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2.2.　人民革命期から（1921年～1928年）

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2.2.1.　人民革命期、ダムバドルジ政権時代の歴史 　この時代の歴史を生駒雅則<a title="" href="#_ftn1"> [1] </a>とTs.バトバヤル<a title="" href="#_ftn2">[2] </a>の著書を中心にまとめてみよう。時期として2つに分けられる。すなわちボグド・ハーンを制限君主とする1924年までの混乱した時代と、ボグド・ハーンが他界し、人民革命党委員長ダムバドルジがソ連一辺倒ではない開明的な政策を進めた1928年までである。ただ一貫してあったことは、モンゴル国内の指導者たちは内モンゴルとの一体化を望んでいたのに対し、モンゴルを指導する立場にあったコミンテルンは内モンゴルを領有し続けたい中国との関係悪化を恐れ、モンゴル国の内モンゴルに対する立場を認めず、この対立は1928年の「極左政策」への転換まで続いた。また、ソ連領内にとどまらざるを得なかったブリヤートのモンゴル人たちもモンゴル人の国家作りに大きく貢献したことは記しておこう。 　1920年、モンゴル人による初の革命組織、モンゴル人民党が誕生した。革命組織とはいえ彼らは自分たちが「宗教と民族」のために戦うと規定し、モンゴルの貧困と外国からの支配に終止符を打つことが目的の、「民族統一戦線」的性格の党であった。1921年、人民党は苦労してソ連、コミンテルンの協力を取り付け、募兵を行い、中国軍、ウンゲルン白軍を破りフレーを解放した。モンゴルは独立を取り戻し、人民党とボグド・ハーンとの誓約により制限君主国となった。しかし、ロシア人革命家の指導下に組織され共産主義思想の普及を目指したモンゴル革命青年同盟と、民族主義者、ラマ僧から社会主義者までが在籍する雑多な組織であり1921年革命の主役であったモンゴル人民党とが激しく対立し、国内は混乱した。この混乱により人民党の設立の中心にあったボドー<a title="" href="#_ftn3"> [3] </a>やダンザン<a title="" href="#_ftn4">[4] </a>が粛清されるという事態になり、この対立は青年革命同盟が人民党の下部組織になることで収束したが、結果的にコミンテルン<a title="" href="#_ftn5"> [5] </a>の介入が激しくなることとなった。 　1924年、ボグド・ハーンが他界し、党政府は以後この活仏の転生者は出さず、国名をモンゴル人民共和国と定めた。第1回国民大会議が招集され、首都クーロンは「ウランバートル（赤い英雄）」と改称された。ダムバドルジ率いる党政府は、この時期、国内の経済基盤を整備し社会主義建設への準備を整え、海外に広く門戸を開くよう努めた。具体的には、独自通貨トゥグルクの流通開始、中国の高利貸資本による経済独占の解消、初歩的な協同組合運動の育成、学校の整備、外国人の経済活動の自由化、独仏露への留学生派遣である。またラマ教寺院の特権廃止と課税も行われたが、一方で寺院との融和協力も試みられていた。 　ダムバドルジ政権時代は後に「右翼偏向」とされ、28年以降はソ連の介入が強まり「左翼偏向」の政策をとっていくことになる。 　なお1921年革命の際、軍事面で活躍し、人民党設立にかかわったスフバートルは病死したといわれ、粛清を免れたことから、モンゴル人民共和国成立の英雄として称揚されていくこととなる。 2.2.2.　革命歌の時代 　1920年代を音楽そのものの発達の歴史を述べてみよう。この時期は革命歌が多く作られた時期であった。革命歌そのものの存在が政治的ではあるが、そのことに関しては2.2.3.に譲るとしよう。とにかくこの時代は新しい歌として革命歌として多く作られたのだ。その中でも《キャフタの砦》<a title="" href="#_ftn6"> [6] </a>はモンゴル近現代音楽の最初の作品とされている<a title="" href="#_ftn7"> [7] </a>。歌詞の一部を示すと以下の通りである。 　「キャフタ砦を陥とすには 　　ガラスのランプはいらないぞ 　　やってくるガミン（筆者注：中国軍）を 　　大砲の弾で打ち倒した<a title="" href="#_ftn8"> [8] </a>」 この詩は1921年の中国軍からのキャフタ解放戦の際にモンゴル軍の間で自然発生的にできたと言われ、同解放戦に参加していたガワル・ホールチ（生没年不詳）がこれに曲をつけたといわれる<a title="" href="#_ftn9"> [9] </a>。ただ、まったく新しく曲を作ったのではなく、実際には元から民謡の借用で、「《キャフタの砦》はモンゴル民間に昔からある《フレル・スム》に新しく詞をつけ、旋律のアウトライン、形式の必要なところだけを鋭敏に選んで使って、音価をはっきりさせ、大人数で歌えるよう改良したメロディーをもつ、革命の意義とも一致させたものである<a title="" href="#_ftn10"> [10] </a>」。この他、後に詳しく述べる音楽家M.ドガルジャブのこの時期の《空飛ぶ飛行機》<a title="" href="#_ftn11"> [11] </a>、《赤旗》などの諸作品や、《革命青年の歌》、《モンゴル・インターナショナル》、《ピオネール<a title="" href="#_ftn12"> [12] </a>の歌》などの有名な歌を含むこの時期の歌のほとんどが、ジャンツァンノロブ<a title="" href="#_ftn13"> [13] </a>によれば、「民衆の間の民謡のどれかのメロディーに基づ」いていたという。そしてこの時期よりモンゴル音楽は「旋律、リズムは西洋のマーチの志向性の影響の下、革新され豊かに」なり「旋律と装飾音、拍が不定形な状態は減少し、確実な、一定の均等な形で歌われるようになった」という。歌を皆で行進しながら歌う必要性から、旋律に装飾が少なく簡単でリズムはっきりして合わせやすくなったこと、またテーマを正しく伝える必要性から、規律正しく歌う必要性から歌が人によって変化させないようになったこと、この二点が言えるだろう。以上のような歌は楽譜のようなものではなく、口伝えで流行し、広まっていったという<a title="" href="#_ftn14"> [14] </a>。歌詞を見ると韻文であり、口承文芸が支配的な世界に生きてきたモンゴル人たちにとっては馴染みやすく、また民謡を元にさらにシンプルになっていたので歌い易かったことであろう。 革命歌といわれるもの以外にどのような音楽があったのかは今回詳しく調べることができなかった。しかし、ジャンツァンノロブによれば「1925年首都の第1学校に吹奏楽サークル、1926年師範学校にA.コリツォフによって指導された吹奏楽団などそれぞれ組織され、軍のテアトルでは吹奏楽が主流となって、モンゴルの歌を吹奏楽伴奏で演奏するようになった<a title="" href="#_ftn15"> [15] </a>」という。これらの吹奏楽団がどのようないきさつで組織され、どのような活動を行っていたか、ボグド・ハーン時代の軍楽隊と関連は無かったのか、などは不明である。 また、それまでの英雄叙事詩や民謡があったことは確かであろう。ただし、それらも「革命的内容」や、上記のようなリズムの定型化、曲が歌う個人によって変化しなくなった、などの影響を受けた方向で変容していった可能性は否定できない。 それから清朝期に流行った風刺歌や、掛け合い歌を演劇に仕立てた「歌劇」が盛んに演じられるようになった<a title="" href="#_ftn16"> [16] </a>。なおこれは詩歌を手書きした程度のものを元に演じられたようで、楽譜、特に西洋式の楽譜などはこの時代には使われていなかった。