で寒空の下でのアルバイトが始まったと実感した。
呼び込みも始めていない棒立ちの私たちを早速、北風が襲った。
みっふぃーは「忙しくなるわよー!」と意気込んで店の中に入って行ってしまった。瞳と二人きりになった所で寒空の下でのアルバイトが始まったと実感した。
呼び込みも始めていない棒立ちの私たちを早速、北風が襲った。
「やっぱり寒いわ……。瞳は長ズボンでいいわね。」
「……でも、メリーの服は可愛い。短いスカートもいいと思う」
「え!? あ、ありがと……」
「……でも、メリーの服は可愛い。短いスカートもいいと思う」
「え!? あ、ありがと……」
それからしばらく店の前で立っていたけど、前を横切って行く人は私たちを横目で見て行っても、誰一人も買いにきてくれなかった。
「ねえ、瞳?これって呼び込みしなきゃダメなんじゃないかな?」
「……そうかもしれない」
「……そうかもしれない」
お昼前だけあって、人通りはそんなに多くないからかも知れないけど、このままだと夕方まで売れなさそうだった。ケーキが余るのは期待してるけど、大量に売れ残るのは面白くない。
「瞳は呼び込みとか得意?」
「……」
「……」
聞くまでもないでしょ? という目で瞳はこちらを見ていた。みっふぃーに言われたとおり私が行くしかないみたい。
「クリスマスケーキいかがですかー?」
私はカウンターから出て道の前で呼び込みを始めた。少しずつだけどお菓子屋と私に注目が集まってきたと思った。
「すいません。ケーキおいくらですか?」
「……え? あ、はい」
「……え? あ、はい」
呼び込みを初めて少し経った頃、若いお姉さんが瞳に話しかけてくれた。初めてのお客さんに瞳は驚いていた。
「……サイズ、4号と5号と6号がある……ます。4と5は5人前くらい、6は6人前以上」
みっふぃーに教わったとおりにたどたどしい敬語でケーキのサイズを案内している。何だか新鮮で面白い。
「4をー……、あ、やっぱり5号ください」
「……1500円です」
「はい」
「……お待ちください」
「……1500円です」
「はい」
「……お待ちください」
そう言って瞳は店の中に入っていくと、すぐにケーキの入った箱とお釣りを持って出てきた。店の中を覗くとみっふぃーが満面の笑みでこちらの様子を伺っている。お客さんが来たのを察知して準備していたようだ。
「……ケーキ5号とお釣り500円」
「うわ、大きい……。あ、はい、ありがとうございます」
「……あ、ありがとうございました」
「うわ、大きい……。あ、はい、ありがとうございます」
「……あ、ありがとうございました」
すれ違い様に「見栄張りすぎたかな……」と呟いた初めてのお客さんを見送ると、私は瞳に駆け寄った。
「どうだった? 瞳?」
「……宝箱を開けたらワープの罠を引いた時くらい驚いた」
「へ?」
「……とても驚いた」
「……宝箱を開けたらワープの罠を引いた時くらい驚いた」
「へ?」
「……とても驚いた」
満更でもないという表情をしながら、瞳は深呼吸をした。
「……メリー、どんどん売ろう。この調子」
「そうね。ケーキが売り切れない程度に頑張りましょう!」
「そうね。ケーキが売り切れない程度に頑張りましょう!」
私と瞳はお互いに頷くと、私は呼び込みに戻った。
ゲーセンで一勝負終えて出ると空は赤みかかっていた。まだ4時前なのに冬は日の足が速い。
火照った顔を外の冷気が一気に冷やしてくれる。深呼吸をすると肺に冷たい空気が流れ込んで心地よかった。
火照った顔を外の冷気が一気に冷やしてくれる。深呼吸をすると肺に冷たい空気が流れ込んで心地よかった。
「アルバイトか。ふむ、年末は稼ぎ時だからな。いい経験だ」