この「歌劇」政治性は後で述べるが、これがモンゴルにおいてオペラ発展の基盤となったという<a title="" href="#_ftn17"> [17] </a>。 一つ筆者が気になったことを述べておく。2.2.1.で述べたが、この時期は海外へ留学派遣が始まった時期であった。ソヴィエトへは1921年から留学生派遣が始まり<a title="" href="#_ftn18"> [18] </a>、1926年にはドイツ、フランスへ留学生を45人派遣した<a title="" href="#_ftn19">[19] </a>。ジャンツァンノロブによると「彼らが歌った歌、聴いた音楽、踊った踊りは特別」で「西洋音楽の影響のモンゴルへの浸透<a title="" href="#_ftn20"> [20] </a>」に貢献したということである。しかし、ここで不思議なのは、彼らの中から、音楽家が出たという記録のないことである。モンゴル最初のプロフェッショナルな作曲家とされるゴンチグソムラーがイルクーツクで音楽を学んだのは1933年からである<a title="" href="#_ftn21">[21] </a>。20年代に海外で音楽を学び、モンゴルで音楽家として活動した人物は今の調査の段階では見当たらなかった。もし20年代のソヴィエトやドイツ、フランスといった、モダニズムも許容された自由な空気の中<a title="" href="#_ftn22"> [22] </a>で音楽を学んでいたモンゴル人がいたとすれば、はなはだ興味深い。モンゴルの近代化以降の作曲家のほとんどが自由に音楽を学べなくなってから<a title="" href="#_ftn23"> [23] </a>専門的な西洋音楽を学んだのだ。ただドイツ、フランスへ留学した人々の中には30年代に粛清された人々も多いと言われている。この疑問を明らかにするのは、少々難しいかもしれない。 2.2.3　1920年代の音楽の政治利用 　1920年代は芸能全体が積極的に政治利用された時代であった。革命と社会改良を党政府が推し進めたかったにもかかわらず、上村明もこの点を指摘している<a title="" href="#_ftn24"> [24] </a>が、1921年のモンゴル語識字率は0.7パーセントに過ぎなかった<a title="" href="#_ftn25"> [25] </a>からである。1922年に政治宣伝活動のための演劇サークルができる。また1923年7～8月に行われたモンゴル人民党第2回大会中央委員会報告会の芸術に関する決議として「映画上映会では海外の産業、情勢研究を示し、これをみれば最新の海外の国家の出来事を知ることができる。このように、それら劇、映画を見て知れば、本質をさらによくでき、演劇、映画を中央委員会が監督し、若者たちを中央委員会に協力させて合同を実現させ、このような演劇、舞踊、歌が人々の啓蒙教育の序となるのであって、これは人民をよりよくする（文化的にする－監修者注）途上において重要かつ有益であるため、我が党がこれらの任務をリードしていくよう励むこと<a title="" href="#_ftn26"> [26] </a>」が出される。さらに1924年には党中央委員会の直接指導によりウランバートルに民衆の文化啓蒙活動のためのスフバートル記念中央クラブが作られ、演劇、舞踊、スポーツのグループが組織された<a title="" href="#_ftn27"> [27] </a>。これらは特に20年代に、下に述べる移動音楽演劇部隊とそれに関する決議と併せて、音楽が革命宣伝とともに教育啓蒙の積極的な役割も党政府から期待されていたことを示す。以下この時代の音楽の政治利用について細かく見ていこう。 　さて、このことは社会主義時代から強調されてきたことだが、2.2.2.で述べたこと以外の1920年代の音楽の重要な革新は、明確な「革命的」主題を持つことになったこと<a title="" href="#_ftn28"> [28] </a>であったという。このことは歌の歌詞にも非常にわかりやすく観察できる。《キャフタの砦》やレーニンを題材にした多数の歌<a title="" href="#_ftn29"> [29] </a>だけでなく、《空飛ぶ飛行機》のような歌もあったことからも示される。なおS.ボヤンネメフ<a title="" href="#_ftn30">[30] </a>作詞の《モンゴル・インターナショナル》は1950年にTs.ダムディンスレン作詞、B.ダムディンスレン、L.ムルドルジ共同作曲の《モンゴル人民共和国国歌》ができるまで国歌のような役割を果たしており、ブリヤートや内モンゴルでも広く歌われたという<a title="" href="#_ftn31"> [31] </a>。なおこの項に出てきた歌もやはり民謡を元に新しく歌詞をつけたものだった。これらの歌を作ったドガルジャブやロブサンなどの音楽家はほとんど党政府の役職にあったか、党政府指導のクラブやサークルに属していた。ただし、この時代のその他の音楽家については資料があまり残っておらず、把握できない。体制に従わなかった音楽家がいなかったとは言い切れない。これは1930年代も同じだが、どちらにしろ確証のないことで、今後インタビュー調査などが進めば、分かるかもしれない。 　また、歌を作るだけでなく、党政府が移動音楽演劇部隊とでも言うべきものを組織し、巡業演劇、音楽会を始めた。これは1925年9月25日に行われたモンゴル人民革命党第4回大会決議の中にある、党の宣伝任務における「クラブ」の活動の有用性を確認し示したものの一つ「５、クラブの傍でシー・ジュジグ（演劇）を行い、党のイデオロギー広める活動に映画がはなはだ有効であるので、これを見せる場を設ければよい<a title="" href="#_ftn32"> [32] </a>」を受けて行われたものである。この移動音楽演劇部隊の出発に際し出された報告書が人民革命党中央アーカイブに残っておりJ.エネビシがこの報告書と、移動音楽演劇部隊に参加していたO.ダシデレグの語った話、ロシア人B.ブルドゥコフ<a title="" href="#_ftn33"> [33] </a>が移動音楽演劇部隊との出会いを書いた雑誌記事を使って分析を行っている<a title="" href="#_ftn34"> [34] </a>。それによると、この移動部隊は人民革命党、革命青年同盟中央委員会、スフバートル記念中央クラブ、人民教育省の４組織合同で組織されたもので、東側半分と西側半分の２つの部隊に分かれて巡回した。この第1回巡回部隊がウランバートルを出発したのは東西両部隊とも1926年6月で、西側担当部隊はなんと3000キロに及ぶ行程を回り、最終的に11月に帰ってきたという。車を使って移動し、行く先では地方の党員はもちろん一般牧民からもかなり歓迎されたという。またこの時代らしいエピソードとしては僧院が協力的で、部隊に公演の場所を提供している。ただ、公演の内容、特に音楽がどのような形で宣伝に使われたのかはよく分かっていない。エネビシは公演内容として3つのパターンの可能性を提示している。すなわち、１つ目は歌、音楽の入った小さな劇をいくつかやり、そのあとアジテーション演説があるパターン、2つ目はいくつかの劇とは別に演奏会を行い、アジテーション演説を行ったパターン、3つ目は掛け合い歌<a title="" href="#_ftn35"> [35] </a>による演劇があってからアジテーション演説を行うパターン、以上3つである。ここで、木村理子の研究によれば「1920年代、革命期の演劇とは、このような掛け合い歌による歌劇であり、1922-1923年の青年同盟演劇サークルの上演作品には、口承文芸を題材にした作品が数多く見られる<a title="" href="#_ftn36"> [36] </a>」とある。また青年同盟がこの部隊にも協力していたことも考えると、エネビシの3つ目のパターンの説、掛け合い歌による演劇とアジテーション演説が、移動音楽演劇部隊の公演の内容であったと考えるのが妥当であろう。 　上で少し触れたが、この時期は革命思想を伝える演劇の分野でも音楽が重要な役割を果たした。木村理子<a title="" href="#_ftn37"> [37] </a>がこの演劇について優れた研究を行い、この時代を「歌で演じた革命期」としているので、そこから音楽と政治に関係のある部分だけ拾ってみる。1921年、「コミンテルンの政策に則り、初めて軍官学校に人民委員をメンバーとした演劇サークルが結成されている<a title="" href="#_ftn38"> [38] </a>」。そして「この軍官学校のサークルを母体として青年同盟に演劇サークルが移り、演劇活動を開始している<a title="" href="#_ftn39"> [39] </a>」。このサークルは「軍と党の人民教育啓蒙局の管轄にあり<a title="" href="#_ftn40"> [40] </a>」「政治宣伝活動を行う機関であった<a title="" href="#_ftn41"> [41] </a>」という。このような活動は「ロシア革命期のアジテーション劇場の形態をモデルにし、任務として遂行された<a title="" href="#_ftn42"> [42] </a>」と指摘している。この時期の演劇は「台詞すべてが歌によって謡われ、歌を聴きながら情景を想像する<a title="" href="#_ftn43"> [43] </a>」掛け合い歌による演劇であった。演劇とはいえ、その中の「歌」が重要な役割を果たし、政治権力がこれを利用したことがこの研究から分かる。 　以上のように1920年代はモンゴル人民党、政府が非常に積極的な政治的役割を音楽に負わせた時代であった。革命歌、移動音楽演劇部隊などがそれにあたり、革命演劇にも歌は不可欠だった。そしてその内容と目的は、政治的イデオロギーの浸透と、啓蒙や教育のためであったと言える。演劇、「歌劇」は特に党政府にとって有効と認知されたため、この時代以降も形式を発展させながら大いに利用していくことになる。 <div> <hr width="33%" size="1" align="left" /><div id="ftn1"> <a title="" href="#_ftnref1"> [1] </a>：生駒(2004)前掲書参照 </div> <div id="ftn2"> <a title="" href="#_ftnref2"> [2] </a>：バトバヤル(2002)、前掲書参照 </div> <div id="ftn3"> <a title="" href="#_ftnref3"> [3] </a>：ドクソミーン・ボドー(1885-1922)。中国語、チベット語、ロシア語、満州語の知識があり、ロシア領事館での翻訳、ジャーナリストもしていた。人民党の元になった２つの革命グループのうちの1つ、領事館丘派の設立者。人民党新政府で首相兼外相を務めたが翌年処刑。モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/田中克彦監修(1988)前掲書、p.505参照 </div> <div id="ftn4"> <a title="" href="#_ftnref4"> [4] </a>：ソリーン・ダンザン(1883-1924)。自治モンゴル時代に財務省の官吏をしていた。レーニンとも会見し、人民党の最高責任者として1921年の革命を成功に導いたが、最後は処刑された。モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/田中克彦監修(1988)前掲書、pp.503-504 </div> <div id="ftn5"> <a title="" href="#_ftnref5"> [5] </a>：レーニンの主導により1919年モスクワに設立された共産主義の国際組織。世界21カ国の代表が参加、共産主義思想の普及を目指し、各国の共産主義運動の支援を行っていた。 </div> <div id="ftn6"> <a title="" href="#_ftnref6"> [6] </a>：この《キャフタの砦》は文学史上でも近現代文学の先駆けとされている。ただし、形式的には口承文芸の韻文の伝統を踏襲しており、内容が革命を扱ったもの、という意味においてである。岡田和行/上村明/海野未来雄編、上掲書、p.70参照 </div> <div id="ftn7"> <a title="" href="#_ftnref7"> [7] </a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн(1981/1986) ”БНМАУ-ын соёлын түүх” Улаанбаатар参照 </div> <div id="ftn8"> <a title="" href="#_ftnref8"> [8] </a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971) “Дуунаас дуурь хүрсэн зам” Улаанбаатар,p.11引用 </div> <div id="ftn9"> <a title="" href="#_ftnref9"> [9] </a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書、p.10参照 </div> <div id="ftn10"> <a title="" href="#_ftnref10"> [10] </a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書、p.10参照 </div> <div id="ftn11"> <a title="" href="#_ftnref11"> [11] </a>：U.ロブサン（1885-1943、英雄叙事詩の語り手、馬頭琴奏者）が作ったという説もある。Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш (1971)前掲書参照 </div> <div id="ftn12"> <a title="" href="#_ftnref12"> [12] </a>：正式名称は「モンゴル・ピオネール機関」。旧ソ連の制度にならい、モンゴル革命青年同盟の下部組織として1925年5月8日に設立された。10～14歳の少年少女全員が加入する大衆組織。岡田和行/上村明/海野未来雄編(1999)前掲書、p.98引用 </div> <div id="ftn13"> <a title="" href="#_ftnref13"> [13] </a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.218引用 </div> <div id="ftn14"> <a title="" href="#_ftnref14"> [14] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.66 </div> <div id="ftn15"> <a title="" href="#_ftnref15"> [15] </a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.219引用 </div> <div id="ftn16"> <a title="" href="#_ftnref16"> [16] </a>：木村理子(2003)、前掲書、p.66 </div> <div id="ftn17"> <a title="" href="#_ftnref17"> [17] </a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш (1971)前掲書参照 </div> <div id="ftn18"> <a title="" href="#_ftnref18"> [18] </a>：モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/二木博史他訳(1988)『モンゴル史』、恒文社、p.426参照 </div> <div id="ftn19"> <a title="" href="#_ftnref19"> [19] </a>：バトバヤル(2002)、前掲書、p.44 </div> <div id="ftn20"> <a title="" href="#_ftnref20"> [20] </a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.219引用 </div> <div id="ftn21"> <a title="" href="#_ftnref21"> [21] </a>：Н.