僕に続いて、俊二と咲もゲーセンから出てきた。
「瞳も三船さんもいるから任せれると思ったんだけど……」
「うむ、全員まともじゃないな」
「うむ、全員まともじゃないな」
俊二の隣で咲が苦笑いして言う。
「まともじゃないって……、瞳さんはともかく三船さんは大丈夫でしょ?」
さり気なく瞳に対して失礼な事を言っているが、咲本人は気付いていない。当事者がこの場いないから僕と俊二も聞き流す。
「つまりあの店は今モンスターハウスになっているわけだな? それは見ものだな」
「ケーキも売ってるモンスターハウスだな」
「ケーキはおまけなんだ……」
「ケーキも売ってるモンスターハウスだな」
「ケーキはおまけなんだ……」
今日僕がわざわざ寒い中、外に出てきたのは俊二とゲーセンで『クリスマス聖戦 ~世間の波に抗え戦士達~』と題して、クリスマスにスカスカになるゲーセンで待ち時間に影響されないゲームライフを送ろうとやってきたのだ。クリスマスはプライズゲーやプリクラは込み合うが、ビデオゲームフロアはいつも以上に閑散とする。そこに僕らは目をつけた。
ちなみにここにいる咲は友達とそのプリクラを撮りに来た所を、僕の到着を待っていた俊二に見つかったらしい。
そして二人はアルバイトをしているメリーの様子を見に行くと聞いて付いてくることにしたそうだ。
ちなみにここにいる咲は友達とそのプリクラを撮りに来た所を、僕の到着を待っていた俊二に見つかったらしい。
そして二人はアルバイトをしているメリーの様子を見に行くと聞いて付いてくることにしたそうだ。
「だからって、咲まで付き合わなくてもいいんだぞ? せっかくのクリスマスなのに」
「だって友達も変に気を使って帰っちゃうし、帰っても結局一人だし、こっちの方がクリスマス満喫できるからいいよ」
「だって友達も変に気を使って帰っちゃうし、帰っても結局一人だし、こっちの方がクリスマス満喫できるからいいよ」
満喫出来ているのか疑問だが、本人がいいと言っているならいいか。
「俺も三船さんに会うのは久しぶりだな。出来れば二度とお目に掛かりたくはなかったが」
「お前もだ。なんで付いてくるんだ」
「面白そうだからな」
「お前もだ。なんで付いてくるんだ」
「面白そうだからな」
僕たちは一路メリーたちの働くモンスターハウス、もといお菓子屋に様子を見に向かった。
「おー、メリー頑張ってるな」
「あそこに立っているのは……、瞳か?」
「ほんとだ、メリー可愛いー! あの付け髭してるのは瞳さん? カーネルさんみたいに動かないね」
「あそこに立っているのは……、瞳か?」
「ほんとだ、メリー可愛いー! あの付け髭してるのは瞳さん? カーネルさんみたいに動かないね」
お菓子屋の近くまで来た僕たちは、一旦離れた場所から様子を伺うことにした。メリーは忙しなく動いているようにみえるが、成果は芳しくないらしい。たまに客が瞳に近づいて行くが、すぐに離れていってしまう。
「苦戦してるみたいだな」
「うむ、そろそろエンジンをかけないと売りきるのは難しかろうな」
「メリー疲れてないかな? ほら、何か元気ないよ?」
「うむ、そろそろエンジンをかけないと売りきるのは難しかろうな」
「メリー疲れてないかな? ほら、何か元気ないよ?」
咲の言うとおり、明らかにメリーはスタミナ切れを起こしていた。ずっとあの調子で動き回っていればメリーとはいえ疲れるのも当たり前か。
「ふむ、助け舟を出すか? いや、これは愚問か。そのつもりで来たんだったな」
僕の肩を叩いて俊二はニヤニヤしながら言う。
「イラッと来るからそのしたり顔は止めろ。行くぞ」
「隆一君は何だかんだ言って過保護なんだからねー。私もだけど」
「俺もだ。困っている女子は見捨てておけん」