Жанцанноров(1996) “Монголын хөгжмийн арван хоёр хөрөг (Сонатын аллегро)” Улаанбаатар参照 </div> <div id="ftn22"> <a title="" href="#_ftnref22"> [22] </a>：1920年代後半までのソ連では、「芸術の革命」として自由で実験的な芸術が許容されていた。またベルリンや特にパリは現代芸術の中心地であった。 </div> <div id="ftn23"> <a title="" href="#_ftnref23"> [23] </a>：例えばスターリン時代のソ連では、非常に大規模な交響曲を書いたマーラー(1860-1911)や様々に作風を変えながら常に新しい音楽を追及した亡命ロシア人のストラヴィンスキー(1882-1971)などの作品、それにいわゆる現代音楽を学ぶことは公にはできず、そのような作品のスコアを見るには大学の学長の特別な許可が必要であったという。N.カレートニコフ著/杉里直人訳(1996)『モスクワの前衛音楽家』（新評論）参照 </div> <div id="ftn24"> <a title="" href="#_ftnref24"> [24] </a>：上村明(2000)前掲書参照 </div> <div id="ftn25"> <a title="" href="#_ftnref25"> [25] </a>：(1976) ”БНМАУ-ын Ардын Боловсрол, Соёл, Урлаг” Улаанбаатарの統計による </div> <div id="ftn26"> <a title="" href="#_ftnref26"> [26] </a>：У.Загдсүрэн (1967) 前掲書、p.9引用 </div> <div id="ftn27"> <a title="" href="#_ftnref27"> [27] </a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн (1981) 前掲書参照 </div> <div id="ftn28"> <a title="" href="#_ftnref28"> [28] </a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн(1981) 前掲書参照 </div> <div id="ftn29"> <a title="" href="#_ftnref29"> [29] </a>：Н.Дулмаа(1983)”Хувьсгалын дуу”, Шинжилэх ухааны академи түүхийн хэл зохиолын хүрээлэн参照 </div> <div id="ftn30"> <a title="" href="#_ftnref30"> [30] </a>：Сономбалжирийн Буяннэмэх(1902-1937)。文学理論の面からも作家の組織化などの実践の面からも1920年代から30年代の文学を指導した中心的人物。人民党に設立初期から参加し、党中央委員も務めた革命家、政治家でもあったが、最後は粛清された。1962年名誉回復。岡田和行/上村明/海野未来雄編(1999)、前掲書参照 </div> <div id="ftn31"> <a title="" href="#_ftnref31"> [31] </a>：Д.Цэдэв (1996) ”<Монгол интернационал> дууны　Yндэслэл”[ツェデブ(1996)『モンゴル・インターナショナル』の背景]（『東京外国語大学論集 52』、東京外国語大学、pp.223-247）参照 </div> <div id="ftn32"> <a title="" href="#_ftnref32"> [32] </a>：У.Загдсүрэн (1967) 前掲書, p.15引用 </div> <div id="ftn33"> <a title="" href="#_ftnref33"> [33] </a>：A.V.ブルドゥコフ(1883-1943)は現在のオブス・アイマグの商店で働く傍ら、西モンゴルの英雄叙事詩収集研究を行っていた。上村明(2000)前掲書、p.9参照 </div> <div id="ftn34"> <a title="" href="#_ftnref34"> [34] </a>：Ж.Энэбиш (1999) ’Нүүдлийн хөгжим, ший жүжиг тухай судлаачийн тайлбар.’ Монголын соёл урлаг судлал, Mongolian University of Culture and Arts, Улаанбаатар, pp.385-405参照。なおこれにはエネビシによる解説と共に当該報告書全文のキリル文字転写が掲載されている。 </div> <div id="ftn35"> <a title="" href="#_ftnref35"> [35] </a>：掛け合い歌とは、主に家の主人により長老や客人を前にし、四行詩を同じ旋律で歌い上げるものである。演者は伴奏者とともにじっと座ったままで、聞く方は歌から情景を想像する。木村理子(2003)前掲書、p.69参照 </div> <div id="ftn36"> <a title="" href="#_ftnref36"> [36] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.68引用 </div> <div id="ftn37"> <a title="" href="#_ftnref37"> [37] </a>：木村理子(2003)前掲書参照 </div> <div id="ftn38"> <a title="" href="#_ftnref38"> [38] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn39"> <a title="" href="#_ftnref39"> [39] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn40"> <a title="" href="#_ftnref40"> [40] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn41"> <a title="" href="#_ftnref41"> [41] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn42"> <a title="" href="#_ftnref42"> [42] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn43"> <a title="" href="#_ftnref43"> [43] </a>：木村理子(2003)前掲書、p.69引用 </div> </div>

2.2.1.　人民革命期、ダムバドルジ政権時代の歴史 　この時代の歴史を生駒雅則<a href="#_ftn1" title="">[1]</a>とTs.バトバヤル<a href="#_ftn2" title="">[2]</a>の著書を中心にまとめてみよう。時期として2つに分けられる。すなわちボグド・ハーンを制限君主とする1924年までの混乱した時代と、ボグド・ハーンが他界し、人民革命党委員長ダムバドルジがソ連一辺倒ではない開明的な政策を進めた1928年までである。ただ一貫してあったことは、モンゴル国内の指導者たちは内モンゴルとの一体化を望んでいたのに対し、モンゴルを指導する立場にあったコミンテルンは内モンゴルを領有し続けたい中国との関係悪化を恐れ、モンゴル国の内モンゴルに対する立場を認めず、この対立は1928年の「極左政策」への転換まで続いた。また、ソ連領内にとどまらざるを得なかったブリヤートのモンゴル人たちもモンゴル人の国家作りに大きく貢献したことは記しておこう。 　1920年、モンゴル人による初の革命組織、モンゴル人民党が誕生した。革命組織とはいえ彼らは自分たちが「宗教と民族」のために戦うと規定し、モンゴルの貧困と外国からの支配に終止符を打つことが目的の、「民族統一戦線」的性格の党であった。1921年、人民党は苦労してソ連、コミンテルンの協力を取り付け、募兵を行い、中国軍、ウンゲルン白軍を破りフレーを解放した。モンゴルは独立を取り戻し、人民党とボグド・ハーンとの誓約により制限君主国となった。しかし、ロシア人革命家の指導下に組織され共産主義思想の普及を目指したモンゴル革命青年同盟と、民族主義者、ラマ僧から社会主義者までが在籍する雑多な組織であり1921年革命の主役であったモンゴル人民党とが激しく対立し、国内は混乱した。この混乱により人民党の設立の中心にあったボドー<a href="#_ftn3" title="">[3]</a>やダンザン<a href="#_ftn4" title="">[4]</a>が粛清されるという事態になり、この対立は青年革命同盟が人民党の下部組織になることで収束したが、結果的にコミンテルン<a href="#_ftn5" title="">[5]</a>の介入が激しくなることとなった。 　1924年、ボグド・ハーンが他界し、党政府は以後この活仏の転生者は出さず、国名をモンゴル人民共和国と定めた。第1回国民大会議が招集され、首都クーロンは「ウランバートル（赤い英雄）」と改称された。ダムバドルジ率いる党政府は、この時期、国内の経済基盤を整備し社会主義建設への準備を整え、海外に広く門戸を開くよう努めた。具体的には、独自通貨トゥグルクの流通開始、中国の高利貸資本による経済独占の解消、初歩的な協同組合運動の育成、学校の整備、外国人の経済活動の自由化、独仏露への留学生派遣である。またラマ教寺院の特権廃止と課税も行われたが、一方で寺院との融和協力も試みられていた。 　ダムバドルジ政権時代は後に「右翼偏向」とされ、28年以降はソ連の介入が強まり「左翼偏向」の政策をとっていくことになる。 　なお1921年革命の際、軍事面で活躍し、人民党設立にかかわったスフバートルは病死したといわれ、粛清を免れたことから、モンゴル人民共和国成立の英雄として称揚されていくこととなる。 2.2.2.　革命歌の時代 　1920年代を音楽そのものの発達の歴史を述べてみよう。この時期は革命歌が多く作られた時期であった。革命歌そのものの存在が政治的ではあるが、そのことに関しては2.2.3.に譲るとしよう。とにかくこの時代は新しい歌として革命歌として多く作られたのだ。その中でも《キャフタの砦》<a href="#_ftn6" title="">[6]</a>はモンゴル近現代音楽の最初の作品とされている<a href="#_ftn7" title="">[7]</a>。歌詞の一部を示すと以下の通りである。 　「キャフタ砦を陥とすには 　　ガラスのランプはいらないぞ 　　やってくるガミン（筆者注：中国軍）を 　　大砲の弾で打ち倒した<a href="#_ftn8" title="">[8]</a>」 この詩は1921年の中国軍からのキャフタ解放戦の際にモンゴル軍の間で自然発生的にできたと言われ、同解放戦に参加していたガワル・ホールチ（生没年不詳）がこれに曲をつけたといわれる<a href="#_ftn9" title="">[9]</a>。ただ、まったく新しく曲を作ったのではなく、実際には元から民謡の借用で、「《キャフタの砦》はモンゴル民間に昔からある《フレル・スム》に新しく詞をつけ、旋律のアウトライン、形式の必要なところだけを鋭敏に選んで使って、音価をはっきりさせ、大人数で歌えるよう改良したメロディーをもつ、革命の意義とも一致させたものである<a href="#_ftn10" title="">[10]</a>」。この他、後に詳しく述べる音楽家M.ドガルジャブのこの時期の《空飛ぶ飛行機》<a href="#_ftn11" title="">[11]</a>、《赤旗》などの諸作品や、《革命青年の歌》、《モンゴル・インターナショナル》、《ピオネール<a href="#_ftn12" title="">[12]</a>の歌》などの有名な歌を含むこの時期の歌のほとんどが、ジャンツァンノロブ<a href="#_ftn13" title="">[13]</a>によれば、「民衆の間の民謡のどれかのメロディーに基づ」いていたという。そしてこの時期よりモンゴル音楽は「旋律、リズムは西洋のマーチの志向性の影響の下、革新され豊かに」なり「旋律と装飾音、拍が不定形な状態は減少し、確実な、一定の均等な形で歌われるようになった」という。歌を皆で行進しながら歌う必要性から、旋律に装飾が少なく簡単でリズムはっきりして合わせやすくなったこと、またテーマを正しく伝える必要性から、規律正しく歌う必要性から歌が人によって変化させないようになったこと、この二点が言えるだろう。以上のような歌は楽譜のようなものではなく、口伝えで流行し、広まっていったという<a href="#_ftn14" title="">[14]</a>。歌詞を見ると韻文であり、口承文芸が支配的な世界に生きてきたモンゴル人たちにとっては馴染みやすく、また民謡を元にさらにシンプルになっていたので歌い易かったことであろう。 革命歌といわれるもの以外にどのような音楽があったのかは今回詳しく調べることができなかった。しかし、ジャンツァンノロブによれば「1925年首都の第1学校に吹奏楽サークル、1926年師範学校にA.コリツォフによって指導された吹奏楽団などそれぞれ組織され、軍のテアトルでは吹奏楽が主流となって、モンゴルの歌を吹奏楽伴奏で演奏するようになった<a href="#_ftn15" title="">[15]</a>」という。これらの吹奏楽団がどのようないきさつで組織され、どのような活動を行っていたか、ボグド・ハーン時代の軍楽隊と関連は無かったのか、などは不明である。 また、それまでの英雄叙事詩や民謡があったことは確かであろう。ただし、それらも「革命的内容」や、上記のようなリズムの定型化、曲が歌う個人によって変化しなくなった、などの影響を受けた方向で変容していった可能性は否定できない。 それから清朝期に流行った風刺歌や、掛け合い歌を演劇に仕立てた「歌劇」が盛んに演じられるようになった<a href="#_ftn16" title="">[16]</a>。なおこれは詩歌を手書きした程度のものを元に演じられたようで、楽譜、特に西洋式の楽譜などはこの時代には使われていなかった。