「お前さっき『面白そうだから』って言ってたよな」
「隆一君は何だかんだ言って過保護なんだからねー。私もだけど」
「俺もだ。困っている女子は見捨てておけん」
「お前さっき『面白そうだから』って言ってたよな」
メリーは僕たちに気が付くと一瞬顔をしかめて、すぐに瞳に駆け寄った。僕らがここに来るとは思っていなかったようだ。
「な、何しに来たのよ!」
「ちゃんとケーキが売れてるか見に来たんだよ。結構な大盛況ぶりじゃないか」
「うるさいわね。これから売り始めるのよ!」
「む? それはいけないな。売れ始める夕方でこの状態では、スタートダッシュを損ねたか」
「……」
「ほら、隆一君も俊二君も真面目に!」
「え、俺今のは真面目に」
「ちゃんとケーキが売れてるか見に来たんだよ。結構な大盛況ぶりじゃないか」
「うるさいわね。これから売り始めるのよ!」
「む? それはいけないな。売れ始める夕方でこの状態では、スタートダッシュを損ねたか」
「……」
「ほら、隆一君も俊二君も真面目に!」
「え、俺今のは真面目に」
不機嫌そうな目で瞳がこちらを見ている。すこしからかいすぎたようだ。
それを見かねて咲が僕らをたしなめると、メリーの頭を優しく撫でて言う。
それを見かねて咲が僕らをたしなめると、メリーの頭を優しく撫でて言う。
「私たちは手伝いに来たんだよ? というか、私は隆一君が言い出したからついてきただけだけど。ケーキはこれから売ればきっと大丈夫。今度は私たちと頑張ろう?」
咲はまるでお姉さんのようになだめると、憤慨していたメリーは大人しくしたがった。
「う、うん……。ありがと」
咲がメリーがあやしている横で、僕と俊二は道行く人々を眺めながら話した。
「それじゃ、売るか? どうせだ打点数でも競うか?」
「カウントが面倒だ。緩く行こうぜ?」
「……自信あるわね」
「カウントが面倒だ。緩く行こうぜ?」
「……自信あるわね」
僕らの会話を聞いていた瞳が珍しく会話に入ってきた。
「去年と一昨年は僕らがここで売ってたからな。クリスマスシーズン以外でもやったし、経験は僕らの方が上だぜ?」
「今年はやらずに済むと思ったが、事情が事情だ。今一度この通りに大旋風を起こしてくれよう」
「……そう。期待してる」
「今年はやらずに済むと思ったが、事情が事情だ。今一度この通りに大旋風を起こしてくれよう」
「……そう。期待してる」
瞳はもう話すことは話したという様子でさっきとまったく同じポジションで棒立ち状態に戻った。
「ところで瞳、今着てる服だけど、それってもしかして……」
「……?」
「あぁ、そうだな。去年隆一が着てた服だろ?」
「あ、やっぱり?」
「……!?」
「……?」
「あぁ、そうだな。去年隆一が着てた服だろ?」
「あ、やっぱり?」
「……!?」
いつもは感情を表に出さない瞳が、一瞬目を見開いた。俊二は見逃していたらしいが、僕とは目を合わせていたから見間違いではない。
そして瞳は顔を赤らめてうつむいてしまった。メリーと咲も瞳の異変に気が付き、近寄るが、瞳は大丈夫といって赤くなった顔を見せようとしなかった。
そして瞳は顔を赤らめてうつむいてしまった。メリーと咲も瞳の異変に気が付き、近寄るが、瞳は大丈夫といって赤くなった顔を見せようとしなかった。
「さて、僕は三船さんに話しに行くけど、二人はどうする? やるなら結構遅くまでになるけど」
「いまさらだな」
「メリーと頑張るよ!」
「よし。あ、そうだ瞳、付いてきてくれ」
「……?」
「いまさらだな」
「メリーと頑張るよ!」
「よし。あ、そうだ瞳、付いてきてくれ」
「……?」
俊二と咲の返事を聞いて、僕は瞳を連れてお菓子屋に入った。
「三船さーん」
「あら、売れた? ……って、隆ちゃ~ん! 私に会いに来てくれたのね! 嬉しいっ」
「あら、売れた? ……って、隆ちゃ~ん! 私に会いに来てくれたのね! 嬉しいっ」
厨房から顔を出した三船さんは、僕を見るや否や、カウンターを飛び越えて向かってきた。
「それは絶対無い」
「あらぁん、残念。でもでもどうしたの? 遊びに来てくれても、これから忙しくなるのよ?」
「サンタを三人追加ですよ。面接は僕の顔パスでいいですね?」
「あらぁん、残念。でもでもどうしたの? 遊びに来てくれても、これから忙しくなるのよ?」
「サンタを三人追加ですよ。面接は僕の顔パスでいいですね?」
それを聞くと、三船さんは目に涙を溜めて僕と、何故か近くにいた瞳を抱きしめた。
「りゅうちゃああああああああああん!!だいすきいいいいん!!」
「いででで!大袈裟!大袈裟だから!」
「……なんで」
「いででで!大袈裟!大袈裟だから!」
「……なんで」
瞳も迷惑そうな目で僕を見ている。赤面は治ったようだ。
三船さんを落ち着かせると、僕はサンタコスチュームを受け取った。男性用は有り余っているそうだ。理由は深くは考えまい。
「でも女性用が無いと咲が着替えられないな……」
「ごめんねぇ。男の子用なら8歳から成人用まであるんだけど……」
「そこまで行くと気持ち悪いです」
「ごめんねぇ。男の子用なら8歳から成人用まであるんだけど……」
「そこまで行くと気持ち悪いです」
三船さんいわく、他の女性用はどこにしまったか覚えておらず、瞳に男性用の服を着せているのもそのせいだと言っていた。
「仕方ないか……。よし、咲にも男性用を着せてもらうとして、メリーもズボンにしてくれますか?」
「あら、どうして? メリーちゃん可愛いじゃない?」
「あら、どうして? メリーちゃん可愛いじゃない?」
僕に咲用のサンタコスチュームを渡しながら、三船さんが首を傾げる。
「考えがあるんですよ。主に男どもにケーキを買わせる秘策です。あ、先に俊二と僕が着替えるんで、呼んできますよ」
「もうお前の後ろにいるが」
「……それはメリーの役割だろうが」
「あら、俊ちゃんも来てくれたのね。助かるわぁ!」
「またお会いできて光栄です」
「もうお前の後ろにいるが」
「……それはメリーの役割だろうが」
「あら、俊ちゃんも来てくれたのね。助かるわぁ!」
「またお会いできて光栄です」
いつの間にか入ってきていた俊二は、三船にわざとらしくお辞儀をする。
「とりあえずお前はこれを着ろ。んでケーキ売れ」
俊二に服を渡して奥で着替えさせている間に僕はもう一度外に出て、咲とメリーを店の中に呼び込んだ。
「これ、咲のコスチューム。男用だけど多分着れるだろ?」
「大丈夫かな?」
「大丈夫かな?」
服を広げて心配する咲を見ていた三船さんがフォローする。何が『大丈夫なのか』を察しての行動だろう。
「大丈夫よ、あなたお胸そんなに大きくないし、ゆったりした服だから安心して!」
「おむ―――ッ!? せ、セクハラですよ!?」
「あらん?」
「おむ―――ッ!? せ、セクハラですよ!?」
「あらん?」
三船さんは初対面の相手にも遠慮なしだ。そのせいで接客はままならないのも言うまでもない。
「さて、あとは瞳にサンタガールをやって欲しいんだけど、そのズボンはちょっとな……」
「サンタガールって?」
「サンタガールって?」
メリーが瞳を見ながら聞き返す。
「丁度メリーがその格好だな。瞳は人を惹きつける何かを持ってるから、効果があると思うんだけど」
「……」
「……」
それを聞いた瞳が顔を背ける。どうかしたのかと聞こうとしたが、メリーに遮られてしまった。
「でも昼間はそうでもなかったわよ?」