この「歌劇」政治性は後で述べるが、これがモンゴルにおいてオペラ発展の基盤となったという<a href="#_ftn17" title="">[17]</a>。 一つ筆者が気になったことを述べておく。2.2.1.で述べたが、この時期は海外へ留学派遣が始まった時期であった。ソヴィエトへは1921年から留学生派遣が始まり<a href="#_ftn18" title="">[18]</a>、1926年にはドイツ、フランスへ留学生を45人派遣した<a href="#_ftn19" title="">[19]</a>。ジャンツァンノロブによると「彼らが歌った歌、聴いた音楽、踊った踊りは特別」で「西洋音楽の影響のモンゴルへの浸透<a href="#_ftn20" title="">[20]</a>」に貢献したということである。しかし、ここで不思議なのは、彼らの中から、音楽家が出たという記録のないことである。モンゴル最初のプロフェッショナルな作曲家とされるゴンチグソムラーがイルクーツクで音楽を学んだのは1933年からである<a href="#_ftn21" title="">[21]</a>。20年代に海外で音楽を学び、モンゴルで音楽家として活動した人物は今の調査の段階では見当たらなかった。もし20年代のソヴィエトやドイツ、フランスといった、モダニズムも許容された自由な空気の中<a href="#_ftn22" title="">[22]</a>で音楽を学んでいたモンゴル人がいたとすれば、はなはだ興味深い。モンゴルの近代化以降の作曲家のほとんどが自由に音楽を学べなくなってから<a href="#_ftn23" title="">[23]</a>専門的な西洋音楽を学んだのだ。ただドイツ、フランスへ留学した人々の中には30年代に粛清された人々も多いと言われている。この疑問を明らかにするのは、少々難しいかもしれない。 2.2.3　1920年代の音楽の政治利用 　1920年代は芸能全体が積極的に政治利用された時代であった。革命と社会改良を党政府が推し進めたかったにもかかわらず、上村明もこの点を指摘している<a href="#_ftn24" title="">[24]</a>が、1921年のモンゴル語識字率は0.7パーセントに過ぎなかった<a href="#_ftn25" title="">[25]</a>からである。1922年に政治宣伝活動のための演劇サークルができる。また1923年7～8月に行われたモンゴル人民党第2回大会中央委員会報告会の芸術に関する決議として「映画上映会では海外の産業、情勢研究を示し、これをみれば最新の海外の国家の出来事を知ることができる。このように、それら劇、映画を見て知れば、本質をさらによくでき、演劇、映画を中央委員会が監督し、若者たちを中央委員会に協力させて合同を実現させ、このような演劇、舞踊、歌が人々の啓蒙教育の序となるのであって、これは人民をよりよくする（文化的にする－監修者注）途上において重要かつ有益であるため、我が党がこれらの任務をリードしていくよう励むこと<a href="#_ftn26" title="">[26]</a>」が出される。さらに1924年には党中央委員会の直接指導によりウランバートルに民衆の文化啓蒙活動のためのスフバートル記念中央クラブが作られ、演劇、舞踊、スポーツのグループが組織された<a href="#_ftn27" title="">[27]</a>。これらは特に20年代に、下に述べる移動音楽演劇部隊とそれに関する決議と併せて、音楽が革命宣伝とともに教育啓蒙の積極的な役割も党政府から期待されていたことを示す。以下この時代の音楽の政治利用について細かく見ていこう。 　さて、このことは社会主義時代から強調されてきたことだが、2.2.2.で述べたこと以外の1920年代の音楽の重要な革新は、明確な「革命的」主題を持つことになったこと<a href="#_ftn28" title="">[28]</a>であったという。このことは歌の歌詞にも非常にわかりやすく観察できる。《キャフタの砦》やレーニンを題材にした多数の歌<a href="#_ftn29" title="">[29]</a>だけでなく、《空飛ぶ飛行機》のような歌もあったことからも示される。なおS.ボヤンネメフ<a href="#_ftn30" title="">[30]</a>作詞の《モンゴル・インターナショナル》は1950年にTs.ダムディンスレン作詞、B.ダムディンスレン、L.ムルドルジ共同作曲の《モンゴル人民共和国国歌》ができるまで国歌のような役割を果たしており、ブリヤートや内モンゴルでも広く歌われたという<a href="#_ftn31" title="">[31]</a>。なおこの項に出てきた歌もやはり民謡を元に新しく歌詞をつけたものだった。これらの歌を作ったドガルジャブやロブサンなどの音楽家はほとんど党政府の役職にあったか、党政府指導のクラブやサークルに属していた。ただし、この時代のその他の音楽家については資料があまり残っておらず、把握できない。体制に従わなかった音楽家がいなかったとは言い切れない。これは1930年代も同じだが、どちらにしろ確証のないことで、今後インタビュー調査などが進めば、分かるかもしれない。 　また、歌を作るだけでなく、党政府が移動音楽演劇部隊とでも言うべきものを組織し、巡業演劇、音楽会を始めた。これは1925年9月25日に行われたモンゴル人民革命党第4回大会決議の中にある、党の宣伝任務における「クラブ」の活動の有用性を確認し示したものの一つ「５、クラブの傍でシー・ジュジグ（演劇）を行い、党のイデオロギー広める活動に映画がはなはだ有効であるので、これを見せる場を設ければよい<a href="#_ftn32" title="">[32]</a>」を受けて行われたものである。この移動音楽演劇部隊の出発に際し出された報告書が人民革命党中央アーカイブに残っておりJ.エネビシがこの報告書と、移動音楽演劇部隊に参加していたO.ダシデレグの語った話、ロシア人B.ブルドゥコフ<a href="#_ftn33" title="">[33]</a>が移動音楽演劇部隊との出会いを書いた雑誌記事を使って分析を行っている<a href="#_ftn34" title="">[34]</a>。それによると、この移動部隊は人民革命党、革命青年同盟中央委員会、スフバートル記念中央クラブ、人民教育省の４組織合同で組織されたもので、東側半分と西側半分の２つの部隊に分かれて巡回した。この第1回巡回部隊がウランバートルを出発したのは東西両部隊とも1926年6月で、西側担当部隊はなんと3000キロに及ぶ行程を回り、最終的に11月に帰ってきたという。車を使って移動し、行く先では地方の党員はもちろん一般牧民からもかなり歓迎されたという。またこの時代らしいエピソードとしては僧院が協力的で、部隊に公演の場所を提供している。ただ、公演の内容、特に音楽がどのような形で宣伝に使われたのかはよく分かっていない。エネビシは公演内容として3つのパターンの可能性を提示している。すなわち、１つ目は歌、音楽の入った小さな劇をいくつかやり、そのあとアジテーション演説があるパターン、2つ目はいくつかの劇とは別に演奏会を行い、アジテーション演説を行ったパターン、3つ目は掛け合い歌<a href="#_ftn35" title="">[35]</a>による演劇があってからアジテーション演説を行うパターン、以上3つである。ここで、木村理子の研究によれば「1920年代、革命期の演劇とは、このような掛け合い歌による歌劇であり、1922-1923年の青年同盟演劇サークルの上演作品には、口承文芸を題材にした作品が数多く見られる<a href="#_ftn36" title="">[36]</a>」とある。また青年同盟がこの部隊にも協力していたことも考えると、エネビシの3つ目のパターンの説、掛け合い歌による演劇とアジテーション演説が、移動音楽演劇部隊の公演の内容であったと考えるのが妥当であろう。 　上で少し触れたが、この時期は革命思想を伝える演劇の分野でも音楽が重要な役割を果たした。