「そりゃ、瞳が髭もじゃになってるからだ。髭は外したほうがいいな」
「……ん」
「そりゃ、瞳が髭もじゃになってるからだ。髭は外したほうがいいな」
「……ん」
瞳が付け髭をを外して僕に渡す。渡された髭を今度はメリーに渡す。
「私に渡してどうするのよ。……あ、そうだ。私のスカートを渡すのはどう?」
「え、メリーはどうするんだよ」
「オールオッケー。メリーちゃんのはけそうなズボンもあるわよ?」
「え、メリーはどうするんだよ」
「オールオッケー。メリーちゃんのはけそうなズボンもあるわよ?」
そこに咲に追い詰められている三船さんがこっちを見てピースサインを作っている。
「話は終わってませんよ!!」
「も~! だから女の子って野蛮だからキライッ!!」
「――――!? 言うに事欠いて野蛮とは……!! ココで締め落としてくれましょうか!?」
「あ~れ~……!!」
「騒がしいな……って、小娘! 何をしているか!? 待て待て、咲それ以上はヤバいって!!」
「も~! だから女の子って野蛮だからキライッ!!」
「――――!? 言うに事欠いて野蛮とは……!! ココで締め落としてくれましょうか!?」
「あ~れ~……!!」
「騒がしいな……って、小娘! 何をしているか!? 待て待て、咲それ以上はヤバいって!!」
早い所準備を済ませないと三船さんが締め落とされそうだ。
俊二も素に戻るほどの緊急事態が落ち着いたところで、瞳とメリーが興奮した咲を引き摺るような形で三人を更衣室兼休憩室に見送り、僕も店の隅で素早く着替えた。
俊二も素に戻るほどの緊急事態が落ち着いたところで、瞳とメリーが興奮した咲を引き摺るような形で三人を更衣室兼休憩室に見送り、僕も店の隅で素早く着替えた。
俊二と二人で「この服を着るのも年中行事みたいになってるな」などと話していると、奥から着替えを終えた女性陣が出てきた。
「お待たせー」
「お、来たか。って、小さなサンタが出てきたな」
「小さいっていうな!」
「お、来たか。って、小さなサンタが出てきたな」
「小さいっていうな!」
最初に視界に入ったのはスカートから長ズボンにチェンジして、さらにさっきまで瞳が付けていた付け髭を装着したメリーだった。
「咲がこうすると余計似合うって言われた」
「ああ、なるほどね。似合う似合う」
「うむ。咲も考えたものだ。頭に血が上っていた人間の判断とは思えんな」
「もう、いいでしょ。そのことは忘れてよ! ……へへ、どうかな、似合う?」
「ああ、なるほどね。似合う似合う」
「うむ。咲も考えたものだ。頭に血が上っていた人間の判断とは思えんな」
「もう、いいでしょ。そのことは忘れてよ! ……へへ、どうかな、似合う?」
メリーに続いて咲も出てきた。男性用の服だからメリーや僕たちと同じものだ。
「かっこいいぜ。咲」
「うむ。悪くないな」
「何だか褒められてる気がしないのはなんでかしら? メリーとお揃いだし、一緒に宣伝しようか?」
「別にいいよ? あ、これって文化祭以来だね」
「うむ。悪くないな」
「何だか褒められてる気がしないのはなんでかしら? メリーとお揃いだし、一緒に宣伝しようか?」
「別にいいよ? あ、これって文化祭以来だね」
文化祭で二人が何をやっていたか知った事ではない。二人ではしゃいでいる咲の後ろからスッと音も無く瞳が出てきた。
「お、サンタガールのお出ましか」
「ほほぉ……、これは中々」
「……あんまり見ないで」
「ほほぉ……、これは中々」
「……あんまり見ないで」
俊二が吟味するようにサンタガールに扮した瞳を眺める。じっくり眺めたくなるのも分かるが……。