木村理子<a href="#_ftn37" title="">[37]</a>がこの演劇について優れた研究を行い、この時代を「歌で演じた革命期」としているので、そこから音楽と政治に関係のある部分だけ拾ってみる。1921年、「コミンテルンの政策に則り、初めて軍官学校に人民委員をメンバーとした演劇サークルが結成されている<a href="#_ftn38" title="">[38]</a>」。そして「この軍官学校のサークルを母体として青年同盟に演劇サークルが移り、演劇活動を開始している<a href="#_ftn39" title="">[39]</a>」。このサークルは「軍と党の人民教育啓蒙局の管轄にあり<a href="#_ftn40" title="">[40]</a>」「政治宣伝活動を行う機関であった<a href="#_ftn41" title="">[41]</a>」という。このような活動は「ロシア革命期のアジテーション劇場の形態をモデルにし、任務として遂行された<a href="#_ftn42" title="">[42]</a>」と指摘している。この時期の演劇は「台詞すべてが歌によって謡われ、歌を聴きながら情景を想像する<a href="#_ftn43" title="">[43]</a>」掛け合い歌による演劇であった。演劇とはいえ、その中の「歌」が重要な役割を果たし、政治権力がこれを利用したことがこの研究から分かる。 　以上のように1920年代はモンゴル人民党、政府が非常に積極的な政治的役割を音楽に負わせた時代であった。革命歌、移動音楽演劇部隊などがそれにあたり、革命演劇にも歌は不可欠だった。そしてその内容と目的は、政治的イデオロギーの浸透と、啓蒙や教育のためであったと言える。演劇、「歌劇」は特に党政府にとって有効と認知されたため、この時代以降も形式を発展させながら大いに利用していくことになる。 <div> <hr width="33%" size="1" align="left" /><div id="ftn1"> <a href="#_ftnref1" title="">[1]</a>：生駒(2004)前掲書参照 </div> <div id="ftn2"> <a href="#_ftnref2" title="">[2]</a>：バトバヤル(2002)、前掲書参照 </div> <div id="ftn3"> <a href="#_ftnref3" title="">[3]</a>：ドクソミーン・ボドー(1885-1922)。中国語、チベット語、ロシア語、満州語の知識があり、ロシア領事館での翻訳、ジャーナリストもしていた。人民党の元になった２つの革命グループのうちの1つ、領事館丘派の設立者。人民党新政府で首相兼外相を務めたが翌年処刑。モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/田中克彦監修(1988)前掲書、p.505参照 </div> <div id="ftn4"> <a href="#_ftnref4" title="">[4]</a>：ソリーン・ダンザン(1883-1924)。自治モンゴル時代に財務省の官吏をしていた。レーニンとも会見し、人民党の最高責任者として1921年の革命を成功に導いたが、最後は処刑された。モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/田中克彦監修(1988)前掲書、pp.503-504 </div> <div id="ftn5"> <a href="#_ftnref5" title="">[5]</a>：レーニンの主導により1919年モスクワに設立された共産主義の国際組織。世界21カ国の代表が参加、共産主義思想の普及を目指し、各国の共産主義運動の支援を行っていた。 </div> <div id="ftn6"> <a href="#_ftnref6" title="">[6]</a>：この《キャフタの砦》は文学史上でも近現代文学の先駆けとされている。ただし、形式的には口承文芸の韻文の伝統を踏襲しており、内容が革命を扱ったもの、という意味においてである。岡田和行/上村明/海野未来雄編、上掲書、p.70参照 </div> <div id="ftn7"> <a href="#_ftnref7" title="">[7]</a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн(1981/1986)”БНМАУ-ын соёлын түүх”Улаанбаатар参照 </div> <div id="ftn8"> <a href="#_ftnref8" title="">[8]</a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971) “Дуунаас дуурь хүрсэн зам”Улаанбаатар,p.11引用 </div> <div id="ftn9"> <a href="#_ftnref9" title="">[9]</a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書、p.10参照 </div> <div id="ftn10"> <a href="#_ftnref10" title="">[10]</a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書、p.10参照 </div> <div id="ftn11"> <a href="#_ftnref11" title="">[11]</a>：U.ロブサン（1885-1943、英雄叙事詩の語り手、馬頭琴奏者）が作ったという説もある。Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書参照 </div> <div id="ftn12"> <a href="#_ftnref12" title="">[12]</a>：正式名称は「モンゴル・ピオネール機関」。旧ソ連の制度にならい、モンゴル革命青年同盟の下部組織として1925年5月8日に設立された。10～14歳の少年少女全員が加入する大衆組織。岡田和行/上村明/海野未来雄編(1999)前掲書、p.98引用 </div> <div id="ftn13"> <a href="#_ftnref13" title="">[13]</a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.218引用 </div> <div id="ftn14"> <a href="#_ftnref14" title="">[14]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.66 </div> <div id="ftn15"> <a href="#_ftnref15" title="">[15]</a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.219引用 </div> <div id="ftn16"> <a href="#_ftnref16" title="">[16]</a>：木村理子(2003)、前掲書、p.66 </div> <div id="ftn17"> <a href="#_ftnref17" title="">[17]</a>：Д.Бат-сүрэн/Ж.Энэбиш(1971)前掲書参照 </div> <div id="ftn18"> <a href="#_ftnref18" title="">[18]</a>：モンゴル科学アカデミー歴史研究所編著/二木博史他訳(1988)『モンゴル史』、恒文社、p.426参照 </div> <div id="ftn19"> <a href="#_ftnref19" title="">[19]</a>：バトバヤル(2002)、前掲書、p.44 </div> <div id="ftn20"> <a href="#_ftnref20" title="">[20]</a>：Н.