「このように、立ってるだけで人を惹きつける魅力をもった瞳がいる。加えてウザいくらいに洞察力の優れた俊二がケーキを買ってくれそうな客を見つけて声を掛けるように指示する。そして宣伝用マスコットとしてサンタに扮したメリーが声をかけまくる。これで売れないわけが無いだろ!」
メリーたちに集まった全員に何かしらの強みがある。これを武器に一気に売りつけるのが僕の考えだ。
「あのー。隆一君、私は?」
先ほど名前を出されなかった咲が恐る恐る挙手して僕に訊く。
「あ、……メリーのサポートで」
「今『あ』って言った!?」
「言ってない言ってない。第一僕自身、何しようか考えてる所だし」
「否定してるのか認めてるのかどっちかにしてよ……。まぁ、私はメリーと一緒にいれるなら文句ないけど。あ、メリーちょっとお髭がずれてるよ」
「今『あ』って言った!?」
「言ってない言ってない。第一僕自身、何しようか考えてる所だし」
「否定してるのか認めてるのかどっちかにしてよ……。まぁ、私はメリーと一緒にいれるなら文句ないけど。あ、メリーちょっとお髭がずれてるよ」
メリーの付け髭の位置を調整している咲。それを瞳がチェックして言葉に出さないが頷いて返事をする。そして二人に挟まれてメリーは楽しそうに笑っている。
そんな三人を見ていた僕に俊二が語りかけてきた。
そんな三人を見ていた僕に俊二が語りかけてきた。
「うむ、全員の士気が高まったな。さすが場を取りまとめるのは得意だな」
「そうでもないさ。一人でも協力してくれなかったら僕じゃ手に余る。……きっとみんながメリーを中心に考えてくれてるから、上手く事が進むんだ」
「一人はあからさまに金目当てだと聞いたが?」
「瞳は……、あいつもメリーの事は気にかけてるんだよ。多分」
「……ふむ。ま、俺もメリーの事は他人とは思っていないし、お前の言う事は多分あってるだろうな。……そろそろ始めるか?」
「そうでもないさ。一人でも協力してくれなかったら僕じゃ手に余る。……きっとみんながメリーを中心に考えてくれてるから、上手く事が進むんだ」
「一人はあからさまに金目当てだと聞いたが?」
「瞳は……、あいつもメリーの事は気にかけてるんだよ。多分」
「……ふむ。ま、俺もメリーの事は他人とは思っていないし、お前の言う事は多分あってるだろうな。……そろそろ始めるか?」
俊二が時計を見る。僕も釣られて壁を見ると、時計の針は5時を回っていた。外も暗くなっている。
「そうだな。よし、みんな始めるぞ!」
僕の呼びかけに全員がこちらに注目する。ついでに今まで白目を向いて倒れていた三船さんも蘇った。
「サンタ軍団出動だ!」
「ふははは! 貴様ら! メリークリスマース!!」
「メリー! 一緒に行きましょ!」
「うん!」
「……」
「いってらっしゃーい。けほっ。私ったら何で床の上で? ……うーん?」
「ふははは! 貴様ら! メリークリスマース!!」
「メリー! 一緒に行きましょ!」
「うん!」
「……」
「いってらっしゃーい。けほっ。私ったら何で床の上で? ……うーん?」
サンタたちを見送る三船は、くらくらする頭で何が起きたか整理した。が、どうしても思い出せない。すっかり記憶が抜け落ちてしまっていた。
「あ、いけないケーキ! ケーキ! 沢山作らなきゃ!」
三船は過ぎた事を考えるのは好きではない。それに今自分のためにケーキを売ってくれる若者達が5人も集まってくれたのだ、パティシエとしてこれほど嬉しい事は無い。
丹精を込めてケーキを作ることが、彼らに酬いるただ一つ自分が出来る事だった。
丹精を込めてケーキを作ることが、彼らに酬いるただ一つ自分が出来る事だった。
「ふふ、私のお店に沢山の可愛いサンタさん。最高のクリスマスプレゼントだわ~。ありがとう、サンタさん。んふふふ!」
三船は巨体を揺らし、厨房に入っていった。内股で。