Жанцанноров (1999)前掲書、p.219引用 </div> <div id="ftn21"> <a href="#_ftnref21" title="">[21]</a>：Н.Жанцанноров(1996) “Монголын хөгжмийн арван хоёр хөрөг (Сонатын аллегро)”Улаанбаатар参照 </div> <div id="ftn22"> <a href="#_ftnref22" title="">[22]</a>：1920年代後半までのソ連では、「芸術の革命」として自由で実験的な芸術が許容されていた。またベルリンや特にパリは現代芸術の中心地であった。 </div> <div id="ftn23"> <a href="#_ftnref23" title="">[23]</a>：例えばスターリン時代のソ連では、非常に大規模な交響曲を書いたマーラー(1860-1911)や様々に作風を変えながら常に新しい音楽を追及した亡命ロシア人のストラヴィンスキー(1882-1971)などの作品、それにいわゆる現代音楽を学ぶことは公にはできず、そのような作品のスコアを見るには大学の学長の特別な許可が必要であったという。N.カレートニコフ著/杉里直人訳(1996)『モスクワの前衛音楽家』（新評論）参照 </div> <div id="ftn24"> <a href="#_ftnref24" title="">[24]</a>：上村明(2000)前掲書参照 </div> <div id="ftn25"> <a href="#_ftnref25" title="">[25]</a>：(1976) ”БНМАУ-ын Ардын Боловсрол, Соёл, Урлаг”Улаанбаатарの統計による </div> <div id="ftn26"> <a href="#_ftnref26" title="">[26]</a>：У.Загдсүрэн (1967)前掲書、p.9引用 </div> <div id="ftn27"> <a href="#_ftnref27" title="">[27]</a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн(1981)前掲書参照 </div> <div id="ftn28"> <a href="#_ftnref28" title="">[28]</a>：БНМАУ-ын Шинжилэх ухааны академи түүхийн хүрээлэн(1981)前掲書参照 </div> <div id="ftn29"> <a href="#_ftnref29" title="">[29]</a>：Н.Дулмаа(1983)”Хувьсгалын дуу”,Шинжилэх ухааны академи түүхийн хэл зохиолын хүрээлэн参照 </div> <div id="ftn30"> <a href="#_ftnref30" title="">[30]</a>：Сономбалжирийн Буяннэмэх(1902-1937)。文学理論の面からも作家の組織化などの実践の面からも1920年代から30年代の文学を指導した中心的人物。人民党に設立初期から参加し、党中央委員も務めた革命家、政治家でもあったが、最後は粛清された。1962年名誉回復。岡田和行/上村明/海野未来雄編(1999)、前掲書参照 </div> <div id="ftn31"> <a href="#_ftnref31" title="">[31]</a>：Д.Цэдэв(1996) ”<Монгол интернационал> дууны　Yндэслэл”[ツェデブ(1996)『モンゴル・インターナショナル』の背景]（『東京外国語大学論集52』、東京外国語大学、pp.223-247）参照 </div> <div id="ftn32"> <a href="#_ftnref32" title="">[32]</a>：У.Загдсүрэн (1967)前掲書, p.15引用 </div> <div id="ftn33"> <a href="#_ftnref33" title="">[33]</a>：A.V.ブルドゥコフ(1883-1943)は現在のオブス・アイマグの商店で働く傍ら、西モンゴルの英雄叙事詩収集研究を行っていた。上村明(2000)前掲書、p.9参照 </div> <div id="ftn34"> <a href="#_ftnref34" title="">[34]</a>：Ж.Энэбиш(1999) ’Нүүдлийн хөгжим, ший жүжиг тухай судлаачийн тайлбар.’Монголын соёл урлаг судлал,Mongolian University of Culture and Arts,Улаанбаатар, pp.385-405参照。なおこれにはエネビシによる解説と共に当該報告書全文のキリル文字転写が掲載されている。 </div> <div id="ftn35"> <a href="#_ftnref35" title="">[35]</a>：掛け合い歌とは、主に家の主人により長老や客人を前にし、四行詩を同じ旋律で歌い上げるものである。演者は伴奏者とともにじっと座ったままで、聞く方は歌から情景を想像する。木村理子(2003)前掲書、p.69参照 </div> <div id="ftn36"> <a href="#_ftnref36" title="">[36]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.68引用 </div> <div id="ftn37"> <a href="#_ftnref37" title="">[37]</a>：木村理子(2003)前掲書参照 </div> <div id="ftn38"> <a href="#_ftnref38" title="">[38]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn39"> <a href="#_ftnref39" title="">[39]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn40"> <a href="#_ftnref40" title="">[40]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn41"> <a href="#_ftnref41" title="">[41]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn42"> <a href="#_ftnref42" title="">[42]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.62引用 </div> <div id="ftn43"> <a href="#_ftnref43" title="">[43]</a>：木村理子(2003)前掲書、p.69引用 <a href="http://www5.atwiki.jp/mongolhugjim/pages/152.html">卒業論文目次へ戻る</a> </div> </div>

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